6 / 11
6
しおりを挟む「あの…どこに向かっているのですか?」
何とも言えない不快感に耐え切れず、考えるより先に口をついて出た言葉。何でもいいからこの気持ちを紛らわせたかった。
「大通りだ」
「大通り、ですか」
「ああ」
それっきり会話は途切れた。もしやこのヒトはあまり会話が得意ではないのだろうか。
意外な側面に少しの親近感。けれど、直ぐに覚えた感情に自嘲した。
それがどうした。そんなもの抱いたところで何になる。彼に意外性があろうと無かろうと、俺とは関係のない話だ。
大丈夫。分かってる。俺は卑しい人間で、彼は尊ばれるべきヒト。これ以上ないほど分かりやすい関係だ。
だから、
「…俺は……しない」
「? 何か言ったか?」
「いえ、何も。大通りにはあとどれくらいで着きそうですか?」
「もう着く」
そう言われ、角を曲がるとそこには───
「───!」
店や宿が軒を連ねる風情ある町並みが、坂道に沿って広がっていた。
「ここが大通りだ。見ての通り、ここは宿場町も兼ねているためヒトも物も多い」
「………」
「どうした?」
顔を覗き込まれ、呆気に取られて呆然としていた意識を戻す。
「あまりの凄さに驚いてしまっただけですので」
だから大丈夫だと言外に伝えて笑みを作って見せれば、蒼月様は何かを考え込むように視線を逸らし、大通りの方へと顔を向けた。
「…存外、手強いな」
蒼月様がぼそりと何かを呟く。だが、俺より遥かに高い位置で発せられた言葉は聞き取れなかった。
「あの…?」
「では、行くとしよう」
「え?」
言うや否や蒼月様は歩き始め、必然的に手を引かれている俺も大通りに入る門をくぐった。
それまで通ってきた道でも沢山のヒトがいたが、大通りはそれとは比べ物にならない程だった。
見渡す限りの鬼の中に、ちらほらと鬼ではないヒトも混ざっていて。
知らず知らずのうちにそちらを見てしまっていると、不意に耳元に低い落ち着いた声が落とされた。
「あの者たちが気になるか?」
「っ」
驚きに顔を向ければ、想像していたよりも近い位置に整った顔があって。ドキリと跳ねた心音を真似するように、俺は一歩後ろに飛び退いた。
「っと、危ないぞ」
しかし、飛び退いた先にいたヒトとぶつかりそうになった俺の背に逞しい腕が回され、少し出来ていた距離が再び戻される。
「大丈夫か?」
まるで抱き締められているかのように先程よりも近くなった距離に、何故か脈拍数がどんどんと上昇していって。
「あ、の」
「ん?何だ?」
蚊の鳴くような声だったからか、聞こえないとばかりに更に寄せられた顔に俺は堪らず腕を最大限突っ張ってその雄々しい胸を押した。
「だ、大丈夫ですからっ。もう離して頂いて大丈夫です!」
「? そうか」
漸く離れた距離に胸を撫で下ろす。
しかし、ほっとしたのも束の間、再度繋ぎ直された手にまたもや心臓が大きく脈打った。
「あ、あの…」
今は駄目だ。今、そんな事をされたら…
「あの者たちだが、この里の外から来た旅人たちだ。前にも言ったと思うが、常世は魑魅魍魎が住まう所だ。当然、鬼以外の種族もいる」
「そう、ですか」
疑問は解消されたが、如何せん今はそれどころではない。
上手く笑みを作れない。
こんな事は初めてだ。早く、早く貼り付けなければ。そうでなければ、俺は──
10
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる