絶食系令嬢と草食令息

もふりす

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第一章 ぶつかり合う感情

顔合わせの朝① ラーシュ視点

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東の空が白み始める頃、キュランダ侯爵家の中庭に一人分の影が落ちた。

影の人物は俊敏な動きで剣を振り下ろしては静止し、構え直して素早く横に薙ぐ。
目の前にいない誰かと対峙しているかのように、緊張を走らせている。

一つに束ねられた長い白金色の髪は彼女の動きに合わせて舞っており、地平線から顔を出した太陽に照らされ、眩い光を放っている。
彼女の瞳はアメジストのような深い紫色をしているが、その瞳も瞼によって遮られている。


そんな彼女を見守っているのが、彼女と瓜二つの顔をした少年。

顔立ちも体型もそこまで違いのない二人を見分けるのは至難の業だろう。

しかし、彼らの普段の立ち位置を見ていれば、自ずと分かってくる。

勉学をする際も、稽古をする際も、食事をする際も、弟であるラーシュは常に無表情な姉のナーロレイに熱い視線を送っているからだ。姉弟として異常なように見えるが、双子だからか誰も邪推しない。


今日も、中庭のベンチに腰を掛け、彼女の姿を目に焼き付けている。
ただ、時々目を閉じて彼女の息遣いや剣を振る音に耳を澄ませている。
・・・その姿は真剣で興奮しているようには見えないので、変態とは言えない。

音が止む頃には辺りは明るくなっており、自然と目を開き、目の前の光景に目を細めてしまう。
光に照らされた少女がタオルで汗を拭っている。

(何と神々しい姿だろう…)

真剣を振っている際は閉じられた瞳は既に開いており、弟がいる事に今気付いたのか嬉しそうに目を細めている。息も上がったままに弟の方に歩み寄り、無自覚に人を誑し込む笑みを浮かべる。

その笑みに心を弾ませながらも微笑み返し、内心ではこう思う。

(僕以外の前でその顔はしないでね。…だって、僕だけの特権でしょ?)

こんな腹黒い感情が沸き上がるのは、形だけとはいえ姉の婚約者になる男が今日、家を訪ねてくるからだ。

(僕がナルを養えるくらいに力をつけなきゃ阻止なんてできないけど…。

――まずは、相手の男を見極めなきゃいけないね。)

仄暗い感情が頭を占めそうになって、目を閉じて嘆息した。


「リク?」

声を掛けられて姉を見ようとしたが、それより先に背中に手を回され、彼女の肩に顎を置く形になってしまった。彼女には自身の腹黒さは伝わっていないと分かっていても、見透かされている気がして仕方がない。

案の定、励まされてしまった。

「…大丈夫よ。私が離れていってしまうと思っているなら怒るわよ?
いつも言っているでしょ?私が一番大切なのはリクなんだって。」

姉から告白まがいな事を密着したまま言われて、頭の中は全くもって冷静ではない。

姉の首筋から甘い匂いがするとか、後れ毛が首に貼り付いていて興奮するとか。

さすがに思考は読み取られていないと分かっていても、興奮状態なのはバレバレだろう。
双子だから相手の心情は汲み取れてしまう。

気にしてるのはそこじゃない。

姉が、恋愛面において鈍すぎる、という事だ。

双子の僕の行き過ぎた愛情ですら分からないから心配してしまう。


(僕がナルを先に見つけたんだ。婚約者だろうとナルの心までは渡さないんだから)

そう僕は決心した。


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