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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息
甦る記憶
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前髪をかき上げながら部屋中央に佇む美青年は、部屋全体を目だけで見渡した。
展開していた魔法を解除したのか空気が一瞬歪んだ。
王太子も側近達も時間が止まったようにフリーズしてる。
流石に連も石のように固まっている。
えー…、この状況どうすりゃいいんだ?
相も変わらず美青年は王子にガン飛ばしてるし。何か目で会話してる…?
美青年が腰に差してる剣を鞘から出す動作をしたら、王子が顔を横に振って小刻みに震えてるんですけど。おお、語らずとも分かりますな。恐喝ですな!!
・・・・・・ってか、私、ここ離れちゃ駄目?
内輪の問題に、私関係ないよね~。
足音を立てずに一歩後退しようとして、――――できなかった。
後ろから肩に手を置かれてました。
・・・蓮、後でシメるからな。
連ことユベールを一睨みして前を見たら、王子が仰向けになって失神していた。
‥‥‥見たくもなかったが、両手で股間を押さえてる。
「ユベール、ありがとう」
美青年が頬笑みをたたえながらこちらに向かって歩いてきた。
私は視線を逸らして下を見てたんだけど、至近距離で覗き込まれた。
わっっ、近い!!!
無駄に綺麗なその顔を見て、また既視感を覚えた。
思わずその顔を両サイドから手で挟み込んで聞いてみた。
「何処かで会った事ありますか?顔に見覚えがあります…」
目の前の美少年は小首を傾げてみせた。
う~~~ん、イケメンは一度で覚えるんだが。連も然り。
そんな事考えてたら、後方から答えが返ってきた。
「いつも見てる顔じゃねぇか。お前の顔に似てるだろう。」
「‥‥は?」
未だにホールドしてる美青年の顔をガン見するが、…いや~、んな訳…―――
「…そうか。私は、―――自惚れていたのか。」
美青年は憂い顔を浮かべ、その瞳に私を映してきた。
この顔が、私に似てる?この隙のない端正な顔が?
彼の手が私の頬に触れたと思ったら、おでこに手を滑らせてきた。
晒されたそこに彼の、美青年の唇が当たった。
「えぇッ!?」
驚いたのも一瞬で、辺りが真っ白になった。
頭の奥から様々な記憶が溢れ出してきて、考える余裕がなくなったんだ。
今世に生まれ落ちてからの記憶が甦ってきて、パズルのピースのように嵌まっていく。
うっ!この、記憶を無理やり引き出す感覚はッ…。
この青年っ…、優し気な見た目して強引でガサツだ!!
気遣って、なんか、ないだろうッ!!
・・・ッ、頭が割れるように痛い。
身体も発熱したみたいに熱い。
この、痛みは…―――
私の意識は遡っていくように、記憶の中に引きずり込まれていった。
*
*
*
*
ここは、…―――ああ、またか。
記憶の中の映像を見て、私は記憶の殆どを思い出した。
前世と今世の自我が確かに存在していて、目の前の光景を第三者の目線で見ているようだ。
記憶の私はまだ五歳。
貴族だったのは確かだけど、そんないい境遇ではなかった。
薄汚れた布一枚で身体を隠し、物置小屋に身を置いていた。
夏は息苦しく、冬は肌寒い。
遠のく意識を必死で繋ぎ止め、いつ聞こえてくるか分からない足音に耳を澄ましていた。
両親と呼ばせてもらえた事はなかったが、貴族の親はいて、血筋はまともだった。
――そう。
間違っていなければ、この日が実母の命日。
母の葬儀で呆然としていた私は、天涯孤独になったと思っていた。
だから、目を覚まさない母の傍を離れない私に話しかけてきた男性の言葉の意味が分からず、只々見覚えのない顔を見上げていた。
『迎えが遅くなってしまったね。大丈夫だよ、安心して?君を私の家に迎え入れる準備はできているから。今後の心配はしなくていいからね?』
いたい。はなして。
おかあさんはここにいるの。いっしょにいるの。
めをさまさないのは、つかれてるからなんだよ?
だから、そばをはなれたりしないの。
当時の思いが、幼い声で脳内に流れてくる。
状況を把握できてないけれど、母へのまっすぐな想いを胸に、腕を引く大の大人に抵抗している。力がないから引きずられていて、母から離れていく。
――でも、目から光は消えていない。
それに安心ながら、冷静な頭で考える。
母は急に倒れて亡くなった。持病を患わせて、とかではない。
この男が言う『迎え』は明らかにおかしい。
これでは、母の死を予期していた事になる。
これは後から知った事だけど、私を葬儀場から、母から切り離したこの男が実の父だった。
私が父、いや公爵に拾われた理由を知ったのはその晩の事だった。
悪夢の始まりに、幼かった私は耐え切れず、宿していた光は呆気なく消え去った。
展開していた魔法を解除したのか空気が一瞬歪んだ。
王太子も側近達も時間が止まったようにフリーズしてる。
流石に連も石のように固まっている。
えー…、この状況どうすりゃいいんだ?
相も変わらず美青年は王子にガン飛ばしてるし。何か目で会話してる…?
美青年が腰に差してる剣を鞘から出す動作をしたら、王子が顔を横に振って小刻みに震えてるんですけど。おお、語らずとも分かりますな。恐喝ですな!!
・・・・・・ってか、私、ここ離れちゃ駄目?
内輪の問題に、私関係ないよね~。
足音を立てずに一歩後退しようとして、――――できなかった。
後ろから肩に手を置かれてました。
・・・蓮、後でシメるからな。
連ことユベールを一睨みして前を見たら、王子が仰向けになって失神していた。
‥‥‥見たくもなかったが、両手で股間を押さえてる。
「ユベール、ありがとう」
美青年が頬笑みをたたえながらこちらに向かって歩いてきた。
私は視線を逸らして下を見てたんだけど、至近距離で覗き込まれた。
わっっ、近い!!!
無駄に綺麗なその顔を見て、また既視感を覚えた。
思わずその顔を両サイドから手で挟み込んで聞いてみた。
「何処かで会った事ありますか?顔に見覚えがあります…」
目の前の美少年は小首を傾げてみせた。
う~~~ん、イケメンは一度で覚えるんだが。連も然り。
そんな事考えてたら、後方から答えが返ってきた。
「いつも見てる顔じゃねぇか。お前の顔に似てるだろう。」
「‥‥は?」
未だにホールドしてる美青年の顔をガン見するが、…いや~、んな訳…―――
「…そうか。私は、―――自惚れていたのか。」
美青年は憂い顔を浮かべ、その瞳に私を映してきた。
この顔が、私に似てる?この隙のない端正な顔が?
彼の手が私の頬に触れたと思ったら、おでこに手を滑らせてきた。
晒されたそこに彼の、美青年の唇が当たった。
「えぇッ!?」
驚いたのも一瞬で、辺りが真っ白になった。
頭の奥から様々な記憶が溢れ出してきて、考える余裕がなくなったんだ。
今世に生まれ落ちてからの記憶が甦ってきて、パズルのピースのように嵌まっていく。
うっ!この、記憶を無理やり引き出す感覚はッ…。
この青年っ…、優し気な見た目して強引でガサツだ!!
気遣って、なんか、ないだろうッ!!
・・・ッ、頭が割れるように痛い。
身体も発熱したみたいに熱い。
この、痛みは…―――
私の意識は遡っていくように、記憶の中に引きずり込まれていった。
*
*
*
*
ここは、…―――ああ、またか。
記憶の中の映像を見て、私は記憶の殆どを思い出した。
前世と今世の自我が確かに存在していて、目の前の光景を第三者の目線で見ているようだ。
記憶の私はまだ五歳。
貴族だったのは確かだけど、そんないい境遇ではなかった。
薄汚れた布一枚で身体を隠し、物置小屋に身を置いていた。
夏は息苦しく、冬は肌寒い。
遠のく意識を必死で繋ぎ止め、いつ聞こえてくるか分からない足音に耳を澄ましていた。
両親と呼ばせてもらえた事はなかったが、貴族の親はいて、血筋はまともだった。
――そう。
間違っていなければ、この日が実母の命日。
母の葬儀で呆然としていた私は、天涯孤独になったと思っていた。
だから、目を覚まさない母の傍を離れない私に話しかけてきた男性の言葉の意味が分からず、只々見覚えのない顔を見上げていた。
『迎えが遅くなってしまったね。大丈夫だよ、安心して?君を私の家に迎え入れる準備はできているから。今後の心配はしなくていいからね?』
いたい。はなして。
おかあさんはここにいるの。いっしょにいるの。
めをさまさないのは、つかれてるからなんだよ?
だから、そばをはなれたりしないの。
当時の思いが、幼い声で脳内に流れてくる。
状況を把握できてないけれど、母へのまっすぐな想いを胸に、腕を引く大の大人に抵抗している。力がないから引きずられていて、母から離れていく。
――でも、目から光は消えていない。
それに安心ながら、冷静な頭で考える。
母は急に倒れて亡くなった。持病を患わせて、とかではない。
この男が言う『迎え』は明らかにおかしい。
これでは、母の死を予期していた事になる。
これは後から知った事だけど、私を葬儀場から、母から切り離したこの男が実の父だった。
私が父、いや公爵に拾われた理由を知ったのはその晩の事だった。
悪夢の始まりに、幼かった私は耐え切れず、宿していた光は呆気なく消え去った。
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