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第十五章 新人類 > 作戦会議(POV:ヴィル)

第355話:新たな作戦

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「ちょっと待て。誰との茶会だって?」
「リア様だが?」
「ニッコロが来ていたのか? エムブラ宮殿に?」
「そうだが?」
「……聞いていないぞ」
「ほう」
「では、この話はリアも知っているのか?」
「全部かどうかは知らないが、その茶会で聞いた部分は知っていると思う」

 俺は額を押さえた。

「聞いていない……俺は何も聞いていない」
「茶会をしたと報告は上がるだろう?」
「王宮が主導している茶会かと思っていたから、適当に聞き流したかも知れない」
「手紙のやり取りもしているがな」
「なあぁぁんだとぉぉぉ!」
「ちなみに茶会には二度行っている」
「あのタレ目野郎! 俺のいない間にリアを狙っているのか!」

 俺が拳を握りしめて悶絶していると、クリスが笑いだした。

「アホ。あいつに手紙を書いて呼び出しているのは子ども達だ。あいつは休みの日に新聞を丸めて遊んでやっているだけで、リア様との茶会はそのついでだぞ?」

 なんだ……そっちか(ちっ)

「早く言えよ。敏感なお年頃なのだぞ俺は」
「お前から陛下にそれとなくロキア子爵嫡男への注意を促してもらいたい。王都の民に嘘を吹き込んで自領に引っこ抜くのは法に反する行為だ」

「まあな」と、俺は答えた。
 法には反するが、女が証言でもしないかぎり罪に問うことはできないだろう。

「力になってやりたいとは思うが、伝えるだけになってしまうなぁ……」
「俺も話は聞いてはやれるが、してやれることがない」と、クリスも言った。
「しかし、何か妙だ。随分と回りくどい」

 ただ単に王に伝えたいだけなら、アレンが俺に話せば済むことだ。しかし、アレンはダンマリを決め込んでいて、ニッコロの口からクリスに話をさせ、わざわざ遠回りをさせている。

「アレンらしくない……」
「ん?」
「いや違うな。わざとこうしたのか。俺とクリスに全容を把握させて何かさせるために」

 クリスが腕を組んで俯いた。そして「やられた」と言った。

「おそらく書記は、子どもの頃からニッコロが受けてきた嫌がらせをかなり詳しく知っている」
「俺達に兄ッコロ・・・・を監視させたいわけではなさそうだな」
「なんだよ兄ッコロって」
「ニッコロの兄」
「分かってんだよ」
「王家に加えて、オーディンス家とクランツ家の『二柱』を味方につけたいぐらいには、兄ッコロが何かやらかすと思っているのだろう。ということは……」

 俺は腕組みをして考えを巡らせた。

「おい、ヴィル」
「ん?」
「婚活云々の話も少し事情が変わってくるのではないか?」
「俺も今それを考えていた」
「一度、集まって話をするか」
「そうしよう。これは父上に話すほうがいいかも知れない」

 俺はベルを鳴らしてキースを呼んだ。



 叔父と父は多忙で、三人だけで話をする時間はなかなか確保できなかった。
 最短で会えるのは四日後の昼。リアと四人で昼食会をする日だった。
 仕方がないので叔父の側近に声を掛け、ちょっとした仕掛けをしてもらうよう頼んだ。



「リア様、本日はテーブルまでお運びできないほどたくさんのデザートがございまして……」

 王宮の給仕がリアに声を掛けた。
 彼女が目をキラキラさせて瞬きをする。

「本日は街のケーキ店の新作披露会がございました。そちらで出たものをすべてご用意しております。御試食もできますので、あちらでゆっくりお選びになりませんか?」

 ぱあぁぁっと笑顔を見せた彼女に「ゆっくり見ておいで」と声を掛けた。彼女は席を立って、給仕と楽しそうに話しながらデザートを見に行った。

「すみません、叔父上。手を回して頂いて」
「いやなに、三つ四つ市販のケーキを買ってきて種類を増やせと言っただけなのだが、神薙に見せると知るなりケーキ職人の間で噂が広がり、大張り切りで色々持って押し寄せた。気に入ったものは持ち帰っていいぞ」
「ありがとうございます。彼女が喜びます」

 俺はロキア子爵家のことを雑談として叔父と父に話した。事件としては扱えないため、あくまでも参考情報として話すことになる。

「はあ~、それは厄介なことだなぁ」と、叔父は言った。
「代替わりしてほしくない貴族はこれで幾つ目だ?」

「まったくです」と、俺は答えた。

 デザート選びに余年のないリアは、料理人の説明を熱心に聞きながら、ふんふんと頷いている。

「あの二刀流のちびっ子、もうそんな歳になったのか」と、父が言った。

 父もニッコロのことは学生剣術大会などで見て知っている。

「この間、新聞の剣であやうく負けそうになりましたよ」
「ははっ……面白いことをやっているな」
「時々、子ども達の様子を見にきてくれます」
「次の二刀流が育つかな。クリスの坊が見込みのある子がいると話していたぞ」
「努力次第でしょうね」

 幸せそうな顔でリアが試食に手をつけている。彼女が動くたびにピンク色のドレスがふわりふわりと揺れていた。

「その嫡男ですが、いつか一族で罰を受けるようなことをしでかすのではないかと、アレンが危惧しています」

 叔父が「ほう」と言った。

「一族で処罰となると、金がらみか?」
「はい。アレンは子どもの頃からニッコロの相談を受けています。色々聞いたうえで『その傾向が強い』と感じているそうです」

「なるほど」と、叔父は顎をさすった。

「二刀流が抜けた後、騎士団は誰がまとめている?」
 父が珈琲を冷ましながら言った。

「問題の嫡男です」
「ほぉー、あのヒョロヒョロが騎士団長とは少し無理があるな」
 父は軽く鼻で笑った。

「しかし、問題を起こされてしまってからでは、我々にできることは少ないぞ」と言うと、叔父はチラリと父を見た。

「わざと俺に何か提案させようとしているだろう」と、父が言った。

 俺の思惑はいつもバレバレだ。

「すみません……。ニッコロがその巻き添えを食わないようにするためには、父上の協力が必要だという結論に至りました」

 リアが料理人たちと盛り上がっているのを、アレンが微笑みながら見ている。

「彼女に言われたのか?」と、父は俺と同じほうを見ながら聞いた。

「リアはそこまで詳しく知りません。ただ、ニッコロのことを友人として気にかけており、彼に『後の憂いをなくすためなら頼れるものは何でも頼れ』という主旨の助言をしています。それが彼の背中を押して今回の話になりました」

 父は再び手元に視線を戻し、リアが持参したチョコレートの包みを開きながら「お前も分かっているとは思うが……」と前置きをした。

「いかんせん俺がしてやれる提案は種類が少ない。それに、思ったとおりの結果にすることは容易ではないぞ?」
「はい」
「本人の意思は確認したのか?」
「確認しました」
「ふむ。クリスの坊は何と言っている」
「彼も同席のうえで本人と話しました」
「そうか……」

 父はチョコレートを口に入れると俯いたまま何度か頷いた。

「分かった。では時期を待て」
「お願いします」

 リアが満面の笑みでテーブルに戻ってくると、俺達の好きそうなデザートがワゴンに載せられて彼女の後をついてきた。



 ニッコロ婚活作戦は、水面下で思わぬ形に変化した。それは、さながら不遇な次男の救出作戦のようでもあった。
 彼の命運は王兄である父の手に委ねられた──
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