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第十五章 新人類
第338話:まだでしょうか?
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いでよ、ハイスぺック・ブランニューヒーロー様! どなたか存じませんが出番ですわっ♪
婚約破棄系の恋愛小説を読むたびワクワクしてしまう、この瞬間。
この中のどなたが新しいヒーローなのでしょうか。 あの方かな? それとも、こちらの方かな?
さあ、ファビュラスにエルデン伯令嬢を救ってくださいませっ。
……。
…………。
……まだでしょうか?(汗)
あ、もしかして、外から入ってくるのかな?
わたしはじっと待った。
しかし、待てども待てどもニューヒーローは現れない。
三人による迫真の演技で舞台はしっかり暖まっている。あとは四人目の登場人物が華麗に登場するだけだ。そこからは怒涛のごとく、求婚からハッピーエンドへと突っ走る段取りのはず。
ど、どうしたのでしょう?? 何かトラブルでもあったのかしら。
会場内はしんと静まり返っていた。
右を見ても、左を見ても、固唾をのんで見守る人ばかり。飛び出してきて電撃求婚をする人はいなかった。
わたしはお扇子で顔を隠しながらヴィルさんにひそひそと話しかけた。
「あのぅ、新しい方は? 遅れているのでしょうか?」
「ん? 新しい方とは??」
「新しく彼女に求婚する方です」
「いや、この状況では無理だろう」
「え? でも、これはそういう段取りなのでは?」
「これに関しては何の段取りもないと思うぞ?」
え? 段取りがない??
それじゃあ、これはお芝居ではなくガチの地獄ということですの?
そ、それって、それって……
ええええぇぇええーーーッッ!?
いやいやいや、待ってくださいっ。
あの浮気相手は本物なのですか? そ、それは最悪ではありませんか? だって、あの二人がリアルだったら、ちょっと性格がおかしいですよッ?!
ヴィルさんはアレンさんにコソッと指示を出した。
主催者のヴァーゲンザイル侯に帰る旨を伝えることと、クロークで荷物を受け取るようにと頼んでいる。
アレンさんは素早く部下に馬車の準備とクロークでの手続きを指示すると、音も立てずにスーッとヴァーゲンザイル侯の元へ移動していった。まるで忍びのようだ。
会場はまた徐々にざわつき始めていた。
口々に婚約破棄劇場の登場人物を批判している状態だ。とてもではないけれどもダンスを再開できるような雰囲気ではない。スーパーファビュラスなヒーローさんが現れでもしないかぎり、この舞踏会はメチャクチャだ。
「早くしないとエルデン伯令嬢が帰ってしまいます」と言ってみたけれども、それに対して身内からの返事はなかった。
なぜなら、こちらもそれどころではなくなってしまったからだ。
ヴィルさんが正面を見て舌打ちをした。
「くそっ……遅かったか」
「何がですか?」
「いいか、リア。落ち着いて聞いてくれ」
「はい?」
「男の家は天人族の侯家ではあるが、序列はうんと下のほうだ。エルデン伯家とはほとんど差がないと考えて差し支えない。女のほうは裸で踊ることを生業にしている平民だ。二人が出会ったのは一か月半ほど前。女が毎晩踊っている酒場でのことだ。女は出会ってすぐに彼と同衾したと周りに吹聴している」
「一か月半? たったそれだけのお付き合いなのですか?」
「俺が掴んでいる情報ではな。この件に関してエルデン伯令嬢は完全なる被害者だ」
「は、はあ……」
素敵な情報をありがとうございます。
でも、どうしてそんなことまで知っているのですか? なんだか未来の旦那様がすごいのですけれども、旦那様って皆さんそういうものなのでしょうか。
状況がよく分からないまま正面を見ると、つい今しがた婚約破棄を言い渡したオポンチンさんが浮気相手を連れ、会心の笑みを浮かべながらこちらへ向かってきていた。
……なぜこちらに来るのでしょうか。 後ろに誰かお知り合いでもいらっしゃるのかな?
振り返ってみたけれども、警備員さんしかいなかった。
視線を元に戻すと、ヴァーゲンザイル侯とアレンさんが慌てて二人の後を追ってくる。
まるでそばを離れたことを後悔しているかのようなアレンさんの顔を見て、ようやくわたしの目が覚めた。
「もしかして、わたしに用があるのですか?」
ヴィルさんは頷いた。
「神薙に顔を売るために起こした騒ぎだろう」
「普通に挨拶できる時間があったのに?」
エルデン伯令嬢は本当に婚約者から裏切られたのだ。
家同士の契約を反故にされ、大勢の前で名誉を傷つけられた。そして、いたたまれず一人で去っていった……。
どちらに非があっても、なぜか女性の名誉だけが著しく傷つく。それがオルランディアの婚約破棄トラブルだ。この先、彼女はどうなってしまうのだろう。
──もしかして、わたしのせいなのかも。
あの日、ヴィルさんの言うとおり彼女を捕らえて、ちょっとだけ牢に入れて釈放するように言うべきだった? だって、これは彼女が自由の身だったからこそ起きた出来事なのでしょう? 弱ったところに漬け込まれたのだもの……。
ヴィルさんがわたしの前に立って「俺から離れるな。後ろに隠れていろ」と言った。
アレンさんとヴィルさんが、オポンチンさんからわたしを守ろうとしている。
わたしの頭の中で、点と点がひとつずつ線で繋がっていった。
やはり、これは計画的な婚約破棄劇だ。
オポンチンさんは今日、ここに婚約破棄をするつもりで来ている。
当初わたしが思った目的とは大きく違ったけれども、彼の目的は神薙に取り入ることで間違いない。
怒りがふつふつと湧いてきた。
わたしがするべきことは、過去の自分の決断を疑うことではなく、今、自分が取るべき行動を決めることだった。
淑女教育の先生から習った『神薙様の微笑み』を貼り付けた。
自衛のために身につけておくべしと言われて習得した能面スキルだ。正直言ってこの顔の自分は何を考えているのかが分からないし、薄気味悪くて好きになれない。でも、こういう時のために教えてくれた先生に感謝している。
一歩前に踏み出してヴィルさんの隣に立つと、彼は少し驚いた顔をしていた。でも、すぐに小声で「女とは直接話をするな」と言った。
婚約破棄系の恋愛小説を読むたびワクワクしてしまう、この瞬間。
この中のどなたが新しいヒーローなのでしょうか。 あの方かな? それとも、こちらの方かな?
さあ、ファビュラスにエルデン伯令嬢を救ってくださいませっ。
……。
…………。
……まだでしょうか?(汗)
あ、もしかして、外から入ってくるのかな?
わたしはじっと待った。
しかし、待てども待てどもニューヒーローは現れない。
三人による迫真の演技で舞台はしっかり暖まっている。あとは四人目の登場人物が華麗に登場するだけだ。そこからは怒涛のごとく、求婚からハッピーエンドへと突っ走る段取りのはず。
ど、どうしたのでしょう?? 何かトラブルでもあったのかしら。
会場内はしんと静まり返っていた。
右を見ても、左を見ても、固唾をのんで見守る人ばかり。飛び出してきて電撃求婚をする人はいなかった。
わたしはお扇子で顔を隠しながらヴィルさんにひそひそと話しかけた。
「あのぅ、新しい方は? 遅れているのでしょうか?」
「ん? 新しい方とは??」
「新しく彼女に求婚する方です」
「いや、この状況では無理だろう」
「え? でも、これはそういう段取りなのでは?」
「これに関しては何の段取りもないと思うぞ?」
え? 段取りがない??
それじゃあ、これはお芝居ではなくガチの地獄ということですの?
そ、それって、それって……
ええええぇぇええーーーッッ!?
いやいやいや、待ってくださいっ。
あの浮気相手は本物なのですか? そ、それは最悪ではありませんか? だって、あの二人がリアルだったら、ちょっと性格がおかしいですよッ?!
ヴィルさんはアレンさんにコソッと指示を出した。
主催者のヴァーゲンザイル侯に帰る旨を伝えることと、クロークで荷物を受け取るようにと頼んでいる。
アレンさんは素早く部下に馬車の準備とクロークでの手続きを指示すると、音も立てずにスーッとヴァーゲンザイル侯の元へ移動していった。まるで忍びのようだ。
会場はまた徐々にざわつき始めていた。
口々に婚約破棄劇場の登場人物を批判している状態だ。とてもではないけれどもダンスを再開できるような雰囲気ではない。スーパーファビュラスなヒーローさんが現れでもしないかぎり、この舞踏会はメチャクチャだ。
「早くしないとエルデン伯令嬢が帰ってしまいます」と言ってみたけれども、それに対して身内からの返事はなかった。
なぜなら、こちらもそれどころではなくなってしまったからだ。
ヴィルさんが正面を見て舌打ちをした。
「くそっ……遅かったか」
「何がですか?」
「いいか、リア。落ち着いて聞いてくれ」
「はい?」
「男の家は天人族の侯家ではあるが、序列はうんと下のほうだ。エルデン伯家とはほとんど差がないと考えて差し支えない。女のほうは裸で踊ることを生業にしている平民だ。二人が出会ったのは一か月半ほど前。女が毎晩踊っている酒場でのことだ。女は出会ってすぐに彼と同衾したと周りに吹聴している」
「一か月半? たったそれだけのお付き合いなのですか?」
「俺が掴んでいる情報ではな。この件に関してエルデン伯令嬢は完全なる被害者だ」
「は、はあ……」
素敵な情報をありがとうございます。
でも、どうしてそんなことまで知っているのですか? なんだか未来の旦那様がすごいのですけれども、旦那様って皆さんそういうものなのでしょうか。
状況がよく分からないまま正面を見ると、つい今しがた婚約破棄を言い渡したオポンチンさんが浮気相手を連れ、会心の笑みを浮かべながらこちらへ向かってきていた。
……なぜこちらに来るのでしょうか。 後ろに誰かお知り合いでもいらっしゃるのかな?
振り返ってみたけれども、警備員さんしかいなかった。
視線を元に戻すと、ヴァーゲンザイル侯とアレンさんが慌てて二人の後を追ってくる。
まるでそばを離れたことを後悔しているかのようなアレンさんの顔を見て、ようやくわたしの目が覚めた。
「もしかして、わたしに用があるのですか?」
ヴィルさんは頷いた。
「神薙に顔を売るために起こした騒ぎだろう」
「普通に挨拶できる時間があったのに?」
エルデン伯令嬢は本当に婚約者から裏切られたのだ。
家同士の契約を反故にされ、大勢の前で名誉を傷つけられた。そして、いたたまれず一人で去っていった……。
どちらに非があっても、なぜか女性の名誉だけが著しく傷つく。それがオルランディアの婚約破棄トラブルだ。この先、彼女はどうなってしまうのだろう。
──もしかして、わたしのせいなのかも。
あの日、ヴィルさんの言うとおり彼女を捕らえて、ちょっとだけ牢に入れて釈放するように言うべきだった? だって、これは彼女が自由の身だったからこそ起きた出来事なのでしょう? 弱ったところに漬け込まれたのだもの……。
ヴィルさんがわたしの前に立って「俺から離れるな。後ろに隠れていろ」と言った。
アレンさんとヴィルさんが、オポンチンさんからわたしを守ろうとしている。
わたしの頭の中で、点と点がひとつずつ線で繋がっていった。
やはり、これは計画的な婚約破棄劇だ。
オポンチンさんは今日、ここに婚約破棄をするつもりで来ている。
当初わたしが思った目的とは大きく違ったけれども、彼の目的は神薙に取り入ることで間違いない。
怒りがふつふつと湧いてきた。
わたしがするべきことは、過去の自分の決断を疑うことではなく、今、自分が取るべき行動を決めることだった。
淑女教育の先生から習った『神薙様の微笑み』を貼り付けた。
自衛のために身につけておくべしと言われて習得した能面スキルだ。正直言ってこの顔の自分は何を考えているのかが分からないし、薄気味悪くて好きになれない。でも、こういう時のために教えてくれた先生に感謝している。
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