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第十三章 呪兄

第296話:またやらかしてしまいました(泣)

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 魔力の充電期間中ということも関係あるのだけれども、一枚の護符を書いたら終わりにして次の護符に着手している。
 今回の解呪のように急に何があるか分からないので、少しでも魔力を温存しておこうと思って護符に魔力を使うことはしていなかった。

 そもそもわたしが目指しているところは、お義父様を呪符から守るための護符だった。防呪や解呪など複数の効果を付けたいので、どうしても応用力が求められる。
 今は教本に載っている『予防系』のサンプルをひたすら真似して書き、地道に基礎固めをしているところだった。

 「試しに一度、発動させてみては?」と、アレンさんは言った。

「使ってみないと、仮に誤りがあっても気づかずに書き続けてしまいます。防御系の護符なら多少間違えがあっても危険なことにはならないので、試験をするにも良いと思いますよ?」

 ふむ。
 確かにそれもそうですねぇ。
 間違えたままクセがつくと良くないですものね。
 さすがアレンさん、いつもアドバイスが的確です♪

 お茶休憩を終え、洗面所で手と口を清めてから護符を発動させる準備に取り掛かった。
 まずは少しだけ魔力を混ぜた息を護符に吹きかける。
 「何回息をかけるのですか?」と、アレンさんが聞いたので、モゴモゴしながら指を二本出した。この護符は二回息を吹きかければ完成するタイプだ。

 護符師の息を吹きかけるのは「完成」させるために必要なアクションで、何も指定しなければ息を吹きかけて完成したと同時に発動してしまう。
 しかし、自分の好きなタイミングで使い始めたい場合は、護符を書いている段階でそれを指定して書いておけば、他の発動方法に変えられる。

 例えば、きっかけとしてほんの少しの魔力を流してやるとか、誰かが踏んだら発動、所定の場所を破いたら発動などなど、発動のトリガーにできるアクションは色々な種類があった。
 発動キーワードを設定することもできるから、好きなアニメや映画の呪文を拝借して使えば、それっぽい気分が味わえたりするかも知れない。

 わたしが書き上げたばかりの防犯の護符は、魔力をちょびっとだけ流してやれば発動する仕様にしてあった。まずはフーフーして護符が「完成」の状態になった。

「それでは発動させてみますね」

 本に『護符の発動はなるべく周りに障害物がない場所で』と書いてあったので、机から離れて部屋の真ん中で試してみることにした。
 アレンさんは「念のため近くにいましょう」と言って隣に立ってくれている。

 指先で護符にチョンと触れてわずかな魔力を流すと、「魔力操作が上手になりましたね」と彼が褒めてくれた。
 それもこれも練習に付き合ってくれたアレンさんのおかげだった。彼の部屋で浄化魔法を暴発させまくって「浄化魔法はそういうのじゃない」とドン引きされていた頃が懐かしい。

 すぐに護符の模様全体がうっすらと青く光り始めた。

「わあ、光りましたよ」
「これは美しい」

 わたし達は顔を見合わせてニコニコとしていた。

「あの入門書はとても親切なのですけれども、発動するとどうなるかがあまり詳しく書かれてないので、どうなるか興味深いですねぇ」

 言い終わらないうちに護符から「ヴゥン!」という振動を伴う大きな音が出た。

「きゃっ!」
「リア様、護符から手を放して!」

 思わず悲鳴を上げて護符から手を離すと、素早くアレンさんが護符との間に入り、わたしがすっぽり隠れるよう守ってくれた。
 爆発するのではないかという恐怖で、彼にしがみつく。

 なんで?
 なんで防犯の護符が爆発するの?
 もしかして何か間違えた?
 ちょっとの間違えで「家内安全」が「家内爆発」に変わっちゃったりするの??

「どうしましょう。お家を壊す護符とかになっちゃっているのかも?」
「ん、それだと護符ではなく呪符ですね」
「あっ、そっか」

 スマートフォンのバイブ音を千倍くらいにしたような、ヴゥゥーという音がお腹に響く。

「大失敗です……」
「いや、発動したということは失敗ではないと思うのですが」
「そうなのでしょうか」
「しかし、何も起きませんね」
「やっぱり失敗なのだと思います。どこを書き間違えたのでしょう……確認しなくちゃ」

 アレンさんに守られたままションボリと肩を落とした。

 部屋の外にも音と振動が伝わったのだろう。
 打ち合わせをしていたはずのヴィルさんが書斎に飛び込んできた。
 彼は血相を変え、大丈夫か、魔力は切れていないか、具合は悪くないか、誰か魔力計を持ってこい! と、大騒ぎである。

 わたしが魔力操作を失敗して最大出力で何かやらかしたと勘違いしていたので、慌てて経緯を説明した。

 護符はヴヴヴ……と奇妙な音を出し続けていたものの、次第にそれは小さくなっていた。
 幸いなことに爆発もしなかった。

 「リア、いったい何を見て護符を書いた?」と、彼は片方の眉を上げた。
 もしかして怒っている、かも。

「こ、これです……」
「むぅ、この間の古書か」
「ハイ……」
「これは、なんて書いてあるのだろう?」

 彼は本のタイトル部分を指差し、トントンと本を軽く叩いた。

「ええと……『初心者必読! ドハマり確定! 真・護符の世界 ~超入門編~』です」

 わたしが小さな声で本のタイトルを読み上げると、ヴィルさんとアレンさんはビックリしたニワトリのような顔になっていた。

「そ、そうか。こんなに分厚くて歴史がありそうな古書なのに、そんなノリなのだな……」

 ヴィルさんの顔が引きつっている。

 先生には話してあったのだけれども、実は陛下から頂いた古書の大半は、軽ぅ~いノリのタイトルが多い。
 某副団長の軽さに若干似ており、本人もオルランディア語に訳したリストを見て「ちょっとオレっぽくない?」と言っていたため、わたしは勝手に『常夏文庫』とか『フィデル図書』などと呼んでいた(あっ、名前言っちゃった)
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