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カオスな乾物屋さんへ
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焼きイカお兄さんに教えてもらった乾物屋へ行ってみると、感じの良い店主ご夫妻が対応してくれた。
そこは主に南大陸のスュンノートという国の食品を扱っているお店で、予想を遥かに超える個性を放っていた。
お店の雰囲気を一言で表すなら、カオスの一言に尽きる。
謎の液体に漬けられた魚が視界に飛び込んできた。まるで、理科室にあったホルマリン漬けのようだ。
そして、水分が抜けて石のようになったドス黒いミカンのような謎フルーツ。ひょろひょろに干からびたニンジン、さらには触れただけで即死しそうな毒々しい色の干しキノコなどなど……。
食べても大丈夫なのか不安になる食品が、数えきれないほど並べられている。
はるばる海を越えてくるので、乾燥、塩漬け、発酵を中心に、様々な手法で長持ちさせるための加工がされている。なかなかマニアックな店だ。
そこで愛しのお醤油を見つけた。
このカオスの中に馴染みのあるものが埋もれているのは少し複雑な心境ではある。でも、出会えて嬉しい。
醤油と言っても、おそらく日本のものとは少し違うと思う。
商品名はとても長く、ナンチャラカンチャラ・ホニャホニャソースと書いてあった。
瓶の裏側に書かれた原材料を見ると、米麹と書いてある。
あの醤油に感じた甘みは、米麹の仕業だ。
南大陸には米がある。そして麹菌がいる。
麹菌がいるということは、味噌もあるはず。
「あのぅ、大豆を麹で発酵させたペースト状のものはありますか?」
「ええ、こちらにございますよー!」
き、キターッ!
お味噌ぉぉぉ、逢いたかったですよーっ。
「これも買います。今日は幸せいっぱいです」
「まさかリアが南大陸のものに興味を持つとはなぁ……」
ヴィルさんは、スルメイカをうちわのようにパタパタと振りながら言った。勝手に袋をあけて取り出し、遊んでしまっている。
もぉー、売り物なのにー。
仕方がないので取り上げて袋に入れ直し、買い物カゴの中に入れた。
「これでスープを作りたいのですが、出汁を……」
「はいはい、小魚のでいいのかしら?」
「ありますかっ」
「地域によっては昆布も使いますけどねぇ。あとは、これトビウオね。カツオっていう人もたまーにいますよ」
きゃーっ!
もはや嬉しすぎて発狂寸前。
店主の奥様に教えてもらいながら、だしや昆布、それから海苔と再会を果たした。気分はすっかり秘境を旅するトレジャーハンターだ。
最後にお米も発見。お店が精米機を持っていて、その場でガーっと精米して売ってくれた。
セレブな貴族様が、たまにポリッジ(お粥)用に買っていくそうだ。そして、南大陸ではお米を主食にしている地域が多いと教えてくれた。
おうちで待っている料理長……、これで本格的に異世界料理をご紹介できます。
まずはお米からご説明させて頂きます。
和の道「おにぎり」へ行くか、すんなり馴染めそうなイタリア方面「リゾット」へ行くかは要相談でございます。
通行人を装って近くを通りがかったイケ仏様の視線が、わたしの手元に釘付けになっていた。
抱えていた長~い昆布をガン見している。
「アレンが面白い顔をしているな」と、ヴィルさんが言った。
「そんなものを買って何をする気だ、と顔に書いてありますね」
「いかにもあいつが言いそうだ。リアに読まれている」
「ふふふ」
お菓子なども色々と買い込んだ。荷物は同行した人達がどんどん荷馬車まで運んでくれる。
この市場でなら、いくらでも買い物ができそうだった。
わたしには大きなダイヤモンドよりも長~い昆布のほうが身の丈に合っているのだ。
「はあぁぁぁ、ありがとうございました。とても楽しかったです。ここにはまた来たいです。頻繁に来たいです。隣に引っ越したいくらいです」
「俺もリアのはしゃぐ姿が初めて見られて良かった。また来よう」
額に小さなキスが落ちてきた。
ドキドキして、嬉しいような、でもちょっと困るような……。
イケ仏様かジェラーニ副団長がそばにいれば、「触るな」と言ってベリッとやってくれるけれど、彼らがいないとき、ヴィルさんを止められる人は誰もいない。
むしろ王甥にそれができる人のほうが特殊だった。
「さて、歩き疲れただろう。どこかで休もう」
「あ、はい」
ヴィルさんは外でも常に世界中を癒せそうな笑顔を浮かべていた。
青く晴れた空を背景に見る彼の笑顔は、三つ目の太陽に匹敵するほど眩しい。
「貴族街のカフェか、途中で良い所があれば、そこでもいいが」
「そうですねぇ」
お喋りをしながら市場の隣にある馬車停めへ向かい歩いていると、どこからともなく珈琲を焙煎する香りが漂ってきた。
思わず立ち止まり、スンスンと香りが流れてくる方向を探す。
「リア、どうした? 俺が吸う空気がなくなるぞ」
「珈琲の香りがしませんか? 気のせいでしょうか」
「リアは珈琲を知っているのか? しかし、あっちは庶民街だな……」
「近くにカフェがあるのでしょうか。あ、それとも、焙煎だけをやっている工房とか?」
「珈琲の焙煎だけをやっている商人というのは、聞いたことがないな」
「ちょこっとだけ行ってみませんか?」
「ふむ、では少しだけ探検といこうか」
わたし達は仲良くスンスンしながら香りを辿って歩き、ひっそりと佇む古めかしい喫茶店を発見した。
そこは主に南大陸のスュンノートという国の食品を扱っているお店で、予想を遥かに超える個性を放っていた。
お店の雰囲気を一言で表すなら、カオスの一言に尽きる。
謎の液体に漬けられた魚が視界に飛び込んできた。まるで、理科室にあったホルマリン漬けのようだ。
そして、水分が抜けて石のようになったドス黒いミカンのような謎フルーツ。ひょろひょろに干からびたニンジン、さらには触れただけで即死しそうな毒々しい色の干しキノコなどなど……。
食べても大丈夫なのか不安になる食品が、数えきれないほど並べられている。
はるばる海を越えてくるので、乾燥、塩漬け、発酵を中心に、様々な手法で長持ちさせるための加工がされている。なかなかマニアックな店だ。
そこで愛しのお醤油を見つけた。
このカオスの中に馴染みのあるものが埋もれているのは少し複雑な心境ではある。でも、出会えて嬉しい。
醤油と言っても、おそらく日本のものとは少し違うと思う。
商品名はとても長く、ナンチャラカンチャラ・ホニャホニャソースと書いてあった。
瓶の裏側に書かれた原材料を見ると、米麹と書いてある。
あの醤油に感じた甘みは、米麹の仕業だ。
南大陸には米がある。そして麹菌がいる。
麹菌がいるということは、味噌もあるはず。
「あのぅ、大豆を麹で発酵させたペースト状のものはありますか?」
「ええ、こちらにございますよー!」
き、キターッ!
お味噌ぉぉぉ、逢いたかったですよーっ。
「これも買います。今日は幸せいっぱいです」
「まさかリアが南大陸のものに興味を持つとはなぁ……」
ヴィルさんは、スルメイカをうちわのようにパタパタと振りながら言った。勝手に袋をあけて取り出し、遊んでしまっている。
もぉー、売り物なのにー。
仕方がないので取り上げて袋に入れ直し、買い物カゴの中に入れた。
「これでスープを作りたいのですが、出汁を……」
「はいはい、小魚のでいいのかしら?」
「ありますかっ」
「地域によっては昆布も使いますけどねぇ。あとは、これトビウオね。カツオっていう人もたまーにいますよ」
きゃーっ!
もはや嬉しすぎて発狂寸前。
店主の奥様に教えてもらいながら、だしや昆布、それから海苔と再会を果たした。気分はすっかり秘境を旅するトレジャーハンターだ。
最後にお米も発見。お店が精米機を持っていて、その場でガーっと精米して売ってくれた。
セレブな貴族様が、たまにポリッジ(お粥)用に買っていくそうだ。そして、南大陸ではお米を主食にしている地域が多いと教えてくれた。
おうちで待っている料理長……、これで本格的に異世界料理をご紹介できます。
まずはお米からご説明させて頂きます。
和の道「おにぎり」へ行くか、すんなり馴染めそうなイタリア方面「リゾット」へ行くかは要相談でございます。
通行人を装って近くを通りがかったイケ仏様の視線が、わたしの手元に釘付けになっていた。
抱えていた長~い昆布をガン見している。
「アレンが面白い顔をしているな」と、ヴィルさんが言った。
「そんなものを買って何をする気だ、と顔に書いてありますね」
「いかにもあいつが言いそうだ。リアに読まれている」
「ふふふ」
お菓子なども色々と買い込んだ。荷物は同行した人達がどんどん荷馬車まで運んでくれる。
この市場でなら、いくらでも買い物ができそうだった。
わたしには大きなダイヤモンドよりも長~い昆布のほうが身の丈に合っているのだ。
「はあぁぁぁ、ありがとうございました。とても楽しかったです。ここにはまた来たいです。頻繁に来たいです。隣に引っ越したいくらいです」
「俺もリアのはしゃぐ姿が初めて見られて良かった。また来よう」
額に小さなキスが落ちてきた。
ドキドキして、嬉しいような、でもちょっと困るような……。
イケ仏様かジェラーニ副団長がそばにいれば、「触るな」と言ってベリッとやってくれるけれど、彼らがいないとき、ヴィルさんを止められる人は誰もいない。
むしろ王甥にそれができる人のほうが特殊だった。
「さて、歩き疲れただろう。どこかで休もう」
「あ、はい」
ヴィルさんは外でも常に世界中を癒せそうな笑顔を浮かべていた。
青く晴れた空を背景に見る彼の笑顔は、三つ目の太陽に匹敵するほど眩しい。
「貴族街のカフェか、途中で良い所があれば、そこでもいいが」
「そうですねぇ」
お喋りをしながら市場の隣にある馬車停めへ向かい歩いていると、どこからともなく珈琲を焙煎する香りが漂ってきた。
思わず立ち止まり、スンスンと香りが流れてくる方向を探す。
「リア、どうした? 俺が吸う空気がなくなるぞ」
「珈琲の香りがしませんか? 気のせいでしょうか」
「リアは珈琲を知っているのか? しかし、あっちは庶民街だな……」
「近くにカフェがあるのでしょうか。あ、それとも、焙煎だけをやっている工房とか?」
「珈琲の焙煎だけをやっている商人というのは、聞いたことがないな」
「ちょこっとだけ行ってみませんか?」
「ふむ、では少しだけ探検といこうか」
わたし達は仲良くスンスンしながら香りを辿って歩き、ひっそりと佇む古めかしい喫茶店を発見した。
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