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お揃いの理由は?

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 ずらりと並んだ宮殿スタッフから「行ってらっしゃいませ」と言われる。この見送りの儀にもようやく慣れてきた。
 初めは恐縮を通り越してドン引きしてしまったけれども、現在のわたしは、にこやかに手をフリフリしながら「行ってまいります」が言えるようになっている。
 騎士団員がビシッと敬礼をしてくる場所が最大の難関ポイントだ。この時、絶対につられて敬礼をしてはいけない。実は過去に二度やらかしてしまい、執事長をズコーッとずっこけさせた前科者である。
 手はフリフリするもの、ビシィッてしちゃダメ、敬礼はダメ……、と念仏のように唱えながら馬車までの道を進む。わたしの小さな念仏が聞こえるほど近くにいるイケ仏様は、いつもそれを聞いてクスクスと笑っていた。

 広い玄関を出ると、百合の紋が入った豪華な馬車がお待ちかねだ。それ以外にも数台あり、侍女やヴィルさんの従者などが分乗する。その全体を騎士がオン・ザ・白馬で守っている感じだ。
 更に前方にはナビ係の騎士が二人いる。この世界のナビゲーションシステムは人と馬で出来ていて、彼らは手旗信号のようなもので「次の交差点を左です」的なメッセージを後続に伝えているようだ。
 そんなわけで、ただ近所の王宮へご飯を食べに行くだけでも団体移動だった。

 ヴィルさんのエスコートで馬車に乗り込むと、窓の外に「白馬のイケ仏」と化したオーディンス副団長がいた。
 さすが、世界で最もカッコいい仏像だ。石と白いお馬さんの相性は抜群(?)である。
 わたしの視線に気づき、こちらを向いてくれた。小さく手を振ると、ホトケが優しく微笑んだ。
 笑ったときに少しだけ出てくる「中の人」が尊い……。

 妄想の中で浅草雷門は占拠したから、次は渋谷のハチ公をイケ仏に変えてしまおうかしら。
 「待ち合わせはイケ仏前」をキャッチフレーズに、妄想の中で渋谷の地域振興に取り組ませて頂く所存です。

「リア、どうした?」
「へぃ?」

 後から乗ってきたヴィルさんが首を傾げていた。わたし、ヘンな顔をしていたせいかもしれない。
 しかも、ヴィルさんに向かって「へぃ?」は、ひどい(笑)
 「すみません。ちょっと考えごとをしていて」と誤魔化した。

 大勢に見送られ、そして大勢に護られて、馬車はゆっくりと王宮へ向かう。
 車内では、また彼が巻き付いていた。
 夜は冷えるのでご丁寧にケープを羽織っていたけれど、また季節感がバグりそうである。
 暑い……。

「ねぇ、ヴィルさん? どうして今日は同じ服なのですか?」

 コトコトと心地良く揺れる馬車の中で、わたしは彼に訊ねた。
 何か意味があるのなら、先に教えておいてもらいたい。
 家を出る間際、こそっと侍女長に聞いたところ、彼とお揃いで服を発注したことはないとのことだった。それに、ここまではっきりお揃いだと分かる服で未婚の男女が出歩くのは、幸せ絶頂期の婚約カップルくらいだと言う。
 何か意図があるのでは、と彼女も言っていた。
 お披露目会のときのように後ですべてを知らされるのではなく、あらかじめ教えておいてほしいと思うのは、わたしのワガママなのだろうか。

 外には綺麗な夕焼けが出ている。
 ふと太陽のようなものが二つ見えていることに気がついてしまった。今それどころではないのに、これは気になる。帰りは月もチェックしなくてはだ。

 ヴィルさんはわたしの質問には答えず、逆に「観劇は好きか?」と聞いてきた。
 むむぅ……。

 馬車は最初のカーブを曲がり終え、少しずつ速度を上げていた。
 街路樹の隙間から、大きな湖に夕陽が反射しているのが見える。その向こう側にはお城が見えた。

 お隣のヴィルさんはニコリと微笑むと、その長い脚を組んだ。お揃いの服の話は無視して観劇の話をしようということなのだろう。

「観劇は好きです。前の世界でも、年に数回観にいっていました」

 仕方なくヴィルさんに話を合わせた。
 映画やドラマも観劇に含めるなら、もっと多いと思った。

「面白いと話題になっている演目があるから、今度行こうか」
「あ、嬉しいです」
「昨日、広告をもらった。こういうやつだ、ほら……」

 彼がポケットからB5サイズほどのチラシを取り出し、広げて見せてくれた。
 美男美女の俳優さんがダブル主演で、「死ぬほど笑えて泣ける恋物語」という素敵なキャッチフレーズが書いてある。笑えて泣けるって最高だ。
 この国は娯楽が少ない。日本が多すぎたと言うべきなのかも知れないけれど、楽しいと思えることをもう少し増やしたいという気持ちがある。
 この国の演劇は一大エンターテインメントだし、是非観てみたい。

 ただ、今話したいのはそれではなく……。
 わたしがヴィルさんの「お気持ち」を聞きたいと思うのはおかしいのでしょうか。この中途半端な感じが、なんとも困るというか戸惑うというか。

「どうした?」
「また何も教えてくれないのですか?」
「リアは何でも似合うな。いつもリボンが可愛い。もっと側に来て、良く見せてくれないか」

 彼はわたしの質問に答えてくれなかった。まったく違うことを話して、全部はぐらかしてしまう。
 そしてまた警察犬のようにクンカクンカと匂いを嗅ぎ始めた。

「変態だと思っている?」
「そこまで言っていません。でも……」
「でも?」
「あまりそれをされると、わたしの吸う空気がなくなってしまいそうで」
「はははっ」

 結局、お揃いの服の謎は解けないまま。彼の気持ちも分からないままだった。
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