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第三章 お披露目会

第63話:神薙の力

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「ヴィルさん、やっぱり杖をお返ししたいです……」

 苦しそうな人達を見ているのが辛くて、杖を手放したくなっていた。
 しかし「命に別状はないから平気だよ」と、ヴィルさんは穏やかに微笑みながら答える。そして、きちんと杖を持っているようにと付け加えた。
 どうしてそんな風に平気でいられるのか、彼がよく分からなくなってくる。

「でも、皆さんとても苦しそうで……」

 あちらこちらから呻き声や叫び声に近い悲鳴が聞こえてくるのだ。
 もう見ていられない……。

 「団長が肝心なことを説明しないから不安がらせているのですよ」と、イケ仏様がヴィルさんを睨みつけながら言った。その言い方は、まるで「勉強をしないからテストの点が良くならないのよ」と子どもを諭すお母さんのようだった。
 ヴィルさんはバツが悪そうに「むぅぅ」と唸る。

「肝心なことって?」
「リア、すまない。非常に言いにくいのだが」
「はい?」
「そのー、最初から説明するとだな……」
「はい」
「この集まりには魔力量の規定があり、魔力の弱い人は試練の前に退出しなくてはいけないのだ。さっき叔父上がそのようなことを言っただろう?」
「ああ、はい。そうですね」
「なぜかというと、我々はこういうとき、魔力を使って防御をするからであり……」
「ほむほむ?」
「苦しんでいる連中というのは、つまり、魔力が弱いのにも関わらず、強いふりをしてここに残ってしまった者であるからして……」
「ほほう?」
「その結果、彼らに罰が下っていると考えてもらいたい」

 罰……?

「閨に溢れる神薙の力は、このくらいだと言われている。天人族の我々は、これを耐えられなければ夫になれない……そういうわけなのだ。うん」

 言いづらいのだろう。ヴィルさんの歯切れはめちゃくちゃ悪かった。
 わたしも聞きたいような聞きたくないような複雑な心境になっていたので、これ以上は首を突っ込まないことにした。

 前に読んだオジサンの愚痴日記(※神薙論)を思い出すと、どうでもいい性生活の暴露に紛れて『頑張らないと神薙の魔力で力尽きる』というような記述があったので、わたしの何かが悪さをしているのだとは思う。でも、少なくともそれは人の命には関わらないものだということだ。
 要はわたしの力は地球を救うものでもなければ、かと言って破壊するものでもない。

「あのぅ、神薙の力って、そういうものなのですか?」
「そういうのもある、というだけだ。それがリアの力の全てではないよ」
「ほむ。一応お聞きするのですが、うずくまってる人達はお腹が痛いのですか?」

 ヴィルさんは言いづらそうに「大丈夫だよ」と言った。それ以上聞くなという雰囲気をひしひしと感じる。

「そもそも魔力が規定量を満たしている者にしか招待状は送っていないのだが、それでも毎度こうなるのがお決まりなのだ」

 天人族には自分の魔力量を国に申告しなくてはならない義務があるそうだ。
 ところが、だいぶ多めに『盛って』届け出る例が後を絶たず、神薙の夫になった後で判明するケースが多かった。
 そういった事情から、杖の試練という形で先にバッサリやることにしているのだとか。
 「本人達がどう思っているかは分からないが、はたから見ていると自業自得というやつに思える」と、ヴィルさんは言った。

 会場は死屍累々たる地獄と化していた。
 ひどい神薙様だ。
 ふるいにかけるのは仕方ないにしても、やり方が雑というか、この国らしい(?)というか、もう少し皆さんの人権とか、この後の予定などに配慮が欲しい。
 魔力量の届け出の際に盛れないようにしたり、入り口に魔力を測る機械を置いたりすれば目的を果たせる気がするのだけど……それではダメなのだろうか。

 どちらにしても、申し訳ない。
 そそそっと後ろに下がり、ヴィルさんの影に隠れた。

「すまない。リアにこんな光景を見せるのは反対だった。それもあって中止にしたかった」
「わたしのためだったのですね……」
「いや、ワガママも大いにある」

 彼は顔だけこちらに向けると、照れくさそうに笑った。
 ヴィルさんの後ろにいると前が何も見えないせいか、向こう側に地獄があることを一瞬忘れ、落ち着くことができた。
 しばらくすると陛下が彼に目配せをして、そろそろ杖を戻しても良い頃合いだということを伝えていた。
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