70 / 140
3-2
わたしにも試練が?
しおりを挟む
「ん……?」
おへその下あたりに、今までの人生で一度も感じたことのない感覚がじわりときた。
初めは、ただの違和感。
それが徐々に強く大きくなっていく。
まるで熱々になった使い捨てカイロを丸ごと飲み込んで、それが中から膨らんでくるようだった。
熱くて、内から圧迫されているようでもあり、なんだか苦しい。
はふー、はふー……
これは、わたしの試練でもあるのでしょうか??
「ん……うぅ……」
「リア様、大丈夫ですよ。ちゃんと息をして」
「は……は……、んぅぅ」
頑張って息をしようとするけれど、つい苦しさをこらえるために目をぎゅっと閉じて息も止めてしまう。
二人に背中を支えてもらっているからどうにかひっくり返らずに済んでいるけれど、とても一人では立っていられない。
体の中で膨張している何かはパンパンになるまで膨らんで、限界に達したところでバン! と弾けた。
「きゃあっ」
「リア、大丈夫だ。怖がらなくていい」
「リア様、こっちを見て、息をして、そう、ゆっくりです」
「は……はぁ……は……、今のは?」
破裂した風船のように、その熱は体のアチコチから一気に噴き出していった。
頭と顔に何かが突き抜けたし、手の指先、足にも肩にも、爆風のようなものが通り抜けて行った。
抜けてしまった後は、もう苦しくなかった。
「頑張りましたね。ここから先は辛くないですよ」と、イケ仏様が風で乱れた前髪を直してくれた。
少し体がホカホカしている気がするけれど、温かいお茶をたくさん飲んだ後のような感じだ。
まるでお腹から出た湯気が、体の外へ抜けて出ていっているようだった。今しがた風が通り抜けていった道をなぞるように、温かいものが流れ出している感じがする。ただ、それが肉眼で見えるわけではないので、何が出ているのかは分からない。
シン・ゴリアの正体は、コンビニのレジ横で売られている中華まんだ。しっとりとして、ほかほかで、何だかほーっとする。
「はふぅー」と、ぬくぬくの息を吐いた。
なんだか肉まんが食べたくなってきちゃった。コンビニもないし、そもそもここでは売っていないだろうから、皮から全部手作りしなくちゃだ。
ヴィルさんが「始まるぞ」と言うと、オーディンス副団長が頷いた。
「まるで止まる気配がありません。まだ溢れ続けている」
「これは予想通り荒れるぞ。とんでもない力だ」
とんでもない力? 荒れる?
わたしのホカホカの事を言っているのだろうか。
数分後、会場の半数近くの人が腹部を押さえたり、頭や腰に手を当てたりして苦悶の表情を浮かべていた。
一部の人の体調に影響が出るとは聞いていたけれど、こんなにも大勢だとは思っておらず、わたしは狼狽えた。
「ど、どうしましょう、わたしのせいで皆さんが……」
「平気だ。リアはそのまま」
「でも……」
「リアは優しいな。もう場所なんか気にせず口づけをしてしまおうか」
「だっ……」
緊迫感なさすぎのヴィルさんである。
「ん? ダメなのか?」
ヴィルさんのキスを思い出すと、顔の中でポップコーンが三百個くらい同時に弾けたようになり、気が変になる。
体のぬくぬくが一気に熱々になった。
ダメに決まってます。
こんなところで、あんなのをされたら死んでしまいますっ。
イケ仏様に叱って頂きましょう。
「副団長さ……」
助けを求めようと視線を左に向けると、そこには苦痛で顔を歪めたイケ仏様がいた。
「おい、アレン、大丈夫か。第一騎士団の意地を見せろ」
「私は普段から浴びてる量が違うんですよ!」
「まあ、そうだろうな」
「あなたが馬鹿なことを言うから、放出量が増えている! こっちは至近距離なのですよッ! 俺の状況が分かっているくせにそういうことを言う!」
「夫の試練だ。諦めろ。ふふふ」
会場はお腹を押さえてうずくまる人が次々と現れ、苦しみもがく声と気遣う人々の声で騒然としていた。
しかも、最大の味方にまで望まぬ攻撃を食らわせている。
イケ仏様に何かあったら、わたしの代わりにキレ散らかしてくださる人がいなくなってしまう。たまにこうして拝める至高のイケメンに眼福を感じることもできなくなってしまう。
「副団長さま、ごめんなさい、ごめんなさい……」
わたしがいけないの。
わたしは悪い子です。
いっぱい仏像って言ってごめんなさい。鉄仮面とか怪人クソ眼鏡とか、いっぱい言ってごめんなさい。だれか、副団長さまを助けてください。
「いやです。死なないでください、副団長さま……」
「リア、アレンは死なないから、大丈夫だよ」
「でも……でもっ……」
ヴィルさんは苦しむ部下に向かって「アレン、がんばれ」などと、からかい半分に声を掛けていて、イケ仏様からドスの利いた声で「うるせぇぞ、金髪クソ野郎!」と、キレられている。
(不定期に上下関係がおかしくなる人達だ)
あのぅ、本気で心配しているわたしがバカみたいなのですが……?
イケ仏様はヴィルさんにひとしきりキレ散らかすと持ち直した。
そして、ものっ凄くイケメン顔で「リア様のせいではありません。大丈夫です」と白い歯を見せて、わたしを安心させてくれた。
メガネをしていないときは、銀ブチの代わりに白い歯が光る仕様のようだった。
おへその下あたりに、今までの人生で一度も感じたことのない感覚がじわりときた。
初めは、ただの違和感。
それが徐々に強く大きくなっていく。
まるで熱々になった使い捨てカイロを丸ごと飲み込んで、それが中から膨らんでくるようだった。
熱くて、内から圧迫されているようでもあり、なんだか苦しい。
はふー、はふー……
これは、わたしの試練でもあるのでしょうか??
「ん……うぅ……」
「リア様、大丈夫ですよ。ちゃんと息をして」
「は……は……、んぅぅ」
頑張って息をしようとするけれど、つい苦しさをこらえるために目をぎゅっと閉じて息も止めてしまう。
二人に背中を支えてもらっているからどうにかひっくり返らずに済んでいるけれど、とても一人では立っていられない。
体の中で膨張している何かはパンパンになるまで膨らんで、限界に達したところでバン! と弾けた。
「きゃあっ」
「リア、大丈夫だ。怖がらなくていい」
「リア様、こっちを見て、息をして、そう、ゆっくりです」
「は……はぁ……は……、今のは?」
破裂した風船のように、その熱は体のアチコチから一気に噴き出していった。
頭と顔に何かが突き抜けたし、手の指先、足にも肩にも、爆風のようなものが通り抜けて行った。
抜けてしまった後は、もう苦しくなかった。
「頑張りましたね。ここから先は辛くないですよ」と、イケ仏様が風で乱れた前髪を直してくれた。
少し体がホカホカしている気がするけれど、温かいお茶をたくさん飲んだ後のような感じだ。
まるでお腹から出た湯気が、体の外へ抜けて出ていっているようだった。今しがた風が通り抜けていった道をなぞるように、温かいものが流れ出している感じがする。ただ、それが肉眼で見えるわけではないので、何が出ているのかは分からない。
シン・ゴリアの正体は、コンビニのレジ横で売られている中華まんだ。しっとりとして、ほかほかで、何だかほーっとする。
「はふぅー」と、ぬくぬくの息を吐いた。
なんだか肉まんが食べたくなってきちゃった。コンビニもないし、そもそもここでは売っていないだろうから、皮から全部手作りしなくちゃだ。
ヴィルさんが「始まるぞ」と言うと、オーディンス副団長が頷いた。
「まるで止まる気配がありません。まだ溢れ続けている」
「これは予想通り荒れるぞ。とんでもない力だ」
とんでもない力? 荒れる?
わたしのホカホカの事を言っているのだろうか。
数分後、会場の半数近くの人が腹部を押さえたり、頭や腰に手を当てたりして苦悶の表情を浮かべていた。
一部の人の体調に影響が出るとは聞いていたけれど、こんなにも大勢だとは思っておらず、わたしは狼狽えた。
「ど、どうしましょう、わたしのせいで皆さんが……」
「平気だ。リアはそのまま」
「でも……」
「リアは優しいな。もう場所なんか気にせず口づけをしてしまおうか」
「だっ……」
緊迫感なさすぎのヴィルさんである。
「ん? ダメなのか?」
ヴィルさんのキスを思い出すと、顔の中でポップコーンが三百個くらい同時に弾けたようになり、気が変になる。
体のぬくぬくが一気に熱々になった。
ダメに決まってます。
こんなところで、あんなのをされたら死んでしまいますっ。
イケ仏様に叱って頂きましょう。
「副団長さ……」
助けを求めようと視線を左に向けると、そこには苦痛で顔を歪めたイケ仏様がいた。
「おい、アレン、大丈夫か。第一騎士団の意地を見せろ」
「私は普段から浴びてる量が違うんですよ!」
「まあ、そうだろうな」
「あなたが馬鹿なことを言うから、放出量が増えている! こっちは至近距離なのですよッ! 俺の状況が分かっているくせにそういうことを言う!」
「夫の試練だ。諦めろ。ふふふ」
会場はお腹を押さえてうずくまる人が次々と現れ、苦しみもがく声と気遣う人々の声で騒然としていた。
しかも、最大の味方にまで望まぬ攻撃を食らわせている。
イケ仏様に何かあったら、わたしの代わりにキレ散らかしてくださる人がいなくなってしまう。たまにこうして拝める至高のイケメンに眼福を感じることもできなくなってしまう。
「副団長さま、ごめんなさい、ごめんなさい……」
わたしがいけないの。
わたしは悪い子です。
いっぱい仏像って言ってごめんなさい。鉄仮面とか怪人クソ眼鏡とか、いっぱい言ってごめんなさい。だれか、副団長さまを助けてください。
「いやです。死なないでください、副団長さま……」
「リア、アレンは死なないから、大丈夫だよ」
「でも……でもっ……」
ヴィルさんは苦しむ部下に向かって「アレン、がんばれ」などと、からかい半分に声を掛けていて、イケ仏様からドスの利いた声で「うるせぇぞ、金髪クソ野郎!」と、キレられている。
(不定期に上下関係がおかしくなる人達だ)
あのぅ、本気で心配しているわたしがバカみたいなのですが……?
イケ仏様はヴィルさんにひとしきりキレ散らかすと持ち直した。
そして、ものっ凄くイケメン顔で「リア様のせいではありません。大丈夫です」と白い歯を見せて、わたしを安心させてくれた。
メガネをしていないときは、銀ブチの代わりに白い歯が光る仕様のようだった。
応援ありがとうございます!
17
お気に入りに追加
385
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる