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第三章 お披露目会
第58話:助けて、ダンディー
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そろそろ限界です。
もう、色んな意味で。
「じぇ、ジェラーニ副団長さま、たすけて……タスケテクダサイ」
寒さに震えながら、ドア越しにダンディーへ助けを求めた。
するとドアはすぐに開いた。
彼はヒラーンと軽やかに応接室へ入ってくると、ハッハハハ! と笑った。
どうやら彼にとって、これは愉快な状況のようだ。
彼は笑いながらこのカオスを収めに取り掛かった。
怒り狂うホトケからわたしを引きはがし、ヴィルさんの前にポンと置く。
ヴィルさんはわたしを受け取る(?)と、あっという間に、胸に『収納』した。
「ヴィル、残り五分で何とかしろ」
「わかった。ありがとう、フィデル」
ダンディーは上司を呼び捨てにした挙げ句、命令口調だった。
彼は素早く寒風の主に向き直り、仔猫を運ぶ母猫のように、首根っこをむんずと掴む。そして、「よーしよし」と、優しくなだめながらイケ仏様を連れて部屋を出ていった。
イケ仏様はというと「あの人マジで最悪ですよ」と、プリプリ文句を言いながら、おとなしく連行されていた。
すでに頭が大混乱状態にあるわたしを、彼らはメチャクチャな上下関係によって、さらに混乱させてくる……(もう勘弁して)
「リア、すまない。俺が愚かだった」
ヴィルさんはわたしを抱きしめ、温めながら言った。
なんだか次から次へと色々ありすぎて、最初のほうの「実はヴィルさんが団長だった事件」の印象がすっかり薄まってしまい、すでにどうでも良くなっていた。
普通、こういう出来事はもっとドラマティックに話が進むもので、間に挟まれた女性が「お前らケンカするならマルチバースの狭間でやってこい」なんて言わないものだと思う。
「あとで説明をしてくださるのですよね……?」
「する」
「お高いお飾りをありがとうございました」
「うん。とても似合う」
「……え、ええと、ティアラも着けてから行くのですよね?」
会話が上手くつながらないので、どうしたのかな?とヴィルさんを見上げた。そして後悔した。
焼けつきそうな視線がこちらに向けられている。
彼は全く視線を動かさずに「そうだな」と言った。そして、わたしの手にキスをした。
イケ仏様からは解放されたものの、単にレーザー照射器の前から、火炎放射器の前に場所が変わっただけだった。
結局わたしは丸焼きにされる子ブタの運命から脱せていない。今にも彼が火を噴いて、こんがり香ばしく焼かれそうだ。
と、とりあえず、目を合わせないようにしましょう……。
「え、えっと、その杖についての説明というのは?」
「綺麗だ……」
「はぅ」
ヴィルさんは、ちっともこちらの話を聞いていなかった。
彼は甘ったるいため息をつくと「誰にも見せたくない」と呟いた。
そうは言われてもこれからお披露目会で、その名のとおり大勢に見せないといけないですし、というか、むしろ今日のわたしは人に見せるためにあるようなものなのですけれども……。
言ってもまた全然違う返事が返ってくるような気がしたので黙っておいた。
「リア様、お時間です」と声が掛かり、ぞろぞろ人が入ってきてもヴィルさんの収納技は解けなかった。
寝技でもなく拘束技でもなく、彼はわたしをジャストフィットする場所に収納しているので身動きが取れないのだ。
ジタバタしていると、メガネを装着したオーディンス副団長がずんずん近づいてきた。
そして、おでこに青スジを立てながら「ベタベタ触るな」と言って、ベリッとはがすようにわたしの自由を確保した。
待ってましたとばかりに侍女長が飛んできて、ティアラを着けてくれた。
ようやくお披露目会仕様の神薙様が完成だ。
杖に手を伸ばそうとすると、「まだ触らないように」と止められた。どうやら必要になったときしか触ってはいけないものらしい。
またヴィルさんがセクシーなため息をついた。
そして、「参加人数は何人だっけ?」と尋ねながら、こちらに手を伸ばしてくる。
ペシッと音がした。
オーディンス副団長はその手をはたき落としながら「六百三十八人です」と答えていた。
ヴィルさんは叩かれた手の甲をさすりながら、「なんとか中止にできないのか」と言う。
すると彼は食い気味に「バカじゃないですか?」とツッコんだ。
団長と副団長の上下関係は謎だらけだった……。
「団長のせいで杖について説明する時間がなくなりました」
「歩きながら話せばいいだろう?」
ヴィルさんは一人でニコニコしていた。
多分、心臓が鉄で出来ている。
「そういうところですよ、他人の気持ちが分からないと言われるのは! すべてリア様の負担になっているのが分からないのですか!」
イケ仏様は、イケメンなうえに良い人だった。
彼がわたしの不満をすべて強めに代弁してくれているおかげで、少し気になることがあってもストレスにならない。
ヴィルさんには色々と聞きたいことがあったけれども、もう会場へ移動する時間が迫っていた。
今はお披露目会に集中しなくては。
「アレン、今日はその馬鹿げたメガネは外せ」と、ヴィルさんが言った。
イケ仏様は「自分で支給したくせに」などとブツブツ言いながら、メガネを外して胸ポケットに突っ込むと激イケメンに変身した。
人と仏像の間を行ったり来たりできるのだから、確かに馬鹿げたメガネではある……。
「必要のないときにまで使えとは言っていない」
「団長はちっとも分かっていない」
また子どものケンカのようになるのかと思いきや、会場入りの合図がかかって話はそこで終わった。
「リア、会場までの移動の間に、『杖の試練』について少し説明するよ」と、ヴィルさんが言った。
返事をすると、彼は「ん」と肘を出す。
左側にいる副団長に掴まって歩くのが常だったので、一瞬「あれ? 今日は右?」と戸惑った。
左を見ると、オーディンス副団長は神薙の杖が乗った赤いベルベットのクッションを持っている。どうやら今日の彼は国宝担当らしい。
ジェラーニ団長はというと、部下の面倒を見る役割を一手に引き受けているようだ。
ふむ……と頷くと、わたしはヴィルさんの腕に手を伸ばした。
もう、色んな意味で。
「じぇ、ジェラーニ副団長さま、たすけて……タスケテクダサイ」
寒さに震えながら、ドア越しにダンディーへ助けを求めた。
するとドアはすぐに開いた。
彼はヒラーンと軽やかに応接室へ入ってくると、ハッハハハ! と笑った。
どうやら彼にとって、これは愉快な状況のようだ。
彼は笑いながらこのカオスを収めに取り掛かった。
怒り狂うホトケからわたしを引きはがし、ヴィルさんの前にポンと置く。
ヴィルさんはわたしを受け取る(?)と、あっという間に、胸に『収納』した。
「ヴィル、残り五分で何とかしろ」
「わかった。ありがとう、フィデル」
ダンディーは上司を呼び捨てにした挙げ句、命令口調だった。
彼は素早く寒風の主に向き直り、仔猫を運ぶ母猫のように、首根っこをむんずと掴む。そして、「よーしよし」と、優しくなだめながらイケ仏様を連れて部屋を出ていった。
イケ仏様はというと「あの人マジで最悪ですよ」と、プリプリ文句を言いながら、おとなしく連行されていた。
すでに頭が大混乱状態にあるわたしを、彼らはメチャクチャな上下関係によって、さらに混乱させてくる……(もう勘弁して)
「リア、すまない。俺が愚かだった」
ヴィルさんはわたしを抱きしめ、温めながら言った。
なんだか次から次へと色々ありすぎて、最初のほうの「実はヴィルさんが団長だった事件」の印象がすっかり薄まってしまい、すでにどうでも良くなっていた。
普通、こういう出来事はもっとドラマティックに話が進むもので、間に挟まれた女性が「お前らケンカするならマルチバースの狭間でやってこい」なんて言わないものだと思う。
「あとで説明をしてくださるのですよね……?」
「する」
「お高いお飾りをありがとうございました」
「うん。とても似合う」
「……え、ええと、ティアラも着けてから行くのですよね?」
会話が上手くつながらないので、どうしたのかな?とヴィルさんを見上げた。そして後悔した。
焼けつきそうな視線がこちらに向けられている。
彼は全く視線を動かさずに「そうだな」と言った。そして、わたしの手にキスをした。
イケ仏様からは解放されたものの、単にレーザー照射器の前から、火炎放射器の前に場所が変わっただけだった。
結局わたしは丸焼きにされる子ブタの運命から脱せていない。今にも彼が火を噴いて、こんがり香ばしく焼かれそうだ。
と、とりあえず、目を合わせないようにしましょう……。
「え、えっと、その杖についての説明というのは?」
「綺麗だ……」
「はぅ」
ヴィルさんは、ちっともこちらの話を聞いていなかった。
彼は甘ったるいため息をつくと「誰にも見せたくない」と呟いた。
そうは言われてもこれからお披露目会で、その名のとおり大勢に見せないといけないですし、というか、むしろ今日のわたしは人に見せるためにあるようなものなのですけれども……。
言ってもまた全然違う返事が返ってくるような気がしたので黙っておいた。
「リア様、お時間です」と声が掛かり、ぞろぞろ人が入ってきてもヴィルさんの収納技は解けなかった。
寝技でもなく拘束技でもなく、彼はわたしをジャストフィットする場所に収納しているので身動きが取れないのだ。
ジタバタしていると、メガネを装着したオーディンス副団長がずんずん近づいてきた。
そして、おでこに青スジを立てながら「ベタベタ触るな」と言って、ベリッとはがすようにわたしの自由を確保した。
待ってましたとばかりに侍女長が飛んできて、ティアラを着けてくれた。
ようやくお披露目会仕様の神薙様が完成だ。
杖に手を伸ばそうとすると、「まだ触らないように」と止められた。どうやら必要になったときしか触ってはいけないものらしい。
またヴィルさんがセクシーなため息をついた。
そして、「参加人数は何人だっけ?」と尋ねながら、こちらに手を伸ばしてくる。
ペシッと音がした。
オーディンス副団長はその手をはたき落としながら「六百三十八人です」と答えていた。
ヴィルさんは叩かれた手の甲をさすりながら、「なんとか中止にできないのか」と言う。
すると彼は食い気味に「バカじゃないですか?」とツッコんだ。
団長と副団長の上下関係は謎だらけだった……。
「団長のせいで杖について説明する時間がなくなりました」
「歩きながら話せばいいだろう?」
ヴィルさんは一人でニコニコしていた。
多分、心臓が鉄で出来ている。
「そういうところですよ、他人の気持ちが分からないと言われるのは! すべてリア様の負担になっているのが分からないのですか!」
イケ仏様は、イケメンなうえに良い人だった。
彼がわたしの不満をすべて強めに代弁してくれているおかげで、少し気になることがあってもストレスにならない。
ヴィルさんには色々と聞きたいことがあったけれども、もう会場へ移動する時間が迫っていた。
今はお披露目会に集中しなくては。
「アレン、今日はその馬鹿げたメガネは外せ」と、ヴィルさんが言った。
イケ仏様は「自分で支給したくせに」などとブツブツ言いながら、メガネを外して胸ポケットに突っ込むと激イケメンに変身した。
人と仏像の間を行ったり来たりできるのだから、確かに馬鹿げたメガネではある……。
「必要のないときにまで使えとは言っていない」
「団長はちっとも分かっていない」
また子どものケンカのようになるのかと思いきや、会場入りの合図がかかって話はそこで終わった。
「リア、会場までの移動の間に、『杖の試練』について少し説明するよ」と、ヴィルさんが言った。
返事をすると、彼は「ん」と肘を出す。
左側にいる副団長に掴まって歩くのが常だったので、一瞬「あれ? 今日は右?」と戸惑った。
左を見ると、オーディンス副団長は神薙の杖が乗った赤いベルベットのクッションを持っている。どうやら今日の彼は国宝担当らしい。
ジェラーニ団長はというと、部下の面倒を見る役割を一手に引き受けているようだ。
ふむ……と頷くと、わたしはヴィルさんの腕に手を伸ばした。
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