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第二章 出会い
第47話:北の庭園
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「ほんの少しだけ寄り道をしないか」と、提案があった。
残された時間は三十分ほどしかなかったけれども、ヴィルさんは特別な庭園への入園許可証を用意してくれていた。
「とても珍しい花がある。これはちょっとしたツテで手に入れた。見てごらん、この署名」
そこには見覚えのある名前が書いてあった。
フォークハルト・オルランド……他でもないイケオジ陛下だった。
あー、この方は、わたしが最もお世話になっている方ですねぇ。
お披露目会のために私費をはたいてドレスの生地を買ってくださったり、お飾りを揃えてくださったり、娘の結婚式を控えたパパのようになっていて……。
週に一度は一緒にお食事をしたいとのことで、だいたい土曜日のランチはご一緒しています。
先日は宰相と一緒にわたしのお家のディナーにご招待しました。
わたしが「旦那さんが見つからなかったらどうしよう」と不安がっていると、「その時は王妃になればいい」なんて冗談を言って励ましてくださるのですよ。
……なんてことは、絶対に言えない。
陛下と仲良しで、実はメシ友だなんて、言えるわけがなかった。
「す、すごいですね。陛下の許可を頂くなんて」
「これは滅多に手に入らないらしい」
彼はキラリと微笑んだ。
「北の庭園」は、王宮庭園のうちの一つらしい。
一般に公開されている王宮広場とは違い、陛下の許可がなければ入れない。彼も今日が初めてだと言った。
そこまでの道中も厳重な警備が敷かれている。
彼は一人で馬車を降り、許可証を見せて王宮エリアの中を通してもらっていた。さらに庭園から最も近い馬車停めで降りた後も、身分証のようなものと一緒に許可証を見せ、入園の手続きをしてくれていた。
庭園の入り口前には、見るからに第三騎士団という感じの、マッチョな騎士が四人も立っていた。その先が特別な場所であることは間違いなさそうだ。
入り口の門を抜けて少し歩くと、その先にはバラに似た白い花が見事に咲き誇っていた。まだ庭園の中に入ったとは言えない場所にも関わらず、目の前に広がる光景が幻想的すぎて、思わず足を止めてしまった。
花の周りに白いモヤがかかり、雲海のようにユラユラと揺れていた。最初は霧に見えたけれども、それにしては随分と下のほうに溜まっている。
綿菓子を作る機械を思い出した。幾重にも重なってフワフワ漂う細い線状の飴に似ている。
辺りは甘く華やかな香りでいっぱいだった。
「素敵なお庭ですねぇ」
「あれはこの庭園にしかない『王の白花』という品種で、魔力を持つ花だ」
「あの白いモヤは何ですか?」
「あれは花が発した魔力だ。濃度が増すと肉眼でも見えるようになる」
「触っても大丈夫なのですか?」
「ああ。ここでイタズラができるのは王国に一人しかいないから大丈夫だ」
「それは、もしかして、陛下?」
「いいや。んー、神薙……って、知っているかな?」
うっ……
し、知っていますね。
その人のことは、すごく、よく知っています。
というか、それ、わたしらしいので……。
「その人しか悪さはできないから安心していい」
「そ、そうなのですねぇ」
つまり、わたしがそこに入ると何かしてしまうかも知れない、ということですよね。
も、もう無理です。
これ以上、お花には近づけません。
ああ、あんなに素敵なお庭なのに近寄れないなんて残念です。
「おいで、リア」
「あぅ……あの、やっぱり……」
数歩先で彼がわたしを呼んだけれど、わたしはそこから一歩も動けなくなっていた。
何ができてしまうのか分からない以上、近づかないに限る。
何か言い訳を考えないと。
素敵なお庭デスネと言ってしまった手前、今さら何を言っても苦しい気はする。けれども、なんとかヴィルさんに嫌な思いをさせずに、お庭に近づかなくて済む理由を考えなくては。
なんて言おう……。
何か、良い言い方はないでしょうか。ううう、思いつきません。
「や、やっぱり魔力というのは馴染みがなくて、そのー、怖いと言いますか……」
く、苦しい言い訳です(泣)
怖いも何も、前に魔法で手を冷やして頂いたことがあるし、王宮医の治癒魔法も受けたことがあるのにー。
そんなキラキラな顔でこっちを見てもダメですよ。
わたし、そちらには行きません。行けません。絶対に。
「剣の国から来たせいかな。大丈夫だよ」
いやいや、全然まったくちっとも大丈夫ではないのです。
わたしが近づいた瞬間、花が一斉に爆発とかしたら、どうするのですか? ヴィルさんも巻き添えを食うことになります。いくらイケメンだからといって「リア充爆発しろ」を実践してはいけません。
そういう意味での「怖い」ですから。
どうか、分かって下さい。
残された時間は三十分ほどしかなかったけれども、ヴィルさんは特別な庭園への入園許可証を用意してくれていた。
「とても珍しい花がある。これはちょっとしたツテで手に入れた。見てごらん、この署名」
そこには見覚えのある名前が書いてあった。
フォークハルト・オルランド……他でもないイケオジ陛下だった。
あー、この方は、わたしが最もお世話になっている方ですねぇ。
お披露目会のために私費をはたいてドレスの生地を買ってくださったり、お飾りを揃えてくださったり、娘の結婚式を控えたパパのようになっていて……。
週に一度は一緒にお食事をしたいとのことで、だいたい土曜日のランチはご一緒しています。
先日は宰相と一緒にわたしのお家のディナーにご招待しました。
わたしが「旦那さんが見つからなかったらどうしよう」と不安がっていると、「その時は王妃になればいい」なんて冗談を言って励ましてくださるのですよ。
……なんてことは、絶対に言えない。
陛下と仲良しで、実はメシ友だなんて、言えるわけがなかった。
「す、すごいですね。陛下の許可を頂くなんて」
「これは滅多に手に入らないらしい」
彼はキラリと微笑んだ。
「北の庭園」は、王宮庭園のうちの一つらしい。
一般に公開されている王宮広場とは違い、陛下の許可がなければ入れない。彼も今日が初めてだと言った。
そこまでの道中も厳重な警備が敷かれている。
彼は一人で馬車を降り、許可証を見せて王宮エリアの中を通してもらっていた。さらに庭園から最も近い馬車停めで降りた後も、身分証のようなものと一緒に許可証を見せ、入園の手続きをしてくれていた。
庭園の入り口前には、見るからに第三騎士団という感じの、マッチョな騎士が四人も立っていた。その先が特別な場所であることは間違いなさそうだ。
入り口の門を抜けて少し歩くと、その先にはバラに似た白い花が見事に咲き誇っていた。まだ庭園の中に入ったとは言えない場所にも関わらず、目の前に広がる光景が幻想的すぎて、思わず足を止めてしまった。
花の周りに白いモヤがかかり、雲海のようにユラユラと揺れていた。最初は霧に見えたけれども、それにしては随分と下のほうに溜まっている。
綿菓子を作る機械を思い出した。幾重にも重なってフワフワ漂う細い線状の飴に似ている。
辺りは甘く華やかな香りでいっぱいだった。
「素敵なお庭ですねぇ」
「あれはこの庭園にしかない『王の白花』という品種で、魔力を持つ花だ」
「あの白いモヤは何ですか?」
「あれは花が発した魔力だ。濃度が増すと肉眼でも見えるようになる」
「触っても大丈夫なのですか?」
「ああ。ここでイタズラができるのは王国に一人しかいないから大丈夫だ」
「それは、もしかして、陛下?」
「いいや。んー、神薙……って、知っているかな?」
うっ……
し、知っていますね。
その人のことは、すごく、よく知っています。
というか、それ、わたしらしいので……。
「その人しか悪さはできないから安心していい」
「そ、そうなのですねぇ」
つまり、わたしがそこに入ると何かしてしまうかも知れない、ということですよね。
も、もう無理です。
これ以上、お花には近づけません。
ああ、あんなに素敵なお庭なのに近寄れないなんて残念です。
「おいで、リア」
「あぅ……あの、やっぱり……」
数歩先で彼がわたしを呼んだけれど、わたしはそこから一歩も動けなくなっていた。
何ができてしまうのか分からない以上、近づかないに限る。
何か言い訳を考えないと。
素敵なお庭デスネと言ってしまった手前、今さら何を言っても苦しい気はする。けれども、なんとかヴィルさんに嫌な思いをさせずに、お庭に近づかなくて済む理由を考えなくては。
なんて言おう……。
何か、良い言い方はないでしょうか。ううう、思いつきません。
「や、やっぱり魔力というのは馴染みがなくて、そのー、怖いと言いますか……」
く、苦しい言い訳です(泣)
怖いも何も、前に魔法で手を冷やして頂いたことがあるし、王宮医の治癒魔法も受けたことがあるのにー。
そんなキラキラな顔でこっちを見てもダメですよ。
わたし、そちらには行きません。行けません。絶対に。
「剣の国から来たせいかな。大丈夫だよ」
いやいや、全然まったくちっとも大丈夫ではないのです。
わたしが近づいた瞬間、花が一斉に爆発とかしたら、どうするのですか? ヴィルさんも巻き添えを食うことになります。いくらイケメンだからといって「リア充爆発しろ」を実践してはいけません。
そういう意味での「怖い」ですから。
どうか、分かって下さい。
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