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お出かけ当日です
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──お出かけ当日。
出発前、少し早めに一階のホールへ降りていくと、オーディンス副団長がいた。
いつもどおり髪を撫でつけてメガネをかけていたけれども、彼は私服で出勤していた。市民に紛れてわたしの護衛にあたるためだ。
猛烈にカッコイイせいで直視できない。
服が、いや、服も。
目の保養をありがとうございます。
観光地化しても良いですか?
バスツアーとか、いかがでしょうか。
えー皆さま、前方をご覧ください。
あちらが世界で最もイケている仏像と名高い「イケ仏さま」でございます。オルランディアにて建造され、長年人々に愛されているこの有り難いイケメン仏は、高さ百八十五センチ以上とも言われております。
「リア様、素敵な装いですね。いつにも増して美しい」
イケ仏様がわたしの手を取りながら言った。
「はぐっ……あ、アリガトウゴザイマス。侍女の皆さんが、全部考えて下さいました」
本当に頭のてっぺんからつま先まで、一切合切を侍女が選び、侍女が決めてそこに至っていた。
「今日行かれる店は、女性向けの商品も充実している指折りの高級店です」
「あら? 殿方向けのお店ではないのですか? 」
「はい。前回、素通りしておられた界隈です」
「あ……、もしかして、あの宝石屋さんの近く?」
「宝石店の隣です。王都で暮らす貴族なら誰もが知っています」
「そ、そうなのですね……。承知いたしました」
以前、入る勇気さえ出なかったお店が、今日の行き先らしい。
敷居が高いのはさておき、てっきり紳士服の店に行くのかと思っていた。居心地が悪いのを覚悟していただけに、これは朗報。レディースの売り場もあるなら、女性の店員さんもいるだろうし、それなら気が楽だ。
彼は「一つ注意点をお伝えしておきます」と言った。
「今後、誰かから贈り物を受け取る場合、土地や建物だけはお断りして下さい」
「……はい?」
「それ以外でしたら何を受け取っても構いません」
「土地や建物を贈る人がいるのですか?」
「はい」
「な……」
「そもそも王国内の土地はすべて王の所有物であり、譲渡はできません。その上にある建物は個人所有が可能ですが、とかく不動産は手続きが面倒です。ご注意ください」
出かける前に「気をつけて行ってこい」と言われることは多々あれど、「土地と建物は受け取るな」と注意されるとは驚きだ。
相変わらずこの世界は……と思いつつ、わたしは「かしこまりました」と答えた。
護衛の騎士は四チームほどに分かれていた。待ち合わせ場所で待機するチームと、目的地で市民に紛れて散らばるチームが先行して出発する。
わたし一人が出かけるのに、一体何人が動員されているのか考えると心苦しくなる。これから出かけるたびにこうなるのだ。慣れなくては……。
神薙だとバレないよう、紋が入っていない馬車に乗り込み、出発した。指定された待ち合わせ場所は、王宮広場東側にある馬車停めだ。
馬車停めは、個人向けパーキングと、駅前のタクシー乗り場が合体したような広場だ。
貴族が乗ってきた自前の馬車を停めたり、タクシーのような馬車がお客を降ろしたり、また次のお客を拾ったりする。
場所柄、出入りする馬車の数は多く、ひっきりなしに出たり入ったりする。それを係の人々が次々と誘導していた。
長時間停めて待たせる場合は、馬丁さんと呼ばれる厩務員がお馬さんの世話をしてくれるし、待機中の御者がゆっくり休憩できる場所もあった。
この馬車社会で、お馬さんとそれに関わる人々は、大切にされている。
約束の時間ピッタリに着き、窓から外の様子を窺っていると、人の往来が多い場所から少し外れた場所でヴィルさんが待っているのが見えた。
ピンク色の甘い神経毒をぶわぁ~っと垂れ流している。
目立たないところにいるにも関わらず、通行人の女性が何人も立ち止まってボーッと彼を見ていた。
今日もすごい……何かがすごい……。
あんな人にギュッとされて、よく無事だったと、自分を褒めてあげたい気持ちになった。
こちらに気づいて笑顔で手を振ってくれた彼に、ペコリと頭を下げ挨拶した。
「やあ、リア殿。また会えて嬉しい」
「こちらこそ、今日はお誘いを頂きありがとうございます」
「今日は一緒にいられる時間が短い。少しでも長く話がしたいので、こちらの馬車で一緒にどうかな」
彼がジェントルに誘ってくれたので、お言葉に甘えて彼の馬車に乗り換えた。
我が家のお馬さん達が、馬丁さんにキャッキャと絡んでいる様子を横目に、お店へと向かう。
コトコトと揺られながら、互いの近況報告をし合った。
ふと何かが髪に触れた。
「ん?」と目をやると、彼がわたしの髪を一束すくうようにして触れていた。
んんッ?
どうしたのでしょう?
ゴミでもついていますか?
いや、そうだったとしても、そのお顔は?
あの、吸い込まれそうなのですけれども……。
ヴィルさん、何をしているのですか?
「今すぐ抱きしめたいほど美しい……」
「──ッ!!」
は、はわぁぁぁああッ!!
出発前、少し早めに一階のホールへ降りていくと、オーディンス副団長がいた。
いつもどおり髪を撫でつけてメガネをかけていたけれども、彼は私服で出勤していた。市民に紛れてわたしの護衛にあたるためだ。
猛烈にカッコイイせいで直視できない。
服が、いや、服も。
目の保養をありがとうございます。
観光地化しても良いですか?
バスツアーとか、いかがでしょうか。
えー皆さま、前方をご覧ください。
あちらが世界で最もイケている仏像と名高い「イケ仏さま」でございます。オルランディアにて建造され、長年人々に愛されているこの有り難いイケメン仏は、高さ百八十五センチ以上とも言われております。
「リア様、素敵な装いですね。いつにも増して美しい」
イケ仏様がわたしの手を取りながら言った。
「はぐっ……あ、アリガトウゴザイマス。侍女の皆さんが、全部考えて下さいました」
本当に頭のてっぺんからつま先まで、一切合切を侍女が選び、侍女が決めてそこに至っていた。
「今日行かれる店は、女性向けの商品も充実している指折りの高級店です」
「あら? 殿方向けのお店ではないのですか? 」
「はい。前回、素通りしておられた界隈です」
「あ……、もしかして、あの宝石屋さんの近く?」
「宝石店の隣です。王都で暮らす貴族なら誰もが知っています」
「そ、そうなのですね……。承知いたしました」
以前、入る勇気さえ出なかったお店が、今日の行き先らしい。
敷居が高いのはさておき、てっきり紳士服の店に行くのかと思っていた。居心地が悪いのを覚悟していただけに、これは朗報。レディースの売り場もあるなら、女性の店員さんもいるだろうし、それなら気が楽だ。
彼は「一つ注意点をお伝えしておきます」と言った。
「今後、誰かから贈り物を受け取る場合、土地や建物だけはお断りして下さい」
「……はい?」
「それ以外でしたら何を受け取っても構いません」
「土地や建物を贈る人がいるのですか?」
「はい」
「な……」
「そもそも王国内の土地はすべて王の所有物であり、譲渡はできません。その上にある建物は個人所有が可能ですが、とかく不動産は手続きが面倒です。ご注意ください」
出かける前に「気をつけて行ってこい」と言われることは多々あれど、「土地と建物は受け取るな」と注意されるとは驚きだ。
相変わらずこの世界は……と思いつつ、わたしは「かしこまりました」と答えた。
護衛の騎士は四チームほどに分かれていた。待ち合わせ場所で待機するチームと、目的地で市民に紛れて散らばるチームが先行して出発する。
わたし一人が出かけるのに、一体何人が動員されているのか考えると心苦しくなる。これから出かけるたびにこうなるのだ。慣れなくては……。
神薙だとバレないよう、紋が入っていない馬車に乗り込み、出発した。指定された待ち合わせ場所は、王宮広場東側にある馬車停めだ。
馬車停めは、個人向けパーキングと、駅前のタクシー乗り場が合体したような広場だ。
貴族が乗ってきた自前の馬車を停めたり、タクシーのような馬車がお客を降ろしたり、また次のお客を拾ったりする。
場所柄、出入りする馬車の数は多く、ひっきりなしに出たり入ったりする。それを係の人々が次々と誘導していた。
長時間停めて待たせる場合は、馬丁さんと呼ばれる厩務員がお馬さんの世話をしてくれるし、待機中の御者がゆっくり休憩できる場所もあった。
この馬車社会で、お馬さんとそれに関わる人々は、大切にされている。
約束の時間ピッタリに着き、窓から外の様子を窺っていると、人の往来が多い場所から少し外れた場所でヴィルさんが待っているのが見えた。
ピンク色の甘い神経毒をぶわぁ~っと垂れ流している。
目立たないところにいるにも関わらず、通行人の女性が何人も立ち止まってボーッと彼を見ていた。
今日もすごい……何かがすごい……。
あんな人にギュッとされて、よく無事だったと、自分を褒めてあげたい気持ちになった。
こちらに気づいて笑顔で手を振ってくれた彼に、ペコリと頭を下げ挨拶した。
「やあ、リア殿。また会えて嬉しい」
「こちらこそ、今日はお誘いを頂きありがとうございます」
「今日は一緒にいられる時間が短い。少しでも長く話がしたいので、こちらの馬車で一緒にどうかな」
彼がジェントルに誘ってくれたので、お言葉に甘えて彼の馬車に乗り換えた。
我が家のお馬さん達が、馬丁さんにキャッキャと絡んでいる様子を横目に、お店へと向かう。
コトコトと揺られながら、互いの近況報告をし合った。
ふと何かが髪に触れた。
「ん?」と目をやると、彼がわたしの髪を一束すくうようにして触れていた。
んんッ?
どうしたのでしょう?
ゴミでもついていますか?
いや、そうだったとしても、そのお顔は?
あの、吸い込まれそうなのですけれども……。
ヴィルさん、何をしているのですか?
「今すぐ抱きしめたいほど美しい……」
「──ッ!!」
は、はわぁぁぁああッ!!
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