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第十五章 新人類

第331話:ミッション

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 ──ヴァーゲンザイル侯主催の舞踏会当日。

 会場は王都内でも三本の指に入るゴージャスホテル『スタインブリッツ』
 このホテルが始めた舞踏会パックのおかげで、近年、王都内ではホテル開催の舞踏会が増えていると言う。自宅のスタッフ総出でてんやわんやするより、ホテルの大ホールをプロのスタッフごと借り切ったほうが楽で質が高いと評判だそうだ。

 ヴィルさんの支度が長引いたため、わたし達の到着はかなり遅れていた。
 すでにダンスが始まっていたので、迷惑にならないよう関係者全員でまとまって入場させて頂いた。しかし、招待客の視線が一斉にこちらへ集中する。

 はわわ……皆さま、遅くなって申し訳ありません(それもこれもすべてはヴィル太郎がマイペースなせいですわっ)
 目立つのも注目を浴びるのも得意ではありませんが、本日は諸事情ございまして、わたくし、客寄せおパンダさんとして頑張らせて頂くことになりました。どうぞこちらの豪華ドレスをご覧くださいませ。

 濃紺のドレスが星空のようにキラキラと光を放っていた。
 先の舞踏会ではフワフワの小鳥さんだったけれども、今宵はスポンサーヴィルさんの意向でプラネタリウム仕様だ。

 イベントのたびに新しい服を作る貴族の習慣は、正直なところ「エコじゃない」の一言に尽きる。しかも原資が税金だから複雑な気分。
 貴族の常識だと言うので一応は守る方向だけれども、その一方で無駄遣いを抑えるべく、日頃はセッセとリメイクに励んで節約している。舞踏会用ドレスは普段のものより値が張るため、かけたお金の分はきっちり楽しませて頂く所存だ。

 このおパンダ、今宵は元をとる気満々です。
 踊るぞぉー。



 主催者ご夫妻がにこやかに私たちを出迎えてくれた。

「神薙様、ようこそお越しくださいました!」
「本日はお招き頂きありがとう存じます」

 ヴァーゲンザイル侯はヴィルさんの恩師の天人族。ロマンスグレーの短髪でがっしりとした体格をしており、いかにも「騎士を育てています」という感じの雰囲気をまとった強そうなお方だ。
 もう定年退職されているものの、現在も学校から呼ばれて特別講師として教壇に立つことがあるそうだ。若い人たちと接しているせいなのか、若々しくて明るい笑顔が素敵だ。

 ヒト族の優しそうな奥様と、十五歳になったばかりの息子さんとも挨拶をさせて頂いた。
 天人族とヒト族の間に子どもは生まれないので、先代の神薙と作ったか、莫大なお金を支払うことで得た息子さんということになる。四十代後半で「ようやく得られたご子息」と紹介されたので、いずれにせよご苦労をされたのだろう。
 今日はその大事な御嫡男の十五歳の誕生日であり、彼のお披露目を目的とした舞踏会だ。息子さんに人脈作りをさせたい親心がひしひしと伝わってくる。

 ご一家と話していたら、あれよあれよと周りに人だかりができたので、わたしはヴィルさんと目配せをした。
 狙いどおりの展開だ。
 いつぞやの婚約発表を彷彿とさせるご挨拶合戦が始まろうとしている。

「ニッコリさん?」

 今日はニッコリさんと我が家で集合してから、同じ馬車に乗ってここまでやって来た。

「はい、リア様」
「こちらのご嫡男は騎士科の生徒さんだそうですわ。あ、こちらはわたくしの友人で、とても珍しい二刀流の達人ニッコロ・ロキア様です。先日、我が家のお庭でその腕前を披露してくださって……」

 わたしは御嫡男との会話に、同行していたニッコリさんを巻き込んだ。当初予定通り、ニッコリさんの陽キャパワーとコミュ力が爆発して話が盛り上がる。そこを見計らって次のセリフだ。

「あっ、引き止めてしまってごめんなさい、ニッコリさん。ご令嬢たちと踊ってきてね?」

 彼をダンスへと促した。彼も段取りどおり「行ってきます。また後ほど」と言って人混みから抜け出してゆく。
 にこやかにお手振りして彼を見送るわたし。

 ふ……ふふふ……ふふ…… おーっほほほほ!

 本日のミッションはズバリ『ニッコリさんの婚活大作戦』ですわーーっ(ばばーん)
 さあ、ここはわたくしに任せて、頑張るのですよー、ニッコリさんっ♪



 子爵家の次男であるニッコリさんはご実家から冷遇を受けているらしく、まだ婚約者がいない。こんなに良い人なのにもったいない! という話になり、わたしも一肌脱ぐことにしたのだった。

 今宵のわたしのお役目は、客寄せおパンダさんとなり、ニッコリさんのライバルをなるべく長く・・・・・・足止めすることである。
 特にイケメンさんとは念入りにご挨拶およびお話をさせて頂きますわ。
 さあー逃がしまへんで。覚悟なさいませ。

 わたしとヴィルさんは群がる皆さまと長い長い長ぁーーいご挨拶をした。
 毎日顔筋を鍛えておいて良かったです。



 ご挨拶が済んだところで、わたし達も踊ることにした。
 ヴィルさんとダンスフロアに出て踊り始めると、遠くでニッコリさんが素敵なご令嬢と踊っているのが見えた。
 楽しそうに話している。ないす!

 今日のためにニッコリさんは頑張ってきた。
 半ば引きずられるように仕立屋さんへ連れていかれ、上から下までアレンさんプロデュースのバチバチオシャレなお貴族様スーツを作った。
 本人いわく「あまりに高額で何度も桁を数え直し、鼻血も出そうになった」とのこと。
 さらにはヴィルさん行きつけの高級ヘアサロンへ連れていかれ、キラキラの金髪を長めのソフトモヒカンに整えた(これも高くて泣きそうになったらしい)
 さらにさらに、くまんつ様の知り合いがやっているメンズエステにも行って全身のお手入れをしたそうだ。
 本人も周りも、相当に気合いが入っている(お金をかけている)のだ。

 唯一心配な部分があるとしたら、少しカジュアルすぎる喋り方だけれども、くまんつ様いわく「きちんとするべき場面ではきちんとしているから心配要らない」とのことだった。
 なぜご実家から冷遇を受けているのかは知らないけれども、わたしは彼に良いパートナーが見つかることを心から願っていた。
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