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第十四章 少年
第320話:カメリアの咲く教会
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わたしが庭のテーブルでサンドウィッチを作っていると、アレンさんの高い高いを何度も「おかわり」していた男の子がスカートにまとわりついていた。
スカートをつかんでモジモジしていたので試しにいくつか質問をしてみたところ、思った以上によく喋る子だった。そこに他の子も混ざり、わちゃわちゃトークが始まった。
下は四歳、上は十歳まで。
六人の子どもは、こんなタフな状況にいるとは思えないほど素直で良い子たちだった。
一番下の二人は予想どおり双子で、甘えん坊な兄はディーン、元気の良い妹はロリーと言った。
その上が小さなイケメン、六歳のショーン。弱冠六歳にして、もうモテ男の匂いがする末恐ろしい子だ。
その一つ上が、内気な少女エッラ。ロリーとエッラの二人は、ちゃんと膝が隠れるワンピースを着ていた。
市場で出会った不思議な色の瞳を持つテオが九歳。
そして、ヴィルさんに怪しまれるほどしっかりしているサナが十歳で最年長だった。
ただし、自分の誕生日を答えられた子どもは一人もおらず、この年齢はあくまでも推定年齢ということになりそうだ。
団員の草むしりは思っていた以上に功を奏し、ランチを頂く頃にはだいぶ視界が開けていた。
テオが言ったとおり、なぜか食器類が豊富にあり、やたらと大きな鍋もあったしカトラリーも山ほどあった。庭の広さに対して焚火台とテーブルが大きい。もしかしたら、以前ここで炊き出しのようなことをしていたのかも知れない。
おかげで護衛の団員含めて全員でテーブルにつくことができた。
「ん?」と、サンドウィッチをかじったヴィルさんが首を傾げた。
「リアの白ソースは、市場では売られていないよな?」
「ええ、あれは飲食店か我が家限定ですね」
「これは……?」
「あー、強いて言うならニセモノでしょうか。ふふふ」
日頃、騎士団の執務棟で出るサンドウィッチが美味しくない(=マヨネーズが入っていない)と言ってお弁当を持って出かけるヴィルさんである。いくら外とは言えマヨ抜きサンドウィッチを出すのもどうかと思ったので、代用品として水切りヨーグルトでそれっぽいソースを作ってみた。
美味しいハムやチーズも入っているので、具材と一緒になってしまうとそれほど違いは分からず、優秀なコク出し要員の役割を果たしていた。
子ども達はスープに入っていたお肉に感動したらしく、おかわりをして食べてくれた。さらにデザートの桃まで平らげると、しばらく満腹で動けなかった。
わたしも大きなサンドウィッチをがぶりとやれて妙な爽快感があった。お隣でヴィルさんが「もっと小さく切らないとリアの口には入らない」などと騒いでいたけれども、たまにはワイルドにやりたいリア様なのである。
皆でワイワイとお喋りしながら、楽しいランチだった。
──食後、テオとサナを教会の中に呼び、今、六人がどういう状況にあるのかを聞くことにした。
二人の話によれば、もともと六人は孤児院で暮らしていたそうだ。
しかし、テオが「何かおかしい」と言い出し、皆で逃げ出したのだと言う。
テオの話を要約するとこうだった。
夜の間に友達が数人いなくなるという出来事が二度あった。
それはいずれも第七日(※こちらの暦で日曜日)に起き、友達はそれきり戻らなかった。
そのお友達の一人とは裏の林へ虫取りをしに行く約束をしており、起きて朝食が終わったら出かける予定になっていた。誘われたのは前日の夕方だった。
約束をしていながら真っ暗な夜に自分から出ていくわけがない。誰かに連れ去られたのだとテオは考えた。
仲の良かったサナに打ち明けると、彼女も同じ考えだった。
二人は仲の良かった四人を「虫取りに行こう」と誘い、彼らを連れて孤児院から抜け出した。たくさんたくさん歩いてこの古い教会に辿り着いた。
彼らがいた孤児院の名前や場所は分からないものの、サナが言うにはカメリアの花がたくさん咲いている場所だったと言う。
この教会に孤児院は併設されていなかったが、幸い彼らはここに住むことができた。
信者として通ってきていたのは二家族だけ。最初はここを管理している人物もいたらしいけれども、主に彼らの面倒を見ていたのは信者だったと言う。
ただ、その人達が来なくなったのを境に管理人と思しき人物の足も遠のき、やがて誰も来なくなった。
最後に信者の家族と会った日、彼らは「元気でね」と言ってお金を少しくれたそうだ。
テオが握りしめていた硬貨が彼らの手持ちの最後だった。
すぐ近くで話を聞いていたアレンさんは、手帳にペンを走らせ続けていた。
ヴィルさんは眉間に深く溝を刻み、引越しなどの理由で信者が別の教会へ行くようになることはあれど、教会の人間まで来なくなるのは稀だと言った。
六人だけになったのは暖かくなり始めた頃だというから、まだそれほど長い期間は経っていない。
服や靴は信者が来ている頃から満足なものはなかったようだ。
わたしは二人の話を聞きながら、何度も深呼吸をした。
やり場のない思いが、みぞおちあたりでグルグルと渦巻いている。
服や毎日の食事はどうにかできるとしても、彼らの住む場所を探さなくてはならない。それから、子どもが消えた教会も気になる。
小さな双子が呼びに来たので二人を庭へ送り出し、取り急ぎヴィルさんとアレンさんの三人で話すことにした。
スカートをつかんでモジモジしていたので試しにいくつか質問をしてみたところ、思った以上によく喋る子だった。そこに他の子も混ざり、わちゃわちゃトークが始まった。
下は四歳、上は十歳まで。
六人の子どもは、こんなタフな状況にいるとは思えないほど素直で良い子たちだった。
一番下の二人は予想どおり双子で、甘えん坊な兄はディーン、元気の良い妹はロリーと言った。
その上が小さなイケメン、六歳のショーン。弱冠六歳にして、もうモテ男の匂いがする末恐ろしい子だ。
その一つ上が、内気な少女エッラ。ロリーとエッラの二人は、ちゃんと膝が隠れるワンピースを着ていた。
市場で出会った不思議な色の瞳を持つテオが九歳。
そして、ヴィルさんに怪しまれるほどしっかりしているサナが十歳で最年長だった。
ただし、自分の誕生日を答えられた子どもは一人もおらず、この年齢はあくまでも推定年齢ということになりそうだ。
団員の草むしりは思っていた以上に功を奏し、ランチを頂く頃にはだいぶ視界が開けていた。
テオが言ったとおり、なぜか食器類が豊富にあり、やたらと大きな鍋もあったしカトラリーも山ほどあった。庭の広さに対して焚火台とテーブルが大きい。もしかしたら、以前ここで炊き出しのようなことをしていたのかも知れない。
おかげで護衛の団員含めて全員でテーブルにつくことができた。
「ん?」と、サンドウィッチをかじったヴィルさんが首を傾げた。
「リアの白ソースは、市場では売られていないよな?」
「ええ、あれは飲食店か我が家限定ですね」
「これは……?」
「あー、強いて言うならニセモノでしょうか。ふふふ」
日頃、騎士団の執務棟で出るサンドウィッチが美味しくない(=マヨネーズが入っていない)と言ってお弁当を持って出かけるヴィルさんである。いくら外とは言えマヨ抜きサンドウィッチを出すのもどうかと思ったので、代用品として水切りヨーグルトでそれっぽいソースを作ってみた。
美味しいハムやチーズも入っているので、具材と一緒になってしまうとそれほど違いは分からず、優秀なコク出し要員の役割を果たしていた。
子ども達はスープに入っていたお肉に感動したらしく、おかわりをして食べてくれた。さらにデザートの桃まで平らげると、しばらく満腹で動けなかった。
わたしも大きなサンドウィッチをがぶりとやれて妙な爽快感があった。お隣でヴィルさんが「もっと小さく切らないとリアの口には入らない」などと騒いでいたけれども、たまにはワイルドにやりたいリア様なのである。
皆でワイワイとお喋りしながら、楽しいランチだった。
──食後、テオとサナを教会の中に呼び、今、六人がどういう状況にあるのかを聞くことにした。
二人の話によれば、もともと六人は孤児院で暮らしていたそうだ。
しかし、テオが「何かおかしい」と言い出し、皆で逃げ出したのだと言う。
テオの話を要約するとこうだった。
夜の間に友達が数人いなくなるという出来事が二度あった。
それはいずれも第七日(※こちらの暦で日曜日)に起き、友達はそれきり戻らなかった。
そのお友達の一人とは裏の林へ虫取りをしに行く約束をしており、起きて朝食が終わったら出かける予定になっていた。誘われたのは前日の夕方だった。
約束をしていながら真っ暗な夜に自分から出ていくわけがない。誰かに連れ去られたのだとテオは考えた。
仲の良かったサナに打ち明けると、彼女も同じ考えだった。
二人は仲の良かった四人を「虫取りに行こう」と誘い、彼らを連れて孤児院から抜け出した。たくさんたくさん歩いてこの古い教会に辿り着いた。
彼らがいた孤児院の名前や場所は分からないものの、サナが言うにはカメリアの花がたくさん咲いている場所だったと言う。
この教会に孤児院は併設されていなかったが、幸い彼らはここに住むことができた。
信者として通ってきていたのは二家族だけ。最初はここを管理している人物もいたらしいけれども、主に彼らの面倒を見ていたのは信者だったと言う。
ただ、その人達が来なくなったのを境に管理人と思しき人物の足も遠のき、やがて誰も来なくなった。
最後に信者の家族と会った日、彼らは「元気でね」と言ってお金を少しくれたそうだ。
テオが握りしめていた硬貨が彼らの手持ちの最後だった。
すぐ近くで話を聞いていたアレンさんは、手帳にペンを走らせ続けていた。
ヴィルさんは眉間に深く溝を刻み、引越しなどの理由で信者が別の教会へ行くようになることはあれど、教会の人間まで来なくなるのは稀だと言った。
六人だけになったのは暖かくなり始めた頃だというから、まだそれほど長い期間は経っていない。
服や靴は信者が来ている頃から満足なものはなかったようだ。
わたしは二人の話を聞きながら、何度も深呼吸をした。
やり場のない思いが、みぞおちあたりでグルグルと渦巻いている。
服や毎日の食事はどうにかできるとしても、彼らの住む場所を探さなくてはならない。それから、子どもが消えた教会も気になる。
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