上 下
316 / 367
第十四章 少年

第320話:カメリアの教会

しおりを挟む
 わたしが庭のテーブルでサンドウィッチを作っていると、アレンさんの高い高いを何度も「おかわり」していた男の子がスカートにまとわりついていた。
 スカートをつかんでモジモジしていたので試しにいくつか質問をしてみたところ、思った以上によく喋る子だった。そこに他の子も混ざり、わちゃわちゃトークが始まった。

 下は四歳、上は十歳まで。
 六人の子どもは、こんなタフな状況にいるとは思えないほど素直で良い子たちだった。
 
 一番下の二人は予想どおり双子で、甘えん坊な兄はディーン、元気の良い妹はロリーと言った。
 その上が小さなイケメン、六歳のショーン。弱冠六歳にして、もうモテ男の匂いがする末恐ろしい子だ。
 その一つ上が、内気な少女エッラ。ロリーとエッラの二人は、ちゃんと膝が隠れるワンピースを着ていた。
 市場で出会った不思議な色の瞳を持つテオが九歳。
 そして、ヴィルさんに怪しまれるほどしっかりしているサナが十歳で最年長だった。
 ただし、自分の誕生日を答えられた子どもは一人もおらず、この年齢はあくまでも推定年齢ということになりそうだ。

 団員の草むしりは思っていた以上に功を奏し、ランチを頂く頃にはだいぶ視界が開けていた。

 テオが言ったとおり、なぜか食器類が豊富にあり、やたらと大きな鍋もあったしカトラリーも山ほどあった。庭の広さに対して焚火台とテーブルが大きい。もしかしたら、以前ここで炊き出しのようなことをしていたのかも知れない。
 おかげで護衛の団員含めて全員でテーブルにつくことができた。

 「ん?」と、サンドウィッチをかじったヴィルさんが首を傾げた。

「リアの白ソースは、市場では売られていないよな?」
「ええ、あれは飲食店か我が家限定ですね」
「これは……?」
「あー、強いて言うならニセモノでしょうか。ふふふ」

 日頃、騎士団の執務棟で出るサンドウィッチが美味しくない(=マヨネーズが入っていない)と言ってお弁当を持って出かけるヴィルさんである。いくら外とは言えマヨ抜きサンドウィッチを出すのもどうかと思ったので、代用品として水切りヨーグルトでそれっぽいソースを作ってみた。
 美味しいハムやチーズも入っているので、具材と一緒になってしまうとそれほど違いは分からず、優秀なコク出し要員の役割を果たしていた。

 子ども達はスープに入っていたお肉に感動したらしく、おかわりをして食べてくれた。さらにデザートの桃まで平らげると、しばらく満腹で動けなかった。

 わたしも大きなサンドウィッチをがぶりとやれて妙な爽快感があった。お隣でヴィルさんが「もっと小さく切らないとリアの口には入らない」などと騒いでいたけれども、たまにはワイルドにやりたいリア様なのである。

 皆でワイワイとお喋りしながら、楽しいランチだった。


 ──食後、テオとサナを教会の中に呼び、今、六人がどういう状況にあるのかを聞くことにした。

 二人の話によれば、もともと六人は孤児院で暮らしていたそうだ。
 しかし、テオが「何かおかしい」と言い出し、皆で逃げ出したのだと言う。

 テオの話を要約するとこうだった。
 夜の間に友達が数人いなくなるという出来事が二度あった。
 それはいずれも第七日(※こちらの暦で日曜日)に起き、友達はそれきり戻らなかった。
 そのお友達の一人とは裏の林へ虫取りをしに行く約束をしており、起きて朝食が終わったら出かける予定になっていた。誘われたのは前日の夕方だった。
 約束をしていながら真っ暗な夜に自分から出ていくわけがない。誰かに連れ去られたのだとテオは考えた。

 仲の良かったサナに打ち明けると、彼女も同じ考えだった。
 二人は仲の良かった四人を「虫取りに行こう」と誘い、彼らを連れて孤児院から抜け出した。たくさんたくさん歩いてこの古い教会に辿り着いた。
 彼らがいた孤児院の名前や場所は分からないものの、サナが言うにはカメリアの花がたくさん咲いている場所だったと言う。

 この教会に孤児院は併設されていなかったが、幸い彼らはここに住むことができた。
 信者として通ってきていたのは二家族だけ。最初はここを管理している人物もいたらしいけれども、主に彼らの面倒を見ていたのは信者だったと言う。
 ただ、その人達が来なくなったのを境に管理人と思しき人物の足も遠のき、やがて誰も来なくなった。
 最後に信者の家族と会った日、彼らは「元気でね」と言ってお金を少しくれたそうだ。
 テオが握りしめていた硬貨が彼らの手持ちの最後だった。

 すぐ近くで話を聞いていたアレンさんは、手帳にペンを走らせ続けていた。
 ヴィルさんは眉間に深く溝を刻み、引越しなどの理由で信者が別の教会へ行くようになることはあれど、教会の人間まで来なくなるのは稀だと言った。
 六人だけになったのは暖かくなり始めた頃だというから、まだそれほど長い期間は経っていない。
 服や靴は信者が来ている頃から満足なものはなかったようだ。

 わたしは二人の話を聞きながら、何度も深呼吸をした。
 やり場のない思いが、みぞおちあたりでグルグルと渦巻いている。
 服や毎日の食事はどうにかできるとしても、彼らの住む場所を探さなくてはならない。それから、子どもが消えた教会も気になる。

 小さな双子が呼びに来たので二人を庭へ送り出し、取り急ぎヴィルさんとアレンさんの三人で話すことにした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...