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第十三章 呪兄
第284話:アレンさんが分かってくれない(泣)
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「おや? あれは」と、アレンさんが呟いた。
わたしが見上げると、涼しい顔で「前に似たようなものを見たことがありますねぇ」と言った。
ど、どうしてこの人はこんな状況なのに冷静でいつもどおりなのだろうか……。
わたしをヨシヨシしながらヴィルさん達の様子を窺っている。
「おそらく呪符が原因です」
「じゅ、じゅふって、まさか、呪いのお札の呪符?」
「そうですね」
ヒイィィィッッ!!!!
ランドルフ邸は呪われたリアルお化け屋敷だ。
やめてやめて、ほんとにやめて。
アレンさんの嘘つき、全然だいじょばないっ。
うえぇぇぇんっ。
「こ、困りましたね……」
アレンさんはブルブルするわたしをフワリと両手で包むようにして、背中を優しくさすってくれた。
ふと窓の外を見ると、手入れの行き届いた庭の木々が強風に煽られている。どうやら、わたしが怖がると風が強くなるようだ。
これ以上コワイ思いをするとアレンさんのような風神様になりかねない。
「リア様、団長が我々を呼んでいます。行きましょう」
「い、いやです。行きたくないですっ……」
ひしと彼につかまった。
いくらヴィルさんがいるからって、呪いの絵の近くには行きたくない。
「大丈夫ですよ。皆いますから」
「うぅ……」
しぶしぶ手を引かれてヴィルさんのほうへ向かうと、絵画があった場所の下に黒い燃えカスのようなものがドッサリと落ちているのが見えた。
変なニオイが漂っている。
火事の後の焦げたニオイではなかった。腐った魚のような鼻を突く異臭だ。絵に近づけば近づくほど強くなり、むせかえるような腐臭がする。
「うっ……」
「リア様? 気分が悪いのですか?」
こんなお屋敷で暮らしていたら、ヴィルさんのお父様だって機嫌も悪くなるだろう。
「か、換気を……換気をして頂けないでしょうか」
ふと見回すと、わたし以外はケロッとしていた。
どうして皆さん何ともないのでしょう? わたしがニオイに敏感なだけ??
アレンさんがお願いしてくれて玄関のドアと窓を開けてもらえたので、少し息を整えてからヴィルさんのそばへ行った。
ヴィルさんは呪われた絵の前で次々と指示を出していた。
「魔導研究所へ行ってユミール・ヨンセンを呼んできてくれ。例の呪符が出たと伝えろ」
「かしこまりましたっ!」
「じい、この絵はいつからここにある? 入手経路は分かるか?」
「台帳を調べましょう。少々お待ち下さい」
「その前に使用人を全員サロンへ集めてくれ。屋敷全体を調べるので作業の邪魔をされたくない」
「承知致しました」
「水はもう片付けていい。火の心配はなさそうだ」
「はいっ!」
頑張ってヴィルさんっ。
わたしはアレンさんの後ろに半分隠れ、心の中で彼を応援した。
「リア、一緒に屋敷の中を見て回ってもらえるか」
「……はい?」
ヴィルさんが耳を疑うようなことを言った。
「そ……れは、チョット……」
イヤです(泣)
声が震えてショボショボに小さくなった。
スススッと横に移動し、八割くらいアレンさんの後ろに隠れた。
お断りしたいです。
この救急箱はオバケには効きません。
お家で静かにお帰りをお待ちしたいと思います。
「わたしは先に帰……」
「俺がそばにいる。アレンも一緒に頼む」
「分かりました」
わたしより先にアレンさんがOKしてしまった。
先程から彼はずーっと平常運転で、わたしが怖がるたびに、まるで何を怖がっているのかが分からないような様子で首を傾げていた。
「あ、あぅ、アレンさん……?」
「大丈夫ですよ、リア様。一緒に行きましょう?」
「ぅ……ぅ……」
うえぇぇんっっ。
アレンさんが分かってくれないぃ。
哀れリア様、何も悪いことをしていないのに、呪われたお化け屋敷で肝試しの刑である。
「クリス、じいと一緒に入手経路の確認を頼む」
「分かった。任せろ」
「あ、途中でこの屋敷からなくなっていた時期があるかどうかも調べてほしい。修繕とか、貸したとか」
「ん。リア様に負担を掛けるなよ」
「うん、分かっている」
分かっていない人ほど「分かってる」酔っている人ほど「酔ってない」と主張するのはなぜなのだろう。
はっきりと返事ができないわたしも悪いのだけど、もうちょっと救急箱を気づかってくれても良くないですか?
わたしは目を細め、遠くを見つめた。もう死んだと思って二人について行こう……。
広いお屋敷のすべての部屋を三人で練り歩くことになった。
道中、バスルーム前に飾ってあった小さな絵と、ダイニングにあった横長の大きな絵で、まったく同じポルターガイスト現象が発生。
怖すぎて悲鳴も出せず、口をパクパクしたり、顔を引きつらせたり、鼻をつまんでオエーっとなったり、意図せずして顔芸で忙しい肝試しツアーになってしまった。
もう顔面が崩壊するほど怖い&クサイっ。
「参考までに聞きたいのですが、リア様の国で呪いとはどういうものなのですか?」
ふいにアレンさんが聞いてきた。
「相手の髪を人形に入れて、釘をトントンするイメージが……」
「しかし魔法はないのですよね?」
「ないです」
「それは効くのですか? 釘を刺して『死ね』みたいな呪いですよね?」
「効かないと思います。単に恨みを体現して、相手に恐怖とかストレスとか不安を与えて思いどおりにしようという姑息な手法です。だから、実際にやる人はいないです」
「ははあ、なるほど。そういうことですか……」
アレンさんは何かをじっと深く考えているような様子だった。そして、しばらくすると「すぐに理解できなくてすみません」と言った。
わたしが見上げると、涼しい顔で「前に似たようなものを見たことがありますねぇ」と言った。
ど、どうしてこの人はこんな状況なのに冷静でいつもどおりなのだろうか……。
わたしをヨシヨシしながらヴィルさん達の様子を窺っている。
「おそらく呪符が原因です」
「じゅ、じゅふって、まさか、呪いのお札の呪符?」
「そうですね」
ヒイィィィッッ!!!!
ランドルフ邸は呪われたリアルお化け屋敷だ。
やめてやめて、ほんとにやめて。
アレンさんの嘘つき、全然だいじょばないっ。
うえぇぇぇんっ。
「こ、困りましたね……」
アレンさんはブルブルするわたしをフワリと両手で包むようにして、背中を優しくさすってくれた。
ふと窓の外を見ると、手入れの行き届いた庭の木々が強風に煽られている。どうやら、わたしが怖がると風が強くなるようだ。
これ以上コワイ思いをするとアレンさんのような風神様になりかねない。
「リア様、団長が我々を呼んでいます。行きましょう」
「い、いやです。行きたくないですっ……」
ひしと彼につかまった。
いくらヴィルさんがいるからって、呪いの絵の近くには行きたくない。
「大丈夫ですよ。皆いますから」
「うぅ……」
しぶしぶ手を引かれてヴィルさんのほうへ向かうと、絵画があった場所の下に黒い燃えカスのようなものがドッサリと落ちているのが見えた。
変なニオイが漂っている。
火事の後の焦げたニオイではなかった。腐った魚のような鼻を突く異臭だ。絵に近づけば近づくほど強くなり、むせかえるような腐臭がする。
「うっ……」
「リア様? 気分が悪いのですか?」
こんなお屋敷で暮らしていたら、ヴィルさんのお父様だって機嫌も悪くなるだろう。
「か、換気を……換気をして頂けないでしょうか」
ふと見回すと、わたし以外はケロッとしていた。
どうして皆さん何ともないのでしょう? わたしがニオイに敏感なだけ??
アレンさんがお願いしてくれて玄関のドアと窓を開けてもらえたので、少し息を整えてからヴィルさんのそばへ行った。
ヴィルさんは呪われた絵の前で次々と指示を出していた。
「魔導研究所へ行ってユミール・ヨンセンを呼んできてくれ。例の呪符が出たと伝えろ」
「かしこまりましたっ!」
「じい、この絵はいつからここにある? 入手経路は分かるか?」
「台帳を調べましょう。少々お待ち下さい」
「その前に使用人を全員サロンへ集めてくれ。屋敷全体を調べるので作業の邪魔をされたくない」
「承知致しました」
「水はもう片付けていい。火の心配はなさそうだ」
「はいっ!」
頑張ってヴィルさんっ。
わたしはアレンさんの後ろに半分隠れ、心の中で彼を応援した。
「リア、一緒に屋敷の中を見て回ってもらえるか」
「……はい?」
ヴィルさんが耳を疑うようなことを言った。
「そ……れは、チョット……」
イヤです(泣)
声が震えてショボショボに小さくなった。
スススッと横に移動し、八割くらいアレンさんの後ろに隠れた。
お断りしたいです。
この救急箱はオバケには効きません。
お家で静かにお帰りをお待ちしたいと思います。
「わたしは先に帰……」
「俺がそばにいる。アレンも一緒に頼む」
「分かりました」
わたしより先にアレンさんがOKしてしまった。
先程から彼はずーっと平常運転で、わたしが怖がるたびに、まるで何を怖がっているのかが分からないような様子で首を傾げていた。
「あ、あぅ、アレンさん……?」
「大丈夫ですよ、リア様。一緒に行きましょう?」
「ぅ……ぅ……」
うえぇぇんっっ。
アレンさんが分かってくれないぃ。
哀れリア様、何も悪いことをしていないのに、呪われたお化け屋敷で肝試しの刑である。
「クリス、じいと一緒に入手経路の確認を頼む」
「分かった。任せろ」
「あ、途中でこの屋敷からなくなっていた時期があるかどうかも調べてほしい。修繕とか、貸したとか」
「ん。リア様に負担を掛けるなよ」
「うん、分かっている」
分かっていない人ほど「分かってる」酔っている人ほど「酔ってない」と主張するのはなぜなのだろう。
はっきりと返事ができないわたしも悪いのだけど、もうちょっと救急箱を気づかってくれても良くないですか?
わたしは目を細め、遠くを見つめた。もう死んだと思って二人について行こう……。
広いお屋敷のすべての部屋を三人で練り歩くことになった。
道中、バスルーム前に飾ってあった小さな絵と、ダイニングにあった横長の大きな絵で、まったく同じポルターガイスト現象が発生。
怖すぎて悲鳴も出せず、口をパクパクしたり、顔を引きつらせたり、鼻をつまんでオエーっとなったり、意図せずして顔芸で忙しい肝試しツアーになってしまった。
もう顔面が崩壊するほど怖い&クサイっ。
「参考までに聞きたいのですが、リア様の国で呪いとはどういうものなのですか?」
ふいにアレンさんが聞いてきた。
「相手の髪を人形に入れて、釘をトントンするイメージが……」
「しかし魔法はないのですよね?」
「ないです」
「それは効くのですか? 釘を刺して『死ね』みたいな呪いですよね?」
「効かないと思います。単に恨みを体現して、相手に恐怖とかストレスとか不安を与えて思いどおりにしようという姑息な手法です。だから、実際にやる人はいないです」
「ははあ、なるほど。そういうことですか……」
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