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12-3(POV:ヴィル)
第279話:茶会計画
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「あれはいつかクリスにも食べてもらいたい。茶にも合うが珈琲にもピッタリだ。不思議なことに蒸留酒にも合う。彼女は天才だよ。美味すぎて止まらない」
俺がトリュフチョコレートについて力説していると、クリスは何か確信めいた顔をしていた。
「ヴィルは慣れてしまっているかも知れないが、リア様の菓子は現時点で門外不出だ。茶会で菓子を振る舞えば、あの朗らかな性格に加えて大きな武器になるぞ」
未知の菓子が出てくる茶会なら、客は用事を放り出してでもリアに会いに来るだろう。
彼女は茶と菓子に詳しい。
ゆっくりと優雅な立ち居振る舞いでテーブルでの行儀も完璧。茶を飲んでいるだけで絵になる可憐さだ。
普段から取り込んでいる情報量が多く、相手の話は熱心に聞くし、会話は話題を選ばない。
アレンの言葉を借りれば「そこら辺に落ちている石ころの話から、政治の話まで何でも来い」だ。
ふと婚約発表の日の晩餐会を思い出した。
彼女はあのカタブツ揚げ鶏クソジジイと、わずか二十分ほどで工場建設の話をまとめてしまった。
あの血の通っていないようなジジイが、笑みを浮かべて彼女に孫の話をしていた。
しかも、ベルソールを紹介した俺に宛てて感謝の手紙と揚げ鶏屋の無料券を大量に送ってくる変貌ぶり。
リアに言われてクリスにもだいぶ渡したが、それでも俺は向こう四年くらい揚げ鶏屋に金を払わず済みそうだ。
「菓子すらも必要ないかも知れない……」
「うん?」
「クリスの言うとおり、夫だけが味方ではない」
「そうだろう?」
「リアと話すことで化学変化を起こす奴がほかにもいる可能性がある。恩義を感じた貴族は彼女を裏切らない。茶会は名案だ。第二の揚げ鶏クソジジイを探そう」
「ヨークツリッヒ伯だろ……。お前もちゃんと仲良くしろよ?」
そう、俺も敵だと思っていた奴と、必然的に仲良くしなければならなくなった。
リアには言えないが、ちょっと複雑な気分だ。
「しかし、問題は場所だ」
「うん?」
「リアの宮殿に初対面の人間を入れるのは気が進まない」
「最初は別の場所でやればいい」
「外だと警備が大変だ」
「警備に加えて、親しい団員が交代で同席しろ。知り合いがいればリア様の負担も少なくて済む。騎士団員の前で悪さをやらかす奴はいない」
名案だった。
少人数の茶会にしておけば目が届きやすいし、リアも親しくなりやすいだろう。
「同じ場所に通い続けると狙われないか?」
「それならアチコチで開催すればいい」
「できるだろうか……」
「警備面で都合の良さそうな場所を挙げよう。俺の得意分野だ」
クリスは懐から手帳とペンを出し、王都内で小規模な茶会が安全に開催できそうな店の一覧を書き出した。
彼は仕事で外に出ることが多く、もともと社交的なため、こういった情報にはめっぽう詳しかった。
「一時間単位で個室を貸し切れる店が結構ある」
「なるほど」
「お前はこの一覧に書いてある場所を片っ端から部下に調査させて計画を作ればいい」
「ありがとう。恩に着る」
しばし二人で茶会の企画を練っていると、クリスが思い出したように言った。
「リア様は女性の友人を欲しがっていたな」
「それな。しかし、最初の友人候補になる令嬢がアレだ。今は難しいだろう」
本来ならばヒト族の筆頭貴族であるエルデン伯家の令嬢が最初の友人候補となり、そこからの紹介で人の輪を広げていくべきところだった。
ところが、その令嬢が不敬発言を繰り返し、一家もろとも王宮立ち入り禁止の仮処分を受けている有り様。
序列に変更がない今の状況で、格下の令嬢に話を持ちかけても遠慮して良い返事はしないだろう。逆に喜んでやってくるような令嬢は難ありだ。
「既婚者とか年上では駄目なのか?」
「性格によるかな」
「それなら天人族の侯爵家に嫁いだヒト族の夫人も茶会の対象者に入れられるだろう」
確かに、既婚者でもヨシとするなら幅が相当広がる。
「元々リア様は身分差別を好まない方だ」
「そう。こちらが制限をかけてやらないと、平民でも関係なく親しくなってしまう。使用人や珈琲店の店主親子、市場の店主あたりが良い例だ」
「そういうところは少し書記と似ている」
「いや、彼は目的を最優先する。何の目的もなく平民と親しくする男ではない。リアは目的関係なく誰とでも仲良くなる」
「ふむ。なるほど」
クリスは落ち着いた様子で落花生を口に放り込むと、グビリと喉を鳴らして茶を飲んだ。
「リア様はあらゆる人を招待して味方につけられる。苦労して夫を一人見つけるより楽そうだ」
「いや、夫は夫で必要だぞ?」
「分かった分かった」
「ちなみに、年配層も入れるのか?」
「ジジイに好かれるのは実証済みだ」と、俺は答えた。
「どこのジジイかは聞かないでおく……」
「そのジジイと実現性を検討してさらに内容を詰めることにするよ。頼んだらクリスも茶会に同席してくれるか?」
「もちろん。大歓迎だ」
「ありがとう」
俺達は固い握手を交わした。
俺がトリュフチョコレートについて力説していると、クリスは何か確信めいた顔をしていた。
「ヴィルは慣れてしまっているかも知れないが、リア様の菓子は現時点で門外不出だ。茶会で菓子を振る舞えば、あの朗らかな性格に加えて大きな武器になるぞ」
未知の菓子が出てくる茶会なら、客は用事を放り出してでもリアに会いに来るだろう。
彼女は茶と菓子に詳しい。
ゆっくりと優雅な立ち居振る舞いでテーブルでの行儀も完璧。茶を飲んでいるだけで絵になる可憐さだ。
普段から取り込んでいる情報量が多く、相手の話は熱心に聞くし、会話は話題を選ばない。
アレンの言葉を借りれば「そこら辺に落ちている石ころの話から、政治の話まで何でも来い」だ。
ふと婚約発表の日の晩餐会を思い出した。
彼女はあのカタブツ揚げ鶏クソジジイと、わずか二十分ほどで工場建設の話をまとめてしまった。
あの血の通っていないようなジジイが、笑みを浮かべて彼女に孫の話をしていた。
しかも、ベルソールを紹介した俺に宛てて感謝の手紙と揚げ鶏屋の無料券を大量に送ってくる変貌ぶり。
リアに言われてクリスにもだいぶ渡したが、それでも俺は向こう四年くらい揚げ鶏屋に金を払わず済みそうだ。
「菓子すらも必要ないかも知れない……」
「うん?」
「クリスの言うとおり、夫だけが味方ではない」
「そうだろう?」
「リアと話すことで化学変化を起こす奴がほかにもいる可能性がある。恩義を感じた貴族は彼女を裏切らない。茶会は名案だ。第二の揚げ鶏クソジジイを探そう」
「ヨークツリッヒ伯だろ……。お前もちゃんと仲良くしろよ?」
そう、俺も敵だと思っていた奴と、必然的に仲良くしなければならなくなった。
リアには言えないが、ちょっと複雑な気分だ。
「しかし、問題は場所だ」
「うん?」
「リアの宮殿に初対面の人間を入れるのは気が進まない」
「最初は別の場所でやればいい」
「外だと警備が大変だ」
「警備に加えて、親しい団員が交代で同席しろ。知り合いがいればリア様の負担も少なくて済む。騎士団員の前で悪さをやらかす奴はいない」
名案だった。
少人数の茶会にしておけば目が届きやすいし、リアも親しくなりやすいだろう。
「同じ場所に通い続けると狙われないか?」
「それならアチコチで開催すればいい」
「できるだろうか……」
「警備面で都合の良さそうな場所を挙げよう。俺の得意分野だ」
クリスは懐から手帳とペンを出し、王都内で小規模な茶会が安全に開催できそうな店の一覧を書き出した。
彼は仕事で外に出ることが多く、もともと社交的なため、こういった情報にはめっぽう詳しかった。
「一時間単位で個室を貸し切れる店が結構ある」
「なるほど」
「お前はこの一覧に書いてある場所を片っ端から部下に調査させて計画を作ればいい」
「ありがとう。恩に着る」
しばし二人で茶会の企画を練っていると、クリスが思い出したように言った。
「リア様は女性の友人を欲しがっていたな」
「それな。しかし、最初の友人候補になる令嬢がアレだ。今は難しいだろう」
本来ならばヒト族の筆頭貴族であるエルデン伯家の令嬢が最初の友人候補となり、そこからの紹介で人の輪を広げていくべきところだった。
ところが、その令嬢が不敬発言を繰り返し、一家もろとも王宮立ち入り禁止の仮処分を受けている有り様。
序列に変更がない今の状況で、格下の令嬢に話を持ちかけても遠慮して良い返事はしないだろう。逆に喜んでやってくるような令嬢は難ありだ。
「既婚者とか年上では駄目なのか?」
「性格によるかな」
「それなら天人族の侯爵家に嫁いだヒト族の夫人も茶会の対象者に入れられるだろう」
確かに、既婚者でもヨシとするなら幅が相当広がる。
「元々リア様は身分差別を好まない方だ」
「そう。こちらが制限をかけてやらないと、平民でも関係なく親しくなってしまう。使用人や珈琲店の店主親子、市場の店主あたりが良い例だ」
「そういうところは少し書記と似ている」
「いや、彼は目的を最優先する。何の目的もなく平民と親しくする男ではない。リアは目的関係なく誰とでも仲良くなる」
「ふむ。なるほど」
クリスは落ち着いた様子で落花生を口に放り込むと、グビリと喉を鳴らして茶を飲んだ。
「リア様はあらゆる人を招待して味方につけられる。苦労して夫を一人見つけるより楽そうだ」
「いや、夫は夫で必要だぞ?」
「分かった分かった」
「ちなみに、年配層も入れるのか?」
「ジジイに好かれるのは実証済みだ」と、俺は答えた。
「どこのジジイかは聞かないでおく……」
「そのジジイと実現性を検討してさらに内容を詰めることにするよ。頼んだらクリスも茶会に同席してくれるか?」
「もちろん。大歓迎だ」
「ありがとう」
俺達は固い握手を交わした。
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