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第十二章 重圧
第264話:寒い日には『オーデン』を
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ちくわ、こんにゃく、しらたき、はんぺん、つみれ、各種揚げ物……。あと、がんもどきも食べたいですねぇ。それからそれから……
お買い物メモを書き始めて気がついた。
「これ、どこで売っているのでしょう??」
売っていません。
「作る」一択です。
「ねえ、アレンさん? コンニャクってご存知ですか?」
「いいえ。コンニャクとは何ですか?」
「ううーん……。あれって、いったい何なのでしょうか」
「え? 俺に聞いています?」
「長年、何も考えずに当たり前のように食べていて……」
「食べ物ですか。世界が違えば名前も違う可能性が高いですよ。どういったものですか?」
「プリプリと柔らかくて弾力があり、やや透明感があります」
「ほう……ゼリーのような?」
「そうですね。でも、原材料はおイモなのです。そのままだと臭くて、味は無味に近くて」
「え? イモ? クサイ? 無味?」
「調理前の見た目は、灰色のブリンブリンしたレンガのような……」
「それ、本当に食べ物ですか? 今、レンガって言いましたよ?」
「なんていうか、唯一無二の食べ物という感じなのですよねぇ」
今思うとスゴイ食べ物だ。どうしておイモがあんなプリプリしたものになるのだろう。
こんにゃくが手に入らないのなら、自動的にしらたきも絶望的だ。
群馬県出身の同僚が「実家で作ったことあるよ」と言っていたので、材料とレシピがあれば作れるはず。しかし、その作り方がまるで分からないし、コンニャク芋を探すのも一苦労だろう。
「こんにゃく……」
「り、リア様っ? 大丈夫ですか?」
「せめて『異世界に連れていきます』と三か月くらい前に教えておいてくださったら、手に入らないものの作り方を調べてから来たのに。みそ田楽とかも食べたいのに……」
「ほかの大陸にはあるかも知れません。探させましょう。元気を出してください」
くすんくすん……
アレンさんはヘコむわたしをギュッとしてヨシヨシした(大胸筋・いい匂い・死ぬッ)
むむぅ、おでんは意外と難易度が高いかも知れません。
ほかの材料は?
つみれは作ったことがあるから大丈夫ですねぇ。
ちくわは棒がないと焼けないから今回は見合わせます。
がんもどき……? これは豆腐から作らないといけないから時間的にムリですね。
はんぺんと揚げ物系、これならどうにか作れるかも?
料理長と相談のうえでイワシとタラを手に入れ、まずはすり身を作った。
そこに砂糖や塩などで味付けをして、すりおろした山芋と卵白を入れて練り練りする。
「で、ここからが問題なのです、料理長」
「はい」
「はたして茹でるのか蒸すのか……」
「んー、形が崩れにくそうだという理由だけで言いますが、とりあえず蒸してみませんか。失敗は覚悟の上で」
「そうですねぇ」
調理法が分からないので挑戦あるのみ。
丸く成形して蒸してみたところ、これが思わぬラッキーパンチに。はんぺんらしき物になったのだ。もちろんスーパーで売っていた美しいクッションのようなはんぺんには敵わないけれども、こちらのも悪くない。
味見係のアレンさんが「西大陸で食べたムースのようです」と言って親指を立てた。
これに気を良くしてタラのすり身を増産し、イカ入り・タコ入り・野菜入りの三種類に展開。油で揚げて揚げ物系おでんダネが完成した。
なにぶん初めて作ったし、そもそも作り方が合っているのかどうかも分からないままだったけれども、おでんダネの雰囲気はバッチリ出ている。
ここで大事なのは雰囲気と味。
正しさを確認する手立てがない以上、そこに価値は求めないことにした。
出汁を取り、別の鍋で調理しておいた『ヴィルさん大根』に、たまご、ジャガイモ、腸詰めなどを入れれば立派なおでんだ。
料理長がお酢の効いたオルランディア風マスタードソースと味噌ダレを作ってくれた。
マスタードソースをつけて食べると、もともとこういうオルランディア料理があったかのような地元感が漂ってくるし、味噌ダレをつければ濁酒に合うおつまみ感が増した。
ちなみに、こちらでは発音の関係で呼び方が『オーデン』になってしまう。
若干、ゲームに出てくるモンスターのような響きではあるけれども、日本のおでんと区別して呼ぶのには良いかも知れない。
煮ている間にサーモンマリネやアボカドなどを乗せた『ちらし寿司』を作ってみた。これまたお酢が好きなオルランディア人にヒット。
最近リゾットを好んで食べているコメ男子のアレンさんはかなり気に入った様子だった。
イケメン達が濁酒で乾杯している様子はなかなかシュールだ。
小さな逆三角形のカクテルグラスを使っているせいかお洒落ドリンクに見える。
ヴィルさんは美味い美味いと濁酒を飲み、普段ほとんどお酒を飲まないアレンさんとフィデルさんは、ちらし寿司をおかわりしていた。
食後も上機嫌でおしゃべりが止まらなくなってしまったヴィルさんは、わたしの部屋に来て舶来物のお酒をチビチビやりながら機関銃のように早口でしゃべっていた。
ところが……
突然、彼の頭がカクンと下がり、ソファーに手がポトリと落ちた。
そして、こと切れたかのように動かなくなった。
「ヴィルさんッ!?」
具合が悪いのかと慌てて駆け寄ると、彼はスヨスヨ寝息を立てていた。
ビックリした……。
アレンさんに経緯を説明したところ、彼は慣れた感じでサッと浄化魔法をかけ、靴を脱がせてソファーに横にして寝かせるとタイを緩めた。
「こういう姿は気を許した相手にしか見せない人です」
「なんだか、介抱が手慣れているのは気のせいでしょうか……?」
「ふふ。こうしておけば朝まで起きません。部屋に運んでも良いですが、もし邪魔でなければこのまま寝かせておくのはいかがでしょう」
「そうですね。起こすのは可哀想なので」
従者のキースさんが掛け布団を運んできてくれたので、わたしは水差しにお水を用意してもらってテーブルに置いた。
アレンさんの言ったとおり、そばを人がパタパタ動き回っていても彼はピクリとも動かなかった。
しゃがんでじっと彼の寝顔を眺める。
あと一年も経たないうちに、毎晩この綺麗な寝顔が隣にあるのかと思うと、なんだか急にそわそわとした気持ちになった。
お買い物メモを書き始めて気がついた。
「これ、どこで売っているのでしょう??」
売っていません。
「作る」一択です。
「ねえ、アレンさん? コンニャクってご存知ですか?」
「いいえ。コンニャクとは何ですか?」
「ううーん……。あれって、いったい何なのでしょうか」
「え? 俺に聞いています?」
「長年、何も考えずに当たり前のように食べていて……」
「食べ物ですか。世界が違えば名前も違う可能性が高いですよ。どういったものですか?」
「プリプリと柔らかくて弾力があり、やや透明感があります」
「ほう……ゼリーのような?」
「そうですね。でも、原材料はおイモなのです。そのままだと臭くて、味は無味に近くて」
「え? イモ? クサイ? 無味?」
「調理前の見た目は、灰色のブリンブリンしたレンガのような……」
「それ、本当に食べ物ですか? 今、レンガって言いましたよ?」
「なんていうか、唯一無二の食べ物という感じなのですよねぇ」
今思うとスゴイ食べ物だ。どうしておイモがあんなプリプリしたものになるのだろう。
こんにゃくが手に入らないのなら、自動的にしらたきも絶望的だ。
群馬県出身の同僚が「実家で作ったことあるよ」と言っていたので、材料とレシピがあれば作れるはず。しかし、その作り方がまるで分からないし、コンニャク芋を探すのも一苦労だろう。
「こんにゃく……」
「り、リア様っ? 大丈夫ですか?」
「せめて『異世界に連れていきます』と三か月くらい前に教えておいてくださったら、手に入らないものの作り方を調べてから来たのに。みそ田楽とかも食べたいのに……」
「ほかの大陸にはあるかも知れません。探させましょう。元気を出してください」
くすんくすん……
アレンさんはヘコむわたしをギュッとしてヨシヨシした(大胸筋・いい匂い・死ぬッ)
むむぅ、おでんは意外と難易度が高いかも知れません。
ほかの材料は?
つみれは作ったことがあるから大丈夫ですねぇ。
ちくわは棒がないと焼けないから今回は見合わせます。
がんもどき……? これは豆腐から作らないといけないから時間的にムリですね。
はんぺんと揚げ物系、これならどうにか作れるかも?
料理長と相談のうえでイワシとタラを手に入れ、まずはすり身を作った。
そこに砂糖や塩などで味付けをして、すりおろした山芋と卵白を入れて練り練りする。
「で、ここからが問題なのです、料理長」
「はい」
「はたして茹でるのか蒸すのか……」
「んー、形が崩れにくそうだという理由だけで言いますが、とりあえず蒸してみませんか。失敗は覚悟の上で」
「そうですねぇ」
調理法が分からないので挑戦あるのみ。
丸く成形して蒸してみたところ、これが思わぬラッキーパンチに。はんぺんらしき物になったのだ。もちろんスーパーで売っていた美しいクッションのようなはんぺんには敵わないけれども、こちらのも悪くない。
味見係のアレンさんが「西大陸で食べたムースのようです」と言って親指を立てた。
これに気を良くしてタラのすり身を増産し、イカ入り・タコ入り・野菜入りの三種類に展開。油で揚げて揚げ物系おでんダネが完成した。
なにぶん初めて作ったし、そもそも作り方が合っているのかどうかも分からないままだったけれども、おでんダネの雰囲気はバッチリ出ている。
ここで大事なのは雰囲気と味。
正しさを確認する手立てがない以上、そこに価値は求めないことにした。
出汁を取り、別の鍋で調理しておいた『ヴィルさん大根』に、たまご、ジャガイモ、腸詰めなどを入れれば立派なおでんだ。
料理長がお酢の効いたオルランディア風マスタードソースと味噌ダレを作ってくれた。
マスタードソースをつけて食べると、もともとこういうオルランディア料理があったかのような地元感が漂ってくるし、味噌ダレをつければ濁酒に合うおつまみ感が増した。
ちなみに、こちらでは発音の関係で呼び方が『オーデン』になってしまう。
若干、ゲームに出てくるモンスターのような響きではあるけれども、日本のおでんと区別して呼ぶのには良いかも知れない。
煮ている間にサーモンマリネやアボカドなどを乗せた『ちらし寿司』を作ってみた。これまたお酢が好きなオルランディア人にヒット。
最近リゾットを好んで食べているコメ男子のアレンさんはかなり気に入った様子だった。
イケメン達が濁酒で乾杯している様子はなかなかシュールだ。
小さな逆三角形のカクテルグラスを使っているせいかお洒落ドリンクに見える。
ヴィルさんは美味い美味いと濁酒を飲み、普段ほとんどお酒を飲まないアレンさんとフィデルさんは、ちらし寿司をおかわりしていた。
食後も上機嫌でおしゃべりが止まらなくなってしまったヴィルさんは、わたしの部屋に来て舶来物のお酒をチビチビやりながら機関銃のように早口でしゃべっていた。
ところが……
突然、彼の頭がカクンと下がり、ソファーに手がポトリと落ちた。
そして、こと切れたかのように動かなくなった。
「ヴィルさんッ!?」
具合が悪いのかと慌てて駆け寄ると、彼はスヨスヨ寝息を立てていた。
ビックリした……。
アレンさんに経緯を説明したところ、彼は慣れた感じでサッと浄化魔法をかけ、靴を脱がせてソファーに横にして寝かせるとタイを緩めた。
「こういう姿は気を許した相手にしか見せない人です」
「なんだか、介抱が手慣れているのは気のせいでしょうか……?」
「ふふ。こうしておけば朝まで起きません。部屋に運んでも良いですが、もし邪魔でなければこのまま寝かせておくのはいかがでしょう」
「そうですね。起こすのは可哀想なので」
従者のキースさんが掛け布団を運んできてくれたので、わたしは水差しにお水を用意してもらってテーブルに置いた。
アレンさんの言ったとおり、そばを人がパタパタ動き回っていても彼はピクリとも動かなかった。
しゃがんでじっと彼の寝顔を眺める。
あと一年も経たないうちに、毎晩この綺麗な寝顔が隣にあるのかと思うと、なんだか急にそわそわとした気持ちになった。
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