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第十一章 婚約発表
第246話:アレンさんが耳元で囁いてきます
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晩餐会が終了すると、オジサマ達と一緒にぞろぞろ歩いて舞踏会会場へ移動した。
皆さんは序列の低い順に入場していく。
わたし達は陛下が呼び込んだら入ることになっているので、それまでは控え室でマッタリタイムだ。
扉の隙間からチラリと会場の中を覗いてみた。
しょえぇぇぇ!
腰を抜かしそうになった。
語彙力がバコーンと崩壊しそうなほど、広くて人がいっぱい……。
それに、思っていた豪華よりも上を行く豪華がここにある。
陛下の財力はちょっとおかしい。
「リアが来て以来、馬鹿みたいに儲かっている」と言っていたけれど、もっと前から儲かりまくっているとしか思えない。
そもそもこの一連のイベント、一体どのくらいの予算がかかっているのだろう。
狭い隙間から見える範囲をキョロキョロ覗き見ていると、ベルソール商会のセレクトショップが撤収作業をしていた。
「ほ、本当にこんな所で踊るのですか……?」
「そう。凄く広い会場だろう? 広々踊れていいと思う」
いや、いや、いや。
広々とか、そういう次元じゃないと思うの。
「ムリです。しんじゃう。もう発表しなくてもいいかなって思……」
「大丈夫。ほら、深呼吸をしてごらん」
深呼吸ですね。
落ち着かないと……。
スーハー、スーーハーーー……
「どう?」
「──ぜんぜん落ち着きませんっ」
それどころか余計に緊張してきました。
やっぱり無理です。
わたしなんかに、わたしなんかに、こんなのできるわけない。
だめだ、逃げよう。
「うわぁぁんっ」
「こら、逃げるな。アレン、小リスを捕まえろ! すばしこいぞ」
「押し通るぅーっ」
「ふはっ! なんだあの可愛い生き物は! 早く捕まえてくれ。踊る前に腹筋がやられる!」
逃げようとするわたしをアレンさんが笑いながら捕まえに来た。
「リア様、観念してください」
「しんじゃうっ、しんじゃうぅ~っ」
「死なないから大丈夫ですよ」
「いじわるしないで、どいてー」
「逃げても隠れられるところなんかないですよ?」
わたしとアレンさんがフェイントの掛け合いをしてちょこまかちょこまかやっているのを、ヴィルさんは護衛の皆と爆笑しながら見ていた。
もちろん本気で逃げようというわけではなく、静かな場所で少し落ち着きたかっただけで……。
「うわあぁん、やだやだやだぁー」
「はははっ、悪い子はこうです」
「きゃんっ」
「捕まえた」
彼の長い腕が伸びてきてすぐに捕まってしまった。
「いい子にしてください?」
「うう……あんなにたくさん人がいるなんて」
「よしよし。深呼吸しましょう?」
「うぅ~~心臓がぁ」
「大丈夫大丈夫」
スー、ハーー
スゥゥーー、ハァァーーー……
くすん……。いくら深呼吸をしても心臓がぴょっこんぴょっこんと跳ねていた。
逃げ出さないようにしたいのは分かるのだけど、派手派手ブルーのお貴族様スーツでノーメガネという刺激的な(?)出で立ちのアレンさんに、抱っこされて・ギュッとされて・ヨシヨシされて、挙げ句の果てにはバックハグ(拘束?)されているため、余分なバクバクが上乗せされている。
深呼吸するたびに彼の香水のいい香りを吸い込んで死にそうになるので余計に危ない。
スモーキーグリーンのキンキラ貴族スーツに身を包んだヴィルさんは、死にそうなわたしをクスクスと笑いながら見下ろしていた。
「もー、何が面白いのですか~っ」
「いやいや、リアの見事な陽動を間近で見られて俺は満足だよ。今日はいい日だ。な、アレン?」
ふてくされるわたしとは対照的に、ヴィルさんは超ご機嫌だ。
「あの桃色の靴でないとキレがないですね」
アレンさんが後ろで言った。
それはそうだろう。わたしのペッタンコ靴は素早く動くために作られたゴム底シューズだ。彼にはまだ見せていないけれども、実は色とデザインを変えて何足か別バージョンを作ってもらったばかりだ。
次は負けぬっ。
頬を膨らませてスネていると、「今度あの靴でもう一度勝負しましょうね?」と、彼が耳元でコソッと言った。
ひやあぁぁぁ、耳ぃ~ッ!
耳がぁ~!(激ヨワ)
本番直前に落ち着かせるどころか動揺させてくるアレンさんである。
「あのぅ、変なところはないですか? ドレスとかお飾りとか」
「ん? どこから見ても女神ですよ?」
またアレンさんが耳元でぽそっと言った。
ぞわぞわする。
なんかもう怖い。
だって婚約者の前でこんなことをされているのに、誰も怒らない。いや怒らないどころか生温かくニコニコして見守られている。
前の世界なら大炎上する場面なのに……。
「へ、変な顔してないですか? まゆげが変とか口が曲がってるとか鼻が上を向いているとか」
「食べてしまいたくらい可愛いですよ?」
し、し、死ぬっ。
ヴィルさん、助けて。
アレンさんが無自覚にわたしを殺そうとしています。
「ヴィ、ヴィルさんっ」
婚約者に助けを求めた。
「うん? 世界中に自慢したいほど綺麗だよ」
ひ~~んっ、そうじゃないぃぃ。
この後ろでキラキラしている人から助けてほしいのに。
違うのですよ、お二人ともっ。
これからわたし、人前で初めて踊るのですよ?
しかも、こんな大きな会場で。
もうちょっとこう……わたしが落ち着けるような雰囲気づくりとか、そういうのをですね……
「神薙様、そろそろご準備をお願い致します」
催し物を仕切らせたら右に出る者なし『時間を極めた男』ことザマンさんが出番を知らせてくれた。
「は、はわ~~っ。も、もうだめですぅ~~っっ」
ジタバタしていると、またアレンさんにギュッとしてヨシヨシされた。
「大丈夫ですよ」
「全然だいじょばないです」
「リア様」
「ひ~~ん……っ」
「たくさん練習したでしょう?」
「ハイ」
「リア様は凄く頑張りました」
「はい……それはもう……」
「だから大丈夫です」
「そうだぞ、リア」と、ヴィルさんが言った。
「さっきの晩餐会のほうがよほど大変なのだぞ? いいか、ヨークツリッヒ伯は、俺のことをあまり良く思っていない面倒くさい爺様だったのだ。リアが上手くやってくれたおかげで和やかに食事ができた。あの人を味方にできたら俺の人生が変わるかも知れない。そんなことに比べたらダンスなんて些細なことだぞ? たったの三分じゃないか。拍子抜けするほど短い。失敗したってどうとでもできる」
またヴィルさんが早口で言った。
アレンさんはわたしの耳元でこそっと「我々がダンスを習うとき、女性の失敗を誤魔化す方法も習うのですよ。だから大丈夫」と囁いた。
「ここまで来たら楽しむぞ。周りが怖いなら俺だけを見ていればいい」
ヴィルさんはドーンと胸を叩いた。
うう……それもそうですねぇ。
周りを見なければ練習と一緒ですし、もうこうなったらアホみたいにヴィルさんだけ見ていようかな……。
皆さんは序列の低い順に入場していく。
わたし達は陛下が呼び込んだら入ることになっているので、それまでは控え室でマッタリタイムだ。
扉の隙間からチラリと会場の中を覗いてみた。
しょえぇぇぇ!
腰を抜かしそうになった。
語彙力がバコーンと崩壊しそうなほど、広くて人がいっぱい……。
それに、思っていた豪華よりも上を行く豪華がここにある。
陛下の財力はちょっとおかしい。
「リアが来て以来、馬鹿みたいに儲かっている」と言っていたけれど、もっと前から儲かりまくっているとしか思えない。
そもそもこの一連のイベント、一体どのくらいの予算がかかっているのだろう。
狭い隙間から見える範囲をキョロキョロ覗き見ていると、ベルソール商会のセレクトショップが撤収作業をしていた。
「ほ、本当にこんな所で踊るのですか……?」
「そう。凄く広い会場だろう? 広々踊れていいと思う」
いや、いや、いや。
広々とか、そういう次元じゃないと思うの。
「ムリです。しんじゃう。もう発表しなくてもいいかなって思……」
「大丈夫。ほら、深呼吸をしてごらん」
深呼吸ですね。
落ち着かないと……。
スーハー、スーーハーーー……
「どう?」
「──ぜんぜん落ち着きませんっ」
それどころか余計に緊張してきました。
やっぱり無理です。
わたしなんかに、わたしなんかに、こんなのできるわけない。
だめだ、逃げよう。
「うわぁぁんっ」
「こら、逃げるな。アレン、小リスを捕まえろ! すばしこいぞ」
「押し通るぅーっ」
「ふはっ! なんだあの可愛い生き物は! 早く捕まえてくれ。踊る前に腹筋がやられる!」
逃げようとするわたしをアレンさんが笑いながら捕まえに来た。
「リア様、観念してください」
「しんじゃうっ、しんじゃうぅ~っ」
「死なないから大丈夫ですよ」
「いじわるしないで、どいてー」
「逃げても隠れられるところなんかないですよ?」
わたしとアレンさんがフェイントの掛け合いをしてちょこまかちょこまかやっているのを、ヴィルさんは護衛の皆と爆笑しながら見ていた。
もちろん本気で逃げようというわけではなく、静かな場所で少し落ち着きたかっただけで……。
「うわあぁん、やだやだやだぁー」
「はははっ、悪い子はこうです」
「きゃんっ」
「捕まえた」
彼の長い腕が伸びてきてすぐに捕まってしまった。
「いい子にしてください?」
「うう……あんなにたくさん人がいるなんて」
「よしよし。深呼吸しましょう?」
「うぅ~~心臓がぁ」
「大丈夫大丈夫」
スー、ハーー
スゥゥーー、ハァァーーー……
くすん……。いくら深呼吸をしても心臓がぴょっこんぴょっこんと跳ねていた。
逃げ出さないようにしたいのは分かるのだけど、派手派手ブルーのお貴族様スーツでノーメガネという刺激的な(?)出で立ちのアレンさんに、抱っこされて・ギュッとされて・ヨシヨシされて、挙げ句の果てにはバックハグ(拘束?)されているため、余分なバクバクが上乗せされている。
深呼吸するたびに彼の香水のいい香りを吸い込んで死にそうになるので余計に危ない。
スモーキーグリーンのキンキラ貴族スーツに身を包んだヴィルさんは、死にそうなわたしをクスクスと笑いながら見下ろしていた。
「もー、何が面白いのですか~っ」
「いやいや、リアの見事な陽動を間近で見られて俺は満足だよ。今日はいい日だ。な、アレン?」
ふてくされるわたしとは対照的に、ヴィルさんは超ご機嫌だ。
「あの桃色の靴でないとキレがないですね」
アレンさんが後ろで言った。
それはそうだろう。わたしのペッタンコ靴は素早く動くために作られたゴム底シューズだ。彼にはまだ見せていないけれども、実は色とデザインを変えて何足か別バージョンを作ってもらったばかりだ。
次は負けぬっ。
頬を膨らませてスネていると、「今度あの靴でもう一度勝負しましょうね?」と、彼が耳元でコソッと言った。
ひやあぁぁぁ、耳ぃ~ッ!
耳がぁ~!(激ヨワ)
本番直前に落ち着かせるどころか動揺させてくるアレンさんである。
「あのぅ、変なところはないですか? ドレスとかお飾りとか」
「ん? どこから見ても女神ですよ?」
またアレンさんが耳元でぽそっと言った。
ぞわぞわする。
なんかもう怖い。
だって婚約者の前でこんなことをされているのに、誰も怒らない。いや怒らないどころか生温かくニコニコして見守られている。
前の世界なら大炎上する場面なのに……。
「へ、変な顔してないですか? まゆげが変とか口が曲がってるとか鼻が上を向いているとか」
「食べてしまいたくらい可愛いですよ?」
し、し、死ぬっ。
ヴィルさん、助けて。
アレンさんが無自覚にわたしを殺そうとしています。
「ヴィ、ヴィルさんっ」
婚約者に助けを求めた。
「うん? 世界中に自慢したいほど綺麗だよ」
ひ~~んっ、そうじゃないぃぃ。
この後ろでキラキラしている人から助けてほしいのに。
違うのですよ、お二人ともっ。
これからわたし、人前で初めて踊るのですよ?
しかも、こんな大きな会場で。
もうちょっとこう……わたしが落ち着けるような雰囲気づくりとか、そういうのをですね……
「神薙様、そろそろご準備をお願い致します」
催し物を仕切らせたら右に出る者なし『時間を極めた男』ことザマンさんが出番を知らせてくれた。
「は、はわ~~っ。も、もうだめですぅ~~っっ」
ジタバタしていると、またアレンさんにギュッとしてヨシヨシされた。
「大丈夫ですよ」
「全然だいじょばないです」
「リア様」
「ひ~~ん……っ」
「たくさん練習したでしょう?」
「ハイ」
「リア様は凄く頑張りました」
「はい……それはもう……」
「だから大丈夫です」
「そうだぞ、リア」と、ヴィルさんが言った。
「さっきの晩餐会のほうがよほど大変なのだぞ? いいか、ヨークツリッヒ伯は、俺のことをあまり良く思っていない面倒くさい爺様だったのだ。リアが上手くやってくれたおかげで和やかに食事ができた。あの人を味方にできたら俺の人生が変わるかも知れない。そんなことに比べたらダンスなんて些細なことだぞ? たったの三分じゃないか。拍子抜けするほど短い。失敗したってどうとでもできる」
またヴィルさんが早口で言った。
アレンさんはわたしの耳元でこそっと「我々がダンスを習うとき、女性の失敗を誤魔化す方法も習うのですよ。だから大丈夫」と囁いた。
「ここまで来たら楽しむぞ。周りが怖いなら俺だけを見ていればいい」
ヴィルさんはドーンと胸を叩いた。
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