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10-5 POV:リア
第227話:正解は何だったのでしょう?
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わたしが「魔法を習いたい」と言ったとき、ヴィルさんは一体どんな気持ちだったのだろう。
まさか「結婚まで清い身で」という話までこの件に関係していたなんて……。
それさえなければ、わたし達はとっくに深い仲になっていて、「魔法を習いたい」と言っても彼が困ったり怒ったりする必要はなかった。
プラトニックなまま魔法を習うということは、つまりわたしが死に向かっていくことと同じだ。だから彼は当然のように止めようとした。
なぜダメなのか理由を聞かれても、周りにたくさん人がいて答えにくい。いずれ話すつもりだったにせよ、あの状況では言いたくなかったはず。
フィデルさんが「アレンの命と何を天秤にかけているのか」と怒っていたのは、ヴィルさんの「今は言いたくない」という気持ちを察したからだ。
そうかと言って、あの時の彼に「正解」となる振る舞いはあったのだろうか。
わたしは彼になったつもりで返事を考えていた。
「ヴィルさん、わたし魔法を習いたいの」
「よし、じゃあエッチしよう」
……うん、急すぎてムリ(汗)
これが小説なら全読者が置いてけぼりポカーンだ。
「なんでこんなことになってるの?」から始まるTL漫画の一頁目にありがちな展開で引いてしまう。
やはり説明をするプロセスは必要ですし大事ですよね……。
「魔法はダメだ!」
「なんでダメなの?」
「リアは魔力を回復できない」
「なんでなんで?」
「俺とエッチしてないから」
「じゃあしましょう」
ノォォォ、わたしアタマ大丈夫ですか?
お昼食べました? いいえ、まだです。それならご一緒しませんか? みたいなノリで何の話をしているのでしょうか。
動揺しているせいか頭がネロネロして全然良いアイディアが出てこない。
しかし、考えれば考えるほど、彼の「結婚まで清い身」宣言はフラグだった。わたし達はご丁寧に大ゲンカの布石を打っていたようなものだ。
それさえなければ、もう少し柔軟に対応できたかもしれない。
もしも彼が早い段階で魔素についての説明をしてくれていたなら、「ちょっと今は清い身とか言っている場合じゃないよね」という相談ができた。
あの場で「魔法を習おう」「だからもう一線越えましょう」と決断できれば良かったのだ。
いや、テンパった彼が大声を張り上げてダメだダメだと言い出した時点で、わたしは人を払って二人きりで話をすべきだったのかも知れない。
二人きりなら彼も説明ができたし、説明さえ聞いていればきちんと相談ができた。
しくしくしく……もう何もかもが後の祭りですねぇ。
「リア様、大丈夫ですか?」
「わたし、知らないとは言え、ヴィルさんにひどいことを……」
「ご自身を責めないで下さい。この件に関して、彼はかなり複雑な立場にあります。仮に魔法を許可できたとしても、リア様がここから避難しないことまで許可することはできなかったはずです」
「そうですよね。彼はヘルグリン病が死の病だと信じ込んでいましたし……」
「彼も自分を責めていましたが、私から見れば誰も悪くありません。幸いなことに、すべては最善の方向へと進んでいます。お二人とも前だけを見て進めば良いのですよ」
色々考えすぎてしまって、講義が終わった頃には頭から湯気が出ていた。
アレンさんのところへ行って癒してもらおうと、お茶セットを用意して様子を見にいった。
調子が上がってきたのか、彼は寝室を出てセッセとストレッチをしていた。一週間も寝たきり生活だったので、かなり足腰にこたえているようだ。
「おや、白い神薙はやめたのですか?」と彼が言った。
「菌がいなくなったら割烹服を取り上げられてしまって、強制的に卒業させられてしまいました」
割烹ドレスは動きやすくて、汚れてもガシガシ洗えるところが気に入っていた。
しかし、「お料理するときに着ようかなぁ」と眺めていたら、なぜか侍女長が血相を変えて「こここここれは平民の服なので有事の時だけにしてくださいませっ」と、奪うようにどこかへ持ち去って隠してしまったのだ。
洗い替えにたくさん買ってもらったのに、一着も見つからない。影も形もなくなってしまった。
アレンさんも侍女長に賛成のようだ。
クスクス笑いながらおなかに優しいハーブティーに手を伸ばし、ゆっくりと味わうように飲むと、「俺はあなたの平民服姿も大好きなのですが」と前置きして言った。
「全身真っ白の時は本当に誰だか分からなかったですよ。目がまともに開かなかったせいもありますけど」
彼はずっとわたしを認識できず、お金で雇われた見知らぬ人が看病に来ていると思い込んでいたらしい。
名前も分からず、心の中で『白い女』と呼んでいたことを白状したものだから二人で大笑いした。
「そう言えば、くまんつ様がお魚を届けて下さいましたよ。マスの一種らしいです」
「もしや、白銀で長ったらしい名前のマスですか?」
「そう。オルランディアなんちゃらホニャララ……ヒラヒラフリフリなんとかマス?」
「それそれ。あれは塩焼きにするだけでも最高に美味ですよ。バター焼きもいい」
「料理長もそう言っていました。今日は香草をまぶしてバター焼きにするそうです。楽しみですね~」
「いいですね。先輩達にお礼を考えなくては」
「異世界料理の差し入れを渡しておきました。アレンさんの分もありますよ」
「……たまには病気もいいですね。皆に優しくしてもらえる」
「ふふふ。あと二~三日は病人の特権を使えると思いますよ?」
お喋りをしながら治癒魔法をかけ、フゥと息をついた。
彼は軽く屈伸運動をして、さっきよりも楽になっている、と嬉しそうだった。
「明日から魔法はしばらくお休みになります」
ソファーに隣り合って座り、お茶を飲みながら伝えた。
「魔力残量が少ないのですか?」
「はい。わたし、魔力操作がすごく下手で練習中に大量消費してしまって……しかも、神薙は回復が難しいと」
「魔素のこと、ヨンセン卿から聞いたのですか?」
「はい、ついさっき……。今、どうしたらいいのか分からなくなっちゃっています。でも、ヴィルさんをすごく困らせてしまったのだなぁと思って」
しょぼんと俯くと、彼はわたしの頭をヨシヨシしながら「明日、一緒に団長を迎えに行きましょう」と言ってくれた。
まさか「結婚まで清い身で」という話までこの件に関係していたなんて……。
それさえなければ、わたし達はとっくに深い仲になっていて、「魔法を習いたい」と言っても彼が困ったり怒ったりする必要はなかった。
プラトニックなまま魔法を習うということは、つまりわたしが死に向かっていくことと同じだ。だから彼は当然のように止めようとした。
なぜダメなのか理由を聞かれても、周りにたくさん人がいて答えにくい。いずれ話すつもりだったにせよ、あの状況では言いたくなかったはず。
フィデルさんが「アレンの命と何を天秤にかけているのか」と怒っていたのは、ヴィルさんの「今は言いたくない」という気持ちを察したからだ。
そうかと言って、あの時の彼に「正解」となる振る舞いはあったのだろうか。
わたしは彼になったつもりで返事を考えていた。
「ヴィルさん、わたし魔法を習いたいの」
「よし、じゃあエッチしよう」
……うん、急すぎてムリ(汗)
これが小説なら全読者が置いてけぼりポカーンだ。
「なんでこんなことになってるの?」から始まるTL漫画の一頁目にありがちな展開で引いてしまう。
やはり説明をするプロセスは必要ですし大事ですよね……。
「魔法はダメだ!」
「なんでダメなの?」
「リアは魔力を回復できない」
「なんでなんで?」
「俺とエッチしてないから」
「じゃあしましょう」
ノォォォ、わたしアタマ大丈夫ですか?
お昼食べました? いいえ、まだです。それならご一緒しませんか? みたいなノリで何の話をしているのでしょうか。
動揺しているせいか頭がネロネロして全然良いアイディアが出てこない。
しかし、考えれば考えるほど、彼の「結婚まで清い身」宣言はフラグだった。わたし達はご丁寧に大ゲンカの布石を打っていたようなものだ。
それさえなければ、もう少し柔軟に対応できたかもしれない。
もしも彼が早い段階で魔素についての説明をしてくれていたなら、「ちょっと今は清い身とか言っている場合じゃないよね」という相談ができた。
あの場で「魔法を習おう」「だからもう一線越えましょう」と決断できれば良かったのだ。
いや、テンパった彼が大声を張り上げてダメだダメだと言い出した時点で、わたしは人を払って二人きりで話をすべきだったのかも知れない。
二人きりなら彼も説明ができたし、説明さえ聞いていればきちんと相談ができた。
しくしくしく……もう何もかもが後の祭りですねぇ。
「リア様、大丈夫ですか?」
「わたし、知らないとは言え、ヴィルさんにひどいことを……」
「ご自身を責めないで下さい。この件に関して、彼はかなり複雑な立場にあります。仮に魔法を許可できたとしても、リア様がここから避難しないことまで許可することはできなかったはずです」
「そうですよね。彼はヘルグリン病が死の病だと信じ込んでいましたし……」
「彼も自分を責めていましたが、私から見れば誰も悪くありません。幸いなことに、すべては最善の方向へと進んでいます。お二人とも前だけを見て進めば良いのですよ」
色々考えすぎてしまって、講義が終わった頃には頭から湯気が出ていた。
アレンさんのところへ行って癒してもらおうと、お茶セットを用意して様子を見にいった。
調子が上がってきたのか、彼は寝室を出てセッセとストレッチをしていた。一週間も寝たきり生活だったので、かなり足腰にこたえているようだ。
「おや、白い神薙はやめたのですか?」と彼が言った。
「菌がいなくなったら割烹服を取り上げられてしまって、強制的に卒業させられてしまいました」
割烹ドレスは動きやすくて、汚れてもガシガシ洗えるところが気に入っていた。
しかし、「お料理するときに着ようかなぁ」と眺めていたら、なぜか侍女長が血相を変えて「こここここれは平民の服なので有事の時だけにしてくださいませっ」と、奪うようにどこかへ持ち去って隠してしまったのだ。
洗い替えにたくさん買ってもらったのに、一着も見つからない。影も形もなくなってしまった。
アレンさんも侍女長に賛成のようだ。
クスクス笑いながらおなかに優しいハーブティーに手を伸ばし、ゆっくりと味わうように飲むと、「俺はあなたの平民服姿も大好きなのですが」と前置きして言った。
「全身真っ白の時は本当に誰だか分からなかったですよ。目がまともに開かなかったせいもありますけど」
彼はずっとわたしを認識できず、お金で雇われた見知らぬ人が看病に来ていると思い込んでいたらしい。
名前も分からず、心の中で『白い女』と呼んでいたことを白状したものだから二人で大笑いした。
「そう言えば、くまんつ様がお魚を届けて下さいましたよ。マスの一種らしいです」
「もしや、白銀で長ったらしい名前のマスですか?」
「そう。オルランディアなんちゃらホニャララ……ヒラヒラフリフリなんとかマス?」
「それそれ。あれは塩焼きにするだけでも最高に美味ですよ。バター焼きもいい」
「料理長もそう言っていました。今日は香草をまぶしてバター焼きにするそうです。楽しみですね~」
「いいですね。先輩達にお礼を考えなくては」
「異世界料理の差し入れを渡しておきました。アレンさんの分もありますよ」
「……たまには病気もいいですね。皆に優しくしてもらえる」
「ふふふ。あと二~三日は病人の特権を使えると思いますよ?」
お喋りをしながら治癒魔法をかけ、フゥと息をついた。
彼は軽く屈伸運動をして、さっきよりも楽になっている、と嬉しそうだった。
「明日から魔法はしばらくお休みになります」
ソファーに隣り合って座り、お茶を飲みながら伝えた。
「魔力残量が少ないのですか?」
「はい。わたし、魔力操作がすごく下手で練習中に大量消費してしまって……しかも、神薙は回復が難しいと」
「魔素のこと、ヨンセン卿から聞いたのですか?」
「はい、ついさっき……。今、どうしたらいいのか分からなくなっちゃっています。でも、ヴィルさんをすごく困らせてしまったのだなぁと思って」
しょぼんと俯くと、彼はわたしの頭をヨシヨシしながら「明日、一緒に団長を迎えに行きましょう」と言ってくれた。
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