上 下
232 / 352
10-5 POV:リア

第226話:神薙様の魔力を回復させる方法とは

しおりを挟む
「これがリア様の魔力量の推移です」

 わたしの魔力残量がグラフ化された資料を見ると、右肩下がりで消費する一方であることが分かった。
 先生が書いたと思われる『魔素を取り込む効率も低い可能性大』という小さな字のコメントが、得も言われぬ哀しみを添えていた。

 魔力操作がヘタクソだという自覚はある。
 さすがにここまで下手だと魔力も空になりやすいはずだし、自分の手ごたえとしてもバゴン!と暴発している感があるのだ。だから減りが早いのは仕方ない。
 でも、まさか肉体の機能面まで劣っているなんて想定外だった。
 稀代の神薙と名高いリア様は、哀しいことに救いようのないポンコツボディーだったのだ。

 でも……、いいのです。
 だって、アレンさんを助けるという最大の目的は果たせたのですもの。
 魔法には人一倍興味はあるけれども、こればかりは仕方がないです。
 ご縁がなかったのですねぇ……くすん。
 
「魔力の倉庫が大きいので、今はその貯蓄で食いつないでいる状態です。しかし、このままずっと魔法を使い続けるのは危険ですので、本日夕方の治癒魔法を最後としましょう。一旦使うのをお休みして回復期に入ってください」
「ハイ……わかりました」

 もともと先生からは「魔力残量に限界が来た時点で魔法は使用禁止にする。そのときは諦めるように」と言われていた。
 アレンさんが回復してくれたおかげで安心して充電期間に入れる。

 目標とする魔力量に達するまでの間は基本的に魔法は使わない。しかし緊急時に限っては、「浄化魔法なら二回、治癒魔法なら一回」を上限として使っても良いと言われた。
 そこで暴発させた場合、軽く体調を崩す可能性がある。でも、余裕を持って止めているので命に別状はないらしい。
 自分でもこまめに残量を測り、記録を付けていくことにした。

「わたしの場合、たくさん寝ても魔力は回復しないのですよね?」
「ええ。リア様の場合、摂取する魔素は使い捨てに近いのです。飲食で摂取してから排出されるまでの間に偶然睡眠を取っていたならば、多少は回復量が多いかも知れません。しかし、その差はわずかなものだと思います」
「ほむ……。食べてすぐに寝たらウシさんになっちゃいますしねぇ」

 魔力を早く回復させたいからと言って、食っちゃ寝・食っちゃ寝をしていたら、別の病気で早死にしそう。

「リア様、不便はご結婚までの間だけです。いずれ好きなだけ魔法を使えるようになりますよ」

 へぇー、そうなのですかー。
 ……と思った直後、何かが引っ掛かった。

「ん? どうして結婚まで?」

 わたしのポンコツ構造が結婚した途端優秀になるわけがない。
 以前、同僚男子が「人妻って独身にはない魔力を感じるよな」と言っていたけれども、あれは全然意味の違う魔力だろう。

 しかし、ここは異世界。
 結婚式で何かの儀式をすると、人妻にしかない魔力がタップリ得られたりするのかも知れない。
 もしやこれは期待をしても良い話でしょうか? わたしも人妻の魔力を持てるのでしょうか??

「実はそれが本日の主題になります。これからお話しすることは、本来ならヴィルがご説明する予定でした。こういった事態は彼としても想定外で、後回しになってしまったそうです。私からのご説明になることをお許し下さい」

 先生は申し訳なさそうに言った。

「神薙には、劇的に魔力を回復させる方法が一つあります。その方法ならば簡単に全回復状態まで持っていけます。それは外から魔素を注入する方法なのです」

 ほほう、外からちゅうにゅう。
 しかも結婚後に、ですか。
 ああー、これは……あれですね、あのぅ……わたしが期待していた人妻の魔力とはチョット違う気がしますねぇ。

「あの、センセ? なんだか、とても嫌な予感がするのですけれども……」

 わたしの予感を肯定するように、先生は頷いた。

「恥じらいのある淑女には少々お伝えしづらいことです。しかし、やはり『男性から貰う』という言い方になります」

 うあーっ、ヤッパリぃ。
 もう、それ以上言わなくていいでーーす(泣)

「天人族の体液には、遺伝情報と共に大量の魔素が含まれております。そして、それを注入する場所も、魔力生成を行う部位に直通です」

 んノオオォォォーッッッ!

 わたしの心は叫んでいた。

 どうしてこの世界は、わたしに普通の暮らしをさせてくれないのだろう。
 事あるごとにソッチ方面の話に繋がっていく気がする。
 魔法をたくさん使う神薙は夜の営みを頑張らないと死にます、と? そんな設定、心底要らないですッッ(泣)

 先生は動揺するわたしを気遣いつつも「もう少しお話ししておきますね」と前置きして続けた。
 わたしは「ヤー」とか「ワー」とか何でもいいから大声を出したい気分だった。

「魔素が注入された直後から、神薙の体内では爆発的な魔力生成が起こります。大概は一度ないしは二度の交わりで魔力が満たされるでしょう。満たされた後、許容量を超えて飽和状態となった魔力は体外へと溢れ出ます」

「ソ、ソウ、ナン……、デス、ネ……」

「天人族との交わりによって作られる神薙の魔力は、お二人の遺伝情報を含む特殊なもの。『生命の宝珠』とは、その溢れ出た神薙の魔力を吸い上げて集めるための特殊な魔石です。そして、それは新しい天人族の生命となります」

「なる、ほど……デス……。ハイ……」

 神薙様がお仕事をすると、少子化対策に加えて自分の魔力補充もでき、一度で二度おいしいという話なのだろう。
 また身体がプルプル震え始め、わたしはベチョッと机に突っ伏した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...