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10-3 POV:アレン
第217話:神薙の魔法
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白い神薙は手をパタパタとさせながら「ウフフ、ヘルグリン病で人は死にませんよ」と言った。
「は? しかし、死の病ですよね? 伝染病ですよね?」
「まあ、そうですけどぉ、自主隔離が早かったおかげで周りに感染者はいませんし、そもそも完治する病気のようですよ?」
「え……? 完……治?」
「ええ、だからもう少しですよぉ」
白い神薙は朗らかに笑っていた。
俺は死んでいない。
それに、周りで俺から感染した人もいない。
……すごいことだ。
とんでもない奇跡だ。
俺は神に選ばれし者かも知れない。いや、絶対にそうだ。
死んだつもりで神薙を守れということなのだろう。
日頃の行いが良かったのだろうか。
ああ、真面目に生きてきて良かった。
しかし、神よ。
それはそれで問題があるということを俺は言いたい。
俺は、あの白い神薙に何をさせた?
食事の世話に着替えの世話だ。有り得ない。神の遣いに下女の仕事をさせたのだ。
しかも、体を拭かせた……。
いくら死にそうだったとは言え、白い神薙は下……下まで……
蘇る記憶の中で、これほどまでに残酷なものがあるだろうか。
ヤバい。
発狂しそうだ。
うあぁぁあああ……ッッ!!
なぜ死なせてくれなかったのだ!
いや、今からでも遅くはない! 俺を殺せっ!
頼む、死なせてくれ!!
俺はテーブルに肘をつき、がっつりと頭を抱えた。
生きていられて嬉しい反面、黒歴史を背負うことになった。
「あ、そうだ。アレンさん」と、神薙が思いついたように言った。
「はヒっ?」
動揺していた俺の声は裏返った。
「わたし、洗面所を浄化しちゃうので、ゆっくり食べていてくださいねー」
「……え? 浄化?」
白い神薙は鼻歌混じりに、トコトコと洗面所へ入っていった。
あの恐ろしいピンクの靴を履いている。
カカトの低い靴を履いた神薙は、歩く姿こそ野に咲く花のように愛らしいが、走ると風神の如く速いため手に負えない。
第一騎士団の中でも追いつけるのは俺を含む数人しかおらず、しかも初動が遅れれば追いつけないという有り様だ。
俺が寝込んでいる間、まさかあの靴で宮殿の中を走り回っていたのではないだろうな……。
フィデルさんは平気だろうが、不慣れなマークにはキツいはずだ。
それよりも、今しがた彼女は「浄化しちゃう」と言った。
そう言えば白い女に神薙のことを尋ねた際、「ここで浄化魔法をかけている」と言っていた気がしたが、あれは現実だったのだろうか。
仮に現実なら、本人が自らそう答えていたことになる。
しかし、数え切れぬほどワケの分からない夢を見ていたせいで、もうどれが現実でどれが夢なのかが分からない。
もやもやと考えながら口を動かしていると、突如、洗面所がビカッと発光した。
ビクリと体が硬直したせいで、スプーンからやわやわのニンジンが転がり落ち、ペショッと音を立ててスープ皿に落ちた。
おい、白い神薙、俺の部屋の洗面所で何をしでかした……。
白い神薙が洗面所から上機嫌で出てきた。
また意味の分からない歌を歌っている。
こちらからは目しか見えないが、なんだか満足そうだ。
ああー、くそ可愛い。
頭を撫でたい。
膝に乗せて甘いものを食わせたい。
白い女が神薙だと分かった途端、急に愛らしく見えるのだから俺も相当頭がおかしい。
アホな団長が神薙を困らせては浮き沈みする姿に「頭おかしいのか」と散々言ってきたが、俺はもっと早い段階から頭がおかしい。
自分で言うのも変だが、イカレ具合で言ったら俺に勝る男はいない。
俺の視線に気づいた白い神薙が「終わりましたぁ~」と言った。
「い……今のは?」
「このたび、わたくし魔法を教わりまして」
「魔力操作を?」
「とっても難しいのですねぇ。なんとしてでも浄化魔法を使えるようになりたくて頑張ったのですけれども、もうビックリするくらい大変で」
「そうですよね。しかし、浄化魔法はああいうものではない気が……。もしや上位浄化ですか?」
そうは言ったものの、過去に読んだ書物では上位浄化が発光を伴うとは書いていなかった。
別の似たような魔法か、何かしら改変した術式を使っている可能性がある。
神薙は肩をすくめて小っちゃくなった。
「本当はもっと魔力を絞らないとダメらしいのですが、全然上手くできなくて。わたし、落ちこぼれなのです……」
世の中の人が強い魔法を使いたくて努力しているというのに、俺の神薙はバカでかい魔力を持て余し、普通程度の弱い(?)魔法が使えなくて苦労していた。
まるで学生時代の団長と同じようなことを言っている。
彼は「俺のせいじゃない」と言いながら、魔法の授業のたびに火事を起こしては、「お前のせいじゃなかったら誰のせいだよ」と全生徒から総ツッコミを受けていた放火魔だ。
対して、俺の神薙は謙虚すぎて自分を落ちこぼれだと思っている。
さっきから人差し指と親指をこねこねしながら「でも目標の浄化はできたからいいのかなぁーとも思っていて」と自己肯定を頑張っているところだ。
相変わらず、ぶっ飛んでいる。
しかし、彼女が魔法操作を学び、ある程度できるようになっていることは大きい。
今後おおいに役立つことは間違いない。
あああ、ヤバい……
魔力操作を手取り足取り教えたい。
そうすれば移動以外でも公然と手を握れるし、練習の合間に魔力で「くすぐりっこ」とかも……絶対に楽しい(※俺が)
「そういえば、寝ている間も何度か視界が真っ白に光ったのですが、あれはまさか……」
「そうなのです。ヘルグリン菌をやっつける魔法を何度か」
白い神薙は俺の体を殺そうとしている菌を、あのとんでもない光で抹殺していた。
俺の死出の旅が中止になったのも無理はない。
「あ、でもね? これだけはお手本通りにできます」と言うと、彼女は鑑定魔法で俺を診た。
そして嬉しそうに「これは全然変じゃないでしょう?」と言った。
いつ詠唱をしたのか分からないほど素早い発動だった。
白い神薙は「もう大丈夫そうですねぇ」と目を細めた。
「は? しかし、死の病ですよね? 伝染病ですよね?」
「まあ、そうですけどぉ、自主隔離が早かったおかげで周りに感染者はいませんし、そもそも完治する病気のようですよ?」
「え……? 完……治?」
「ええ、だからもう少しですよぉ」
白い神薙は朗らかに笑っていた。
俺は死んでいない。
それに、周りで俺から感染した人もいない。
……すごいことだ。
とんでもない奇跡だ。
俺は神に選ばれし者かも知れない。いや、絶対にそうだ。
死んだつもりで神薙を守れということなのだろう。
日頃の行いが良かったのだろうか。
ああ、真面目に生きてきて良かった。
しかし、神よ。
それはそれで問題があるということを俺は言いたい。
俺は、あの白い神薙に何をさせた?
食事の世話に着替えの世話だ。有り得ない。神の遣いに下女の仕事をさせたのだ。
しかも、体を拭かせた……。
いくら死にそうだったとは言え、白い神薙は下……下まで……
蘇る記憶の中で、これほどまでに残酷なものがあるだろうか。
ヤバい。
発狂しそうだ。
うあぁぁあああ……ッッ!!
なぜ死なせてくれなかったのだ!
いや、今からでも遅くはない! 俺を殺せっ!
頼む、死なせてくれ!!
俺はテーブルに肘をつき、がっつりと頭を抱えた。
生きていられて嬉しい反面、黒歴史を背負うことになった。
「あ、そうだ。アレンさん」と、神薙が思いついたように言った。
「はヒっ?」
動揺していた俺の声は裏返った。
「わたし、洗面所を浄化しちゃうので、ゆっくり食べていてくださいねー」
「……え? 浄化?」
白い神薙は鼻歌混じりに、トコトコと洗面所へ入っていった。
あの恐ろしいピンクの靴を履いている。
カカトの低い靴を履いた神薙は、歩く姿こそ野に咲く花のように愛らしいが、走ると風神の如く速いため手に負えない。
第一騎士団の中でも追いつけるのは俺を含む数人しかおらず、しかも初動が遅れれば追いつけないという有り様だ。
俺が寝込んでいる間、まさかあの靴で宮殿の中を走り回っていたのではないだろうな……。
フィデルさんは平気だろうが、不慣れなマークにはキツいはずだ。
それよりも、今しがた彼女は「浄化しちゃう」と言った。
そう言えば白い女に神薙のことを尋ねた際、「ここで浄化魔法をかけている」と言っていた気がしたが、あれは現実だったのだろうか。
仮に現実なら、本人が自らそう答えていたことになる。
しかし、数え切れぬほどワケの分からない夢を見ていたせいで、もうどれが現実でどれが夢なのかが分からない。
もやもやと考えながら口を動かしていると、突如、洗面所がビカッと発光した。
ビクリと体が硬直したせいで、スプーンからやわやわのニンジンが転がり落ち、ペショッと音を立ててスープ皿に落ちた。
おい、白い神薙、俺の部屋の洗面所で何をしでかした……。
白い神薙が洗面所から上機嫌で出てきた。
また意味の分からない歌を歌っている。
こちらからは目しか見えないが、なんだか満足そうだ。
ああー、くそ可愛い。
頭を撫でたい。
膝に乗せて甘いものを食わせたい。
白い女が神薙だと分かった途端、急に愛らしく見えるのだから俺も相当頭がおかしい。
アホな団長が神薙を困らせては浮き沈みする姿に「頭おかしいのか」と散々言ってきたが、俺はもっと早い段階から頭がおかしい。
自分で言うのも変だが、イカレ具合で言ったら俺に勝る男はいない。
俺の視線に気づいた白い神薙が「終わりましたぁ~」と言った。
「い……今のは?」
「このたび、わたくし魔法を教わりまして」
「魔力操作を?」
「とっても難しいのですねぇ。なんとしてでも浄化魔法を使えるようになりたくて頑張ったのですけれども、もうビックリするくらい大変で」
「そうですよね。しかし、浄化魔法はああいうものではない気が……。もしや上位浄化ですか?」
そうは言ったものの、過去に読んだ書物では上位浄化が発光を伴うとは書いていなかった。
別の似たような魔法か、何かしら改変した術式を使っている可能性がある。
神薙は肩をすくめて小っちゃくなった。
「本当はもっと魔力を絞らないとダメらしいのですが、全然上手くできなくて。わたし、落ちこぼれなのです……」
世の中の人が強い魔法を使いたくて努力しているというのに、俺の神薙はバカでかい魔力を持て余し、普通程度の弱い(?)魔法が使えなくて苦労していた。
まるで学生時代の団長と同じようなことを言っている。
彼は「俺のせいじゃない」と言いながら、魔法の授業のたびに火事を起こしては、「お前のせいじゃなかったら誰のせいだよ」と全生徒から総ツッコミを受けていた放火魔だ。
対して、俺の神薙は謙虚すぎて自分を落ちこぼれだと思っている。
さっきから人差し指と親指をこねこねしながら「でも目標の浄化はできたからいいのかなぁーとも思っていて」と自己肯定を頑張っているところだ。
相変わらず、ぶっ飛んでいる。
しかし、彼女が魔法操作を学び、ある程度できるようになっていることは大きい。
今後おおいに役立つことは間違いない。
あああ、ヤバい……
魔力操作を手取り足取り教えたい。
そうすれば移動以外でも公然と手を握れるし、練習の合間に魔力で「くすぐりっこ」とかも……絶対に楽しい(※俺が)
「そういえば、寝ている間も何度か視界が真っ白に光ったのですが、あれはまさか……」
「そうなのです。ヘルグリン菌をやっつける魔法を何度か」
白い神薙は俺の体を殺そうとしている菌を、あのとんでもない光で抹殺していた。
俺の死出の旅が中止になったのも無理はない。
「あ、でもね? これだけはお手本通りにできます」と言うと、彼女は鑑定魔法で俺を診た。
そして嬉しそうに「これは全然変じゃないでしょう?」と言った。
いつ詠唱をしたのか分からないほど素早い発動だった。
白い神薙は「もう大丈夫そうですねぇ」と目を細めた。
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