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8−7:真相と後悔(POV:ヴィル)

第162話:事件から丸二日

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 執務棟でクリスと打ち合わせをしていると、エムブラ宮殿にいるアレンからの連絡が届いた。
 届いたメモを読みながら、ほうっと息をつく。

「書記はなんだって?」クリスが覗き込んできた。

「今日は部屋から出て食事ができたようだ。昨日より調子が良いらしい」
「まだシンドリの毒沼みたいな薬を飲んでいるのか?」
「ああ。時折思い出したように震えているようだ」
「そうか……」

 少しすると、またドアをノックする音が聞こえた。
 俺が色々と指示を出しているせいもあるのだが、ひっきりなしに人が来ていてせわしない。しかし、王宮はもっと大騒ぎをしているので、ここはマシなほうだ。

「団長、ガラール殿の無事が確認できました。領地でお元気にされています」

 クリスと顔を見合わせ、安堵の吐息をついた。

「ああ、良かった……」
「印章もガラール殿の手元にありました。しかし、早々に新しいものを作って登録し直すとのことです」
「そうか。分かった」
「手紙を預かってきましたが『感謝を述べているだけなので読むのは暇になってからで良い』とのことです」
「さすが名誉騎士だ。こちらのことが良く分かっている。落ち着いたらじっくり読むことにしよう」

 戸籍を調べさせた結果、ガラール子爵に養子はいなかった。念のために安否確認を指示したが、名誉騎士は無事だった。

 報告を済ませた団員が出ていくと、入れ違いに別の団員が入ってくる。そして、新しい情報を共有して出ていった。
 「さすがに少し疲れたな」と言うと、クリスは頷いた。


 事件からほぼ丸二日が経過している。

 当日は夜遅くまで王宮で過ごすことになった。
 早々に執務棟へ戻って十三条の書類作りをしたい一方、ある程度調べが進まないことには着手ができないため、当日は情報収集に徹した。

 すぐにイドレが黙秘をしているという情報が入ってきた。
 文官に優しいクソッタレな法に則って親切な取り調べが行われていたからだ。

 どうしたものか考えていると、俺の父がアレンの父とコソコソ何か話し始めた。さらに数人の大臣を巻き込んで相談をし終えると、そのまま皆でぞろぞろと連れ立って地下へ降りていった。
 
 てっきり『真実の宝珠』で吐かせるために出向いたのかと思ったが、十五分も経たないうちに戻ってきた。
 しばらくすると、突然どっと供述情報が入るようになった。
 どうやら取り調べ官が言うことを聞かざるを得ないように強めの抗議をしに行っていたようだ。
 イドレの取り調べは一般人が受けるものと同程度のものになった。それでも奴が黙秘を続けたため、すべてを喋ってしまいたくなる特別な取り調べ・・・・・・・が行われた。

 王は不在だったが、宰相と主な大臣は揃っていた。
 宰相はブチ切れまくって、スルトとイドレの一族を片っ端から捕えさせていた。
 家族は関与を否定しているが、家は取り潰しになるだろう。

 十三条の手続きをする意思があることを宰相に伝えたところ「妥当だ」という答えが返ってきた。父を含む大臣連中も「是非やれ」と言った。
 王が戻り次第、組織改正と法の大改正をすることで大臣たちは合意していた。十三条はその取っ掛かりとして最適だそうだ。

 主犯が反王派であり、王の不在中を狙って王都を奪おうとした事実は大きい。
 事件という形で法の問題が顕在化したことにより、今まで反王派やアホウドリの妨害で手を出しにくかったところに土足で遠慮なく斬り込んで行けるようになる。

 アレンの父が仕事のできる文官を二人派遣してくれて、十三条の書類作りを手伝ってくれた。
 宰相は夜中に夜食の差し入れをしてくれたし、別の大臣は朝食を手配してくれた。

 事件翌日は王宮と執務棟を行ったり来たりすることになった。
 十三条の手続きのほかに、査問にかけられる案件を三つほど抱えていたのでやむを得ない。
 王宮内での武力行使と魔法禁止区域での爆破行為、それにより重要文化財の一部が木っ端微塵になった。さらに、犯人を捕らえる際に起きた室内の器物損壊など小さなものもいくつかあり、俺は関係各所へ出向いて、これらがすべて正当な理由で行われたことを説明しなくてはならなかった。

 それが落ち着いたかと思ったら、今度は別件であらぬ疑いをかけられた。
 事件の日、現場となった建物と馬停めとの中間あたりにある『カバ』の形をしたトピアリーが真っ二つに裂けるという出来事があったらしい。
 これもお前らのせいかと聞かれ、さすがにそんな悪戯をやっている暇などなかったと説明するはめになった。
 結局、その件は犯人が見つからず、迷宮入りしたそうだ。
 しかし、恐ろしくきれいな裂け方をしていることと、イドレ家の紋がカバであることから、神の怒りがトピアリーを裂いたのだと変な噂になっている。
 真偽については定かではないが、俺が神ならトピアリーではなく本人に同じことをやると思う。

 臨時の騎士団長会議も開いた。
 あっちこっちで事件の経緯や第一騎士団が取った対応について同じ話を繰り返すことになったが、俺達を支持しない人間は見当たらなかった。

 本来ならば現場に突入したアレンと仕事を進めるべきなのだろう。しかし、リアをこれ以上動揺させたくなかったため、アレンとフィデルはあえて彼女のそばに置いた。
 こちらの仕事はマークとクリスを始め、助けてくれる人が大勢いる。

 事件当日の夜から今日までの間、猛烈に忙しくはあったがやるべきことは大体終わっていた。
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