169 / 352
8−7:真相と後悔(POV:ヴィル)
第162話:事件から丸二日
しおりを挟む
執務棟でクリスと打ち合わせをしていると、エムブラ宮殿にいるアレンからの連絡が届いた。
届いたメモを読みながら、ほうっと息をつく。
「書記はなんだって?」クリスが覗き込んできた。
「今日は部屋から出て食事ができたようだ。昨日より調子が良いらしい」
「まだシンドリの毒沼みたいな薬を飲んでいるのか?」
「ああ。時折思い出したように震えているようだ」
「そうか……」
少しすると、またドアをノックする音が聞こえた。
俺が色々と指示を出しているせいもあるのだが、ひっきりなしに人が来ていてせわしない。しかし、王宮はもっと大騒ぎをしているので、ここはマシなほうだ。
「団長、ガラール殿の無事が確認できました。領地でお元気にされています」
クリスと顔を見合わせ、安堵の吐息をついた。
「ああ、良かった……」
「印章もガラール殿の手元にありました。しかし、早々に新しいものを作って登録し直すとのことです」
「そうか。分かった」
「手紙を預かってきましたが『感謝を述べているだけなので読むのは暇になってからで良い』とのことです」
「さすが名誉騎士だ。こちらのことが良く分かっている。落ち着いたらじっくり読むことにしよう」
戸籍を調べさせた結果、ガラール子爵に養子はいなかった。念のために安否確認を指示したが、名誉騎士は無事だった。
報告を済ませた団員が出ていくと、入れ違いに別の団員が入ってくる。そして、新しい情報を共有して出ていった。
「さすがに少し疲れたな」と言うと、クリスは頷いた。
事件からほぼ丸二日が経過している。
当日は夜遅くまで王宮で過ごすことになった。
早々に執務棟へ戻って十三条の書類作りをしたい一方、ある程度調べが進まないことには着手ができないため、当日は情報収集に徹した。
すぐにイドレが黙秘をしているという情報が入ってきた。
文官に優しいクソッタレな法に則って親切な取り調べが行われていたからだ。
どうしたものか考えていると、俺の父がアレンの父とコソコソ何か話し始めた。さらに数人の大臣を巻き込んで相談をし終えると、そのまま皆でぞろぞろと連れ立って地下へ降りていった。
てっきり『真実の宝珠』で吐かせるために出向いたのかと思ったが、十五分も経たないうちに戻ってきた。
しばらくすると、突然どっと供述情報が入るようになった。
どうやら取り調べ官が言うことを聞かざるを得ないように強めの抗議をしに行っていたようだ。
イドレの取り調べは一般人が受けるものと同程度のものになった。それでも奴が黙秘を続けたため、すべてを喋ってしまいたくなる特別な取り調べが行われた。
王は不在だったが、宰相と主な大臣は揃っていた。
宰相はブチ切れまくって、スルトとイドレの一族を片っ端から捕えさせていた。
家族は関与を否定しているが、家は取り潰しになるだろう。
十三条の手続きをする意思があることを宰相に伝えたところ「妥当だ」という答えが返ってきた。父を含む大臣連中も「是非やれ」と言った。
王が戻り次第、組織改正と法の大改正をすることで大臣たちは合意していた。十三条はその取っ掛かりとして最適だそうだ。
主犯が反王派であり、王の不在中を狙って王都を奪おうとした事実は大きい。
事件という形で法の問題が顕在化したことにより、今まで反王派やアホウドリの妨害で手を出しにくかったところに土足で遠慮なく斬り込んで行けるようになる。
アレンの父が仕事のできる文官を二人派遣してくれて、十三条の書類作りを手伝ってくれた。
宰相は夜中に夜食の差し入れをしてくれたし、別の大臣は朝食を手配してくれた。
事件翌日は王宮と執務棟を行ったり来たりすることになった。
十三条の手続きのほかに、査問にかけられる案件を三つほど抱えていたのでやむを得ない。
王宮内での武力行使と魔法禁止区域での爆破行為、それにより重要文化財の一部が木っ端微塵になった。さらに、犯人を捕らえる際に起きた室内の器物損壊など小さなものもいくつかあり、俺は関係各所へ出向いて、これらがすべて正当な理由で行われたことを説明しなくてはならなかった。
それが落ち着いたかと思ったら、今度は別件であらぬ疑いをかけられた。
事件の日、現場となった建物と馬停めとの中間あたりにある『カバ』の形をしたトピアリーが真っ二つに裂けるという出来事があったらしい。
これもお前らのせいかと聞かれ、さすがにそんな悪戯をやっている暇などなかったと説明するはめになった。
結局、その件は犯人が見つからず、迷宮入りしたそうだ。
しかし、恐ろしくきれいな裂け方をしていることと、イドレ家の紋がカバであることから、神の怒りがトピアリーを裂いたのだと変な噂になっている。
真偽については定かではないが、俺が神ならトピアリーではなく本人に同じことをやると思う。
臨時の騎士団長会議も開いた。
あっちこっちで事件の経緯や第一騎士団が取った対応について同じ話を繰り返すことになったが、俺達を支持しない人間は見当たらなかった。
本来ならば現場に突入したアレンと仕事を進めるべきなのだろう。しかし、リアをこれ以上動揺させたくなかったため、アレンとフィデルはあえて彼女のそばに置いた。
こちらの仕事はマークとクリスを始め、助けてくれる人が大勢いる。
事件当日の夜から今日までの間、猛烈に忙しくはあったがやるべきことは大体終わっていた。
届いたメモを読みながら、ほうっと息をつく。
「書記はなんだって?」クリスが覗き込んできた。
「今日は部屋から出て食事ができたようだ。昨日より調子が良いらしい」
「まだシンドリの毒沼みたいな薬を飲んでいるのか?」
「ああ。時折思い出したように震えているようだ」
「そうか……」
少しすると、またドアをノックする音が聞こえた。
俺が色々と指示を出しているせいもあるのだが、ひっきりなしに人が来ていてせわしない。しかし、王宮はもっと大騒ぎをしているので、ここはマシなほうだ。
「団長、ガラール殿の無事が確認できました。領地でお元気にされています」
クリスと顔を見合わせ、安堵の吐息をついた。
「ああ、良かった……」
「印章もガラール殿の手元にありました。しかし、早々に新しいものを作って登録し直すとのことです」
「そうか。分かった」
「手紙を預かってきましたが『感謝を述べているだけなので読むのは暇になってからで良い』とのことです」
「さすが名誉騎士だ。こちらのことが良く分かっている。落ち着いたらじっくり読むことにしよう」
戸籍を調べさせた結果、ガラール子爵に養子はいなかった。念のために安否確認を指示したが、名誉騎士は無事だった。
報告を済ませた団員が出ていくと、入れ違いに別の団員が入ってくる。そして、新しい情報を共有して出ていった。
「さすがに少し疲れたな」と言うと、クリスは頷いた。
事件からほぼ丸二日が経過している。
当日は夜遅くまで王宮で過ごすことになった。
早々に執務棟へ戻って十三条の書類作りをしたい一方、ある程度調べが進まないことには着手ができないため、当日は情報収集に徹した。
すぐにイドレが黙秘をしているという情報が入ってきた。
文官に優しいクソッタレな法に則って親切な取り調べが行われていたからだ。
どうしたものか考えていると、俺の父がアレンの父とコソコソ何か話し始めた。さらに数人の大臣を巻き込んで相談をし終えると、そのまま皆でぞろぞろと連れ立って地下へ降りていった。
てっきり『真実の宝珠』で吐かせるために出向いたのかと思ったが、十五分も経たないうちに戻ってきた。
しばらくすると、突然どっと供述情報が入るようになった。
どうやら取り調べ官が言うことを聞かざるを得ないように強めの抗議をしに行っていたようだ。
イドレの取り調べは一般人が受けるものと同程度のものになった。それでも奴が黙秘を続けたため、すべてを喋ってしまいたくなる特別な取り調べが行われた。
王は不在だったが、宰相と主な大臣は揃っていた。
宰相はブチ切れまくって、スルトとイドレの一族を片っ端から捕えさせていた。
家族は関与を否定しているが、家は取り潰しになるだろう。
十三条の手続きをする意思があることを宰相に伝えたところ「妥当だ」という答えが返ってきた。父を含む大臣連中も「是非やれ」と言った。
王が戻り次第、組織改正と法の大改正をすることで大臣たちは合意していた。十三条はその取っ掛かりとして最適だそうだ。
主犯が反王派であり、王の不在中を狙って王都を奪おうとした事実は大きい。
事件という形で法の問題が顕在化したことにより、今まで反王派やアホウドリの妨害で手を出しにくかったところに土足で遠慮なく斬り込んで行けるようになる。
アレンの父が仕事のできる文官を二人派遣してくれて、十三条の書類作りを手伝ってくれた。
宰相は夜中に夜食の差し入れをしてくれたし、別の大臣は朝食を手配してくれた。
事件翌日は王宮と執務棟を行ったり来たりすることになった。
十三条の手続きのほかに、査問にかけられる案件を三つほど抱えていたのでやむを得ない。
王宮内での武力行使と魔法禁止区域での爆破行為、それにより重要文化財の一部が木っ端微塵になった。さらに、犯人を捕らえる際に起きた室内の器物損壊など小さなものもいくつかあり、俺は関係各所へ出向いて、これらがすべて正当な理由で行われたことを説明しなくてはならなかった。
それが落ち着いたかと思ったら、今度は別件であらぬ疑いをかけられた。
事件の日、現場となった建物と馬停めとの中間あたりにある『カバ』の形をしたトピアリーが真っ二つに裂けるという出来事があったらしい。
これもお前らのせいかと聞かれ、さすがにそんな悪戯をやっている暇などなかったと説明するはめになった。
結局、その件は犯人が見つからず、迷宮入りしたそうだ。
しかし、恐ろしくきれいな裂け方をしていることと、イドレ家の紋がカバであることから、神の怒りがトピアリーを裂いたのだと変な噂になっている。
真偽については定かではないが、俺が神ならトピアリーではなく本人に同じことをやると思う。
臨時の騎士団長会議も開いた。
あっちこっちで事件の経緯や第一騎士団が取った対応について同じ話を繰り返すことになったが、俺達を支持しない人間は見当たらなかった。
本来ならば現場に突入したアレンと仕事を進めるべきなのだろう。しかし、リアをこれ以上動揺させたくなかったため、アレンとフィデルはあえて彼女のそばに置いた。
こちらの仕事はマークとクリスを始め、助けてくれる人が大勢いる。
事件当日の夜から今日までの間、猛烈に忙しくはあったがやるべきことは大体終わっていた。
51
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する
くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。
世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。
意味がわからなかったが悲観はしなかった。
花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。
そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。
奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。
麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。
周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。
それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。
お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。
全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる