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第四章 戸惑い
第78話:懐かしい香り
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「市場へ行ってみないか?」
ヴィルさんが提案してくれた次の行き先は、意外にも超庶民的な場所だった。
「舶来品がたくさんある市場だ。リアは気に入ると思う」
「でも、商人街でお買い物をしろと陛下が……」
「前に言っていたコメがあるかも知れない」
「お米……ッ?」
「行こう」
「は、はいっ」
再び手を繋いで歩き出す。
商人街から離れることに多少罪悪感はあったけれども、「米」というキーワードには非常に、非常に、非常~にムラムラする。
もし、お米が手に入るのなら……
ああぁ、どうしましょうっ♪
何をおかずに食べましょうか。
でも、おかずなんてなくてもいいかも。
お塩さえあれば、塩おむすびが作れます。
はぁぁーっ、おにぎり食べたいですねぇー♪
さすがに海苔なんて手に入らないですよね。
それなら、まぁるいおにぎりを作ろうかな~。
再び馬車に乗り込むと、『ターロン市場』なる場所へと向かった。
ヴィルさんは何度も来たことがあるのだろう。慣れた感じで市場の中に入ると、上から全体を見渡せるスポットへ連れていってくれた。
そこは吹き抜けになっている二階の端にあり、わたし達以外にも十人ほどの旅行者がガイドさんの説明を受けていた。
「ここは観光客にも人気の市場だ」
ぎゅうぎゅうに混み合った熱気むんむん市場を想像していたけれど、思った以上に通路が広く、一つ一つのお店が大きいので、買い物がしやすそうな雰囲気だ。
舶来品と国産品が半々ぐらいの割合で流通しているらしい。
全体的に食品の割合が高く、次に生活用品、衣料品と続く。家具など大きなものを扱うお店もある。
舶来品は飛び地であるオルランディアの国際貿易港から、隣国ルアランを通り抜けて運ばれてきているらしい。
ルアランとは互いに関税を撤廃しているアイテムが多いため、大半のものがリーズナブルに手に入るのだとか。
彼の説明を聞きながら全体に視線を巡らせていると、ある一角に随分ときれいな服を着た人々が集まっていた。
「ヴィルさん、あの辺りにいる方々は貴族なのでは?」
「そう、家具と装飾品の区画は掘り出し物を探しにきた貴族が多い。それから、珍しい食べ物の屋台を目当てに来ている人も多いぞ」
彼はそう言って一際賑わっているエリアを指差した。
「貴族の方々が屋台へ行くのですか?」
「あの屋台の区画はここの一番人気だ。ここから新しい流行りが生まれることも多い。我々も何か食べよう」
「でも、叱られないでしょうか……」
チラチラと横目で見ていた屋台エリアは、まず絶対に連れていって貰えないだろうと初めから諦めていた。
神薙の口に入るものは材料から鑑定魔法でチェックをしていると聞いたので、お外でB級グルメをモグモグするなんて絶望的だろう、と。
それに、上から見た屋台エリアは明らかに他の区画とは雰囲気が違っていた。
長い行列、モッサリと人が群がっているお店、それらが組み合わさって完全に人の流れが滞っている場所もある。わたしが突っ込んでいったら護衛の人達が大変だ。
「護衛の皆さんが大変ではないかと……」
「彼らはとっくに行くつもりになっている。大丈夫だよ」
わぁ♪
まさかの買い食いオッケー。予想外の展開だ。
ヴィルさんに手を引かれて一階に降りると、屋台エリアの人混みに突入した。
お昼時でもないのに至るところから上がる湯気と、それを買い求める人で大変な盛り上がりだ。
大きな塊のお肉を煮ている屋台から八角のいい香りがしていた。心なしかお醤油のような香りもどこかから漂っている気がする。
ツヤツヤ照り照りに焼かれた鶏の丸焼きには長い行列。巨大な蒸籠からカラフルな蒸しパンが登場すると、抱っこされて見ていたちびっ子達から歓声が上がった。
わたしの普段のお食事には出てこない食べ物が、そこかしこで売られている。
……全部美味しそうです。
何もかも食べたいです。
心が、いや魂が、屋台グルメを求めている。
庶民バンザイ、お祭りバンザイ。
高級食材ばかりのお食事が不満なのではなく、こういう慣れ親しんだ普通のものを、ずっとずっと食べたかったのだ。
雑踏を少しずつ進むと、懐かしい香りが鼻をくすぐった。
かすかな予感と期待は、ついに確信へと変わる。わたしは吸い寄せられるようにフラフラと歩いていった。
やっぱり……やっぱり、お醤油の香りがします~っ。
「おお、なんだか凄いな。あれは初めて見る」
「わぁ、焼きイカです。お醤油の香り……はあああ~っ」
その屋台には、ワイルドな筆文字で「美味しいイカを南大陸のソースで」と書かれていた。
頭に手ぬぐいをグルグル巻きにしたお兄さんが、次々と鉄板にイカを並べて丸焼きにしている。
お醤油……塗って焼く感じでしょうか??
お兄さんの手元を見たけれど、お醤油の容器らしきものは見当たらない。
南大陸のソースって、お醤油ではないのかしら……。
お兄さんは首に掛けた手ぬぐいで軽く汗を拭うと、少し離れた場所に置いてあった小さな壺とハケを手にした。
ヴィルさんが提案してくれた次の行き先は、意外にも超庶民的な場所だった。
「舶来品がたくさんある市場だ。リアは気に入ると思う」
「でも、商人街でお買い物をしろと陛下が……」
「前に言っていたコメがあるかも知れない」
「お米……ッ?」
「行こう」
「は、はいっ」
再び手を繋いで歩き出す。
商人街から離れることに多少罪悪感はあったけれども、「米」というキーワードには非常に、非常に、非常~にムラムラする。
もし、お米が手に入るのなら……
ああぁ、どうしましょうっ♪
何をおかずに食べましょうか。
でも、おかずなんてなくてもいいかも。
お塩さえあれば、塩おむすびが作れます。
はぁぁーっ、おにぎり食べたいですねぇー♪
さすがに海苔なんて手に入らないですよね。
それなら、まぁるいおにぎりを作ろうかな~。
再び馬車に乗り込むと、『ターロン市場』なる場所へと向かった。
ヴィルさんは何度も来たことがあるのだろう。慣れた感じで市場の中に入ると、上から全体を見渡せるスポットへ連れていってくれた。
そこは吹き抜けになっている二階の端にあり、わたし達以外にも十人ほどの旅行者がガイドさんの説明を受けていた。
「ここは観光客にも人気の市場だ」
ぎゅうぎゅうに混み合った熱気むんむん市場を想像していたけれど、思った以上に通路が広く、一つ一つのお店が大きいので、買い物がしやすそうな雰囲気だ。
舶来品と国産品が半々ぐらいの割合で流通しているらしい。
全体的に食品の割合が高く、次に生活用品、衣料品と続く。家具など大きなものを扱うお店もある。
舶来品は飛び地であるオルランディアの国際貿易港から、隣国ルアランを通り抜けて運ばれてきているらしい。
ルアランとは互いに関税を撤廃しているアイテムが多いため、大半のものがリーズナブルに手に入るのだとか。
彼の説明を聞きながら全体に視線を巡らせていると、ある一角に随分ときれいな服を着た人々が集まっていた。
「ヴィルさん、あの辺りにいる方々は貴族なのでは?」
「そう、家具と装飾品の区画は掘り出し物を探しにきた貴族が多い。それから、珍しい食べ物の屋台を目当てに来ている人も多いぞ」
彼はそう言って一際賑わっているエリアを指差した。
「貴族の方々が屋台へ行くのですか?」
「あの屋台の区画はここの一番人気だ。ここから新しい流行りが生まれることも多い。我々も何か食べよう」
「でも、叱られないでしょうか……」
チラチラと横目で見ていた屋台エリアは、まず絶対に連れていって貰えないだろうと初めから諦めていた。
神薙の口に入るものは材料から鑑定魔法でチェックをしていると聞いたので、お外でB級グルメをモグモグするなんて絶望的だろう、と。
それに、上から見た屋台エリアは明らかに他の区画とは雰囲気が違っていた。
長い行列、モッサリと人が群がっているお店、それらが組み合わさって完全に人の流れが滞っている場所もある。わたしが突っ込んでいったら護衛の人達が大変だ。
「護衛の皆さんが大変ではないかと……」
「彼らはとっくに行くつもりになっている。大丈夫だよ」
わぁ♪
まさかの買い食いオッケー。予想外の展開だ。
ヴィルさんに手を引かれて一階に降りると、屋台エリアの人混みに突入した。
お昼時でもないのに至るところから上がる湯気と、それを買い求める人で大変な盛り上がりだ。
大きな塊のお肉を煮ている屋台から八角のいい香りがしていた。心なしかお醤油のような香りもどこかから漂っている気がする。
ツヤツヤ照り照りに焼かれた鶏の丸焼きには長い行列。巨大な蒸籠からカラフルな蒸しパンが登場すると、抱っこされて見ていたちびっ子達から歓声が上がった。
わたしの普段のお食事には出てこない食べ物が、そこかしこで売られている。
……全部美味しそうです。
何もかも食べたいです。
心が、いや魂が、屋台グルメを求めている。
庶民バンザイ、お祭りバンザイ。
高級食材ばかりのお食事が不満なのではなく、こういう慣れ親しんだ普通のものを、ずっとずっと食べたかったのだ。
雑踏を少しずつ進むと、懐かしい香りが鼻をくすぐった。
かすかな予感と期待は、ついに確信へと変わる。わたしは吸い寄せられるようにフラフラと歩いていった。
やっぱり……やっぱり、お醤油の香りがします~っ。
「おお、なんだか凄いな。あれは初めて見る」
「わぁ、焼きイカです。お醤油の香り……はあああ~っ」
その屋台には、ワイルドな筆文字で「美味しいイカを南大陸のソースで」と書かれていた。
頭に手ぬぐいをグルグル巻きにしたお兄さんが、次々と鉄板にイカを並べて丸焼きにしている。
お醤油……塗って焼く感じでしょうか??
お兄さんの手元を見たけれど、お醤油の容器らしきものは見当たらない。
南大陸のソースって、お醤油ではないのかしら……。
お兄さんは首に掛けた手ぬぐいで軽く汗を拭うと、少し離れた場所に置いてあった小さな壺とハケを手にした。
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