55 / 367
第三章 お披露目会
第54話:時間がない
しおりを挟む
急いで控え室へ戻り、待ち構えていた侍女と連携して次の準備を始めなくてはならない。
陛下に買って頂いたブルートパーズのネックレスに合わせ、淡い青のドレスに着替えた。
髪型も左右の編み込みを一旦ほどき、編み込み直してハーフアップに変更する。
そして、お揃いのトパーズがあしらわれたヘッドアクセサリーとそれ以外のアクセサリー類を着けることになる。
次の予定は外国の王族とのお茶会なので、ドレスもお飾りもランクアップしていた。
しかし、ヘッドアクセサリーの仕様に少々難があり、装着が難しい。三人いる侍女のうち、二人がそれにかかりきりになるため、ここは当日一番の難関だった。
わたしもイヤリングを着けたり、口紅を塗ったり、手の届く範囲で協力して支度をした。
「リア、どうだ? 出られそうか?」
「あと二分お待ちください陛下!」
この難関ポイントを心配していた陛下が迎えにきてくれて、どうにか予定通りの時間に控え室を飛び出した。
陛下と手を繋ぎ、小走りで会場へ向かう。
無事ゴールテープを切ると、まさか手を繋いで現れると思っていなかった王族の皆さんから歓声が上がった。
しかし、ここで思わぬアクシデントが発生。
わたしが通訳を介さず全員と会話ができることが判明したのだ。
それが分かるやお茶会がヒートアップ。その結果、終了時間が三十分も押してしまった。
皆さん喜んでくださったし、興奮気味の通訳さんから「素晴らしいです」と褒めて頂いたけれど、わたしもまさかオルランディア語以外もペラペラいけるとは想定外だった。
オルランディア語同様、なぜ理解できるのか、なぜ話せるのか、そのあたりの理由はまったく分からない。
いわゆる異世界転移チート的なものなのかも知れない。
しかし、それをわたしに説明してくれる人が誰もいないので、「一体どういうことなのだろ??」と、ひとり呟いて話は終了である。
やばいやばい! 時間がない!
半べそをかきながら、競歩ばりの早足で控え室へ戻った。
アテンドしているオーディンス副団長の顔にも焦りが見える。
お茶会の後も予定はカツカツなのだ。この三十分のロスは痛かった。
取り戻すには何かを諦めなくてはならない。
最も手っ取り早いのは夕食を諦めることだろう。
腹ペコでメインイベントとは切ないけれども、もう致し方ない。
「リア様、お帰りなさいませ!」
「うわぁぁんっ。皆さん、ごめんなさい~」
「大丈夫ですわ。落ち着いて一つ一つやっていきましょう。皆も落ち着きなさいませ。こういう時に浮き足立っては逆効果ですわ」
侍女長に励まされた。さすが本日の少尉である。
大急ぎで身に着けているものを外し、お披露目会の準備に取り掛かった。
皆の情熱の結晶とも言えるドレスに袖を通した。
マダム赤たまねぎ事件が懐かしく感じる。
結局、わたし達が選んだのは新進気鋭の女性デザイナーだった。
彼女は要望通り裾に向けてたっぷりドレープを利かせた上品なドレスをデザインしてくれた。
それは猫も杓子もと流行しているタイプのドレスとは一線を画すものらしい。
陛下がお高い生地をたっぷり手配してくれたこともあり、想像の遥か上をいく素敵なドレスが完成していた。
髪はフルアップにして、陛下から頂いた百合の髪留めを着けた。
失った三十分の穴埋めをするため、わずかな夕食の時間を削ったけれども、料理人たちが気を利かせて一口サイズのサンドウィッチを作ってくれた。
今日は人の優しさが心にしみる。
支度をしながら皆でサンドウィッチをつまんで食べた。
「これが終わったら、身内だけで楽しい打ち上げパーティーをしましょうね」と励まし合った。
メイクが始まったあたりで、わたしの宮殿から「オルランディアの涙」を運んできた騎士の一隊が到着した。
目の前に運ばれてきた途端、ヴィルさんの瞳を思い出して心臓がバクバク言い始めたので思わず目を閉じた。
浮かれるな、と自分を戒める。
だって、これから全部バレて地獄を見るのだ(泣)
どうにか予定時刻に間に合いそうな目途が立ち、明るい雰囲気が漂い始めた頃だった。
「今、団長が王宮宝物庫を出発しました」と声が掛かり、周りがざわついた。
国の宝物庫に入っている本日のマストアイテム「神薙のティアラ」と「神薙の杖」の運搬が、予定より三十分も早まってしまったのだ。
ティアラと杖はどちらも国宝だった。
だから、警備の最高責任者である第一騎士団長が自ら宝物庫へ出向き、部下に前後左右をがっちり固められて厳重警備で運んでくることになっていた。
第一騎士団は他の騎士団と違い組織が大きいため、団長はかなり偉いオジサンのはずだ。しかも、普段は多忙で現場には来ない。
そんな方が自ら宝物庫へ取りにいってくださっているのだ。
わたしは今日が初対面なので、きちんとお迎えして、お礼も兼ねてご挨拶させて頂こうと思っていた。
しかし、三分くらいならまだしも、三十分も予定を巻かれてしまうと、さすがにそれは無理がある。
これほどまでに厳格な時間管理が求められている日に、最高責任者自らが大幅なフライングをやらかすのは想定外だった。
陛下に買って頂いたブルートパーズのネックレスに合わせ、淡い青のドレスに着替えた。
髪型も左右の編み込みを一旦ほどき、編み込み直してハーフアップに変更する。
そして、お揃いのトパーズがあしらわれたヘッドアクセサリーとそれ以外のアクセサリー類を着けることになる。
次の予定は外国の王族とのお茶会なので、ドレスもお飾りもランクアップしていた。
しかし、ヘッドアクセサリーの仕様に少々難があり、装着が難しい。三人いる侍女のうち、二人がそれにかかりきりになるため、ここは当日一番の難関だった。
わたしもイヤリングを着けたり、口紅を塗ったり、手の届く範囲で協力して支度をした。
「リア、どうだ? 出られそうか?」
「あと二分お待ちください陛下!」
この難関ポイントを心配していた陛下が迎えにきてくれて、どうにか予定通りの時間に控え室を飛び出した。
陛下と手を繋ぎ、小走りで会場へ向かう。
無事ゴールテープを切ると、まさか手を繋いで現れると思っていなかった王族の皆さんから歓声が上がった。
しかし、ここで思わぬアクシデントが発生。
わたしが通訳を介さず全員と会話ができることが判明したのだ。
それが分かるやお茶会がヒートアップ。その結果、終了時間が三十分も押してしまった。
皆さん喜んでくださったし、興奮気味の通訳さんから「素晴らしいです」と褒めて頂いたけれど、わたしもまさかオルランディア語以外もペラペラいけるとは想定外だった。
オルランディア語同様、なぜ理解できるのか、なぜ話せるのか、そのあたりの理由はまったく分からない。
いわゆる異世界転移チート的なものなのかも知れない。
しかし、それをわたしに説明してくれる人が誰もいないので、「一体どういうことなのだろ??」と、ひとり呟いて話は終了である。
やばいやばい! 時間がない!
半べそをかきながら、競歩ばりの早足で控え室へ戻った。
アテンドしているオーディンス副団長の顔にも焦りが見える。
お茶会の後も予定はカツカツなのだ。この三十分のロスは痛かった。
取り戻すには何かを諦めなくてはならない。
最も手っ取り早いのは夕食を諦めることだろう。
腹ペコでメインイベントとは切ないけれども、もう致し方ない。
「リア様、お帰りなさいませ!」
「うわぁぁんっ。皆さん、ごめんなさい~」
「大丈夫ですわ。落ち着いて一つ一つやっていきましょう。皆も落ち着きなさいませ。こういう時に浮き足立っては逆効果ですわ」
侍女長に励まされた。さすが本日の少尉である。
大急ぎで身に着けているものを外し、お披露目会の準備に取り掛かった。
皆の情熱の結晶とも言えるドレスに袖を通した。
マダム赤たまねぎ事件が懐かしく感じる。
結局、わたし達が選んだのは新進気鋭の女性デザイナーだった。
彼女は要望通り裾に向けてたっぷりドレープを利かせた上品なドレスをデザインしてくれた。
それは猫も杓子もと流行しているタイプのドレスとは一線を画すものらしい。
陛下がお高い生地をたっぷり手配してくれたこともあり、想像の遥か上をいく素敵なドレスが完成していた。
髪はフルアップにして、陛下から頂いた百合の髪留めを着けた。
失った三十分の穴埋めをするため、わずかな夕食の時間を削ったけれども、料理人たちが気を利かせて一口サイズのサンドウィッチを作ってくれた。
今日は人の優しさが心にしみる。
支度をしながら皆でサンドウィッチをつまんで食べた。
「これが終わったら、身内だけで楽しい打ち上げパーティーをしましょうね」と励まし合った。
メイクが始まったあたりで、わたしの宮殿から「オルランディアの涙」を運んできた騎士の一隊が到着した。
目の前に運ばれてきた途端、ヴィルさんの瞳を思い出して心臓がバクバク言い始めたので思わず目を閉じた。
浮かれるな、と自分を戒める。
だって、これから全部バレて地獄を見るのだ(泣)
どうにか予定時刻に間に合いそうな目途が立ち、明るい雰囲気が漂い始めた頃だった。
「今、団長が王宮宝物庫を出発しました」と声が掛かり、周りがざわついた。
国の宝物庫に入っている本日のマストアイテム「神薙のティアラ」と「神薙の杖」の運搬が、予定より三十分も早まってしまったのだ。
ティアラと杖はどちらも国宝だった。
だから、警備の最高責任者である第一騎士団長が自ら宝物庫へ出向き、部下に前後左右をがっちり固められて厳重警備で運んでくることになっていた。
第一騎士団は他の騎士団と違い組織が大きいため、団長はかなり偉いオジサンのはずだ。しかも、普段は多忙で現場には来ない。
そんな方が自ら宝物庫へ取りにいってくださっているのだ。
わたしは今日が初対面なので、きちんとお迎えして、お礼も兼ねてご挨拶させて頂こうと思っていた。
しかし、三分くらいならまだしも、三十分も予定を巻かれてしまうと、さすがにそれは無理がある。
これほどまでに厳格な時間管理が求められている日に、最高責任者自らが大幅なフライングをやらかすのは想定外だった。
46
お気に入りに追加
452
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる