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第一章 神薙降臨

第11話:ダメな神薙様

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 最近のオーディンス副団長は、わたしに話しかけるとき、ビュンッと勢いよく覗き込んでくる。
 しかもその際、メガネが落ちないよう右の人差し指と中指の二本で真ん中にあるブリッジ部分を押さえながら動くので、仏像が飛んできているように見える。
 彼の部下はキラキラとしたイケメン光線を飛ばしてくるけれども、上司である彼は体ごとビュンビュン飛んでくる仕様だ。

 どうしてそんなことをするのだろう?
 プロレスのなんとかホールドとか、なんとかバスター(?)のように、その形で繰り出すことに意義がある技なのだろうか。

「あの、副団長さま」
「はい、ナンデショウカ?」

 声を掛けると、彼は音声案内のように返事をした。
 続いて「ピーと鳴ったらご用件をお話しクダサイ」という声が聞こえてきそうだ。

 ピー。

「急に顔を出されるとビックリしますので……」

 庭園をまったりとお散歩しながら、やんわり「ヤメテ」と伝えてみた。
 すると彼は、パチ、パチ、パチと、一定のリズムで三回ほど瞬きをした。

 な、なんでしょうか。怖いですよ?(汗)

 まさか返事をモールス信号で送ってきています?
 ツー、ツー、ツーって、何でしょう。
 「了解しました」とかの定型文ですか?

 どう答えたらいいのだろう。
 つられて、同じように瞬きをしてしまった。

 ツー、ツー、ツー
 ツー、ツー、ツー ……

 通じ合えている感ゼロなのですけれど、これどうしたらいいのでしょう(泣)

 しばらく無言で見つめ合っていると、何か合点がいったように彼が手を叩いた。
 白い手袋同士が合わさって、ぽむ、と音がする。

「すみません。神薙様とお呼びしても、なかなか気づいて頂けないものですから」
「えぇえ?」

 彼いわく、わたしに向かって「神薙様」と呼びかけても、三回のうち二回ぐらいの割合で無視されているらしい。
 恥ずかしい。最低です、わたし。

 ただ、ちょっぴりそんな予感はしていた。
 急に神薙様などと呼ばれ始め、正直なところ「ナンノコッチャ」と思っていた。
 勝手だなーとか、なりたくてなったんじゃないよ的な思いとか、色々と思うところがあり、心のどこかで反発があるのは確かだ。

 三回に一回しか返事をしないということは三十パーセントですか。これはちょっと確率が低すぎです。
 誰でもホームランが打てる場面で三割しか打てない野球選手みたいな話ですか? 野次を飛ばされて、生卵投げつけられるやつですよね。
 まさかさっきのツー、ツー、ツーは、「打率低すぎ」みたいな信号でしょうか(ごめんなさい。本当にごめんなさい 泣)

「も、申し訳ありませんっ」
「実は第三騎士団からも引き継ぎがありまして、対応に悩んでおりました」
「えええっ、くまんつ団長からも?」
「はい。有事の際に意思疎通が遅れる可能性あり、との懸念を示しておられました」

 恩人であるクマさんにまでご迷惑とご心配をおかけしていました。本当にわたし、最低です。ダメな子です。

「そ、そんな、助けて頂いたのに、大変な失礼をしてしまって。なんてお詫びをしたら……」

 オーディンス副団長はふざけていたわけでも新しい技を披露していたわけでもなく、わたしの自覚の足りなさをカバーしようと、体ごと声を掛けてくれる親切な仏像だった。

 一先ず、わたしのことは名前で呼んで頂くようお願いしたところ、そのように全体に周知すると返事が返ってきた。
 そして、「そのうち慣れますから、あまり気にしないでください」と彼は言った。
 意外と親切。オーディンス副団長は謎多き仏像だ。

 実は彼の「厨房に行くとケガレマス」発言にもウラがあった。
 彼は本当にけがれると思って言っていたのではなく、単に別件でわたしを厨房から遠ざけておくよう上官から命令されていたらしい。
 わたしが料理をしたいと言ってグイグイ行きたがるものだから、彼は適当な理由をでっち上げて「ケガレル」と言った。
 しかし、そのせいで自分の首が絞まったのだそうだ。
 彼と交代で付いてくれているもう一人の副団長いわく、「多少分かりにくさはあるものの悪い人ではない」とのことだ。

 仏像のような見た目にわたしが惑わされ過ぎという説もある。
 「彼が分からないから、どうしたら良いか分からない」
 そもそもその考え方が間違えているのではないかと……。
 空気を読んで行動するのは日本人の美徳ではあるけれど、よく考えたら外国人の同僚相手のときはそれが通用しなかった。だから、自分がしたいこと、相手に求めていることをお互いに一から十まで話し合って仕事を進めていた。
 ある意味ここも海外なのだし、周りとの付き合い方はそのほうが良いのかも知れない。

 よし。
 オーディンス副団長と、もっともっと対話を増やしましょう。
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