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第一章 神薙降臨
第10話:イケメン集団
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◆
「──平和ですねぇ~」
サロンの窓から外を見ると、敷地内の巡回に出かけていく騎士の姿が見えた。
定時の巡回と、不定期の見回りがあり、一日に何度も敷地内に散らばって『おまわりさん』をしてくれている。
彼らは皆、「神薙の騎士」と呼ばれている誇り高きエリートだ。
こちらの視線に気づいた人達が手を振ってくれたので、わたしも手を振り返した。
ふりふり……ふり……ふ……
彫刻か、絵画か、はたまた人気モデルかアイドルか。ワイルド系にセクシー系、カワイイ系、クール系も。
嗚呼、第一騎士団は今日もイケメンで溢れていらっしゃる。
平静を装って手を振っていたものの、彼らの姿が見えなくなった途端、窓枠にしがみついた。
イケメン達のお手振りによる謎の心的ダメージに、ひとりプルプルと肩を震わせ耐える。
この世界に来てから、わたしのイケメン耐性は急激に上がっている。
護衛の騎士がことごとく雑誌の表紙を飾れそうなグッドルッキングガイだったなら、いやでも免疫がつくというものだ。
第三騎士団と先に出会っていたせいで、てっきり騎士のデフォルト設定はガチムキマッチョなのだと思っていた。
ところが、ここにいるスーパーファビュラスな騎士様と来たら、一般人(従業員)に比べればがっしりしているものの、ゴリさん騎士団と比べたら相当シュっとしている。
この宮殿で起きているイケメンのインフレは深刻だ。わたしの中ではもう日本のイケメン株は大暴落して破綻している。
イケメン軍団は社交性も備えており、彼らは近くを通るたびに微笑んだり手を振ったり、こそっとウィンクをしてみせたりファンサービスが激しい。
ファンサ過剰なイケメン集団に囲まれたこの状況、もし羨ましいと思う方がおられましたら、代わってください(切実)
これで誰かを好きになれたら話が早い。
ところが『推し』を見つけられない不器用を発動してしまい、この素晴らしい環境が活かせていなかった。
ルックスが良い人は好きだけれど、恐らくわたしはルックス至上主義ではないのだと思う。
イケメン集団から一人が選べないのは、人柄や性格が分からないからだ。それらが分からないと嫌だということは、人柄と性格はルックスを上回る重要ポイントだという結論になる。すなわち、わたしは面食いではない(でも自信はありません)
ご本人の意思を完全無視して言ってしまえば、くまんつ団長が好きだった。少なくとも今日まで知り合った人の中では、彼がダントツで素敵だ。
わたしの場合、クマのぬいぐるみ感と安心感は比例していて、おっきい人も好きだし、体を鍛えている人は男女問わず好きだった。
何にせよ、現時点で旦那さま候補はゼロ人です。
不安でクッションをぎゅうぎゅう抱っこしていた。
日本にいる頃は、何かあると実家の柴犬『まめ太郎さん』をモフるのが習慣だった。しかし今は、百合の刺繍が施されたクッションが彼の代理だ。
こんなことで旦那様は見つかるのでしょうか。
くまんつ団長、立候補してくださらないかな……。
ボンヤリしていると、突然目の前に何かが飛び込んできた。
ビュンッ! と迫ってきて、わたしの前で急停止する。
はぁうッッッ!
こちらは軽く心停止だ。
飛び込んできたソレは、「神薙様、そろそろお散歩の時間ですが?」と言った。
バクバクする胸を押さえながら、息を整えようと深呼吸をする。
はぁ……はぁ……はぁ……。
び、びっくりした。
トレードマークの撫でつけペッタリ髪に四角い銀ブチ眼鏡。鉄面皮に死んだような目、機械のように淡々とした喋り方。
おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる仏像様ことオーディンス副団長だった。
「お、お散歩ですね……、ハイ、参りましょうか」
屋敷の図書室にこもっている時間が長いので、午後は散歩をすることにしていた。
神薙様は一人でフラフラできないので、護衛の彼に連れられて、しずしずと庭園をお散歩する。
怪人クソメガネを脱した彼は、ただのカタブツメガネになり、安定のロボット感を醸し出していた。
彼はほとんどアンドロイドだ。
きっとロボット工学の権威が作った知恵の結晶なのだと思う。
彼を見ていると、体温とか血圧とか、あらゆるものを測定して『生命活動の見える化』をしたくなる。
他愛のない日常会話が思ったほど上手くいかないので、扱い方が良く分からないのだ。
食べ物やワインの好みなど、無難な話題を振ろうとしても、「いや、待てよ?」と腕組みして考えてしまう。
そもそも彼は、口からエネルギーを摂取できる型式なのだろうか、と。
リチウム電池を充電するタイプかも知れない。
OSのバージョンアップをしないと消化できない食べ物がありそうだ。
紅茶に入れたレモンの酸で徐々にボディーが腐食するので、定期メンテナンスが必要だろう。
表情が変わらないのは、もしや機能制限されている「無料お試し版」だからだろうか?
いや、感情表現に既知のバグがあるものの修正の目途が立っていないのかも知れない。
いずれにせよ大型バージョンアップが必要ですよ、この機種は……。
「神薙様、何か?」
「へっ? あ、なんでも、ないです……」
あ、危ない危ない。
生身の人間(のはず)なのに、なぜかIT系ネットニュースにありがちな単語が次々思い浮かんでしまう。
イケメン集団の中で抜きん出てオカシイ彼を見ていると、少しホッとする自分がいる。
周りが美形ばかりという特殊な環境で、わたし一人だけが美しくない生き物なのではないかと怯えることがある。しかし、彼を見ていると相対的に自分が普通に思えたし、むしろ妙な仲間意識すら感じることがあった。
わたし達はサンドウィッチ屋さんに並べられたおにぎりみたいなものだ。そこにいても良いけれど、「なんか違うね」と言われるような存在だった。
「──平和ですねぇ~」
サロンの窓から外を見ると、敷地内の巡回に出かけていく騎士の姿が見えた。
定時の巡回と、不定期の見回りがあり、一日に何度も敷地内に散らばって『おまわりさん』をしてくれている。
彼らは皆、「神薙の騎士」と呼ばれている誇り高きエリートだ。
こちらの視線に気づいた人達が手を振ってくれたので、わたしも手を振り返した。
ふりふり……ふり……ふ……
彫刻か、絵画か、はたまた人気モデルかアイドルか。ワイルド系にセクシー系、カワイイ系、クール系も。
嗚呼、第一騎士団は今日もイケメンで溢れていらっしゃる。
平静を装って手を振っていたものの、彼らの姿が見えなくなった途端、窓枠にしがみついた。
イケメン達のお手振りによる謎の心的ダメージに、ひとりプルプルと肩を震わせ耐える。
この世界に来てから、わたしのイケメン耐性は急激に上がっている。
護衛の騎士がことごとく雑誌の表紙を飾れそうなグッドルッキングガイだったなら、いやでも免疫がつくというものだ。
第三騎士団と先に出会っていたせいで、てっきり騎士のデフォルト設定はガチムキマッチョなのだと思っていた。
ところが、ここにいるスーパーファビュラスな騎士様と来たら、一般人(従業員)に比べればがっしりしているものの、ゴリさん騎士団と比べたら相当シュっとしている。
この宮殿で起きているイケメンのインフレは深刻だ。わたしの中ではもう日本のイケメン株は大暴落して破綻している。
イケメン軍団は社交性も備えており、彼らは近くを通るたびに微笑んだり手を振ったり、こそっとウィンクをしてみせたりファンサービスが激しい。
ファンサ過剰なイケメン集団に囲まれたこの状況、もし羨ましいと思う方がおられましたら、代わってください(切実)
これで誰かを好きになれたら話が早い。
ところが『推し』を見つけられない不器用を発動してしまい、この素晴らしい環境が活かせていなかった。
ルックスが良い人は好きだけれど、恐らくわたしはルックス至上主義ではないのだと思う。
イケメン集団から一人が選べないのは、人柄や性格が分からないからだ。それらが分からないと嫌だということは、人柄と性格はルックスを上回る重要ポイントだという結論になる。すなわち、わたしは面食いではない(でも自信はありません)
ご本人の意思を完全無視して言ってしまえば、くまんつ団長が好きだった。少なくとも今日まで知り合った人の中では、彼がダントツで素敵だ。
わたしの場合、クマのぬいぐるみ感と安心感は比例していて、おっきい人も好きだし、体を鍛えている人は男女問わず好きだった。
何にせよ、現時点で旦那さま候補はゼロ人です。
不安でクッションをぎゅうぎゅう抱っこしていた。
日本にいる頃は、何かあると実家の柴犬『まめ太郎さん』をモフるのが習慣だった。しかし今は、百合の刺繍が施されたクッションが彼の代理だ。
こんなことで旦那様は見つかるのでしょうか。
くまんつ団長、立候補してくださらないかな……。
ボンヤリしていると、突然目の前に何かが飛び込んできた。
ビュンッ! と迫ってきて、わたしの前で急停止する。
はぁうッッッ!
こちらは軽く心停止だ。
飛び込んできたソレは、「神薙様、そろそろお散歩の時間ですが?」と言った。
バクバクする胸を押さえながら、息を整えようと深呼吸をする。
はぁ……はぁ……はぁ……。
び、びっくりした。
トレードマークの撫でつけペッタリ髪に四角い銀ブチ眼鏡。鉄面皮に死んだような目、機械のように淡々とした喋り方。
おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる仏像様ことオーディンス副団長だった。
「お、お散歩ですね……、ハイ、参りましょうか」
屋敷の図書室にこもっている時間が長いので、午後は散歩をすることにしていた。
神薙様は一人でフラフラできないので、護衛の彼に連れられて、しずしずと庭園をお散歩する。
怪人クソメガネを脱した彼は、ただのカタブツメガネになり、安定のロボット感を醸し出していた。
彼はほとんどアンドロイドだ。
きっとロボット工学の権威が作った知恵の結晶なのだと思う。
彼を見ていると、体温とか血圧とか、あらゆるものを測定して『生命活動の見える化』をしたくなる。
他愛のない日常会話が思ったほど上手くいかないので、扱い方が良く分からないのだ。
食べ物やワインの好みなど、無難な話題を振ろうとしても、「いや、待てよ?」と腕組みして考えてしまう。
そもそも彼は、口からエネルギーを摂取できる型式なのだろうか、と。
リチウム電池を充電するタイプかも知れない。
OSのバージョンアップをしないと消化できない食べ物がありそうだ。
紅茶に入れたレモンの酸で徐々にボディーが腐食するので、定期メンテナンスが必要だろう。
表情が変わらないのは、もしや機能制限されている「無料お試し版」だからだろうか?
いや、感情表現に既知のバグがあるものの修正の目途が立っていないのかも知れない。
いずれにせよ大型バージョンアップが必要ですよ、この機種は……。
「神薙様、何か?」
「へっ? あ、なんでも、ないです……」
あ、危ない危ない。
生身の人間(のはず)なのに、なぜかIT系ネットニュースにありがちな単語が次々思い浮かんでしまう。
イケメン集団の中で抜きん出てオカシイ彼を見ていると、少しホッとする自分がいる。
周りが美形ばかりという特殊な環境で、わたし一人だけが美しくない生き物なのではないかと怯えることがある。しかし、彼を見ていると相対的に自分が普通に思えたし、むしろ妙な仲間意識すら感じることがあった。
わたし達はサンドウィッチ屋さんに並べられたおにぎりみたいなものだ。そこにいても良いけれど、「なんか違うね」と言われるような存在だった。
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