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第一章 神薙降臨

第4話:幸福の定義

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 チラリと上目遣いでイケオジ陛下の様子を窺った。
 伝われ……。頼むからこれ以上、へんなことは言わないで。

 陛下は一度頷くと「神薙は繁栄の象徴だ」と言った。「我が国で幸福に暮らしてほしい。それが神薙の仕事だ」

 陛下の言葉に宰相も頷いた。

 幸福になることが神薙の仕事だと言われても、なんだかピンとこない。なぜわたしの幸福が「繁栄の象徴」になるのだろう? ただわたしが「ハッピー」と言っているだけでは繁栄なんてしないでしょうに。それに、お仕事と呼ぶには随分とラクだ。

 怪しいですね……。
 こういうおいしい話って、必ず裏があると聞きますが?

 わたしはジトっと二人を交互に見た。
 疑われていることに気づいたのか、そこからイケオジ陛下と宰相によるプレゼン大会のようなものが始まり、徐々に二人の言う「幸福」の定義が明らかになっていった。



 この大陸には「天人族」と「ヒト族」と呼ばれる二種類の種族が暮らしているらしい。
 同じ部屋にいる陛下、宰相、くまんつ団長と騎士の皆さんを見ても、いったい誰が何族なのか、外見ではまったく見分けがつかない。
 わたしは天人族でもなく、ヒト族でもない。「神薙様」という種族だそうだ。あえてナントカ族という表現に統一するとしたら「地球人族」あたりになるのだろう。

 天人族とヒト族の最も大きな違いは、魔力の有無だそうだ。天人族には魔力があるので、ヒト族よりも高度な仕事ができる。だから国の支配層に集中していて、皆さん裕福なのだとか。陛下、宰相、くまんつ団長、いずれも天人族だった。

 わたしとしては「魔力」という単語が衝撃的なのだけれども、それについて詳しく聞いていると話がややこしくなるので、今はスルーしておくことにした。

 陛下は「天人族の中から愛し合える相手を見つけて欲しい」と言う。
 長く暮らしていれば好きな人もできるだろうし、それだけで良いのなら大丈夫かな、と思った。ところが、話は予想もしなかったほうへと転がっていく。

「夫や恋人は一人である必要はない」

 わたしは思わず「はっ?」と言った。

「ん? 好きなだけ男を選んで良いぞ?」
「えっ?」

 このイケオジは何を言っているのかな??

「この国は一夫一妻制だが、神薙に限っては夫の数に上限がない」

 は…ぐぅ……。

 思わずのけぞった。
 予想もしてなかった場所から、突然ミサイルをバコーンと撃ち込まれたような気分だった。逃げなくちゃと思う前に、もう被弾していた。

 わたしは無意識にソファーで身をよじっていた。
 陛下の言葉の意味は分かる。けれども、その価値観がまったく分からない。
 ぷるぷる震えながら視線を逸らすと、宰相が回り込むように優しい口調で言った。

「夫は最低でも二人はお持ちください。我々の望みは神薙様の幸福。ただそれだけなのです」

 ど、どなたか、陛下と宰相のお口にチャックをお願いします。じゃないと、また泣きそうです……。
 男性を選び放題で? 結婚し放題? 夫は最低でも二人? ふ、ふたり?
 それが、わたしの「幸福」って?
 かかか価値観がぶっ飛んでやしませんか?
 自分達が良くても、わたしに都合が良くないことだってあるのですよ。しかも、それ、倫理的にダメなやつじゃないですかーっ(泣)

 このお姫様コスプレのような格好で、二人の旦那さんと暮らす姿を想像しただけで、もうほとんどコントだ。
 旦那さんAと旦那さんB、毎日わたしはどっちの旦那さんと一緒に寝るのだろう。交互? お当番制? 旦那さんAは「月水金」担当で、旦那さんBは「火木土」担当とか?

 旦那さんて、ゴミの日か何かなの……?

 日曜日はどうするのだろう。三人で寝る? これが本当の「川の字で寝る」というやつですね?

「も、申し訳ありません。わたしにはとても無理です。どうにか頑張って元の世界に帰して頂けませんか? それが叶わないのなら、当面の生活費と家と、あと……っ」

 なんだか分からないけれど体の震えが止まらない。手の平に変な汗が滲み、上半身だけがぷるぷる震えて仕方がない。
 そんなわたしに向かって、宰相は眉尻を下げながら言った。

「夫が住む宮殿は追加もできます。百人でも二百人でも大丈夫ですので。なんとか。なんとか、お願い致します! 神薙様!」

 わたしは目を閉じて天井を仰いだ。
 宰相さん……そうじゃないです。物凄ぉく勘違いしています。わたし「二人じゃ足りない」という意味で「無理」と言ったわけではないです……。

「リア殿、頼む。このとおりだ」と、陛下が頭を下げた。
「どっ、どうして旦那さんが必要なのですか。それも二人も。わたし、そういうのはできません。本当に本当に無理です」

 食い下がる宰相と陛下が「頼む頼む」とペコペコ、こっちは「無理です無理です」とペコペコ。
 わたしは必死でイヤイヤをした。

「幸福と結婚は必ずしも同じことではありませんからっ」
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