#ツインテールな君

羽川明

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『第六話』

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 本日も晴天なり。
 ギラギラ光る初夏の陽気が、一瞬で僕を汗だくにする。……まだセミも鳴いていないというのに。
 ともあれ、珍しく僕はテールの働く服屋の前にいた。看板の文字がおしゃれな筆記体で書いてあるせいで、なんと読むのかはわからない。
 言うと怒られるので、いつも黙っている。大方"ツインテールラブ"とでも書いてあるんだろう。僕ならそうする。
 中に入ると、案の定冷房が効いていた。
 控えめに言ってこぢんまりとしたこの服屋さんでも、週末はそれなりに繁盛しているんだとか。
 けれど今日は平日ということもあって、お店にそれらしい人影はなかった。ちょっぴりホッとして、僕は迷わずカウンターへ向かう。気づいたテールが露骨に顔をしかめた。
「本日はどう言ったご用件でしょうか」
 無表情×棒読みで聞かれる。細められた目が死んだ魚みたくなっていた。
 ここでのテールは大抵こんな感じだ。髪もツインテールではなく、おろして一本にゆるくまとめて、肩の上にのせている。
「エアコンが壊れました」
 一瞬げっという顔になったあと、無理矢理すまし顔に戻る君。
「冷やかしはご遠慮ください」
「君んち、行ってもいい?」
「……冷やかしはご遠慮ください」
「冷やかしじゃないよ。いや、ホラ、そろそろご両親にもあいさつしないと」
「……でしたら、あちらのノースリーブシャツなどいかがでしょうか?」
 手のひらで示せばいいものを、ビシッと指を立ててうながしてくるので、どことなく脅迫感があった。
 振り返ると、上半身だけのマネキンに、フリフリのノースリーブが着せられていた。
「いや、アレ女物じゃん。……ちょっと高いし」
「いかがでしょうか?」
 身を乗り出してぐいと迫ってくる。僕じゃなかったら脅迫だ。
「……ナニ、買って欲しいってこと?」
「いかがでしょうか?」
 カウンターに手をついて、さらに身を乗り出してくる君。
 息がかかるような距離にドキリとする。このままキスされるんじゃないかとさえ思った。
「わっ、わかった、わかったから。……買うよ」
 途端に君はさっと身を引いて、ニッコリ満面の笑み。
「お買い上げ、ありがとうございます」
 お返しに僕は、下着に見えなくもないフリフリのノースリーブを、忘れ物だと言ってテールの家に届けに行ったのだった。
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