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15 罰はくだった

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「大変だ! ご婦人達のテントに魔獣が!」
「きゃあっっ!!」
「魔獣よ!」

 そんな叫び声が聞こえ、私も慌ててテントから飛び出た。

 茂みの中から現れたのは、コモドオオトカゲに似た魔獣!
 しかも数体!
 私は反射的にメイドの手をとって逃げた!
 魔獣とは反対側の森の方に!

 そして足がもつれそうになりながらもしばらく走ると野生の藤の花があった!
 この花は魔除けになると聞いたことがある!

 私とメイドは藤の花の下に走ったら、急にシュルッと音がした!


「えっ!?」
「きゃあ! お嬢様っ! ツタが!」

 何故か分からないけど藤の花のツタが急に伸びて私に絡まった!!
 私と手を繋いていたメイドも一緒に!


 嘘!? これって藤の花に見せかけた魔物の種類だったりするの!?


「ごめん! この花は魔除けになるかと思ったの!」
「お嬢様! あの大トカゲの魔獣がどこかに行きます!」

 確かに何故か魔獣はUターンしてる!

「この花の蔦から逃げたいんじゃないの!? 捕まると養分を吸われるとかで!」

 私は身動ぎしてなんとか蔦から脱出できないか試みるが、無理っぽい!

「で、でもトカゲに噛みつかれて生きながら食べられるよりはマシな死に方でしょうか!?」
「ポジティブかよ!」
 
 緊急時でも思わずそんな事を口走った私だったが、


「おほほ。いい格好ね、ウィステリア。ドラゴンが何故か立ち去ったのは残念だけど」
「イレザ!」


 このタイミングで出てくるとは!
 しかもあちらは護衛騎士も二人連れてる!
 あそこの婦人用のテントには男性の護衛は立ち入り禁止ってなってたのに!


「でも、この花は何なのかしら、やはり花に見せかけた魔物なのかしら」


 イレザにもわからないらしい。
 いや、とりあえずは本来の目的を!


「イレザ形見! 言う通りに来たんだから乳母の形見を!」  

 イレザは私を見て、手にしたネックレスを指に引っ掛けて馬鹿にしたような表情で笑った。
 いかにも嘲笑って感じ。


「ああ、このパールピンクの真珠のネックレス? これから死ぬお前には不要なものじゃないの?」

「ま、まだ死んでないし!」
「まあ、いい感じに拘束されてるし、今なら苦も無く燃やせそうね」
「なっ!」



 ◆◆◆ エドラール公爵サイド ◆◆◆

「きゃああーっ!!」
『竜種じゃないか! なんでこんなとこに!』
「私の婚約者はどこだ!?」
『いやーっ! 助けて!』
「早く駆逐しろ!」

 くそ! 周囲の本物と声と心の声が多すぎる!!

「ウィステリア! どこだ!?」

 風に乗って森の上空を飛んでいたら、下の森の中にウィステリアの花が見えた!

 そして覚えのある火の魔力の気配!
 姉のイレザか!
 


「さあ、目障りなウィステリア、丸焦げになりなさい」
「ちょっと! メイドは関係ないでしょ! 巻き込まないで!」 

 だけど、彼女の叫びも虚しく、あの女は魔力を高めて呪文を……させるか!


『ファイヤーボール!!』
『アイスウォール!!』


 二つの魔法が激突し、火球は消えた!


「っ! 公爵!? なんで上から!」
「まさか空まで飛べるとは! 聞いてない! お嬢様、お下がりください!」

『アイスジャベリン!!』

「ぐあっっ!」
「きゃあ!」


 護衛騎士ごと足元をふっとばしたら、衝撃でウィステリアの敵はまとめて吹っ飛んだ。


「エド!」
「奥様! 旦那様が助けに!」

 私は地上に着地した。

「く、まさか風魔法と同時に氷の矢を!」
「同時詠唱なんてどうなってるの!」
「化け物め!」


 シュルリ。
 ウィステリアとメイドを囲んでいたツタが離れた。


「急に藤の花の拘束が取れたわ!!」
「どうやら苦情申し立ても効果はなかったか、伯爵令嬢とその親には。どうにも頭が悪いらしいな」


『ファイヤーボール!』

 今度は話の途中だが護衛騎士が怪我をしつつも私に向かって攻撃をしたが無駄だった。
 これも私の魔力の壁に阻まれた。
 そして、

「あっ! くそ! 動けない!」

 私の氷の魔法が敵の手と足元を凍らせた。

「蹴るなら今がチャンスですよ、ウィステリア」

『ナイス! 旦那様ナイスです! 今のうちに乳母の形見も回収!』

「エド! ありがとうございます!」

 彼女はそう言って奴らが吹っ飛んだ時に地面に落ちたらしいネックレスを先に拾いあげ、大事そうにハンカチに包んで、上着の内ポケットに入れた。

「ちょっと、まさか、ウィステリアあなた、姉に向かって」
「お前などが……姉であるものか!」

 ガッ!!

 氷の魔法が足元を、覆って動けないイレザの顔面に、ウィステリアの蹴りが華麗に決まった!

「ぎゃあ!」

 イレザ伯爵令嬢は鼻血を出した。


「お嬢様!」
「こ、こんな屈辱、覚えておきなさい!!」


『絶対に殺してやるから! ウィステリアなんか化け物公爵もろともいつか!』

 心の声からしてやはり懲りてないらしい。


「覚える必要はないな」
「な、なんですって?」


 私の殺気を感じとったのか、奴らは顔色をなくした。


「ここで死ねばすべて終わりだ、どうせ事故に見せかけて私のことも妻のことも殺す気だったのだろう、バレバレだ」
「えっ! エド待って! そんな簡単に殺すんですか?」

「その方が今後の憂いがないのでは?」
「そこの騎士はともかくイレザは娼館に売り飛ばしてやりましょうよ」
「はあ!?」


 イレザがさらに顔を歪めた。


「この女は最大限の屈辱を与えて、客からろくでもない病気もらって惨めに死ねばいいと思うの」

『な! なんですって! 冗談じゃないわ!』

「い、いっそここで殺しなさい!」
「嫌だけど?」

『くっ、屈辱だわ! ウィステリアのくせに! 生意気な!』
『あんな悪者でもエドに女殺しはさせたくないし』

 なるほど、私に女を殺してほしくないのか。

 それなら仕方ないな。
 そのようにしよう。


 * * *

 ちなみに茂みに隠れていた貴族の方はどうなったかというと、負傷者を集めたテント内にて騒いでいた。


「くそ、公爵の巻き起こした冷たい風で片腕がこんな凍傷になるとは!」
「早く治癒師は癒やしの魔法を! 夫は伯爵なのよ!」
「それが、どういうわけか癒やしの術が発動しません!」
「なんですって!」

「どういうことだ!?」
「分かりません!」
「凍傷のままだとどうなるの!?」

「壊死します」
「え、壊死ですって!」

「大変だ! 伯爵夫人が倒れた!」
「あっ! 伯爵も倒れた!」














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