化け物公爵と転生令嬢の事情 〜不遇からの逆転〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
7 / 16

07 前世の話

しおりを挟む
 デートの終わりの帰り道。
 馬車の中で揺られつつ、本を抱えたままの私は前世の事を思い出していた。

 * * *

 時枝美咲。
 それが前世日本人だった時の私の名前。

 私はあまり自分の物を持っていなかった。
 大切な思い出の心の拠り所にやるようなもの。
 母は私を養うだけでも精一杯だったし、お小遣いも少なかったから。

 物心ついたら父親はフィ◯ピン女に入れあげて日本からいなくなってて、お母さんは私を一人で育てる羽目になった。
 水商売をやってて、忙しくしてるか仕事から帰って寝てるか、男といるか。
 長くさみしい人生だったな。
 ほのかに会うまでは。

 お母さんは料理なんてのも、殆どしなくて小銭渡されて後は自分で何とかしろってスタイルだった。

 まあ、小銭でもゼロよりはよかったよ、パンとか買えたしね。

 だいたいスーバーとかの店で買ったものばかり食べてたら、クラスメイトの一人、オタクよりの子、春野ほのかが教室の自分の席で一人でお弁当食べてて、

「お弁当、美味しそうだね」

 って、何気に言ったら、ミートボールと卵焼きとウインナーとやや小さめの俵型おにぎりを蓋に乗せて、よければ食べる? って聞いてくれたので、ありがたく食べたら美味しかった。

 家庭の味ってこんなんかな? って思ったりして。

 それが彼女との、最初の接触だった。
 まともに喋って交流した記念の日。

 その後、昼休みの時間とかに弁当食べたらいつの間にかいなくなってて、どこに消えたかと思ったら、ある日、屋上に続く手前の階段で本を読んでたのを見つけた。

 読んでたのは恋愛系のラノベだった。


「なんで教室で読まないの?」
「ここの方が人がいなくて集中できるし」
「あ、ごめん、私、もしかして邪魔だった?」
「ううん、いいよ別に」

 彼女は、ほのかはまだ本に視線を落としたままだった。
 ても私はなにげにまだ会話を続けた。


「屋上って施錠されてて行けないんだね」

 屋上の扉には鎖が絡まり、南京錠がついてて侵入禁止になっていた。

「漫画ならたいてい行けるのにね、私もワンチャン行けるかと最初に見に来たけど、無理だった。
飛び降り防止とかかもしれないから仕方ないね。
あ、でも静かで人がいないから本を読むにはいいかもって」

「へぇ、漫画だと屋上に行けるの?」
「少女漫画だとわりと不良っぽいヒーローが昼寝したりしてるかな」
「あんまり漫画とか読まないから知らない」
「ごめん、漫画の話とか嫌いだった?」
「違う、単に小遣い少ないから漫画とか持ってないし」

「私のでよければ貸せるけど」
「え? いいの? ありがとう、めちゃめちゃ読みたい、放課後とか暇だから」


 そしてほのかから漫画やラノベを借りたりして、色々読ませて貰って仲良くなった。
 高校も何とか地元の同じとこに行けた。


 そして漫画やラノベの貸し借りは中学の時の話で、高校になってからは無料で読める小説サイトやら漫画アプリとか出てきて、毎日無料で一話ずつ読めたりするようになって、楽しく感想を言い合ったりした。

 そして高校3年のある日、誕生日プレゼントに私の為の物語をノートに描いてくれた。

 その物語の中では、私には優しい家族と可愛いペットもいた。
 愛に溢れた優しい物語だった。

 世界観がファンタジーになってたけど、私もかなりオタクよりの人間になっていたし、私が自分で、スマホアプリ内で作ったオリジナルキャラのアバターを参考に私を主人公にしてくれてた。

 そして高卒で大学に行く金もなかった私はしばらくバイト生活してたし、お金の為に知らないおじさんと飯食ってお小遣いをもらったりもした。

 たまに昼のコンビニバイト先の人に自慢したら結局絵空事っていうか、ただの文章内のことだから現実とは違うし、逆に虚しくならない? って言った人もいたけど、私はとても嬉しかった。


 ほのかの書いたノートの中の物語の中では、私をとても幸せな女の子にしてくれていたから。
 善意しか感じなかった。

 だってせっかく楽しみにしてた漫画の更新もあるのに、それをお預けにしてでも、誕生日に間に合わせる為にせっせとノートに小説を書いてくれたし。

 それこそ本当に涙が出るくらい嬉しかった。

 …………。

 いつの間にか、私は寝てた。
 しかも公爵の肩にもたれて!

 目からは涙が出ていたし、夫たる公爵は何故か上を向いていた。

 うっかり泣いて涙で目が覚めたなんて恥ずかしい。
 私は服の袖でこっそりと涙を拭いた。























しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください

悠木真帆
恋愛
冒険者ギルド職員のサリサは冒険者たちの活動のために日々事務仕事に追われている。そんなある日。サリサの観察眼に目をつけた領主ヴィルテイト・リーベルトが冒険者ギルドにやってきてダンジョンで見つかった変死体の謎解きを依頼してくる。サリサはすぐさま拒絶。だが、その抵抗を虚しく事件解決の当事者に。ひょんなことから領主と冒険者ギルド職員が組んで謎解きをすることに。 はじめは拒んでいたサリサも領主の一面に接して心の距離が縮まっていくーー しかし事件は2人を近づけては引き離す 忙しいサリサのところに事件が舞い込むたび“領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください”と叫ぶのであった。

「きみを愛することはない」祭りが開催されました

吉田ルネ
恋愛
わたしの婚約者には恋人がいる。 初夜に、彼は言うのか言わないのか。あのセリフを。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢

しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。 その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。 そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。 「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」 両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。 自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。 「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」 フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。 蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。 自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。 (そもそも初めて会ったのに何故?) けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……? ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。 お読みいただけると嬉しいです(/ω\)! カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。

処理中です...