6 / 16
06 お忍びデート
しおりを挟む
公爵と変装してお外に出た。
お忍びデートだ。
公爵はフード付きコートを着てフードで頭部もなるべく隠そうという魂胆のようだ。
私はメイドの仕事服を借りてきたからメイドに見えると思う。
金持ちのお嬢様に仕えるメイドが、お嬢様の命令でいらなくなったウェディングドレスを売りに行くと言う風に見えるように。
そんな訳でドレスを二着売ってお小遣いというか、デート資金にするつもり。
でも片方はそもそも中古だ。
値段はあまり期待できない。
とはいえ最低でも屋台飯くらいは流石に買えるでしょ?
* *
私達は中古も扱う衣装店に入った。
茶色やグレーや銀色の毛皮のコートなどが目立つ。
流石に冬の長い北部のお店って感じ。
革製品も多い。
「うちだとこちらの新品同様の美しいドレスが金貨五枚、こちらの中古は銀貨五枚ってところです」
思ったより高い!
金貨なら十分でしょ!
「それでいいです」
「このような華やかなドレスがこの辺で売れるのか?」
公爵はドレスが売れ残るか心配なのか、そんな事を聞いていた。
「毛皮の仕入れに来る旅の商人あたりに売れると見込んでおります。このシルバーウルフやシルバーフォックスの毛皮などは貴族様にも人気があるので」
「ああ、なるほど、毛皮の買い付けのついでにな」
なるほどねと、私も納得して店の外に出て、次は……馬車に乗って市場に来た。
多種多様な店が並んでいた。
八百屋、肉屋、雑貨屋、食べ物の屋台等。
私は思わずガラス瓶の並ぶ雑貨屋で足を止めた。
「このガラス瓶、綺麗」
エジプトのガラスの香水瓶に似てる気がする。
「ではこれを買おう」
なんと、公爵がガラス瓶をプレゼントしてくれた!
化け物どころか普通に優しいな!?
まあ、初夜はすっぽかされたけど。
◆◆◆ 公爵サイド ◆◆◆
彼女がガラス瓶を気に入ったみたいだから買ってみた。
まだまだ初夜をすっぽかした罪はこのくらいでは贖えないだろう。
でも女性というものは自分の結婚式で着たドレスは思い出のものとして大事にとっておくなり、いずれ娘に譲るとかすると本で読んだことがあるのだが、本当にいいのか? ここで手放して。
大事に取っておくパターンは恋愛結婚の場合だけで、意に沿わぬ結婚などなら忌まわしいものとしてさっさと始末したいということか?
いや、でもこの外出をデートと思ってるフシがある。
分からない。
心の声が度々聞こえていてさえ混乱する。
「あれは、もしや本屋では?」
「そうだが」
「寄ってみても?」
「ああ、かまわない」
彼女は足取りも軽く本屋に向かった。
本が好きなのか。
『ウィステリアの記憶があるからこの世界の文字も読めて助かるわ。でも私の好みの話の本はあるかなぁ?』
本棚の前で彼女はウロウロしている。
「どんな本が好みなんですか?」
「え、あ、そうですね。まず大前提はハッピーエンドで、ほのぼしていて、メインの登場人物が美味しいものを食べたりして幸せそうなやつです」
「……童話のようなものですか?」
『どっちかってゆーとラノベなんだけど、この世界にはないかな? あんまり文章詰まってなくて読みやすい感じの』
「あ、恋愛ものでもいいです」
「恋物語なら、こちらの棚のようですよ」
「ありがとうございます」
『うーん、ベストセラーとかあるのかな? よく売れてる人気があるやつ』
「店主、この店でよく売れてる本はどれだ?」
私は店番の店主に声をかけた。
「この冒険記やこちらの旅の商人の手記本です」
店主は二冊の本を取り出して見せてくれたが、これは女性の好みとは違うかもしれない。
「女性が好む恋愛ものは?」
「ああ、若い女性に人気があるのはこちらです」
赤い表紙の本とくすんだピンク色の表紙の本だった。
「では、そちらの二冊と先程の冒険記と商人の手記も買おう」
「ありがとうございます」
「え? 全部いいんですか?」
「冬も長く娯楽の少ない生活なので、本くらいは好きなだけ買っても、問題ありません」
冒険記と手記本も買っておけば城の騎士か誰かも読むかもしれないから、図書室においておけば無駄にはならないだろう。
「でも……これから春でしょう?」
「はい、それは確かに」
一応は春もある。暦の上ではもう春だし。
まだ寒いだけで。
「お外に出れるんですから、お花見ピクニックにもそのうち行きましょう」
「お花見ピクニック……」
わ、私とか!? 酔狂だな……
「ダメですか?」
「考えておきます……」
「花が枯れたり散る前には決断してくださいね!」
「はい……」
そういえば世間ではそういう季節を楽しむようなこともするのだったか。
この世界から憎まれているからこんな忌まわしい力を持っている気がして、そんな外の世界を楽しむとかいった発想がなかった。
外でも近くにいる人の声は聞こえるし……。
大勢の人の心の声は疲れる。
━━でも……彼女の思考にだけ集中していれば、あまりに不快にはならないな。
もちろんこれが彼女にバレたら彼女は嫌悪し、恐怖するだろうが。
「さて、本も買ったし、いよいよ食事にしましょうか」
『公爵は効率重視なとこがあるわね、自分でゆっくり本を探すより、ささっと目的の物がどこにあるか店主に聞いていたし、忙しいから早く帰りたいのかもしれない』
!!
あ、しまった。
別に急かすつもりではなかったが……もしかしてゆっくり自分で選びたかったのだろうか。
申し訳ないことをした。
気晴らしで外に出てきたんだろうに。
『可愛いくておしゃれな背表紙の本が沢山あったなー、もっと見ていても良かったけど、美味しいものも気になるからいいけど』
可愛い背表紙?
彼女は本の背表紙などに惹かれるのか。
一応覚えておこう。
「本を作ろうとしたら、お金はだいぶかかるでしょうか?」
「出版社が面白いと感じて買い上げれば作者は費用を出さずに済むと思いますが」
「ああ、なるほど」
「本を出したいのですか?」
「昔、友達が私の為に書いてくれた物語があって、でも私、昔はお金なくて、本にできなかったから、こちらではほら、さっきドレスが金貨になったし」
「つまり友達の本を出したいと?」
「はい。あの友達が見せてくれたノートは今は手元にないから、私が思い出して書くしかなくなりますが、忘れたくなくて、大事な思い出の物語を」
『前世はオタクの友達が私の誕生日にわざわざ私の好みのお話を書いてくれて感動したんだよね。
あんな心のこもったプレゼントを貰ったのは初めてだったから……』
何やらこちらの心まで温かくなるようだった。
彼女は前世ではいい友人がいたようだ。
お忍びデートだ。
公爵はフード付きコートを着てフードで頭部もなるべく隠そうという魂胆のようだ。
私はメイドの仕事服を借りてきたからメイドに見えると思う。
金持ちのお嬢様に仕えるメイドが、お嬢様の命令でいらなくなったウェディングドレスを売りに行くと言う風に見えるように。
そんな訳でドレスを二着売ってお小遣いというか、デート資金にするつもり。
でも片方はそもそも中古だ。
値段はあまり期待できない。
とはいえ最低でも屋台飯くらいは流石に買えるでしょ?
* *
私達は中古も扱う衣装店に入った。
茶色やグレーや銀色の毛皮のコートなどが目立つ。
流石に冬の長い北部のお店って感じ。
革製品も多い。
「うちだとこちらの新品同様の美しいドレスが金貨五枚、こちらの中古は銀貨五枚ってところです」
思ったより高い!
金貨なら十分でしょ!
「それでいいです」
「このような華やかなドレスがこの辺で売れるのか?」
公爵はドレスが売れ残るか心配なのか、そんな事を聞いていた。
「毛皮の仕入れに来る旅の商人あたりに売れると見込んでおります。このシルバーウルフやシルバーフォックスの毛皮などは貴族様にも人気があるので」
「ああ、なるほど、毛皮の買い付けのついでにな」
なるほどねと、私も納得して店の外に出て、次は……馬車に乗って市場に来た。
多種多様な店が並んでいた。
八百屋、肉屋、雑貨屋、食べ物の屋台等。
私は思わずガラス瓶の並ぶ雑貨屋で足を止めた。
「このガラス瓶、綺麗」
エジプトのガラスの香水瓶に似てる気がする。
「ではこれを買おう」
なんと、公爵がガラス瓶をプレゼントしてくれた!
化け物どころか普通に優しいな!?
まあ、初夜はすっぽかされたけど。
◆◆◆ 公爵サイド ◆◆◆
彼女がガラス瓶を気に入ったみたいだから買ってみた。
まだまだ初夜をすっぽかした罪はこのくらいでは贖えないだろう。
でも女性というものは自分の結婚式で着たドレスは思い出のものとして大事にとっておくなり、いずれ娘に譲るとかすると本で読んだことがあるのだが、本当にいいのか? ここで手放して。
大事に取っておくパターンは恋愛結婚の場合だけで、意に沿わぬ結婚などなら忌まわしいものとしてさっさと始末したいということか?
いや、でもこの外出をデートと思ってるフシがある。
分からない。
心の声が度々聞こえていてさえ混乱する。
「あれは、もしや本屋では?」
「そうだが」
「寄ってみても?」
「ああ、かまわない」
彼女は足取りも軽く本屋に向かった。
本が好きなのか。
『ウィステリアの記憶があるからこの世界の文字も読めて助かるわ。でも私の好みの話の本はあるかなぁ?』
本棚の前で彼女はウロウロしている。
「どんな本が好みなんですか?」
「え、あ、そうですね。まず大前提はハッピーエンドで、ほのぼしていて、メインの登場人物が美味しいものを食べたりして幸せそうなやつです」
「……童話のようなものですか?」
『どっちかってゆーとラノベなんだけど、この世界にはないかな? あんまり文章詰まってなくて読みやすい感じの』
「あ、恋愛ものでもいいです」
「恋物語なら、こちらの棚のようですよ」
「ありがとうございます」
『うーん、ベストセラーとかあるのかな? よく売れてる人気があるやつ』
「店主、この店でよく売れてる本はどれだ?」
私は店番の店主に声をかけた。
「この冒険記やこちらの旅の商人の手記本です」
店主は二冊の本を取り出して見せてくれたが、これは女性の好みとは違うかもしれない。
「女性が好む恋愛ものは?」
「ああ、若い女性に人気があるのはこちらです」
赤い表紙の本とくすんだピンク色の表紙の本だった。
「では、そちらの二冊と先程の冒険記と商人の手記も買おう」
「ありがとうございます」
「え? 全部いいんですか?」
「冬も長く娯楽の少ない生活なので、本くらいは好きなだけ買っても、問題ありません」
冒険記と手記本も買っておけば城の騎士か誰かも読むかもしれないから、図書室においておけば無駄にはならないだろう。
「でも……これから春でしょう?」
「はい、それは確かに」
一応は春もある。暦の上ではもう春だし。
まだ寒いだけで。
「お外に出れるんですから、お花見ピクニックにもそのうち行きましょう」
「お花見ピクニック……」
わ、私とか!? 酔狂だな……
「ダメですか?」
「考えておきます……」
「花が枯れたり散る前には決断してくださいね!」
「はい……」
そういえば世間ではそういう季節を楽しむようなこともするのだったか。
この世界から憎まれているからこんな忌まわしい力を持っている気がして、そんな外の世界を楽しむとかいった発想がなかった。
外でも近くにいる人の声は聞こえるし……。
大勢の人の心の声は疲れる。
━━でも……彼女の思考にだけ集中していれば、あまりに不快にはならないな。
もちろんこれが彼女にバレたら彼女は嫌悪し、恐怖するだろうが。
「さて、本も買ったし、いよいよ食事にしましょうか」
『公爵は効率重視なとこがあるわね、自分でゆっくり本を探すより、ささっと目的の物がどこにあるか店主に聞いていたし、忙しいから早く帰りたいのかもしれない』
!!
あ、しまった。
別に急かすつもりではなかったが……もしかしてゆっくり自分で選びたかったのだろうか。
申し訳ないことをした。
気晴らしで外に出てきたんだろうに。
『可愛いくておしゃれな背表紙の本が沢山あったなー、もっと見ていても良かったけど、美味しいものも気になるからいいけど』
可愛い背表紙?
彼女は本の背表紙などに惹かれるのか。
一応覚えておこう。
「本を作ろうとしたら、お金はだいぶかかるでしょうか?」
「出版社が面白いと感じて買い上げれば作者は費用を出さずに済むと思いますが」
「ああ、なるほど」
「本を出したいのですか?」
「昔、友達が私の為に書いてくれた物語があって、でも私、昔はお金なくて、本にできなかったから、こちらではほら、さっきドレスが金貨になったし」
「つまり友達の本を出したいと?」
「はい。あの友達が見せてくれたノートは今は手元にないから、私が思い出して書くしかなくなりますが、忘れたくなくて、大事な思い出の物語を」
『前世はオタクの友達が私の誕生日にわざわざ私の好みのお話を書いてくれて感動したんだよね。
あんな心のこもったプレゼントを貰ったのは初めてだったから……』
何やらこちらの心まで温かくなるようだった。
彼女は前世ではいい友人がいたようだ。
219
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説

妖精のいたずら
朝山みどり
恋愛
この国の妖精はいたずら好きだ。たまに誰かの頭の上にその人の心の声や妖精のつっこみを文章で出す。
それがどんなに失礼でもどんなに不敬でも罪に問われることはない。
「なろう」にも投稿しています。

呪われた令嬢と呼ばれた私が、王太子の妃になりました
ゆる
恋愛
「呪われた娘」と蔑まれ、家族からも見捨てられた公爵令嬢ロミー。
唯一の味方だった母を失い、孤独な日々を送る彼女に持ち上がったのは、侯爵家の嫡男・レオンとの婚約話。しかし、顔も姿も見せないロミーを「呪われた醜女」だと決めつけたレオンは、翌日には婚約を一方的に破棄する。
家族からも嘲笑われ、さらなる屈辱を味わうロミー――だが、その場に現れた王太子アレクセイが、彼女の運命を大きく変えた。
「面白い。そんな貴族社会の戯れ言より、お前自身に興味がある」
そう言ってロミーを婚約者として迎えた王太子。
舞踏会でフードを剥がれ、その素顔が明かされた瞬間、誰もが息を呑む――
ロミーは呪われた娘などではなく、絶世の美貌を持つ先祖返りのハイエルフだったのだ!
彼女を蔑んだ家族と元婚約者には、身分剥奪と破滅の裁きが待っている。
一方、ロミーは王妃となる道を歩みながらも、公爵家の地位を保持し、二重の尊厳を持つ唯一無二の存在へ。


冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした
義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。
そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。
奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。
そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。
うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。
しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。
テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。
ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる