化け物公爵と転生令嬢の事情 〜不遇からの逆転〜

長船凪

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02 化け物公爵

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 ◆◆◆ エドラール・ローセン・ブラード公爵サイド ◆◆◆


「奥方になられるウィステリア様が到着されました、お言いつけ通り、代々の公爵夫人の部屋にお通ししました」
「分かった」

 簡単に説明だけして執事はそそくさと退室した。
 この屋敷の者のほとんどは私を恐れ、避けている。

 しかしそれは当然のことだろう。
 誰しも他人の心の声が聞こえる化け物の側にはいたくない。

 迂闊に変なことを考えれば墓穴を掘ることになる。
 仕事とはいえ辛いことだろう。
 守秘義務があるから一度この城に入れば私の事も話せない。

 この噂が広がるのを避けている。
 皇帝もこの私の能力でスパイや反乱を企てる者をあぶり出しに使っているからだ。

 だから俺は生かされてる。
 忌み嫌われても、こんな化け物じみた特性を持ちながらも……。
 皇帝からの早く結婚しろという要請も断り続けていたが、ついに脅迫された。

 結婚して子を作らないと我が公爵領の税金を上げると言い出したのだ。

 冬が長く作物の収穫もあまり期待できなく、食料の殆どを輸入に頼る北部にそのような酷い事を……。
 ここまで来ると、もはや断りきれなかった。

 私に戦争に行けと命じるより酷いではないか、今でさえ、領民は楽な暮らしはしていないのに。

 ともかく皇帝の謁見の後、私は不思議な夢を見た。
 夢に出た白い猫の言う通り、ベルターニ伯爵家から妻を娶ることにしたのだが……。

 私は一つため息をついてから、息苦しさを感じて外に出た。
 しかし外と言っても庭だ。

 ん? 見慣れぬ金髪の女性がいる。
 華奢で儚げで美しい女だ……。

 ああ、あの人がもしかしなくても私の妻になる気の毒な女性か……。

 さて、あまり気は進まないが、ここの平安の為に、この新入りの本性を見てみるか……。
 私は静かに女性に近づいた。

 流石に近くに寄らないと心の声は聞こえない。
 女性は赤い顔をしてぼーっとしてる。


『あれ? この青い目と銀髪の人はもしかして……公爵? 私の夫になる人? 見た目は全く化け物感はないわね。むしろ絵に描いたような銀髪美形……年齢は27歳だったかしら』

 わりと普通の女だな……と、この時は思ったが、

『化け物公爵ねぇ……物語なら満月の夜に化け物や狼に変身したりとかするのだけど……できれば猫科、猫ちゃんであれ!!』


 ね、猫なわけがなかろう!!
 私は思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
 儚げな見た目によらないこの中身!


『あー、猫だったらいいな~、大きい猫ちゃん抱っこしたい。ふわふわだとなおいいし、大きな肉球触りたいし……!』

 何を期待しているんだ。私に肉球などないぞ。
 全く変な女だ。

 彼女の体は風に吹かれる柳の木のようにゆらゆらしている。

 あ、さては酔っているな?
 手に酒瓶を持っているし、こんな化け物に嫁げと言われて飲まずにはいられなかったのだろうが……   猫のお告げのせいとはいえ、悪いことをした。


「あ……っ」


 転ぶ!
 私は思わず倒れそうになった彼女を抱きとめた。
 軽い……な。


「危ない……足元に気をつけなさい」
「あの……もしかして、エド…いえ、ブラード公爵様ですか?」
「ああ」


 抱きとめただけなのに、なにかくすぐったい感じがする。
 不思議な感覚だ。
 まだ笑いの余韻が体内にあるのかもしれない。


「公爵様は満月の夜に変身したりするんですか?」
「っ!?」

 変な本の読みすぎでは?
 しかし、人のことは言えないが初対面で己の名を名乗りもせずに急にものすごくズバリと訊いて来るではないか。
 私が恐ろしくはないのか?


「変身はしない」
「本当ですか?」

『うーん、実は狼パターンと竜族の血を引いてて水に触れると鱗が出て来るパターンもあるよね? 水をかけたらどうなるかな?』

 また変なことを考えてるな、この女は。

「本当だ、変身はしない」

 まさか本気で水をかけて来るんじゃないだろうな?
 俺の腕をじっと見てるが。

「私を殺して食べる予定ですか? できれば食べないでいただきたいたいのですが」
「何を言ってるんだ。人間を食べる訳がないだろう」

『だとすると……どこが化け物なのかしら? あ、待って……なんかすごく眠い……あ、まだ名前を名乗ってもいなかった……ような……』

 女は俺の腕の中でガクリと意識を失った。
 酒が回ったのだろう。

 私は彼女を天蓋付きのベッドに運び、細く軽い体をベッドに横たえた。

 長い金髪が白いシーツの上で波打つ。
 とても……綺麗な娘だと思った。
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