56 / 58
56 「雷神召喚」
しおりを挟む
完全に覚悟完了みたいな顔で神下ろしを決断なさったカーティス様の件を、私はティア様に相談に行った。
「ティア様からカーティス様をお止めしてくだませんか?」
流石に自分の主人が止めろというなら諦めるかも、そう思ったので。
「でも、守りたい者を守れずして騎士の矜持は……私には止められないわ。気持ちが分かるから」
「セレスティアナはな、家族や領民守る為に自分の命を捧げるような女だから、カーティスの方に共感してしまうぞ。
其方はもう無事と勝利を祈るほかあるまい」
ティア様の隣にいたギル様までそんな事を……。
「私も手を貸す。エテルニテにあのような魔女が住み着いていてはこちらとしても困る」
「もちろん私も何か有れば回復魔法でサポートするつもりよ」
「ギルバート様とティア様まで現場に行かれるという事ですか?」
「海の魔女が貴女を狙って来るなら、貴女が囮役になってしまうでしょう。
私は私の部下を守る責任があるので当然そうなるわ」
あ、そう言えばそうだわ……。
なんとか早めに倒してしまわないと、私はティア様の側にもいられないし、エテルニテの海にあんな危険な魔女を野放しにしておけない。
*
カーティス様はライリー内の神殿へ向かう事になった。
私も神殿へ駆けつけた。
さっきから巫女達の歌う聖歌が聞こえて来る。
「カーティス様」
「リナさん、今から私は神下ろしの為の禊の儀式です」
強い瞳だった。
彼のその意思は、揺るぎそうにない。
「……はい。
その時が来たら、私の御守りを、代わりに持っていて下さい、私が囮になります。
魔女は、外した時に来る気がします」
「分かりました」
禊の儀式の後に、私とカーティス様は転移陣でエテルニテの海へ向かった。
海岸で、私はカーティス様に、自分で作ったお守りのブレスレットを渡した。
私は白い衣装の下に、水着を着ている。
万が一、魔女に海に引きずり込まれた時に備えて。
私は砂浜に立ち、足元に寄せて来る波に足を浸した。
晴れていた空が急激に雲を呼び、暗雲が立ち込める。
ティア様やカーティス様達は姿を隠す妖精の粉を自らにかけて、姿を消した状態で、ティア様の祈りを込めた剣を持って待機。
その剣の刀身と、カーティス様の背中には雷神召喚の呪文があらかじめ仕込まれている。
私が海辺で風を操る。
前も海で魔法の練習をしていた時に魔力を感知してあの魔女は現れたから。
水面が不自然に揺らいだ。
邪悪な気配がする。
水が渦を作って立ち上がり、魔女が姿を現した。
「おやおや、こんな所で一人で、犠牲になる覚悟でも決めたのかしらね、こちらとしてはちょうどいいけど」
狙い通り、魔女が来た!
「さあ、もっとこちらへ、海へおいでなさい……」
私は今、足先が寄せて来る波に触れるくらいの場所にいる。
「海の魔女よ、私が体を渡せば、故郷に津波は起こさないって約束してくれるんでしょうね?」
「ああ、もちろんさ、魔女は契約を守るもんだからね」
『いざ、我が身に降り来たれ! 雷神!! 招来!!』
突如天から雷が降って来る。
その下には姿を隠していたカーティス様が!
顕現!!
「何!? お前は!?」
神聖なる気を纏った青銀の髪の男性が立っている。
黒髪のカーティスさまの色が変化している。
半裸の背中には呪文が消えて、代わりに雷神の聖痕が浮き上がっている。
ふわりと私の体が宙に浮いた!
海から急速に遠ざかる!
『滅べ』
雷を纏う雷神は静かにそう言うと、剣の切先を魔女に向け、雷撃を放った。
圧倒的な力が、雷が魔女を襲った。
私は魅入られたように、動けないままだった。
「ぎゃあああああああっっ!!」
その断末魔を最後に、魔女は灰塵となった。
神の攻撃の一撃で死んだ。
カーティス様の髪色が青銀から黒に戻って行く。
雷神が帰った!?
ギル様の風の魔法で砂浜に運ばれていた私は慌てて駆けだした。
「カーティス様!!」
カーティス様に渡したブレスレットが、目の前でブツンと切れ、灰になったのが見えた。
鳥肌が立った。
走っていた私の足はもつれて、私は砂浜に倒れた。
すぐさま顔を上げた。
「カーティス様ぁ!」
もはや涙声になっていた私がそう叫んだ後に、カーティス様はそのまま砂浜に倒れた。
やはり人の身で雷神召喚は体に負担が多すぎたんだ!
私は大切な人を失うかもしれない恐怖に体が震え、喉がひりつき、胸がぎゅっと締め付けられた。
無事でいて!
「「リナ! カーティス!」」
姿を消して待機していたティア様とギル様が姿を現し、叫んで駆け寄って来てくれた。
ティア様は、転んだ私を助け起こし、ギル様はカーティス様の体を起こした。
「おい! カーティス卿! しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「カーティス! 生きているなら返事をなさい!」
「ティア様、私は大丈夫です、ちょっと腰が抜けたくらいですから、カーティス様の方を!」
「リーゼ! リナをお願い!」
「はい!」
ティア様といつの間にかいたラナン卿がカーティス様の方に駆けつけた。
女騎士のリーゼ卿が私を支えてくれた。
『癒しの光よ!!』
ティア様がカーティス様に癒しの魔法をかけてくださった!
これで助かる!
私はそう思った。
──でも、カーティス様は目を醒さなかった。
目の前が暗くなった。冷たい汗が流れた。
胸が……苦しい。
「ティア様からカーティス様をお止めしてくだませんか?」
流石に自分の主人が止めろというなら諦めるかも、そう思ったので。
「でも、守りたい者を守れずして騎士の矜持は……私には止められないわ。気持ちが分かるから」
「セレスティアナはな、家族や領民守る為に自分の命を捧げるような女だから、カーティスの方に共感してしまうぞ。
其方はもう無事と勝利を祈るほかあるまい」
ティア様の隣にいたギル様までそんな事を……。
「私も手を貸す。エテルニテにあのような魔女が住み着いていてはこちらとしても困る」
「もちろん私も何か有れば回復魔法でサポートするつもりよ」
「ギルバート様とティア様まで現場に行かれるという事ですか?」
「海の魔女が貴女を狙って来るなら、貴女が囮役になってしまうでしょう。
私は私の部下を守る責任があるので当然そうなるわ」
あ、そう言えばそうだわ……。
なんとか早めに倒してしまわないと、私はティア様の側にもいられないし、エテルニテの海にあんな危険な魔女を野放しにしておけない。
*
カーティス様はライリー内の神殿へ向かう事になった。
私も神殿へ駆けつけた。
さっきから巫女達の歌う聖歌が聞こえて来る。
「カーティス様」
「リナさん、今から私は神下ろしの為の禊の儀式です」
強い瞳だった。
彼のその意思は、揺るぎそうにない。
「……はい。
その時が来たら、私の御守りを、代わりに持っていて下さい、私が囮になります。
魔女は、外した時に来る気がします」
「分かりました」
禊の儀式の後に、私とカーティス様は転移陣でエテルニテの海へ向かった。
海岸で、私はカーティス様に、自分で作ったお守りのブレスレットを渡した。
私は白い衣装の下に、水着を着ている。
万が一、魔女に海に引きずり込まれた時に備えて。
私は砂浜に立ち、足元に寄せて来る波に足を浸した。
晴れていた空が急激に雲を呼び、暗雲が立ち込める。
ティア様やカーティス様達は姿を隠す妖精の粉を自らにかけて、姿を消した状態で、ティア様の祈りを込めた剣を持って待機。
その剣の刀身と、カーティス様の背中には雷神召喚の呪文があらかじめ仕込まれている。
私が海辺で風を操る。
前も海で魔法の練習をしていた時に魔力を感知してあの魔女は現れたから。
水面が不自然に揺らいだ。
邪悪な気配がする。
水が渦を作って立ち上がり、魔女が姿を現した。
「おやおや、こんな所で一人で、犠牲になる覚悟でも決めたのかしらね、こちらとしてはちょうどいいけど」
狙い通り、魔女が来た!
「さあ、もっとこちらへ、海へおいでなさい……」
私は今、足先が寄せて来る波に触れるくらいの場所にいる。
「海の魔女よ、私が体を渡せば、故郷に津波は起こさないって約束してくれるんでしょうね?」
「ああ、もちろんさ、魔女は契約を守るもんだからね」
『いざ、我が身に降り来たれ! 雷神!! 招来!!』
突如天から雷が降って来る。
その下には姿を隠していたカーティス様が!
顕現!!
「何!? お前は!?」
神聖なる気を纏った青銀の髪の男性が立っている。
黒髪のカーティスさまの色が変化している。
半裸の背中には呪文が消えて、代わりに雷神の聖痕が浮き上がっている。
ふわりと私の体が宙に浮いた!
海から急速に遠ざかる!
『滅べ』
雷を纏う雷神は静かにそう言うと、剣の切先を魔女に向け、雷撃を放った。
圧倒的な力が、雷が魔女を襲った。
私は魅入られたように、動けないままだった。
「ぎゃあああああああっっ!!」
その断末魔を最後に、魔女は灰塵となった。
神の攻撃の一撃で死んだ。
カーティス様の髪色が青銀から黒に戻って行く。
雷神が帰った!?
ギル様の風の魔法で砂浜に運ばれていた私は慌てて駆けだした。
「カーティス様!!」
カーティス様に渡したブレスレットが、目の前でブツンと切れ、灰になったのが見えた。
鳥肌が立った。
走っていた私の足はもつれて、私は砂浜に倒れた。
すぐさま顔を上げた。
「カーティス様ぁ!」
もはや涙声になっていた私がそう叫んだ後に、カーティス様はそのまま砂浜に倒れた。
やはり人の身で雷神召喚は体に負担が多すぎたんだ!
私は大切な人を失うかもしれない恐怖に体が震え、喉がひりつき、胸がぎゅっと締め付けられた。
無事でいて!
「「リナ! カーティス!」」
姿を消して待機していたティア様とギル様が姿を現し、叫んで駆け寄って来てくれた。
ティア様は、転んだ私を助け起こし、ギル様はカーティス様の体を起こした。
「おい! カーティス卿! しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「カーティス! 生きているなら返事をなさい!」
「ティア様、私は大丈夫です、ちょっと腰が抜けたくらいですから、カーティス様の方を!」
「リーゼ! リナをお願い!」
「はい!」
ティア様といつの間にかいたラナン卿がカーティス様の方に駆けつけた。
女騎士のリーゼ卿が私を支えてくれた。
『癒しの光よ!!』
ティア様がカーティス様に癒しの魔法をかけてくださった!
これで助かる!
私はそう思った。
──でも、カーティス様は目を醒さなかった。
目の前が暗くなった。冷たい汗が流れた。
胸が……苦しい。
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。


婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる