【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

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53 「オレンジ」

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 ~ カーティス視点 ~

 夏の終わりにセレスティアナ様と並んで庭園のマリーゴールドを摘んでいた。

 赤とオレンジの色が鮮やかで綺麗なマリーゴールドだった。

 とても美しい光景だった。
 そこではゆっくりと時間が流れているかのようで、まるで楽園の乙女達のようだ。

 今年もあの花は洗って干してお茶にされてティータイムに出て来た。

 茶を飲みながら思い出す。
 木の枝に網製の蓋を被せたザルごと吊られたマリーゴールドの花が風に吹かれて揺れているのを見た記憶がある。

 メイドの入れてくれた茶を飲み終えた。
 今日は急に休みになった事だし、お茶菓子に使えるお土産でも買って来ようと思いついた。

 城外に出て、竜舎の側に来ると足元に色付いた落ち葉が重なりあっている。
 楓の木も色着き、メープルシロップを買おうと思った。


 王都の店まで行って来よう。
 私は自分の竜の世話をしてから、転移陣へ向かった。

 *

 甘い物が好きな彼女が喜んでくれるかもしれないと、雑貨屋でメープルシロップをお土産に買って店を出た。

「あ、カーティス兄さんじゃないか。どうしたの? 今日は休み?」

 声をかけて来たのは私の弟のエクムントだった。

 ギャンブルで借金を作るような愚かな所があるが、病に苦しむ幼馴染の薬代が欲しかったからなどと聞けば、やはり、憎めない。


「ああ、エクムントか」
「手紙は読んでくれた?」
「ああ」
「手紙にも書いたけど、エクストラポーションと宝石をありがとう。
本当に助かったよ」
「二度とギャンブルには手を出すなよ」
「はい……」

「そう言えば、リナさんに聞いたが、婚約者に贈る真珠は見つかったのか?」
「うん。頑張って一個だけ見つけた」

 弟は、はにかむように笑って言った。

「お前が見つけたレインボーパールは何色だったんだ?」
 

「オレンジ色だったよ」
「……温かい色だな。婚約者は喜んでくれたか?」
「ああ、オレンジ色のマリーゴールドのお茶が好きな娘なんで、喜んでいたよ」

「そうか……主人がマリーゴールドのお茶は若返りや美肌、健康にいいが、妊娠中や授乳中の女性は控えるようにと言っていたぞ」

 セレスティアナ様は物知りだ。
 良くは分からないが、デトックス効果がどうのとか……おっしゃっていたような。

「そうなんだ。順調に結婚したら伝えておくよ。
ところで、兄さんも今度の仮面舞踏会に行く?」
 
「私はセレスティアナ様の護衛だから普通に任務として行くとも」

 それにはリナさんも同行する。

「そうか、俺も婚約者のエスコートで出るよ。会場でもし会えたら彼女を紹介するよ」

「ああ」

 弟と立ち話をしていたら、道行く女性達がチラチラとこちらを見てくる。
 あんまりここでゆっくりしていたら、声をかけて来そうだ。

 こう見えて私はわりと見栄えがする方なので、一人でいるか男達だけでいると女性から声をかけられる。
 最近は積極的なレディが増えたと思う。

 特にこう、主のセレスティアナ様と公爵夫人のシエンナ様が水着を世間に流行らせてから……。
 貴族の夫人が流行を作れるのは結構な事なのだが、思わぬ所で余波がある物だ。

 
 弟と別れてから、私は書店に続く石畳の道を歩いた。
 そこらに植えられている街路樹も色着いているなと思いながら。


 古書も扱う書店に着いて、掘り出し物を探すも、めぼしい本は特に無かった。
 書店で二人の女性に声をかけられた。
 店員でも無いならそっとしておいて欲しい。

 せっかく本のインクの匂いに癒されに来たのに。

 本屋で探し物に時間をかけてしまったのか、いつしか陽は傾き、夕刻になった。


 酒場の前を通ると今日の仕事を終えた漁師が楽しそうに酒を飲んでいる。
 夕食前の稼ぎ時だろうに、近くの魚屋の親父さんまでも一緒に飲んでいる。

 ついでに魚も買って行こう。奥さんの方がまだ店に出ているはずだ。
 新鮮な魚は、セレスティアナ様にも喜んでいただけるかもしれない。


 メープルシロップと買った魚とで、変な組み合わせになってしまったが、まあいい。
 今日は冒険者風の服を着て来たから、魚を持っていてもそうおかしくはないだろう。



 オレンジ色の空が美しい。
 私は主と彼女のいるライリーの城にお土産を手に帰った。
 城に続く石畳の通路を歩いていると、美しい男性エルフと会った。

「おや、転移陣が光ったと思ったらカーティス卿か、今日は休みだったんだな、お帰り」
「はい、ただいま帰りました、アシェル殿」
「何か荷物が重そうだな、運ぶのを手伝おうか」

「ありがとうございます、魚なんですけど」
「構わんよ」

 ふと、魚の入ったカゴを持つ手首にあるブレスレットが目に入った。

「アシェル殿、いいブレスレットですね」

「ああ、以前ティアがくれたんだよ。君の手首にある、編まれたそれもそうだろう?」
「セレスティアナ様が編んだ物をリナさんからいただきました」

 女神のように美しきお二人の祝福を得ているのだ。

「おやおや」

 君も隅におけないなと端正な容姿のエルフは朗らかに笑った。


 リナさんとの二人きりの魔法訓練は中止になったが、私が主共々、守ればいい。
 前回は仕留め損なったが、たとえ敵が魔女だろうが、どんな相手であっても……。
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