上 下
51 / 58

51 「海から来た者」

しおりを挟む
 ~セレスティアナ視点~


『ティア~~! ようやく力が戻ったから、ぬいぐるみの体から抜け出たよ!』

 なんと! 
 私が一回死にかけ、いや、死んだ時に私を助ける為に、リナルドは消滅するレベルで力を使った。
 その体を維持し、顕現させる力が、ようやく戻ったのね!

「リナルド、そうなの!? 良かったわ! ところで……」
 
『何?』
「早速のお願いで悪いのだけど、一時的に姿を消すような魔法は無いかしら? 知らない?」

『妖精の身隠しの粉を使えば三時間くらい姿を隠せるけど……』
「よし! それで行こう! 護衛騎士はラナン以外、休暇を取らせる」

『あの焦ったい二人をこそっと見守ろうとか言う考え?』
「流石、リナルド。私の事はお見通しね。そんな訳で持ってるなら私とラナンの分の身隠しの粉を下さい」
『全くもう、ギルバートはどうするの?』

 ん~~と……。

「ガラス工房で働く人を探す仕事を押し付けて、強制的にお出かけしてもらうわ」
『やれやれ』


 *

 リナルドに呆れられても私は挫けなかった。
 騎士達に臨時の休みを通達して、ギルバートには上目遣いでおねだりのようにあざとくお願いをする。

「ギルバート、お手数ですが、ガラス工房は炉の側でかなり暑くなります。
暑さに強くて物作りの好きな職人を探して下さい」
「なんとも急な話だな、それを俺が探すのか?」

「はい、然るべき所で募集をかけて来てください。私は舞踏会の準備がありますので」
「仕方ないな……」


 *

 本日はリナとカーティスがエテルニテの地に魔法の修行に来ている。
 私は妖精の身隠しの粉を自らとラナンにふりかけ、気配を殺しつつ、二人で空飛ぶ船に乗って見守っている。
 ちなみにリナルドも姿を消して霊体でそばにいる。


「カーティス様、海で訓練するんですか?」
「風魔法も水に影響を与えれば、視覚的に分かりやすいでしょう?」
「なるほど」


 ラナンと一緒に魔法の船に乗ってて良かった。
 砂浜を歩いてたら不自然に足跡が残ってしまう。


「では、魔力を高めて、あの打ち寄せる波の一部のみを反対側に押し返してみましょう。
大切なのはイメージする力です」

 リナはキリッとした顔で両手を海に向かって突き出した。


「……ぐぐ……ふんぬっ!!」

 ザッッパ────ッ!
 波が一部分だけ、切り取られたように反対側に押された!
 

「やった!」
「お見事です、上手ですよ」


 それにしても、リナったら、可憐な顔してふんぬとか言ってた……。
 でも、そんな飾らないとこがかわいい。


「次は軽く小さな水の竜巻を起こしてみましょう、手本を見せます」


 今度はカーティスが魔力を高めた。

 海水が上空に吸い上げられるかのように、1メートルくらいの高さの水の渦を作った。

 水が渦を巻いてぐるぐると回転している。

「わあ……」


 リナが感嘆の声をあげて見入っている。
 パシャン! さっきまで海上にあった水のミニ竜巻が消えた。

「さあ、どうぞ、リナさんもやってみてください」
「はい!」


 リナが魔力を再び高めていく。


『風よ、水を巻き上げ、渦となれ……っ!』

 水が立ち上がって、渦を作った。それは小さな、30センチくらいの小さなミニ竜巻だった。
 リナとカーティスの目の目でそれは弾けて消えた。

 バシャン!

「あ……」

 カーティスとリナは弾けた海水で濡れた。


「す、すみません! 目の前で作りすぎました! 維持する時間も短くて!」
「大丈夫、ただの海水です。初めはこんな物でしょう」

「うう……」

「これが砂嵐の竜巻でしたら、目に入ったりして大変かもしれませんが、相手の行動を阻害する攻撃にも使えますから、悪くないですよ」

 カーティスはそう言って濡れた前髪をかき上げる動きをした。
 セクシー!!
 これが乙女ゲームならスチルになってる所だわ。

「あ、ハンカチをどうぞ」

 カーティスは手で静止し、明後日の方向を見て言った。

「そのうち乾きますから、私は大丈夫です、私より、貴女に着替えが必要です」

 はっ!!
 よく見たらリナのシャツが水に濡れて透けてる!
 どっちもセクシー状態じゃないの!

 これが漫画なら、背景にふぁ~~お! とかいう擬音が入っている感じ。


「……あっ!!」

 自分の惨状に気がついて、慌てて上半身を隠すリナ。

「屋敷に戻りましょう」

 カーティスはそう言って濡れたメガネを外し、それを手に持ってリナから背を向けた。


「す、すみません~~!!」

 そして砂浜を早歩きで進んだカーティスは近くのビーチチェアにかけていた布を取って、リナを包み込んだ。

 二人はそのままエテルニテのビーチの近くにある屋敷に着替えをしに行き、しばらくして戻って来た。


「今度は水着を着て来たので、大丈夫です!」
「はい」

 しばらく同じ水の渦を作る修行をしていると、海の方から緑色の長髪の女が現れた。

 一気に鳥肌が立った。雰囲気が邪悪だわ!


「あらあら、妙な魔力を感じると思ったら……綺麗な女ね。
その美しい銀髪、白浪のようで気にいったわ、お前、その体、私によこしなさいな」


『海の魔女!!』


 リナルドがそう叫んだ。
 緑色の髪が触手のように伸びてリナに向かって行く。


『風よ! 切り裂け!』


 カーティスの魔法が魔女の髪を切り裂いた!


「まあ、女の髪を切るなんて、酷い男ね」

 女の周囲の水が巻き上がり、津波のように二人に襲いかかった!


『風の盾よ!』

 カーティスは抜剣し、剣に魔力を乗せて、急に海に、いや、魔女の方に走り出して、水と共に風の刃を魔女に向かって放った!

 だが、水の壁が魔女を守った!

「くそ!」

 カーティスの悔しげな声が響いたと思ったら、次は悲鳴が上がった!


「ぎゃあああ!」

 魔女は背中から斬られた。袈裟がけに。

 青い血を流し、「伏兵か! 覚えておきなさい!」と、捨て台詞を残し、ザブンと海に潜って、魔女は姿を消した。

 魔女を後方から攻撃したのは、しれっと後方に回って抜刀したラナンだった。
 私達二人は姿を消していたあげく、魔女の注意は完全に前方のカーティスとリナに向いていたので、油断したんだと思う。


「カーティス様! 大丈夫ですか!?」
「リナさん、私は、大丈夫です、それより海に……」
「ま、魔女は何故か負傷して海に帰ったようですけど!」

「さっきのは私でもリナさんの攻撃でもありませんでしたよね、魔女の背後から隙をついたのは」
「え、あ……」

 リナとカーティスが海を見た。
 カーティスは眼鏡の縁を指で掴んでこちらを凝視した。
 やばい! リナはともかくカーティスには鑑定眼鏡で看破されそう!

「……ふっ」

 笑った! カーティスはこちらを見て確実に笑った。

「な、なんですか!? カーティス様! 何か見えたんですか?」
「本日の修行はここまでです、海に魔女が出た事を報告をしなければ」
「そ、そうですね」


 それにしても、ここの海ってあんな魔女がいたの!?
 それとも遠くからわざわざ来たのかしら?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...