【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

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42 「夜のケーキ作り」

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 夜のキッチン。

 腕まくり……かっこいい筋肉が見える。
 じゃなくて! 人生初のケーキ作りに挑むイケメン騎士様。

 大変良いものですね。
 

「カーティス様、このエプロンをどうぞ」
「ありがとうございます」

「そ、そしてティア様はどうしてここへ?」


 しれっとクリスタルを構えているのである。


「美女とイケメンの料理動画が撮りたくて。私の事は空気だと思って、気にしないで」


 ずいぶんと美しい空気である。


「コホン。では、気にするなとの事ですので、ケーキ作りを開始しましょう」
「何ケーキを作るのですか?」
「苺と生クリームのケーキのレシピはティア様がライリーの料理長に既に伝授していて、あちらで作って下さるそうなので、私達はチーズケーキを作りましょう。今回はふわっとした食感のスフレタイプで」

「やった──! チーズケーキ大好き! あ、いけない! 空気のくせに喋ってしまったわ」

 ティア様が撮影中なのに思わず声を出した。
 素直で可愛いらしい空気様である。

 
 気を取り直して、作業を開始します。


「今回、材料はたったの六つで作っていきます。
卵、砂糖、薄力粉、クリームチーズ、牛乳、レモン汁です」

「はい」

 カーティス様はイケボで素直に返事をくれた。
 この調子でどんどん指示を出していく私。


「ボウルに卵白を割り入れて下さい、卵黄と卵白は別々にします」
「はい」
「クリームチーズを火の魔石で加熱し、柔らかくしました。これをヘラで練って下さい」
「はい」
「滑らかになりました、OKです。
最初は卵黄をヘラの方が混ぜやすいのでヘラで混ぜて、……あ、そろそろ泡立て器に持ち替えて下さい」

「はい」
「牛乳を加えてまた混ぜます」
「はい」
「一度生地を漉しましょう、……はい、滑らかになりました」
「はい」

「次はダマにならないように薄力粉をふるって、加えます」
「はい」
「そして泡立て器でよく混ぜましょう」
「はい」

 まぜまぜ。

「その辺で大丈夫です。それは使うまで冷蔵庫で一旦冷やします」
「はい」
「オーブンを温めます」
「はい」

「卵白を泡立てますが、やり過ぎないように、スフレチーズケーキのひび割れ防止です」
「どのくらいで止めれば良いですか?」
「メレンゲに艶がでて……柔らかいツノが立てば……はい、その辺で止まって下さい」
「はい」
「そしてレモン汁と砂糖を加えて……」


 とにかくカーティス様にそのボウルの中身をかき混ぜて下さいとか、色々指示を出したりしたけれど、カーティス様はコキ使っても不平不満は言わず、まるで「はい」と返すボットのように素直に料理の手伝いをして下さった。

 えらい。

 カーティス様の素直で優秀なアシストで、問題なくケーキは出来上がった。

「完成しましたので、火傷に注意してケーキを型から外します」
「リナさん、その作業、代わりましょうか?」
「私は慣れているから大丈夫です、ありがとうございます」


 私は無事にスフレチーズケーキをお皿に乗せた。


「ふっくら膨らんで、焼き色も綺麗についてますね」


 カーティス様も満足げ。

「はい、すっごく滑らかでふわふわ食感になってるはずです。
半日とか一日冷蔵庫で冷やすとしっとりして食感が変わって、そちらも美味しいです」
「なるほど」


 そして撮影を終えたティア様が声をかけて来た。

「二人とも、お疲れ様でした。動画で手順も材料も撮影したから、今度料理人達にも見せて覚えて貰うわね。次回から楽したい時は料理人にお願い出来るように」

「はい、ティア様、ありがとうございます」

 気力がある時は自分で作るのも楽しいけど、疲れている時は人が作ったのを食べたいものね。


「さて、今回のギルバートの誕生日パーティーは、ちょっとライリーの城内の人達にも楽しめるようにするわよ」

「ティア様、使用人にも食べ物や飲み物を振る舞うという事ですか?」
「それはもちろん振る舞うわよ、それとは別に、宝探しが出来るの」

「宝探しとは?」

「石に模様とかを描いて、色んな場所に隠すの。茂みの中とか」


 隠してるのを探すあたりは、ちょっとイースターエッグのエッグハントみたいな感じかしら?


「集めた模様によって、交換出来る商品が微妙に変わるという……。
 宝くじを自分で探すみたいな物よ。
 交換出来るのはほぼクッキーとかのお菓子だけど、リボンなどの可愛いアイテムからお肉まであるわ」

「可愛いイベントですね」

 私の言葉にティア様はにこりと笑った。

「石に絵を描くのはライリーの城の使用人の子供達にも手伝って貰おうかと、絵の具は支給するし」
「お絵かきが出来て嬉しいかもしれませんね」

「リナとカーティスは孤児院で子供達の相手をして来たのでしょう?
子供達がお絵かきの時に石を配って見守り役をしてあげて。
リナは絵の具の使い方、分かるでしょう?」
 

 小学生の図画工作の先生役みたいな物かな? 
 しかし、その作業、カーティス様まで必要だろうか? 
 どう考えても騎士の仕事では無い。

 私は別にいいけど。

「はい、かしこまりました」


 とにかく私は主人の命令に従うまで。

「仰せのままに」

 カーティス様もすんなり了承したのだった。
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