【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
42 / 58

42 「夜のケーキ作り」

しおりを挟む
 夜のキッチン。

 腕まくり……かっこいい筋肉が見える。
 じゃなくて! 人生初のケーキ作りに挑むイケメン騎士様。

 大変良いものですね。
 

「カーティス様、このエプロンをどうぞ」
「ありがとうございます」

「そ、そしてティア様はどうしてここへ?」


 しれっとクリスタルを構えているのである。


「美女とイケメンの料理動画が撮りたくて。私の事は空気だと思って、気にしないで」


 ずいぶんと美しい空気である。


「コホン。では、気にするなとの事ですので、ケーキ作りを開始しましょう」
「何ケーキを作るのですか?」
「苺と生クリームのケーキのレシピはティア様がライリーの料理長に既に伝授していて、あちらで作って下さるそうなので、私達はチーズケーキを作りましょう。今回はふわっとした食感のスフレタイプで」

「やった──! チーズケーキ大好き! あ、いけない! 空気のくせに喋ってしまったわ」

 ティア様が撮影中なのに思わず声を出した。
 素直で可愛いらしい空気様である。

 
 気を取り直して、作業を開始します。


「今回、材料はたったの六つで作っていきます。
卵、砂糖、薄力粉、クリームチーズ、牛乳、レモン汁です」

「はい」

 カーティス様はイケボで素直に返事をくれた。
 この調子でどんどん指示を出していく私。


「ボウルに卵白を割り入れて下さい、卵黄と卵白は別々にします」
「はい」
「クリームチーズを火の魔石で加熱し、柔らかくしました。これをヘラで練って下さい」
「はい」
「滑らかになりました、OKです。
最初は卵黄をヘラの方が混ぜやすいのでヘラで混ぜて、……あ、そろそろ泡立て器に持ち替えて下さい」

「はい」
「牛乳を加えてまた混ぜます」
「はい」
「一度生地を漉しましょう、……はい、滑らかになりました」
「はい」

「次はダマにならないように薄力粉をふるって、加えます」
「はい」
「そして泡立て器でよく混ぜましょう」
「はい」

 まぜまぜ。

「その辺で大丈夫です。それは使うまで冷蔵庫で一旦冷やします」
「はい」
「オーブンを温めます」
「はい」

「卵白を泡立てますが、やり過ぎないように、スフレチーズケーキのひび割れ防止です」
「どのくらいで止めれば良いですか?」
「メレンゲに艶がでて……柔らかいツノが立てば……はい、その辺で止まって下さい」
「はい」
「そしてレモン汁と砂糖を加えて……」


 とにかくカーティス様にそのボウルの中身をかき混ぜて下さいとか、色々指示を出したりしたけれど、カーティス様はコキ使っても不平不満は言わず、まるで「はい」と返すボットのように素直に料理の手伝いをして下さった。

 えらい。

 カーティス様の素直で優秀なアシストで、問題なくケーキは出来上がった。

「完成しましたので、火傷に注意してケーキを型から外します」
「リナさん、その作業、代わりましょうか?」
「私は慣れているから大丈夫です、ありがとうございます」


 私は無事にスフレチーズケーキをお皿に乗せた。


「ふっくら膨らんで、焼き色も綺麗についてますね」


 カーティス様も満足げ。

「はい、すっごく滑らかでふわふわ食感になってるはずです。
半日とか一日冷蔵庫で冷やすとしっとりして食感が変わって、そちらも美味しいです」
「なるほど」


 そして撮影を終えたティア様が声をかけて来た。

「二人とも、お疲れ様でした。動画で手順も材料も撮影したから、今度料理人達にも見せて覚えて貰うわね。次回から楽したい時は料理人にお願い出来るように」

「はい、ティア様、ありがとうございます」

 気力がある時は自分で作るのも楽しいけど、疲れている時は人が作ったのを食べたいものね。


「さて、今回のギルバートの誕生日パーティーは、ちょっとライリーの城内の人達にも楽しめるようにするわよ」

「ティア様、使用人にも食べ物や飲み物を振る舞うという事ですか?」
「それはもちろん振る舞うわよ、それとは別に、宝探しが出来るの」

「宝探しとは?」

「石に模様とかを描いて、色んな場所に隠すの。茂みの中とか」


 隠してるのを探すあたりは、ちょっとイースターエッグのエッグハントみたいな感じかしら?


「集めた模様によって、交換出来る商品が微妙に変わるという……。
 宝くじを自分で探すみたいな物よ。
 交換出来るのはほぼクッキーとかのお菓子だけど、リボンなどの可愛いアイテムからお肉まであるわ」

「可愛いイベントですね」

 私の言葉にティア様はにこりと笑った。

「石に絵を描くのはライリーの城の使用人の子供達にも手伝って貰おうかと、絵の具は支給するし」
「お絵かきが出来て嬉しいかもしれませんね」

「リナとカーティスは孤児院で子供達の相手をして来たのでしょう?
子供達がお絵かきの時に石を配って見守り役をしてあげて。
リナは絵の具の使い方、分かるでしょう?」
 

 小学生の図画工作の先生役みたいな物かな? 
 しかし、その作業、カーティス様まで必要だろうか? 
 どう考えても騎士の仕事では無い。

 私は別にいいけど。

「はい、かしこまりました」


 とにかく私は主人の命令に従うまで。

「仰せのままに」

 カーティス様もすんなり了承したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

果ての光~軍人侯爵の秘密と強制結婚の幸福~

百花
恋愛
クラリスは美しい軍人将校の秘密を守る為に、命と引き換えに結婚を迫られる。 彼は優しく、クラリスを守ろうとしてくれるが二人の間には決して埋める事の出来ない大きな違いがあったのだった。 果たして二人は違いを乗り越え、本当の意味で寄り添っていく事が出来るのだろうか?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...