【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

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40 「ひまわり畑とキス」

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「リナ、今日、ひまわり畑に着いたら、カーティスにこれを渡しなさい」

 着替え最中にティア様はそんな話をしつつ、インベントリから箱を一つ出してきて私に手渡した。

 私が箱の蓋を開けて中身を確認して見ると……黒と銀と青の美しい組み紐と淡い水色の眼鏡拭きが入っていた。

「あ、組み紐と眼鏡拭き! ありがとうございます! もう納品されていたとは、思いの外早かったですね」

『それ、組み紐はティアが編んだ物だからお守り効果がちゃんとあって、お値打ち物だよ~~』

 リナルド氏! 突然ベッドの上から降りて来た!

「え!? いつの間に!? ティア様がわざわざ私の贈り物の為に手ずから!?」
「まあ……ね」


 ティア様はそう言って照れくさそうに笑った。


『寝る前とか……リナがお洋服を買いに行った日にせっせと編んでたよね』

 何と! ありがたい話である! 
 

「あのミリアン嬢はカーティスに宝石付きのベルトを贈ったそうよ、カーティスは石を外して弟に贈ったらしいけど」

 ミリアン嬢のプレゼントは宝石付きのベルトだったんだ! 
 でも組み紐はティア様製ならこっちのが価値が高い。
 いや、勝負じゃない。贈り物は心……。

 しかし、ベルトの石は容赦なく弟さんに下げ渡されている。
 速攻質屋とか直接自分の女に渡すよりかはマシなのかな。


「カーティス様にも弟さんがおられたんですね、でも何故わざわざ石を外すんでしょう」


 下げ渡すならベルトをそのまま贈っても良いのでは?


「カーティスの弟が婚約者に贈る指輪の石で悩んでたらしくて」

 ん?
 ご実家は婚約指輪に相応しい石をなかなか買えない、あまり裕福ではない感じなのかしら?

 それともどれにしようか迷っていただけ?


「兄が女性から貰った石で作られた指輪で、女性の方はいいのでしょうか?」
「女性がそうと知らなければ普通に綺麗なサファイアだろうから」

 まあ、それは、そう……か。
 本命の女性以外からの高価な贈り物を自分で持っていたくなかったのかな?

 ところで宝石が外されたベルトはどうなるのか。
 デザインが崩壊したんじゃないかな?
 私がそんな事を気にしても仕方ないのだけど……。


 *


 ひまわり畑のあるサルヴァトレ子爵領に行くのには転移陣を使った。

 花畑への道のりは馬車で移動。
 ギル様達は馬車の護衛で馬に乗って並走、外側にいる。
 馬車内はティア様と私の二人きりだった。

 流石に他領のピクニックお茶会にワイバーンを連れて行くのは遠慮したようだ。
 相手に恐怖感を与えるから。
 

 私は馬車の隣を馬で並走するカーティス様の姿を馬車の窓の中からボーッと眺めてた。

 夏空の下、鮮やかな緑の景色。
 その中を馬で翔ける姿が、本当に美しいと思った。


「あ、見て、リナ、ひまわり畑が見えて来たわ」


 青空の下のひまわり畑はとっても綺麗で壮観だった。


「はい! 黄色いひまわりが群生していて、見事ですね」

「背の高いひまわり畑で隠れるようにキスするってロマンが有るわよね。
乙女ゲームの新作で幼馴染と幼い頃にひまわり畑でキスをするって言うシーンを入れたいのだけど、ほっぺと唇、どちらが良いと思う?」


「まだ、小さい頃なら唇は早過ぎるのでは!?」
「やっぱり破廉恥かしら?」
「ほっぺの方が無難では」

「でもほっぺならひまわりに隠れる必要有る?」
「いやぁ~~、あるんじゃないですか? 相手が貴族の令嬢とかなら」
「二人は将来結婚しようって約束はしてるの」

「婚約者でも、一応は、人目を気にした方が……」
「そう……じゃあ大人になって再会してから唇にすればいいか」
「そ、そうですね」

 新作が出るんだ! これは私も楽しみ。

 私はカーティス様への贈り物をカゴバッグに入れて来た。
 今は籠ごと私の膝の上だ。
 どんなタイミングで渡せば良いのかな?
 ちょっと緊張する。

 組み紐はティア様が編んだ物って、言えば、他の人に下げ渡されたりはしないわよね?
 眼鏡拭きも眼鏡を持っている人が使わないともったいないし。

 
 ピクニック会場に着いた。

 貴族の皆様は礼儀正しく挨拶を終えて、ティア様は用意された場所に移動。
 大きなパラソル付きのテーブルセットがあちこちに置かれている。
 
 貴族の令嬢達が座る場所から、私は少し離れた。

 メイドはあちらさんがちゃんと配備しているから私の出る幕はなさそう。
 
 楽師の綺麗な音楽も有る。


 私は少し離れた場所からクリスタルでひまわり畑やティア様を撮影した。
 それから、少しひまわり畑の中に入ってみた。
 

 なんとなく、ひまわり畑の隙間にしゃがみこんでみたりもした。
 でもすぐにカーティス様に見つかった。

「リナさん? そんな所にしゃがみ込んで、具合でも悪いのですか?」
「え、あ、カーティス様、違います、具合は悪くないです」
「そうですか、裾が汚れないように立った方がいいですよ、隠れんぼ中なら仕方ないですが……」

「あ、あの、いつぞやは、オルゴールやリボンをありがとうございました。
それと、遅くなりましたが、竜騎士就任おめでとうございます」

 私は立ち上がって足元に置いていたカゴバッグからプレゼントの箱を出した。
 カーティス様はそれを受け取ってくれた。

「中を見ても良いですか?」
「はい」

「……ありがとうございます。 美しい組み紐ですね、ブレスレットでしょうか」

 贈り物を見つめるカーティス様の瞳は優しい。

「はい、ティア様が編んで下さったので、御守り効果もあるはずです。あ、下の水色の布は眼鏡拭きです」

「ああ、なるほど、紐から神聖な気を感じる訳です。
布地もきめ細かい良い物ですね、こちらもありがとうございます。
どちらも最高のプレゼントですよ」

「ティア様のおかげですので」
「でも貴女がお願いしてくださったのでしょう?」
「それはそうなんですが……」

 そう、言いかけて、ふいにカーティス様が屈んだ、と思ったら、頬に……キスをされた!!


「オルゴールとリボンで過分な贈り物を貰ってしまいましたので」

 お、お返しのそのまたお返しがキス!?

 やっぱり、リボンの意味ってそう言うやつでしたか!?
 ドキドキと私の心臓が五月蝿い。


「おーい! カーティス卿!」
「あ! 呼ばれていますよ!」

 離れた所からカーティス様を呼ぶ声が聞こえた。

「そのようですね、一緒に行きましょう、迷子にならないように」

 私はカーティス様に手を引かれてひまわり畑の中を歩いた。
 恥ずかしくてしばらく顔が上げられず、ひまわりとは逆に俯いてしまっていた。
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