【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

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35 「草スキーと魔物狩り」

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「メエエ~~」
「メエ~~」

 抜けるような青空と、鮮やかな緑色の草と、五頭のヤギ達! 
 私はティア様に白いレースの日傘を差して隣に立っている。


「お前達はこの辺の平地の草を食べているんだよ、坂では草スキーするから」
「メエエ~~」
「返事した! ヤギ返事した!」

 草スキーの出来る所へ移動する途中の美しい草原に放たれた五頭のヤギ達。

「良かったですね、ウィル様。私がここでヤギを見守っていますので、ご安心を」
「うん!」

 ラインハート卿がヤギの見守り係を請け負った。
 こんなイケメンのヤギ飼いはそうそういないだろう。


「ヤギの世話を騎士にさせて良いのかしら。ヤギ使いが必要では?」
「城でヤギ使い募集って張り紙を出しておこう」

 セレスティアナ様の懸念にギル様が答えた。


 そして、やって来ました草スキーの、坂の有る場所。
 早速ギル様がウィル坊ちゃまに声をかけた。


「ウィルバート、私と一緒に滑ろうか?」
「うーんと、アシェルさんと滑る!」
「よし、行こうかウィル」


 ウィルバート坊ちゃまはイケメンエルフのアシェルさんと一緒に草スキーに挑戦するらしい。
 初めてなので二人が同じソリに乗る。


「……振られた。義理の弟に」


 秒で振られたギル様がやや凹んでおられる! 
 私からも一応励ましてみよう。


「あ、あれは仕方ないですよ、ウィル坊ちゃまはティア様が結婚する時、自分が結婚したかったと焼きもち焼いてらしたくらいですし」
「そうか、私は恋のライバルだったか……なら仕方ないな」

「まあ、そもそもソリをくれたのは、アシェルさんだしね」
「セレスティアナ様! テントと敷き布の用意が出来ました!」


 緑色の草の上に、ピクニックシートの代わりの敷き布を敷き、運動会を見守るテント下の教師気分。


「ありがとう。テントが用意出来たから、リナも日傘を下ろして大丈夫よ」
「はい」

 夏の日差しが強いので、今回は屋根付きピクニックだ。
 エアリアルステッキが、涼しい風を送ってくれるし、日本のように湿度が高くないので、日陰にいると暑さもわりと平気だ。

 アシェルさんと草の上を滑るウィル坊ちゃまの姿が見えた。
 ギル様とエイデンさんもそれぞれソリで滑るらしい、坂に向かった。

「きゃ──っ! はははは!」

 ウィル坊ちゃま、少年らしい遊びが出来て、とっても楽しそう。

「リナは草スキーやった事ある?」
「私はありません」
「私は有るわ」

「え?」

 令嬢なのに!? いや、もしや前世の日本で?

「子供の頃にアシェルさんと滑ったの、殿下……ギルバートは何とジークお父様と滑ったのよ」

 いや、やっぱり令嬢の時に滑ってる!

「ドラゴンスレイヤーのティア様のお父様と……」
「そうそう、懐かしいわ」

 ティア様は懐かしそうに柔らかく微笑んでいる。

「本当は今日もパンツルックに着替えて私も草スキーをやりたかったけど、大人になったのでスキーは我慢しているの」
「そ、そうですね、今のティア様が滑ったら皆様大騒ぎですよ」
「でも、海でのジェットスキーは大人がやるものでしょう?」

「え、ええまあ、え、まさか? いや、あんな速度の出る船はこっちにありませんよね?」

 こっちにエンジン付きは無いよね。

「思いついたのだけど、ワイバーンに紐付けて引っ張って貰う水上スキーって、どうかしら?」

 またとんでもない事を思いついてる!

「多分、ギルバート様はやめてくれって言うと思います……」
「わりと面白い遊び方だと思ったのに」
「それは、竜騎士の協力が必要な、かなり贅沢な遊びになってしまいますよ」


 ティア様は残念そうにしながらも諦めたようで、敷き物の上で寝そべる翼猫のアスランとリナルド氏を交互に撫でた。

「さて、私達は何をする? 
乙女ゲーム、バドミントン、読書、レース編み、刺繍、昼寝、何かを食べる」

「あ、カップケーキを作って来ましたよね」

 ティア様がご自分のインベントリに入れて持って来てくれているはず。


「じゃあカップケーキを食べるのね」


 ティア様はインベントリからカップケーキとイチゴミルクとバドミントンセットを取り出した。

「バドミントンセットを置いておくから、暇な人は遊んで良いわよ!」

 ティア様は側に待機していた護衛騎士に向かって声をかけた。

 すると、暇を持て余したギル様の騎士が二人、バドミントンをはじめた。
 バドミントン組はチャールズ卿とブライアン卿だ。
 上手にラリーが続く。

 足が長いなあ、などと思いながら騎士の動きを眺める。
 目の保養。

 目の保養と言えば……カーティス様は、周囲を警戒して普通に立ってる。
 真面目だ。

「ほら、このカップケーキを渡してらっしゃい」
「どなたに?」
「カーティスとかセス卿とか、暇そうに立っている人に」
「あ……はい!」


 私は騎士達にカップケーキを配ろうとして、気がついた。


「あれ、離れた所でヤギを見てるラインハート卿には……」
「ああ、そっちはやや離れているから、私が渡して来るわ」
「え?」
「アスラン」


 翼猫に声をかけたティア様は、一瞬でサイズを変えて大きくなったアスランに乗って、颯爽と空を飛んでカップケーキを届けに行った。


「あ! ティア様!」
「我が君!」


 ラナン卿が急いでカヌーのような細身の空飛ぶ船でティア様を追いかけた!
 他の護衛騎士もワイバーンに飛び乗ってティア様を追った!

 バドミントン組もラケットを手放してワイバーンに飛び乗る。


 カップケーキを渡す相手がほぼ飛んで行った件について……!
 ワイバーンを持たないリーゼ卿と私がその場に取り残された。


「か、カップケーキ、食べますか? リーゼ卿」
「もー、セレスティアナ様ったら……あ、ありがとうございます」


 リーゼ卿がカップケーキを受け取ろうとしたその時、少し離れた場所で、急にボコッと土が盛り上がった。


「魔物!」
「え!?」


 何と巨大なモグラの魔物が土の中から急に出て来た!


「リナ! 下がってて!」

 リーゼ卿が鋭く叫ぶと、素早く抜刀し、駆け出した。

「たあ!」

 気合い一閃! リーゼ卿の攻撃がモグラに大ダメージ! 血煙が舞う。
 平和な草原が一転して、魔物狩り現場になってしまった。
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