【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
29 / 58

29 「子爵領に出張。お産のお手伝い」

しおりを挟む
「エテルニテで竜を探す?」
「そう、先日帰って来た竜騎士になった彼らの相棒を探しにね。
本来なら竜の谷まで行くのだけど、エテルニテで勝手に増えてるし、転移陣もあるし」

「なるほど」
「海も綺麗だし、一緒に行くでしょう?」
「はい、ティア様の行かれる所なら、喜んで!」


 と、元気に返事をしたまでは良かったのだけど……急な依頼が来た。


「どっからともなくリナが最近ゲットしたスキル目当てで、妊婦さんを助けて欲しいと貴族の家門から依頼が来てしまったわ……」
「出産は命懸けなので、お手伝いに行こうと思います。ここで他貴族に恩を売っていれば、私が仕えるティア様の評判も上がるでしょうし……」

 困った時に助けてくれたりするかもしれない。
 世の中助け合いですよね。

「そうね、私も出産の痛みが怖くて怯えていたくらいだもの。
私の騎士達が竜を得る様子はクリスタルに収めておくわ、ライリーの城付きの騎士を借りて貴方の護衛につけておきますから、何か有れば遠慮なく頼るのよ」

「かしこまりました。あ、そういえば先日の写真の、弟の隣に写っていた女性ってもしや……」

「ええ、あの人は急死した私の前世での姉よ。
曲が作れる人でね、昔私が同人ゲーム作った時も曲をくれた、優しい姉だったの。
ちょっと久しぶりに顔が見れて感動しちゃった。写真を譲ってくれてありがとう」


「レザークと申します。本日はお側でリナ様の護衛任務を賜りました」
「レザーク卿、メイドに敬語はいりませんよ。様はやめて下さい」
「……では、リナさんと」
「はい」


 さんもいらないけど、やりにくいようだし、他の騎士様もそう呼ぶからいいか。
 そんな訳で、銀髪のイケメン騎士さんが護衛してくれるらしいので、一緒にとある子爵領へ向かった。

 * 

「う、ああ……っ! た、助けて、痛いの……!!」
「はい! 大丈夫ですよ。ほら……今から痛みは消えて行きます」

【慈悲の手!!】

 私はスキルによって苦しむ妊婦さん、つまり子爵夫人の痛みを消した。
 しばらく出産までの間、私は子爵夫人に付き添っていたが、なんとか出産を終えた。


 * *


 子爵邸のサロンにて、夫人が無事に出産を終えたので、子爵様に私からも報告をする。
 医者がいたけど、私も痛みを消すお手伝いはしたので。

「リリアーナ様、ありがとうございます、何とお礼を申し上げたらいいか……妻はやや体が弱く、心配だったのです」

「いいえ、無事に元気なお子が産まれてようございました。
おめでとうございます」
「ありがとうございます。お礼はこちらに」

 子爵は金貨が沢山入った袋をくれたんだけど、私はそれより、棚の上の水槽に目を止めた。

「あら、かわいい金魚」


 私は水槽の中にオレンジ色の可愛い金魚が数匹泳いでいるのを見つけた。
 前世で見た事がある、ピンポンパールによく似た種類だった。
 ボールや飴みたいに膨らんだボディーラインの金魚ちゃんだ。


「金魚ですか? 欲しければ差し上げますよ、この子達も子供を産んで増えておりますので」

 金魚の事は、既にギル様に頼んでいるけど、どうしようかしら……
 私が悩んでいると、

「とりあえず入手しておいて、他にも欲しい人がいたら譲っても構いませんし」

 と、子爵が言うので、ありがたくいただく事にした。


 他にも子爵領の青空市場でティア様へお土産を探した。
 クリスタルで映像も記録する。ティア様は市場映像もお好きらしいから。

 麦わら帽子を被って市場内を歩いていると、新鮮な甘いフルーツの香りがするフルーツ屋ゾーンに来た。

 美味しそうなアメリカンチェリーっぽいのを見つけた。
 ここにアメリカは無いだろうし、名前は違うと思うけど。

「チェリーがありますね。あ、メロンも美味しそう」
「買って行かれますか?」

 レザーク卿の問いに私は満面の笑顔で応える。

「このチェリーとメロンを下さい」
「いくつだい?」
「ここに並んでるの全部」
「全部!? 嬉しいけど持てるのかい!?」

 恰幅の良い店のおばさんが動揺する。
 メロンは結構サイズもあるからね。

「はい、魔道具があるので」
「ああ、そう言う事かい! 良かったわ!」

 あー! でも全部!って言えるの気持ちいい!
 一度は言ってみたいセリフよね!

 ギル様が魔法の収納風呂敷を貸してくれたから、そこに全部入るし、予算も余裕を持って預かって来ているので、存分に買い物を楽しめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...