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25 「春に見た、美しい冬の日」
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病室に到着すると、妊婦さんが痛みで苦しんでいた。
痛みで凄まじい表情になっている。
「え!? 使徒様!?」
突如病室に飛び込んで来た私達に医者が驚いている。
さもありなん。
「痛みを消せる加護を持つ者を連れて来ました! リナ!」
「はい! 出産のお手伝いを致します!」
「え!?」
医者が急な展開に驚いているけど、今は妊婦さんを痛みから救うのに集中!
「この者から今しばらく痛みを取り去りたまえ! 慈悲の手よ!」
すると、途端に私の手が神々しく光りを放つ。
「……えっ!? い、痛みが……消え……ました」
出産間近の妊婦さんが驚いている。
「お母さん! 出産は続けて下さい! 赤ちゃんに会いたいでしょう! さ、力んで!」
「は、はい!」
* *
「産まれましたぞ!!」
お母さん頑張った! 医者が女の子を取り上げ、高く持ち上げた!
感動!!
「おめでとう!」
「おめでとうございます! 元気な女の子です!」
「あ、ありがとうございます! 使徒様!と、その……お使い様!」
シモベ……って響きが悪いから、お使いって気を使ってくれたんだと思う。
でもそれじゃ私が天のお使いで天使みたくなってしまわない?
「メ、メイドです。私はティア様の下僕にしてメイド」
「メイド様……」
いや、メイドに様を付けるのはおかしくない?
ま、いいや……。
シアタールーム代わりにしていた待合室に戻ると、りんごを押し付けられた騎士達は残りのりんごをぶつ切りにしたり、おろし金ですり下ろしたりして、患者に渡してくれてた。
イケメンのくれるりんごも良いと思います!
それから治療院の上映会を終えて、ライリーのお城に帰城となった。
「他にも記録のクリスタルにはお宝映像があるんでしょうね」
私は転移陣からお城までの石畳を歩きつつ、スクリーンに照射された美しい景色などを思い浮かべた。
「そうね、お母様の持っているのにも、私の見ていない弟とかのかわいい映像が有るかも、借りてみようかしら、リナも一緒に見てみる?」
「私も、奥様の記録を見ても良いのでしょうか?」
「別に、良いと思うわ」
「で、でも、奥様の私的な映像ならば、辺境伯の寝顔とか撮っておられたら、どうします?」
「見ないと! それは是非とも見ないと! いえ、あるかどうかも分からないけど!」
逆にティア様には火が点いた状態になってしまった。
私はティア様が奥様からクリスタルを借りて中の映像を見る許可を貰ったり、お着替えをしたり、執事さん達がサロンにスクリーンの用意などをしている間に、お酒で作る焼きりんごの仕込みをしてから、後は料理長に任せてちょっと映像を見に来た。
予想に反して、いえ、弟君のかわいい映像は確かにあったけど、辺境伯の半裸の寝顔とかセクシーショットが出て来たらどうしようって思っていたけど、そんなものは無かった。
冷静に考えたら、奥様があっさり見せてくれたので、それはそうよね。
でも、ティア様が見てない、冬の映像があって、ティア様はそれに目が釘付けになった。
それは、ある冬の日。
辺境伯と辺境伯夫人が静かに、ガラス越しに窓の外の降る雪を眺めていた。
ただ降りしきる雪を……二人仲良く見ていて、穏やかで、胸を打つほどに美しかった。
音声は入っていないけど、穏やかに会話をしている。そんな映像だった。
「お二人が同時に映っているなら、撮影者がこの場に別にいるな」
ギル様がそう言った。
「あんなリラックスした場面で混ざれるのはアシェルさんだと思います。
……あ」
ティア様が会話の途中で固まった。
では、とりあえず私が話そう。
「シルヴィア様が編みかけのレースを手にして、編み始めましたね」
カゴに入れていた繊細な編み目のレースを、シルヴィア様の細く白い指先が優しく触れる。
「お母様の編んでいるレースのあの柄……いつぞや私に編んで下さったものだわ」
「わ、そうなんですか、素敵ですね。無音の美しい映画みたいです」
「会話の内容が聞こえない分、色々と想像できるな。
あの優しい表情から察するに、娘の……セレスティアナの話でもしているのではないかな? 実にセンスの良い映像だ」
ティア様がはっきり断言するなら、あれはエルフのアシェルさんの撮影したもので間違いないだろう。
ティア様の隣に座って一緒にスクリーンを見ていたギル様も絶賛している。
ふとティア様を見ると、ポロポロと涙を流していた。
「ティア様……」
「ご、ごめんなさい、あまりに美しく、尊い映像だったので……」
私はハンカチをティア様に差し出した。
ティア様はそれを受け取って涙を拭った。
──ある雪の日の映像。
ただ静かに雪を眺めていたり、穏やかに微笑みあって、何かをぽつりぽつりと会話をしている、ゆったりとした時間の中の夫婦の幸せそうな日常の姿、それは静謐で美しく、私の胸をも打った。
「…………」
「リナ、あなたも泣いてるの」
……!! 泣いちゃったの、見つかった!
「ど、どうぞ、ハンカチは洗ってあります」
「あ……ラインハート卿、ありがとうございます」
ラインハート卿が自分のハンカチを貸してくださった。
私が自分のハンカチをティア様に貸してしまったから……。
「えへへご夫妻の映像が尊すぎて、私までなんだか涙が出てしまいました……あ! お酒を使った焼きりんご! もう出来てると思います! 取って来ます!」
ちょうど部屋を抜け出す理由があってよかった。
自分の家族映像でもないのに釣られて泣いてしまった、恥ずかしい。
*
「どうぞ、お酒で作った焼きりんごです」
「ありがとう。……美味しい!」
「確かに、酒を使っている分、大人味という感じだな」
「リナ、お父様とお母様もこれ、召し上がっているかしら?」
「ええ、メイドのソフィーが奥様のお部屋に持って行ってくれましたから、今頃、ご夫婦とお坊ちゃまで召し上がっていると思います。お坊ちゃまには、お酒無しの普通の焼きりんごですが」
「そう、良かった」
そう言って微笑むティア様は、たおやかな花のようだった。
やたらキュンキュンして守ってあげたくなる!
絶対私より強いけど! 私、ギル様の気持ち分かった! かもしれない!
痛みで凄まじい表情になっている。
「え!? 使徒様!?」
突如病室に飛び込んで来た私達に医者が驚いている。
さもありなん。
「痛みを消せる加護を持つ者を連れて来ました! リナ!」
「はい! 出産のお手伝いを致します!」
「え!?」
医者が急な展開に驚いているけど、今は妊婦さんを痛みから救うのに集中!
「この者から今しばらく痛みを取り去りたまえ! 慈悲の手よ!」
すると、途端に私の手が神々しく光りを放つ。
「……えっ!? い、痛みが……消え……ました」
出産間近の妊婦さんが驚いている。
「お母さん! 出産は続けて下さい! 赤ちゃんに会いたいでしょう! さ、力んで!」
「は、はい!」
* *
「産まれましたぞ!!」
お母さん頑張った! 医者が女の子を取り上げ、高く持ち上げた!
感動!!
「おめでとう!」
「おめでとうございます! 元気な女の子です!」
「あ、ありがとうございます! 使徒様!と、その……お使い様!」
シモベ……って響きが悪いから、お使いって気を使ってくれたんだと思う。
でもそれじゃ私が天のお使いで天使みたくなってしまわない?
「メ、メイドです。私はティア様の下僕にしてメイド」
「メイド様……」
いや、メイドに様を付けるのはおかしくない?
ま、いいや……。
シアタールーム代わりにしていた待合室に戻ると、りんごを押し付けられた騎士達は残りのりんごをぶつ切りにしたり、おろし金ですり下ろしたりして、患者に渡してくれてた。
イケメンのくれるりんごも良いと思います!
それから治療院の上映会を終えて、ライリーのお城に帰城となった。
「他にも記録のクリスタルにはお宝映像があるんでしょうね」
私は転移陣からお城までの石畳を歩きつつ、スクリーンに照射された美しい景色などを思い浮かべた。
「そうね、お母様の持っているのにも、私の見ていない弟とかのかわいい映像が有るかも、借りてみようかしら、リナも一緒に見てみる?」
「私も、奥様の記録を見ても良いのでしょうか?」
「別に、良いと思うわ」
「で、でも、奥様の私的な映像ならば、辺境伯の寝顔とか撮っておられたら、どうします?」
「見ないと! それは是非とも見ないと! いえ、あるかどうかも分からないけど!」
逆にティア様には火が点いた状態になってしまった。
私はティア様が奥様からクリスタルを借りて中の映像を見る許可を貰ったり、お着替えをしたり、執事さん達がサロンにスクリーンの用意などをしている間に、お酒で作る焼きりんごの仕込みをしてから、後は料理長に任せてちょっと映像を見に来た。
予想に反して、いえ、弟君のかわいい映像は確かにあったけど、辺境伯の半裸の寝顔とかセクシーショットが出て来たらどうしようって思っていたけど、そんなものは無かった。
冷静に考えたら、奥様があっさり見せてくれたので、それはそうよね。
でも、ティア様が見てない、冬の映像があって、ティア様はそれに目が釘付けになった。
それは、ある冬の日。
辺境伯と辺境伯夫人が静かに、ガラス越しに窓の外の降る雪を眺めていた。
ただ降りしきる雪を……二人仲良く見ていて、穏やかで、胸を打つほどに美しかった。
音声は入っていないけど、穏やかに会話をしている。そんな映像だった。
「お二人が同時に映っているなら、撮影者がこの場に別にいるな」
ギル様がそう言った。
「あんなリラックスした場面で混ざれるのはアシェルさんだと思います。
……あ」
ティア様が会話の途中で固まった。
では、とりあえず私が話そう。
「シルヴィア様が編みかけのレースを手にして、編み始めましたね」
カゴに入れていた繊細な編み目のレースを、シルヴィア様の細く白い指先が優しく触れる。
「お母様の編んでいるレースのあの柄……いつぞや私に編んで下さったものだわ」
「わ、そうなんですか、素敵ですね。無音の美しい映画みたいです」
「会話の内容が聞こえない分、色々と想像できるな。
あの優しい表情から察するに、娘の……セレスティアナの話でもしているのではないかな? 実にセンスの良い映像だ」
ティア様がはっきり断言するなら、あれはエルフのアシェルさんの撮影したもので間違いないだろう。
ティア様の隣に座って一緒にスクリーンを見ていたギル様も絶賛している。
ふとティア様を見ると、ポロポロと涙を流していた。
「ティア様……」
「ご、ごめんなさい、あまりに美しく、尊い映像だったので……」
私はハンカチをティア様に差し出した。
ティア様はそれを受け取って涙を拭った。
──ある雪の日の映像。
ただ静かに雪を眺めていたり、穏やかに微笑みあって、何かをぽつりぽつりと会話をしている、ゆったりとした時間の中の夫婦の幸せそうな日常の姿、それは静謐で美しく、私の胸をも打った。
「…………」
「リナ、あなたも泣いてるの」
……!! 泣いちゃったの、見つかった!
「ど、どうぞ、ハンカチは洗ってあります」
「あ……ラインハート卿、ありがとうございます」
ラインハート卿が自分のハンカチを貸してくださった。
私が自分のハンカチをティア様に貸してしまったから……。
「えへへご夫妻の映像が尊すぎて、私までなんだか涙が出てしまいました……あ! お酒を使った焼きりんご! もう出来てると思います! 取って来ます!」
ちょうど部屋を抜け出す理由があってよかった。
自分の家族映像でもないのに釣られて泣いてしまった、恥ずかしい。
*
「どうぞ、お酒で作った焼きりんごです」
「ありがとう。……美味しい!」
「確かに、酒を使っている分、大人味という感じだな」
「リナ、お父様とお母様もこれ、召し上がっているかしら?」
「ええ、メイドのソフィーが奥様のお部屋に持って行ってくれましたから、今頃、ご夫婦とお坊ちゃまで召し上がっていると思います。お坊ちゃまには、お酒無しの普通の焼きりんごですが」
「そう、良かった」
そう言って微笑むティア様は、たおやかな花のようだった。
やたらキュンキュンして守ってあげたくなる!
絶対私より強いけど! 私、ギル様の気持ち分かった! かもしれない!
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