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17 「セレスティアナと日本にいるユリナの姉のお話」
しおりを挟む~ セレスティアナ視点 ~
「セレスティアナ様、こちらにご要望のお品、揃いましてございます」
「ありがとう」
執事から用意して貰った宝石やアクセサリー、そして宝箱を受け取った。
私は、日本にいる家族宛てに、手紙の他に、宝箱も用意したのだ。
中身は手紙、お守りの宝石、エメラルドの指輪、シルバーのブレスレット、エメラルドのペンダント。
研磨はされてるけど枠や土台のついていないルース。金のネックレス。
そしてこちらの世界の金貨と神様が下さった自分と家族の写真を入れた。
ルースや金は、万が一、お金に困った時に売ればいいと書いた。
急に不摂生で亡くなった自分の葬式代の代わりにしてくれてもいい。
金って資産として持ってるといいみたいだから。
そして真夜中に、ひっそりと、自室の祭壇に供えて、祈りを捧げた。
どうか、届きますように、と。
宝箱は魔方陣の中で、光って消えた。
そんな様子を、妖精のリナルドと空飛ぶ霊獣である、翼猫のアスランが静かに見つめていた。
──いや、見守ってくれたと言った方がいいかもしれない。
* * * * * *
~ ユリナの姉視点 ~
不意に私は、真夜中に目が覚めた。
結婚して、久しぶりに実家に帰って来た所だった。
アニメや漫画やゲームやドールが大好きだった実家の妹のお部屋は、私の娘にとって宝の山だった。
妹は成人後、一人暮らしをしていて、ある日、不摂生で突然死んだ。
なんてバカな死に方をするんだって思った。
妹はオタクだったので、パソコンのハードディスクの中身を、消してあげるべきかとも思ったけど、あの子の宝物がいっぱい詰まっているのかもしれないと思うと、逆に消せてない。
親も実家にある妹の部屋を、そのままに、大切にとってあるのだ。
妹の部屋には、実家に残していた物だけでも、ゲームやお人形さんが結構ある。
「壊しちゃダメよ、大事に使ってね。お母さんの妹の大事な物だからね」
たまに娘に触らせてもらっている。
幼い頃に親に買って貰った、お人形とか、ぬいぐるみとか。
古い漫画の本など。
かつて音大に通っていた私は、この子の同人系ファンタジー系ゲームのために、主題歌の曲を作った事がある。
妹はその曲をとても喜んでくれて、よく分からない言語の歌詞をつけた。
それっぽく聞こえればいいのだと言って、自分で歌ってつけていた。
声の綺麗な子だった。
実際、ドラマチックな雰囲気になっていた。
ゲームも好評でイベントで完売したよと、喜びのメッセージもスマホからSNSで送って来た後の事だった。
それが最後の連絡になるとは、思っても見なかった。
私は妹から合鍵をもらっていた。
私の結婚後に、万が一旦那と喧嘩したら、いつでも避難所にしていいなどと言ってくれてた。
少し心配性の、優しい妹だった。
ゲーム完売おめでとうって、お祝いのケーキを買いに行って、様子を見に行ったら、妹はもう、意識を無くしてて……帰らぬ人になっていた。
……泣いた。
久しぶりに妹の夢を見て、実家の里帰り中、真夜中に私は起きた。
居間に行くと、両親は、もうずっと長い眠りが来ないみたいで、今も夜中に起きて、ケーブルテレビで古い映画なんかをぼんやりと見てた。
年寄りは長く寝る体力がもうないとも言っていた。
「お母さん達、またこんな時間にコーヒーなんか飲んで」
「どうせしばらくは寝れんし」
そんな言い訳を言う。
不意にTV画面が乱れた。
砂嵐の後、綺麗な風景が映った。
丘の上のお城の中に、貴族風の美男美女達が出て来た。
どう見てもファンタジー映画の様だった。
ドラゴンが飛んでいたり、翼の有る猫にすんごい美少女が乗って飛んでる姿も有るのだ、空を……、猫が……。
銀髪に、小麦色の肌の美青年とプラチナブロンドの天使のような女の子の結婚式も映った。
不思議と誰もチャンネルを変えようとはしなかった。
父も母も。
不意に目の前のテーブルの上に、宝石の装飾が見事な宝箱が出現した。
え!?
「何、これ!?」
「た、宝箱のようだが」
「お父さん、それは分かってる、なんでいきなりこんなのが出て来るの?」
お母さんは何故か恐れもせずに、宝箱を手にして、その蓋を開けた。
「アクセサリーや宝石が入ってるわよ!!」
「待って、その下に封筒がある! ……手紙!?」
「手紙が三通ある、宛先は、お父さんと、お母さんと、私……」
差出人の名前は、妹の名前だった。
手紙の中身は、突然あんな死に方をした謝罪と、今は異世界で幸せにやってるとか、宝石やアクセサリーを私達にくれると言う内容だった。
「プラチナブロンドで緑の瞳の貴族の娘に転生したって、どこの小説や漫画の設定よ」
私は呆然と呟いた。
「でも目の前に写ってる、この映像は、手紙の内容によれば、あの天使のような女の子は、あの子って事じゃ……」
お母さんは画面を食い入るように見てる。
お父さんはアクセサリーの感触を確かめるように握りしめたり、「この金貨の絵柄、異世界の?」
と、驚きつつ、ファンタジーなTV画面と交互に見てる。
怪奇現象過ぎるのに、目の前のTVの映像が美し過ぎて、恐怖心があまりない。
不意に目の前のTVは元の古い映画に戻った。
何事も無かったかのように。
「あ、消えた……、消えちゃったよ……あの子が……!」
「お、お母さん、宝箱に写真が入ってるよ! ね、泣かないで、元気出して」
お母さんは泣いていた。
お父さんも泣いた。
私も、しばらく、泣いてしまった。
せめて、映像や写真の中のあの子が、幸せそうだったのが、救いだった。
手紙の文末には、幸せに。と、家族への想いと願いが書いてあった。
あの子の、筆跡で────。
それから一年後、私は何故かインターネットの検索で、セレスティアナとリナ、ギルバートと言う名を入れてみた。
すると、小説サイトがヒットした。
無料だったので、読んでみると、妹が手紙で説明していた事、映像で見た物と同じ内容だった。
主役はリナという、元カフェ店員。
女性のカフェ店員さんが、通り魔に刺されて亡くなったニュースは、私も過去に見た。
痛ましい事件だったので、覚えている。
でも、家族以外の人が、この内容を、登場人物を知っているのが不思議だった。
私は無料小説サイトに登録して、このリナの物語の作者にダイレクトメールを送った。
会って、お話しがしてみたいとも。
返事が来た。
会ってくれるらしい。
私は居酒屋で待ち合わせて会ってみた。
小説の作者は亡くなったカフェ店員の弟さんだった。
文章は全く上手くは無いけど、初めて小説を書いたと、恥ずかしそうにしていた。
「じゃあ、うちと同じように、突然異世界から手紙が届いたんですね」
「はい、それがきっかけで、なんとなく小説にしてみたんです。
忘れてしまわないように」
この弟さんは、お姉さんの事を大事に思っているのだなと、感じた。
「今度、そちらのカフェにも、うちの家族と行ってもいいですか?」
「しばらく閉店していたんですが、最近復活したので、ぜひどうぞ。
もう一度、前を向いて、生きて行こうと、両親も頑張ってますので」
「そうですか、それは良かったです」
季節はもうすぐ夏。
亡くなったお姉さんの誕生日は夏で、自分は姉の好きだったチーズケーキを食べるので、よければ一緒に、と言ってくれた。
「私も妹も、チーズケーキは大好きですから、嬉しいです。
きっと食いしん坊のあの子は、あちらでお姉さんの手作りケーキを食べるでしょうね」
「あはは、貴族の御令嬢のお口に合えば良いのですが」
「絶対美味しいって喜んでいますよ!」
私は確信を持って言った。
* * *
~ セレスティアナ視点 ~
「リナ、夏にある自分のお誕生日のケーキ、自分で作るの?
私が作ってもいいけど……確かにカフェの人気メニューのケーキは気になるし、じゃあお願いしようかな」
「はい、お任せ下さい! 母のケーキレシピは覚えていますので!」
* *
命輝く、ある夏の日。
私はリナが作ってくれたとても美味しいチーズケーキを食べた。
リリアーナ王女と、リナの誕生日は、同じ夏の日だった。
名前につけられた百合の花が咲くのは、そういえば、夏だよね。
などと、思った。
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