上 下
13 / 58

13 「推しの結婚式」

しおりを挟む
 春になって、ついにティア様の結婚式の日が来た。

 なんと本人の誕生日の翌日である。

 ティア様は今、真っ白な花嫁衣装の着付けをしている。


「わあ、このドレス用のレース飾りは着脱可能なのですね」
「そうよ、リナ。お洗濯もしやすいし、万が一ほつれでもしたら修復しやすいの」

 ティア様の美しい花嫁衣装は透け感のある白いチュールレースに沢山の白い花とレースとダイヤを飾り立ててある。
 このチュールレースは着脱式で、背中側、後ろで留められるっぽい。

 下に無地の真っ白いドレスを着て、この上にレースの外装を付けるデザイン。


 この繊細なレースを着脱式にすれば、洗濯も可能だし、万が一レースに不具合が出たら修復もしやすいという話も、後で聞いた。

「三国一、いえ、世界一美しい花嫁さんになりますね」
「リナ、言い過ぎよって言いたい所だけど、私、両親が素晴らしいせいで、容姿だけは本当に綺麗だと思うわ」

 

「お嬢様、こちらへ移動して下さい。お化粧を致します」

 ティア様はお化粧をしてくれる美容要員に呼ばれ、鏡台の側に移動した。

「はい」

「本当に綺麗です、マスカラ使わずとも睫毛はバサバサで長くて、お目目は大きく、愛らしく、瞳の色は新緑の宝石のような輝き……」

 私も美容師に釣られ、改めてティア様の美しさに見惚れたりしたが、その後、私はティア様の結婚祝いの目録を目にする機会があって、嬉しい物を見つけた。


「ミキサーとフードプロセッサーがあるの凄く助かります!」
「私ねえ、それでかまぼことか作って欲しいの」
「このリナにお任せ下さい! お魚のエソとかで作った事があります!」
「揚げたてのさつま揚げみたいなのも食べたいので」
「はい!」

 ここに薩摩はないけれど、私には通じてます。ご安心を!
 

「お嬢様、動かないで下さい」
「あ、ごめんなさい」

 ティア様が喋りまくるので、メイクさんが困った顔をしていた。
 でも、私が話しかけずに黙ってるべきだったかもしれない。
 すみません。

メッセンジャー役の巫女がやって来た。

「モントバ伯爵様が到着されました。鳩の準備も万端らしいです」
「ありがとう」
「鳩! 結婚式っぽいですね!」

 私は大神殿の窓から外を見た。

 本日は快晴で、鳩の演出も映えるだろう。

「メイク仕上がりました。本当にお綺麗ですわ。お嬢様」
「ありがとう」

 今からティア様はいよいよ両親のいる控え室に行って、例のアレよね。
 今まで育ててくれてありがとうございます的な事を言う、泣けるシーンが来ちゃうわけよね。


 私は控え室の扉をノックして、中にいるご両親に声をかけた。

「お嬢様の御支度が整いました」
「入れ」
「失礼いたします」

 かくして扉は開かれて、麗しい両親が花嫁の両親として着飾って、椅子に座っていた。

 お父君たる辺境伯が、椅子からガタンと立ち上がった。

「いつも綺麗だが、本当にいつにも増して綺麗だな、我が娘は」
「ありがとうございます、お父様」

 お母君の方を見ると、言葉もつげずに、瞳が潤んでいる。
 ハンカチで目元を拭かれた。

 私まで釣られて泣きそうになる。
 

「お父様、お母様、今まで大事に育てて下さってありがとうございました。
今までも幸せでしたが、これからも幸せに生きていきますね」

「……うっ、私の可愛いティア、ギルバート様と幸せにね」

 お母君のシルヴィア様は立ち上がり、最愛の娘を優しく抱きしめた。

「シルヴィア、泣くと化粧が……」
「う、分かっていますが、仕方がないのです……」

 いつもほぼクールなお母君が泣いているので、よっぽどだと思いました。


「姉様とはボクがケッコンしようと思ってたのにな」

 じっとお母君のそばでいい子にしてた弟のウィル坊っちゃまが突如ポツリと愚痴をこぼした。

 お母様は腕を離して、私達は弟君を見た。
 拗ねたような表情をしている。

「あら、ウィル、結婚が何なのか知っているの?」

 ティア様はくすりと微笑んで、問うた。

「ずっと仲良しで一緒にいるって約束するんでしょ?」

「だいたい合っているわね。
でも私は結婚しても、旅行の後はほとんどライリーのお城にいるから、ウィル達と一緒よ」

「ほんと? 遠くに行かない?」
「ええ、大丈夫よ」


 気がつくと涙腺は完全に決壊して、私はもらい泣きしていた。

 ラナン卿はクリスタルで撮影係をしていて、リナルド氏は泣いてるリーゼ卿が持っているんだけど、涙をぬいぐるみのリナルド氏で隠していた。

『ちょ、ボクで涙を拭うのをやめよう、リーゼ』
「うう、つい、うっかり、すみません」

 未だぬいぐるみの中にいる妖精のリナルド氏が面白い事になってる。

 ラナン卿の撮影してるクリスタルの映像は後でギル様に見せてあげるのかもしれない。


 ──お母君の次に、お父君がティア様を抱きしめた。

「幸せに……ティア」

 辺境伯のいい声が心地よく響く。

「でも結婚しても私はライリーの城に居座るので大丈夫ですよ、新婚旅行の後、新婚時はギルバートの温泉地の別荘でしばらく過ごしますけど」

「そうだな、砂糖とチョコの畑もライリーにあるからな。
あれはティアが住んでいる土地でしか実らない神様のくださった魔法植物だから」

 お父君が優しく、息子であるウィル坊っちゃまの頭を撫でた。
 いいシーンだけど、そろそろお時間なので、巫女が声をかけて来た。

「そろそろお時間です。新郎がお待ちかねですよ」
「はい、ただ今、参ります」


 控え室を出て、辺境伯のエスコートでティア様はバージンロードを歩く。

 結婚式に来てくれた参列者の間を、敷かれた絨毯の上を、ゆっくりと歩く。
 大神殿の誓いの間で、聖下が祝福と見届け人の神父として立っていた。
 神殿のすごい偉い人らしい。神秘的な雰囲気の美形。

 その近くには新郎のギル様が白い燕尾服で立っている。

 蒼く美しい瞳が少し眩しげに、ティア様を優しく見つめていた。

 大神殿には厳かな音楽と巫女達の美しいゴスペルが流れていた。
 壇上まで歩いて行くと、歌と音楽がピタリと止んだ。

 これより、エスコートが花嫁の父から花婿に交代となる。
 ティア様は手にしていたブーケを一旦、巫女に手渡す。

 花嫁は新郎の隣に立ち、聖下の祝福の言葉を聴いた。
 聖なる蝋燭に一緒に火の魔石で火を灯し、その後に、二人で誓いのキス!!

 キャ────ッ!! お二人とも! お幸せに!!

 歓声と拍手の嵐!! 
 私も手が痛くなるほど拍手した。

 巫女が再びブーケを手渡し、それを受け取り、花嫁は純白のドレスで歩き出す。

 新郎新婦が大神殿の出口付近に設置された花のアーチの所に立つと、近くにいたモントバの伯爵とか言う人と、イケメンエルフのアシェル様がいた。

 アシェル様もお忙しい中、駆けつけたらしい。

 伯爵が何か小さく言葉を発して、アシェル様が伯爵と同時に片手を挙げた。

 その瞬間、沢山の白い鳩が一斉に飛び立った。

 わあ──っ!!
 蒼穹の中を飛ぶ、美しい白い鳥の演出に盛り上がるギャラリーがまた歓声を上げた。

「え、あの鳩の演出私の娘の結婚式でもやっていただきたいですわ」
「その際はお任せ下さい。うちの鳩です」
「まあ! ありがとうございます! よろしくお願い致しますわ」

 どこぞの夫人の言葉に得意げに応えるモントバ伯爵とやら。

「ギルバート様! おめでとうございます! お幸せに!」
「やっと念願叶いましたね! こっちも感無量です!」
「「末長くお幸せに!!」」

 ギル様の側近のエイデン卿や護衛騎士達が祝福の言葉を贈って来た。

「皆、ありがとう!!」

 ギル様も最高の笑顔で応えた。


 花吹雪が舞っている。
 道に立ち、祝福に駆けつけた人達が大喜びの表情で花弁を撒いている。
 

 あ! ブーケトスだ!!
 ティア様は参列者のまだ未婚っぽいレディ達のいる方向にブーケを投げた。

「あら!?」

 投げたブーケを受け取ったのは、ティア様の学友のオリビア嬢と言う方らしい。

 きゃあきゃあと盛り上がる、ギャラリーのレディ達。

 この後は花車というか、目いっぱいの花で飾られた馬車に乗って結婚パレード。
 なんてったってシーサペントを倒した勇者で大国グランジェルド第三王子殿下の結婚ですものね。
 華やか!!

 馬車を先導しているのはギル様の竜騎士達。
 横と後ろで護衛しているのがティア様の護衛騎士達。

 街道を賑わす市民の皆様。

「お幸せに! 使徒様! 勇者様!」
「セレスティアナ様! 世界一お美しいです!!」
「グラジェルドの新しい夫婦に祝福と栄光あれ!」

 お二人に祝福の言葉がかけられる。

 お二人がパレードに出てる間に参列者には裏方が引き出物とかを配ったりしている。
 火の魔石と光の魔石も冬越しが厳しいあまり裕福ではない家庭に優先的に配られている。
 これはティア様の発案らしい。お優しい!

 パレードの後に、グランジェルド城内の式場でご馳走とケーキが待っている。
 
 グランジェルドの王女のシエンナ様や王太子妃も子供が産まれたばかりらしいのに、祝福しに来られた。

 ライリーの騎士達も交代で来られたようだ。
 沢山の祝福に囲まれた、素敵な結婚式だった。

 *

 結婚式が終わり、転移陣で温泉地の別荘にて入浴の時間になった。

「お疲れ様でした」
「ええ、皆、今日はありがとう」

 私とラナン卿、メイドがお風呂について来ている。
 リーゼ卿はお風呂の扉前で警備。


 さて、この後、夜なので、新婚初夜が来る訳ですね。

 キャ────ッ!! ギル様の果報者!!

 ティア様は可愛くてセクシーなベビードールを着て、寝室で待つ訳で……。
 あ~~っ!!
 い、いや、今は仕事に集中しないと。

 
 私はティア様の美しいお体を布で優しく拭き、輝けるお髪をエアリアルステッキで乾かし、ベビードールの上からガウンを羽織らせた。

 ティア様はやや緊張した雰囲気を纏って寝室へ向かう。私までドキドキして来た。
 頑張ってください!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...