12 / 58
12 「蒼海の贈り物」
しおりを挟む
最近の私の日課。
池の鯉に餌を投げる。
すると、ぶわっと沢山の鯉が寄って来るのに、端っこで、餌取りに加われない鯉がいた。
離れた場所にいる子の方にも餌を投げる。
すると、ちゃんと食べた。
別に食欲が無い訳ではないようね。
気弱なのかな?
しっかりと食べなさい。
食いっぱぐれて餓死などしないように。
餌やりの様子を見ていた長身眼鏡の騎士様がいた。
あ、カーティス様だ。
もしや、鯉に餌をあげたいのかな?
私はカーティス様に歩み寄って、私は鯉の餌入れを騎士様に渡そうとした。
「良ければ、どうぞ。あと少しくらいなら餌をあげても大丈夫だと思います」
「あ、いえ、餌やりがやりたいのではなく」
「え、違いましたか、失礼しました」
おさかなに餌やりの作業は楽しいから、やりたくて見てたかと思った。
カーティス様は餌やり大好きな子供じゃないのに、とんだ勘違いを。
「餌に群がれない端っこの気弱そうな鯉に餌を投げて、食べやすくしてあげていて、りなさんは優しい人ですね」
「だ、誰でもやる事だと思いますよ、食べられていない子がいたら、気になりますから」
私はドキリと跳ねる心臓を押さえた。
突然極上の笑顔で優しいとか言わないで下さい。
私のノミの心臓がびっくりします。
「自然界なら弱い個体は淘汰されるなら仕方ないと、諦められたりもしますよね」
「でも以前いた世界でも、野生のリスが人間の男性を頼って足を怪我した我が子を助けて欲しいと、言葉も使えないけど、アピールして助けて貰うってことをして、奇跡のニュース……ほっこりするいい話だって話題になりました。
親は怪我した我が子を見捨てなかったんですよ」
「用心深いはずの野生のリスが人間を頼ったのですか?」
「はい、他に手が無かったので勇気を振り絞ったのでしょう。
近くには猫がいて、一刻を争う事態だったそうです。
察しがよくて、優しい人に頼れて良かったと思いました」
「猫から子供を守る為に人間に頼ったと……なるほど奇跡ですね」
「そうなんですよ、それで男性はすぐに動物学者を呼んで、リスの親子を安全な場所に移動させてあげたらしいです」
そのリスは前世人間だったのかと思うほどの驚きのニュースだった。
「あ、お嬢様。おはようございます」
いち早くティア様の存在に気がついたカーティス様が良い声で挨拶をした。
水仙の花を抱えたティア様が現れた! 美しい!
そしてティア様は鯉の様子を見てから、柔らかい口調で語りかけてこられた。
「おはよう、リナ、カーティス。鯉に餌をあげていたの?」
「はい、でも、もう終わりました」
「私はただの通りすがりです。では失礼いたします」
カーティス様はどこかへ移動した。
そろそろ朝食の時間かな?
「ティア様は今朝も祭壇用の花を探してらしたんですね」
ティア様はいつも祭壇に綺麗なお花を供える事を日課にしている。
「ええ、私が魔力の使いすぎで気絶のように長く寝ていた時は、お花を供えられなかったのだけど、その時はどうしていたか気になって……後で周囲の者に聞いたら、お母様がちゃんとしてくれていたようでほっとしたわ」
「万が一、ティア様がお忙しい時は、私でも良いなら代理を務めますので」
「ありがとう、リナ」
「今日もエテルニテで建物作りですか?」
「そうだけど、その仕事の後に、一緒にあっちの海で泳いだりする?
エテルニテは暖かいから、水着で泳げるわよ」
「水着で! 海!! 冬なのに」
「あちらは暖かいので」
「皆さん建物を作るのに忙しくしておられるのに、私が海で遊んでも良いのでしょうか?」
「私が良いと言うのだもの、何も心配はいらないわ。あなたの作る食事も美味しいと好評なのだし」
「ティア様も泳ぐのなら、お供します」
「じゃあ一緒に泳ぎましょう。あ、そうそう、ワイバーンも水に入ってお魚を獲ってくれるのよ」
「あの、カツオ、そう言えば、ワイバーンが獲ってくれたとか。草食なのに」
「そうなのよ、私が鰹節欲しいなって思っていたらね、不思議よね」
そんな雑談をしながら城の一階に有る祭壇の間へ移動して、ティア様は水仙を飾ってお祈りをされた。
神々しいお姿だった。
尊い……。
私が神でもこんな可愛い子が毎朝お花を選んで供えてくれたら加護を与えてしまうわ。
納得だわ。
春の誕生日を迎えたら、結婚されるのよね。
きっと、世界一綺麗なんだろうなあ。
* *
翌日、エテルニテの海岸に来た。
来ました! 青い空と美しい海! リゾート地みたい!
温泉の時に水着も用意していただいたので、後でティア様と合流したら着替える予定。
空を見上げると、白い鳥の群れが飛んでいる。
「わあ、見てください、ラインハート卿! 白い海鳥が沢山飛んでて、綺麗ですね」
「はい、綺麗ですね」
私は騎士のラインハート卿に伴われてライリーからエテルニテの海辺に来た。
ティア様はまだ建物建設の作業中だ。
って、近くで海を見ながら泣いてる人がいる!!
肌色の濃い民族で平民の移住者のようだけど!
「ど、どうなさったの?」
「いえ、私はこのエテルニテの地の生き残りです。
以前干魃で死にかけて、一縷の望みをかけて船で海を渡り、命からがらライリーの海辺に辿り着き、助けていただきました」
「そ、そうだったんですか」
「当初は移民としてライリーに住み着く予定でしたが、費用無料で帰れると聞いて、ここに戻りました。
一時は干魃後に弱体化した所のこの国は魔物の拠点として、乗っ取られていたらしく、知り合いも沢山死んでしまいました。
一緒に船に乗った仲間も半数は死に……」
な、なるほど……干魃で一度は捨てた土地とはいえ、故郷に戻れた喜びと、
国が魔物に襲われて滅んだ悲しさが押し寄せて涙が……。
ティア様ならインベントリから美味しい物でも出して励ます事も出来たろうけど、私は何も持たない。
手持ちで今渡せる物は、ハンカチくらいだ。
せめてと思って、涙を拭けるように、ハンカチをエテルニテ出身の人にあげた。
「良ければこれをどうぞ……」
「こんなに美しいレースのハンカチを、私などにもったいないです」
「まだ持っていますから、大丈夫です!」
私は白いレースのハンカチを泣いている男性に押しつけ、ラインハート卿の腕を引っ張って、ティア様のお迎えに向かった。
「あ、ラインハート卿、強引に腕を引っ張ってしまい、申し訳ありません」
「いいえ、リナさんはお優しいのですね」
「普通です」
「そうでしょうか?」
「はい、間違いなく」
「じゃあ、そういう事にしておきましょう」
ラインハート卿は伏せ目がちに優しく微笑んだ。
お顔の雰囲気はヤクザの若頭のようなのに、笑うと優しい感じになるイケメンである。
*
お嬢様、ティア様達と合流して、私も水着に着替えた。
水中で乱れ過ぎないように、髪もまとめた。
浜辺に大きなパラソルを突き刺して、敷いた布の上にはバスケット。
バスケットの中身は海老フライサンドとローストビーフサンドなどが入ってる。
水は樽で、ジュースも瓶に入れて用意されている。
お嬢様と私の他にビーチにいるのは護衛騎士達だ。
ティア様の可愛い女性護衛騎士二人はせっかく水着を着ているのに、パラソルの下で荷物番をしている。
竜騎士の護衛騎士達はストレッチをして体をほぐしている。
ワイバーン達が海に潜ったと思ったら、魚を獲って来て、ティア様に貢いでる。
一際目立つのはギル様の白いワイバーンだ。
ティア様の肩の上には愛らしいモモンガのぬいぐるみこと、妖精のリナルド氏が乗っている。
肩にモモンガのぬいぐるみを乗せた美少女にワイバーンがお魚を貢いでる。
ダイナミックかつ、不思議な光景だ。
面白いので私は手持ちの映像保存が出来るクリスタルで撮影しちゃう。
ティア様がワイバーンから貰ったお魚はほとんどインベントリに収納していた。
ワイバーンが砂浜で休憩に入ったら、ギル様がティア様の横に立った。
ギル様も竜騎士様達も今は水着だ。ブーメランタイプではなく、短パン系で良かった。
目のやり場に困るとこだった。
騎士達は……筋肉も……凄くカッコいい。
「ギルバート様! レインボーパールを見つけました!」
先に海に入っていたギル様の護衛騎士が声を上げた!
「ああ! カラフルな真珠がたまに入ってるあの貝か! よし! 私も探して来る! 待ってろ!セレスティアナ!」
ギル様はティア様を置いて海に入って行ってしまった。
「レインボーパール?」
「ライリーの海にも生息している貝なのですが、パールブルーやピンク、カラフルな真珠がたまに入ってるので、見つけたら実は食べて、真珠はアクセサリーに出来るんですよ」
いつの間にか私の隣にいたカーティス様が私の呟きに反応して解説してくれた。
「さて、私もレインボーパールを探しに潜ってみます」
「はい、頑張ってください」
へー、真珠探しか、宝探しみたいで楽しそう!
「リナ、綺麗なお魚も泳いでいるから、一緒に潜ってみない?」
「はい! お供します!」
私はティア様に呼ばれて、貴重なクリスタルをリーゼ卿に預けてから、一緒に海に入った。
海の中にはルリスズメダイみたいな綺麗な青い魚がいて、とても可愛い!!
ティア様が、私の腕を水中でつついて、次にある一点を指差した。
貝! 貝がいた! 岩の上に!
代わりに取ればいいのかな? と思って、私はその貝を取った。
ざばっと、水面に浮上し、顔を出し、私達は足がつく所まで来た。
「リナ、その貝がレインボーパールよ」
「あ! これなんですか!」
「さて、パールが入っているか、見てみましょう」
「でも真珠はたまにしか入っていないのですよね?」
「そうだけど、ワクワクしない? 入っていたら、大当たりよ。
もし真珠が無くても貝は食べられるし」
私とティア様は浜辺まで戻って来た。
インベントリからナイフとまな板を取り出したティア様が、ナイフを貸してくださった。
まな板は私の目の前の砂浜の上に置かれてる。
いざ、貝ガチャ行きます!
閉じた貝にナイフを差し入れ、強引に開ける。中を確認。
「……あった! 水色!! 綺麗なパールブルーの真珠です!
おめでとうございます! ティア様」
「おめでとう! リナ、それはあなたのよ」
「え、でもティア様が見つけた貝ですよ、ご自分でこれって、指差してたじゃないですか」
「実際に貝を掴んだのはリナじゃない。私はギルバート様が見つけたら貰うので、大丈夫よ。
もっとも、貴女の方も他に収穫がありそうだけど」
ティア様は意味深な笑みを浮かべた。
「え?」
疑問を抱えつつも、ランチの時間になって、皆が貝を開けて焼いて食べる場面になった。
「あった!」
「こっちもあった」
なんと、カーティス卿とラインハート卿が、私に見つけたレインボーパールを下さった!
「お二人とも、あ、ありがとうございます!!」
身に余る光栄!
「「どういたしまして」」
カーティス卿の真珠が水色で、ラインハート卿のがピンク色だった。
ギル様はパープルの真珠を見つけてティア様に贈った。
ティア様はそのお返しに、ほっぺにちゅーをしてあげていた!
わあ! 仲良し!
ん?
エイデン卿がピンクのパールを見つけたっぽい。
しかもそれをラインハート卿に投げた!
え!? どんな関係!?
しかし、ラインハート卿はエイデン卿から貰ったピンクのパールを、また私に下さった。
「え!? エイデン卿がラインハート卿に下さったのを、私にくれて良かったのですか?」
「私がピンクのパールを持っていてもしょうがないでしょう。
貴女に渡せという意味で投げてくれたんですよ。
ちょうど先程の物と色が合いますので、イヤリングなどが作れますよ」
ええ!?
私がエイデン卿を見ると、ウインクで親指をぐっと立てた。
私が貰って……いいらしい。
「あ、ありがとうございます!! ラインハート卿、エイデン卿!」
てか、カーティス卿はティア様の騎士なのにティア様に真珠を献上しなくていいのかな?
いや、ギル様を差し置いて渡せないとか、そういう気遣いかな?
それで私に下さったのかも。
多分……きっとそうだ。
池の鯉に餌を投げる。
すると、ぶわっと沢山の鯉が寄って来るのに、端っこで、餌取りに加われない鯉がいた。
離れた場所にいる子の方にも餌を投げる。
すると、ちゃんと食べた。
別に食欲が無い訳ではないようね。
気弱なのかな?
しっかりと食べなさい。
食いっぱぐれて餓死などしないように。
餌やりの様子を見ていた長身眼鏡の騎士様がいた。
あ、カーティス様だ。
もしや、鯉に餌をあげたいのかな?
私はカーティス様に歩み寄って、私は鯉の餌入れを騎士様に渡そうとした。
「良ければ、どうぞ。あと少しくらいなら餌をあげても大丈夫だと思います」
「あ、いえ、餌やりがやりたいのではなく」
「え、違いましたか、失礼しました」
おさかなに餌やりの作業は楽しいから、やりたくて見てたかと思った。
カーティス様は餌やり大好きな子供じゃないのに、とんだ勘違いを。
「餌に群がれない端っこの気弱そうな鯉に餌を投げて、食べやすくしてあげていて、りなさんは優しい人ですね」
「だ、誰でもやる事だと思いますよ、食べられていない子がいたら、気になりますから」
私はドキリと跳ねる心臓を押さえた。
突然極上の笑顔で優しいとか言わないで下さい。
私のノミの心臓がびっくりします。
「自然界なら弱い個体は淘汰されるなら仕方ないと、諦められたりもしますよね」
「でも以前いた世界でも、野生のリスが人間の男性を頼って足を怪我した我が子を助けて欲しいと、言葉も使えないけど、アピールして助けて貰うってことをして、奇跡のニュース……ほっこりするいい話だって話題になりました。
親は怪我した我が子を見捨てなかったんですよ」
「用心深いはずの野生のリスが人間を頼ったのですか?」
「はい、他に手が無かったので勇気を振り絞ったのでしょう。
近くには猫がいて、一刻を争う事態だったそうです。
察しがよくて、優しい人に頼れて良かったと思いました」
「猫から子供を守る為に人間に頼ったと……なるほど奇跡ですね」
「そうなんですよ、それで男性はすぐに動物学者を呼んで、リスの親子を安全な場所に移動させてあげたらしいです」
そのリスは前世人間だったのかと思うほどの驚きのニュースだった。
「あ、お嬢様。おはようございます」
いち早くティア様の存在に気がついたカーティス様が良い声で挨拶をした。
水仙の花を抱えたティア様が現れた! 美しい!
そしてティア様は鯉の様子を見てから、柔らかい口調で語りかけてこられた。
「おはよう、リナ、カーティス。鯉に餌をあげていたの?」
「はい、でも、もう終わりました」
「私はただの通りすがりです。では失礼いたします」
カーティス様はどこかへ移動した。
そろそろ朝食の時間かな?
「ティア様は今朝も祭壇用の花を探してらしたんですね」
ティア様はいつも祭壇に綺麗なお花を供える事を日課にしている。
「ええ、私が魔力の使いすぎで気絶のように長く寝ていた時は、お花を供えられなかったのだけど、その時はどうしていたか気になって……後で周囲の者に聞いたら、お母様がちゃんとしてくれていたようでほっとしたわ」
「万が一、ティア様がお忙しい時は、私でも良いなら代理を務めますので」
「ありがとう、リナ」
「今日もエテルニテで建物作りですか?」
「そうだけど、その仕事の後に、一緒にあっちの海で泳いだりする?
エテルニテは暖かいから、水着で泳げるわよ」
「水着で! 海!! 冬なのに」
「あちらは暖かいので」
「皆さん建物を作るのに忙しくしておられるのに、私が海で遊んでも良いのでしょうか?」
「私が良いと言うのだもの、何も心配はいらないわ。あなたの作る食事も美味しいと好評なのだし」
「ティア様も泳ぐのなら、お供します」
「じゃあ一緒に泳ぎましょう。あ、そうそう、ワイバーンも水に入ってお魚を獲ってくれるのよ」
「あの、カツオ、そう言えば、ワイバーンが獲ってくれたとか。草食なのに」
「そうなのよ、私が鰹節欲しいなって思っていたらね、不思議よね」
そんな雑談をしながら城の一階に有る祭壇の間へ移動して、ティア様は水仙を飾ってお祈りをされた。
神々しいお姿だった。
尊い……。
私が神でもこんな可愛い子が毎朝お花を選んで供えてくれたら加護を与えてしまうわ。
納得だわ。
春の誕生日を迎えたら、結婚されるのよね。
きっと、世界一綺麗なんだろうなあ。
* *
翌日、エテルニテの海岸に来た。
来ました! 青い空と美しい海! リゾート地みたい!
温泉の時に水着も用意していただいたので、後でティア様と合流したら着替える予定。
空を見上げると、白い鳥の群れが飛んでいる。
「わあ、見てください、ラインハート卿! 白い海鳥が沢山飛んでて、綺麗ですね」
「はい、綺麗ですね」
私は騎士のラインハート卿に伴われてライリーからエテルニテの海辺に来た。
ティア様はまだ建物建設の作業中だ。
って、近くで海を見ながら泣いてる人がいる!!
肌色の濃い民族で平民の移住者のようだけど!
「ど、どうなさったの?」
「いえ、私はこのエテルニテの地の生き残りです。
以前干魃で死にかけて、一縷の望みをかけて船で海を渡り、命からがらライリーの海辺に辿り着き、助けていただきました」
「そ、そうだったんですか」
「当初は移民としてライリーに住み着く予定でしたが、費用無料で帰れると聞いて、ここに戻りました。
一時は干魃後に弱体化した所のこの国は魔物の拠点として、乗っ取られていたらしく、知り合いも沢山死んでしまいました。
一緒に船に乗った仲間も半数は死に……」
な、なるほど……干魃で一度は捨てた土地とはいえ、故郷に戻れた喜びと、
国が魔物に襲われて滅んだ悲しさが押し寄せて涙が……。
ティア様ならインベントリから美味しい物でも出して励ます事も出来たろうけど、私は何も持たない。
手持ちで今渡せる物は、ハンカチくらいだ。
せめてと思って、涙を拭けるように、ハンカチをエテルニテ出身の人にあげた。
「良ければこれをどうぞ……」
「こんなに美しいレースのハンカチを、私などにもったいないです」
「まだ持っていますから、大丈夫です!」
私は白いレースのハンカチを泣いている男性に押しつけ、ラインハート卿の腕を引っ張って、ティア様のお迎えに向かった。
「あ、ラインハート卿、強引に腕を引っ張ってしまい、申し訳ありません」
「いいえ、リナさんはお優しいのですね」
「普通です」
「そうでしょうか?」
「はい、間違いなく」
「じゃあ、そういう事にしておきましょう」
ラインハート卿は伏せ目がちに優しく微笑んだ。
お顔の雰囲気はヤクザの若頭のようなのに、笑うと優しい感じになるイケメンである。
*
お嬢様、ティア様達と合流して、私も水着に着替えた。
水中で乱れ過ぎないように、髪もまとめた。
浜辺に大きなパラソルを突き刺して、敷いた布の上にはバスケット。
バスケットの中身は海老フライサンドとローストビーフサンドなどが入ってる。
水は樽で、ジュースも瓶に入れて用意されている。
お嬢様と私の他にビーチにいるのは護衛騎士達だ。
ティア様の可愛い女性護衛騎士二人はせっかく水着を着ているのに、パラソルの下で荷物番をしている。
竜騎士の護衛騎士達はストレッチをして体をほぐしている。
ワイバーン達が海に潜ったと思ったら、魚を獲って来て、ティア様に貢いでる。
一際目立つのはギル様の白いワイバーンだ。
ティア様の肩の上には愛らしいモモンガのぬいぐるみこと、妖精のリナルド氏が乗っている。
肩にモモンガのぬいぐるみを乗せた美少女にワイバーンがお魚を貢いでる。
ダイナミックかつ、不思議な光景だ。
面白いので私は手持ちの映像保存が出来るクリスタルで撮影しちゃう。
ティア様がワイバーンから貰ったお魚はほとんどインベントリに収納していた。
ワイバーンが砂浜で休憩に入ったら、ギル様がティア様の横に立った。
ギル様も竜騎士様達も今は水着だ。ブーメランタイプではなく、短パン系で良かった。
目のやり場に困るとこだった。
騎士達は……筋肉も……凄くカッコいい。
「ギルバート様! レインボーパールを見つけました!」
先に海に入っていたギル様の護衛騎士が声を上げた!
「ああ! カラフルな真珠がたまに入ってるあの貝か! よし! 私も探して来る! 待ってろ!セレスティアナ!」
ギル様はティア様を置いて海に入って行ってしまった。
「レインボーパール?」
「ライリーの海にも生息している貝なのですが、パールブルーやピンク、カラフルな真珠がたまに入ってるので、見つけたら実は食べて、真珠はアクセサリーに出来るんですよ」
いつの間にか私の隣にいたカーティス様が私の呟きに反応して解説してくれた。
「さて、私もレインボーパールを探しに潜ってみます」
「はい、頑張ってください」
へー、真珠探しか、宝探しみたいで楽しそう!
「リナ、綺麗なお魚も泳いでいるから、一緒に潜ってみない?」
「はい! お供します!」
私はティア様に呼ばれて、貴重なクリスタルをリーゼ卿に預けてから、一緒に海に入った。
海の中にはルリスズメダイみたいな綺麗な青い魚がいて、とても可愛い!!
ティア様が、私の腕を水中でつついて、次にある一点を指差した。
貝! 貝がいた! 岩の上に!
代わりに取ればいいのかな? と思って、私はその貝を取った。
ざばっと、水面に浮上し、顔を出し、私達は足がつく所まで来た。
「リナ、その貝がレインボーパールよ」
「あ! これなんですか!」
「さて、パールが入っているか、見てみましょう」
「でも真珠はたまにしか入っていないのですよね?」
「そうだけど、ワクワクしない? 入っていたら、大当たりよ。
もし真珠が無くても貝は食べられるし」
私とティア様は浜辺まで戻って来た。
インベントリからナイフとまな板を取り出したティア様が、ナイフを貸してくださった。
まな板は私の目の前の砂浜の上に置かれてる。
いざ、貝ガチャ行きます!
閉じた貝にナイフを差し入れ、強引に開ける。中を確認。
「……あった! 水色!! 綺麗なパールブルーの真珠です!
おめでとうございます! ティア様」
「おめでとう! リナ、それはあなたのよ」
「え、でもティア様が見つけた貝ですよ、ご自分でこれって、指差してたじゃないですか」
「実際に貝を掴んだのはリナじゃない。私はギルバート様が見つけたら貰うので、大丈夫よ。
もっとも、貴女の方も他に収穫がありそうだけど」
ティア様は意味深な笑みを浮かべた。
「え?」
疑問を抱えつつも、ランチの時間になって、皆が貝を開けて焼いて食べる場面になった。
「あった!」
「こっちもあった」
なんと、カーティス卿とラインハート卿が、私に見つけたレインボーパールを下さった!
「お二人とも、あ、ありがとうございます!!」
身に余る光栄!
「「どういたしまして」」
カーティス卿の真珠が水色で、ラインハート卿のがピンク色だった。
ギル様はパープルの真珠を見つけてティア様に贈った。
ティア様はそのお返しに、ほっぺにちゅーをしてあげていた!
わあ! 仲良し!
ん?
エイデン卿がピンクのパールを見つけたっぽい。
しかもそれをラインハート卿に投げた!
え!? どんな関係!?
しかし、ラインハート卿はエイデン卿から貰ったピンクのパールを、また私に下さった。
「え!? エイデン卿がラインハート卿に下さったのを、私にくれて良かったのですか?」
「私がピンクのパールを持っていてもしょうがないでしょう。
貴女に渡せという意味で投げてくれたんですよ。
ちょうど先程の物と色が合いますので、イヤリングなどが作れますよ」
ええ!?
私がエイデン卿を見ると、ウインクで親指をぐっと立てた。
私が貰って……いいらしい。
「あ、ありがとうございます!! ラインハート卿、エイデン卿!」
てか、カーティス卿はティア様の騎士なのにティア様に真珠を献上しなくていいのかな?
いや、ギル様を差し置いて渡せないとか、そういう気遣いかな?
それで私に下さったのかも。
多分……きっとそうだ。
10
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる