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12 「蒼海の贈り物」
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最近の私の日課。
池の鯉に餌を投げる。
すると、ぶわっと沢山の鯉が寄って来るのに、端っこで、餌取りに加われない鯉がいた。
離れた場所にいる子の方にも餌を投げる。
すると、ちゃんと食べた。
別に食欲が無い訳ではないようね。
気弱なのかな?
しっかりと食べなさい。
食いっぱぐれて餓死などしないように。
餌やりの様子を見ていた長身眼鏡の騎士様がいた。
あ、カーティス様だ。
もしや、鯉に餌をあげたいのかな?
私はカーティス様に歩み寄って、私は鯉の餌入れを騎士様に渡そうとした。
「良ければ、どうぞ。あと少しくらいなら餌をあげても大丈夫だと思います」
「あ、いえ、餌やりがやりたいのではなく」
「え、違いましたか、失礼しました」
おさかなに餌やりの作業は楽しいから、やりたくて見てたかと思った。
カーティス様は餌やり大好きな子供じゃないのに、とんだ勘違いを。
「餌に群がれない端っこの気弱そうな鯉に餌を投げて、食べやすくしてあげていて、りなさんは優しい人ですね」
「だ、誰でもやる事だと思いますよ、食べられていない子がいたら、気になりますから」
私はドキリと跳ねる心臓を押さえた。
突然極上の笑顔で優しいとか言わないで下さい。
私のノミの心臓がびっくりします。
「自然界なら弱い個体は淘汰されるなら仕方ないと、諦められたりもしますよね」
「でも以前いた世界でも、野生のリスが人間の男性を頼って足を怪我した我が子を助けて欲しいと、言葉も使えないけど、アピールして助けて貰うってことをして、奇跡のニュース……ほっこりするいい話だって話題になりました。
親は怪我した我が子を見捨てなかったんですよ」
「用心深いはずの野生のリスが人間を頼ったのですか?」
「はい、他に手が無かったので勇気を振り絞ったのでしょう。
近くには猫がいて、一刻を争う事態だったそうです。
察しがよくて、優しい人に頼れて良かったと思いました」
「猫から子供を守る為に人間に頼ったと……なるほど奇跡ですね」
「そうなんですよ、それで男性はすぐに動物学者を呼んで、リスの親子を安全な場所に移動させてあげたらしいです」
そのリスは前世人間だったのかと思うほどの驚きのニュースだった。
「あ、お嬢様。おはようございます」
いち早くティア様の存在に気がついたカーティス様が良い声で挨拶をした。
水仙の花を抱えたティア様が現れた! 美しい!
そしてティア様は鯉の様子を見てから、柔らかい口調で語りかけてこられた。
「おはよう、リナ、カーティス。鯉に餌をあげていたの?」
「はい、でも、もう終わりました」
「私はただの通りすがりです。では失礼いたします」
カーティス様はどこかへ移動した。
そろそろ朝食の時間かな?
「ティア様は今朝も祭壇用の花を探してらしたんですね」
ティア様はいつも祭壇に綺麗なお花を供える事を日課にしている。
「ええ、私が魔力の使いすぎで気絶のように長く寝ていた時は、お花を供えられなかったのだけど、その時はどうしていたか気になって……後で周囲の者に聞いたら、お母様がちゃんとしてくれていたようでほっとしたわ」
「万が一、ティア様がお忙しい時は、私でも良いなら代理を務めますので」
「ありがとう、リナ」
「今日もエテルニテで建物作りですか?」
「そうだけど、その仕事の後に、一緒にあっちの海で泳いだりする?
エテルニテは暖かいから、水着で泳げるわよ」
「水着で! 海!! 冬なのに」
「あちらは暖かいので」
「皆さん建物を作るのに忙しくしておられるのに、私が海で遊んでも良いのでしょうか?」
「私が良いと言うのだもの、何も心配はいらないわ。あなたの作る食事も美味しいと好評なのだし」
「ティア様も泳ぐのなら、お供します」
「じゃあ一緒に泳ぎましょう。あ、そうそう、ワイバーンも水に入ってお魚を獲ってくれるのよ」
「あの、カツオ、そう言えば、ワイバーンが獲ってくれたとか。草食なのに」
「そうなのよ、私が鰹節欲しいなって思っていたらね、不思議よね」
そんな雑談をしながら城の一階に有る祭壇の間へ移動して、ティア様は水仙を飾ってお祈りをされた。
神々しいお姿だった。
尊い……。
私が神でもこんな可愛い子が毎朝お花を選んで供えてくれたら加護を与えてしまうわ。
納得だわ。
春の誕生日を迎えたら、結婚されるのよね。
きっと、世界一綺麗なんだろうなあ。
* *
翌日、エテルニテの海岸に来た。
来ました! 青い空と美しい海! リゾート地みたい!
温泉の時に水着も用意していただいたので、後でティア様と合流したら着替える予定。
空を見上げると、白い鳥の群れが飛んでいる。
「わあ、見てください、ラインハート卿! 白い海鳥が沢山飛んでて、綺麗ですね」
「はい、綺麗ですね」
私は騎士のラインハート卿に伴われてライリーからエテルニテの海辺に来た。
ティア様はまだ建物建設の作業中だ。
って、近くで海を見ながら泣いてる人がいる!!
肌色の濃い民族で平民の移住者のようだけど!
「ど、どうなさったの?」
「いえ、私はこのエテルニテの地の生き残りです。
以前干魃で死にかけて、一縷の望みをかけて船で海を渡り、命からがらライリーの海辺に辿り着き、助けていただきました」
「そ、そうだったんですか」
「当初は移民としてライリーに住み着く予定でしたが、費用無料で帰れると聞いて、ここに戻りました。
一時は干魃後に弱体化した所のこの国は魔物の拠点として、乗っ取られていたらしく、知り合いも沢山死んでしまいました。
一緒に船に乗った仲間も半数は死に……」
な、なるほど……干魃で一度は捨てた土地とはいえ、故郷に戻れた喜びと、
国が魔物に襲われて滅んだ悲しさが押し寄せて涙が……。
ティア様ならインベントリから美味しい物でも出して励ます事も出来たろうけど、私は何も持たない。
手持ちで今渡せる物は、ハンカチくらいだ。
せめてと思って、涙を拭けるように、ハンカチをエテルニテ出身の人にあげた。
「良ければこれをどうぞ……」
「こんなに美しいレースのハンカチを、私などにもったいないです」
「まだ持っていますから、大丈夫です!」
私は白いレースのハンカチを泣いている男性に押しつけ、ラインハート卿の腕を引っ張って、ティア様のお迎えに向かった。
「あ、ラインハート卿、強引に腕を引っ張ってしまい、申し訳ありません」
「いいえ、リナさんはお優しいのですね」
「普通です」
「そうでしょうか?」
「はい、間違いなく」
「じゃあ、そういう事にしておきましょう」
ラインハート卿は伏せ目がちに優しく微笑んだ。
お顔の雰囲気はヤクザの若頭のようなのに、笑うと優しい感じになるイケメンである。
*
お嬢様、ティア様達と合流して、私も水着に着替えた。
水中で乱れ過ぎないように、髪もまとめた。
浜辺に大きなパラソルを突き刺して、敷いた布の上にはバスケット。
バスケットの中身は海老フライサンドとローストビーフサンドなどが入ってる。
水は樽で、ジュースも瓶に入れて用意されている。
お嬢様と私の他にビーチにいるのは護衛騎士達だ。
ティア様の可愛い女性護衛騎士二人はせっかく水着を着ているのに、パラソルの下で荷物番をしている。
竜騎士の護衛騎士達はストレッチをして体をほぐしている。
ワイバーン達が海に潜ったと思ったら、魚を獲って来て、ティア様に貢いでる。
一際目立つのはギル様の白いワイバーンだ。
ティア様の肩の上には愛らしいモモンガのぬいぐるみこと、妖精のリナルド氏が乗っている。
肩にモモンガのぬいぐるみを乗せた美少女にワイバーンがお魚を貢いでる。
ダイナミックかつ、不思議な光景だ。
面白いので私は手持ちの映像保存が出来るクリスタルで撮影しちゃう。
ティア様がワイバーンから貰ったお魚はほとんどインベントリに収納していた。
ワイバーンが砂浜で休憩に入ったら、ギル様がティア様の横に立った。
ギル様も竜騎士様達も今は水着だ。ブーメランタイプではなく、短パン系で良かった。
目のやり場に困るとこだった。
騎士達は……筋肉も……凄くカッコいい。
「ギルバート様! レインボーパールを見つけました!」
先に海に入っていたギル様の護衛騎士が声を上げた!
「ああ! カラフルな真珠がたまに入ってるあの貝か! よし! 私も探して来る! 待ってろ!セレスティアナ!」
ギル様はティア様を置いて海に入って行ってしまった。
「レインボーパール?」
「ライリーの海にも生息している貝なのですが、パールブルーやピンク、カラフルな真珠がたまに入ってるので、見つけたら実は食べて、真珠はアクセサリーに出来るんですよ」
いつの間にか私の隣にいたカーティス様が私の呟きに反応して解説してくれた。
「さて、私もレインボーパールを探しに潜ってみます」
「はい、頑張ってください」
へー、真珠探しか、宝探しみたいで楽しそう!
「リナ、綺麗なお魚も泳いでいるから、一緒に潜ってみない?」
「はい! お供します!」
私はティア様に呼ばれて、貴重なクリスタルをリーゼ卿に預けてから、一緒に海に入った。
海の中にはルリスズメダイみたいな綺麗な青い魚がいて、とても可愛い!!
ティア様が、私の腕を水中でつついて、次にある一点を指差した。
貝! 貝がいた! 岩の上に!
代わりに取ればいいのかな? と思って、私はその貝を取った。
ざばっと、水面に浮上し、顔を出し、私達は足がつく所まで来た。
「リナ、その貝がレインボーパールよ」
「あ! これなんですか!」
「さて、パールが入っているか、見てみましょう」
「でも真珠はたまにしか入っていないのですよね?」
「そうだけど、ワクワクしない? 入っていたら、大当たりよ。
もし真珠が無くても貝は食べられるし」
私とティア様は浜辺まで戻って来た。
インベントリからナイフとまな板を取り出したティア様が、ナイフを貸してくださった。
まな板は私の目の前の砂浜の上に置かれてる。
いざ、貝ガチャ行きます!
閉じた貝にナイフを差し入れ、強引に開ける。中を確認。
「……あった! 水色!! 綺麗なパールブルーの真珠です!
おめでとうございます! ティア様」
「おめでとう! リナ、それはあなたのよ」
「え、でもティア様が見つけた貝ですよ、ご自分でこれって、指差してたじゃないですか」
「実際に貝を掴んだのはリナじゃない。私はギルバート様が見つけたら貰うので、大丈夫よ。
もっとも、貴女の方も他に収穫がありそうだけど」
ティア様は意味深な笑みを浮かべた。
「え?」
疑問を抱えつつも、ランチの時間になって、皆が貝を開けて焼いて食べる場面になった。
「あった!」
「こっちもあった」
なんと、カーティス卿とラインハート卿が、私に見つけたレインボーパールを下さった!
「お二人とも、あ、ありがとうございます!!」
身に余る光栄!
「「どういたしまして」」
カーティス卿の真珠が水色で、ラインハート卿のがピンク色だった。
ギル様はパープルの真珠を見つけてティア様に贈った。
ティア様はそのお返しに、ほっぺにちゅーをしてあげていた!
わあ! 仲良し!
ん?
エイデン卿がピンクのパールを見つけたっぽい。
しかもそれをラインハート卿に投げた!
え!? どんな関係!?
しかし、ラインハート卿はエイデン卿から貰ったピンクのパールを、また私に下さった。
「え!? エイデン卿がラインハート卿に下さったのを、私にくれて良かったのですか?」
「私がピンクのパールを持っていてもしょうがないでしょう。
貴女に渡せという意味で投げてくれたんですよ。
ちょうど先程の物と色が合いますので、イヤリングなどが作れますよ」
ええ!?
私がエイデン卿を見ると、ウインクで親指をぐっと立てた。
私が貰って……いいらしい。
「あ、ありがとうございます!! ラインハート卿、エイデン卿!」
てか、カーティス卿はティア様の騎士なのにティア様に真珠を献上しなくていいのかな?
いや、ギル様を差し置いて渡せないとか、そういう気遣いかな?
それで私に下さったのかも。
多分……きっとそうだ。
池の鯉に餌を投げる。
すると、ぶわっと沢山の鯉が寄って来るのに、端っこで、餌取りに加われない鯉がいた。
離れた場所にいる子の方にも餌を投げる。
すると、ちゃんと食べた。
別に食欲が無い訳ではないようね。
気弱なのかな?
しっかりと食べなさい。
食いっぱぐれて餓死などしないように。
餌やりの様子を見ていた長身眼鏡の騎士様がいた。
あ、カーティス様だ。
もしや、鯉に餌をあげたいのかな?
私はカーティス様に歩み寄って、私は鯉の餌入れを騎士様に渡そうとした。
「良ければ、どうぞ。あと少しくらいなら餌をあげても大丈夫だと思います」
「あ、いえ、餌やりがやりたいのではなく」
「え、違いましたか、失礼しました」
おさかなに餌やりの作業は楽しいから、やりたくて見てたかと思った。
カーティス様は餌やり大好きな子供じゃないのに、とんだ勘違いを。
「餌に群がれない端っこの気弱そうな鯉に餌を投げて、食べやすくしてあげていて、りなさんは優しい人ですね」
「だ、誰でもやる事だと思いますよ、食べられていない子がいたら、気になりますから」
私はドキリと跳ねる心臓を押さえた。
突然極上の笑顔で優しいとか言わないで下さい。
私のノミの心臓がびっくりします。
「自然界なら弱い個体は淘汰されるなら仕方ないと、諦められたりもしますよね」
「でも以前いた世界でも、野生のリスが人間の男性を頼って足を怪我した我が子を助けて欲しいと、言葉も使えないけど、アピールして助けて貰うってことをして、奇跡のニュース……ほっこりするいい話だって話題になりました。
親は怪我した我が子を見捨てなかったんですよ」
「用心深いはずの野生のリスが人間を頼ったのですか?」
「はい、他に手が無かったので勇気を振り絞ったのでしょう。
近くには猫がいて、一刻を争う事態だったそうです。
察しがよくて、優しい人に頼れて良かったと思いました」
「猫から子供を守る為に人間に頼ったと……なるほど奇跡ですね」
「そうなんですよ、それで男性はすぐに動物学者を呼んで、リスの親子を安全な場所に移動させてあげたらしいです」
そのリスは前世人間だったのかと思うほどの驚きのニュースだった。
「あ、お嬢様。おはようございます」
いち早くティア様の存在に気がついたカーティス様が良い声で挨拶をした。
水仙の花を抱えたティア様が現れた! 美しい!
そしてティア様は鯉の様子を見てから、柔らかい口調で語りかけてこられた。
「おはよう、リナ、カーティス。鯉に餌をあげていたの?」
「はい、でも、もう終わりました」
「私はただの通りすがりです。では失礼いたします」
カーティス様はどこかへ移動した。
そろそろ朝食の時間かな?
「ティア様は今朝も祭壇用の花を探してらしたんですね」
ティア様はいつも祭壇に綺麗なお花を供える事を日課にしている。
「ええ、私が魔力の使いすぎで気絶のように長く寝ていた時は、お花を供えられなかったのだけど、その時はどうしていたか気になって……後で周囲の者に聞いたら、お母様がちゃんとしてくれていたようでほっとしたわ」
「万が一、ティア様がお忙しい時は、私でも良いなら代理を務めますので」
「ありがとう、リナ」
「今日もエテルニテで建物作りですか?」
「そうだけど、その仕事の後に、一緒にあっちの海で泳いだりする?
エテルニテは暖かいから、水着で泳げるわよ」
「水着で! 海!! 冬なのに」
「あちらは暖かいので」
「皆さん建物を作るのに忙しくしておられるのに、私が海で遊んでも良いのでしょうか?」
「私が良いと言うのだもの、何も心配はいらないわ。あなたの作る食事も美味しいと好評なのだし」
「ティア様も泳ぐのなら、お供します」
「じゃあ一緒に泳ぎましょう。あ、そうそう、ワイバーンも水に入ってお魚を獲ってくれるのよ」
「あの、カツオ、そう言えば、ワイバーンが獲ってくれたとか。草食なのに」
「そうなのよ、私が鰹節欲しいなって思っていたらね、不思議よね」
そんな雑談をしながら城の一階に有る祭壇の間へ移動して、ティア様は水仙を飾ってお祈りをされた。
神々しいお姿だった。
尊い……。
私が神でもこんな可愛い子が毎朝お花を選んで供えてくれたら加護を与えてしまうわ。
納得だわ。
春の誕生日を迎えたら、結婚されるのよね。
きっと、世界一綺麗なんだろうなあ。
* *
翌日、エテルニテの海岸に来た。
来ました! 青い空と美しい海! リゾート地みたい!
温泉の時に水着も用意していただいたので、後でティア様と合流したら着替える予定。
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「わあ、見てください、ラインハート卿! 白い海鳥が沢山飛んでて、綺麗ですね」
「はい、綺麗ですね」
私は騎士のラインハート卿に伴われてライリーからエテルニテの海辺に来た。
ティア様はまだ建物建設の作業中だ。
って、近くで海を見ながら泣いてる人がいる!!
肌色の濃い民族で平民の移住者のようだけど!
「ど、どうなさったの?」
「いえ、私はこのエテルニテの地の生き残りです。
以前干魃で死にかけて、一縷の望みをかけて船で海を渡り、命からがらライリーの海辺に辿り着き、助けていただきました」
「そ、そうだったんですか」
「当初は移民としてライリーに住み着く予定でしたが、費用無料で帰れると聞いて、ここに戻りました。
一時は干魃後に弱体化した所のこの国は魔物の拠点として、乗っ取られていたらしく、知り合いも沢山死んでしまいました。
一緒に船に乗った仲間も半数は死に……」
な、なるほど……干魃で一度は捨てた土地とはいえ、故郷に戻れた喜びと、
国が魔物に襲われて滅んだ悲しさが押し寄せて涙が……。
ティア様ならインベントリから美味しい物でも出して励ます事も出来たろうけど、私は何も持たない。
手持ちで今渡せる物は、ハンカチくらいだ。
せめてと思って、涙を拭けるように、ハンカチをエテルニテ出身の人にあげた。
「良ければこれをどうぞ……」
「こんなに美しいレースのハンカチを、私などにもったいないです」
「まだ持っていますから、大丈夫です!」
私は白いレースのハンカチを泣いている男性に押しつけ、ラインハート卿の腕を引っ張って、ティア様のお迎えに向かった。
「あ、ラインハート卿、強引に腕を引っ張ってしまい、申し訳ありません」
「いいえ、リナさんはお優しいのですね」
「普通です」
「そうでしょうか?」
「はい、間違いなく」
「じゃあ、そういう事にしておきましょう」
ラインハート卿は伏せ目がちに優しく微笑んだ。
お顔の雰囲気はヤクザの若頭のようなのに、笑うと優しい感じになるイケメンである。
*
お嬢様、ティア様達と合流して、私も水着に着替えた。
水中で乱れ過ぎないように、髪もまとめた。
浜辺に大きなパラソルを突き刺して、敷いた布の上にはバスケット。
バスケットの中身は海老フライサンドとローストビーフサンドなどが入ってる。
水は樽で、ジュースも瓶に入れて用意されている。
お嬢様と私の他にビーチにいるのは護衛騎士達だ。
ティア様の可愛い女性護衛騎士二人はせっかく水着を着ているのに、パラソルの下で荷物番をしている。
竜騎士の護衛騎士達はストレッチをして体をほぐしている。
ワイバーン達が海に潜ったと思ったら、魚を獲って来て、ティア様に貢いでる。
一際目立つのはギル様の白いワイバーンだ。
ティア様の肩の上には愛らしいモモンガのぬいぐるみこと、妖精のリナルド氏が乗っている。
肩にモモンガのぬいぐるみを乗せた美少女にワイバーンがお魚を貢いでる。
ダイナミックかつ、不思議な光景だ。
面白いので私は手持ちの映像保存が出来るクリスタルで撮影しちゃう。
ティア様がワイバーンから貰ったお魚はほとんどインベントリに収納していた。
ワイバーンが砂浜で休憩に入ったら、ギル様がティア様の横に立った。
ギル様も竜騎士様達も今は水着だ。ブーメランタイプではなく、短パン系で良かった。
目のやり場に困るとこだった。
騎士達は……筋肉も……凄くカッコいい。
「ギルバート様! レインボーパールを見つけました!」
先に海に入っていたギル様の護衛騎士が声を上げた!
「ああ! カラフルな真珠がたまに入ってるあの貝か! よし! 私も探して来る! 待ってろ!セレスティアナ!」
ギル様はティア様を置いて海に入って行ってしまった。
「レインボーパール?」
「ライリーの海にも生息している貝なのですが、パールブルーやピンク、カラフルな真珠がたまに入ってるので、見つけたら実は食べて、真珠はアクセサリーに出来るんですよ」
いつの間にか私の隣にいたカーティス様が私の呟きに反応して解説してくれた。
「さて、私もレインボーパールを探しに潜ってみます」
「はい、頑張ってください」
へー、真珠探しか、宝探しみたいで楽しそう!
「リナ、綺麗なお魚も泳いでいるから、一緒に潜ってみない?」
「はい! お供します!」
私はティア様に呼ばれて、貴重なクリスタルをリーゼ卿に預けてから、一緒に海に入った。
海の中にはルリスズメダイみたいな綺麗な青い魚がいて、とても可愛い!!
ティア様が、私の腕を水中でつついて、次にある一点を指差した。
貝! 貝がいた! 岩の上に!
代わりに取ればいいのかな? と思って、私はその貝を取った。
ざばっと、水面に浮上し、顔を出し、私達は足がつく所まで来た。
「リナ、その貝がレインボーパールよ」
「あ! これなんですか!」
「さて、パールが入っているか、見てみましょう」
「でも真珠はたまにしか入っていないのですよね?」
「そうだけど、ワクワクしない? 入っていたら、大当たりよ。
もし真珠が無くても貝は食べられるし」
私とティア様は浜辺まで戻って来た。
インベントリからナイフとまな板を取り出したティア様が、ナイフを貸してくださった。
まな板は私の目の前の砂浜の上に置かれてる。
いざ、貝ガチャ行きます!
閉じた貝にナイフを差し入れ、強引に開ける。中を確認。
「……あった! 水色!! 綺麗なパールブルーの真珠です!
おめでとうございます! ティア様」
「おめでとう! リナ、それはあなたのよ」
「え、でもティア様が見つけた貝ですよ、ご自分でこれって、指差してたじゃないですか」
「実際に貝を掴んだのはリナじゃない。私はギルバート様が見つけたら貰うので、大丈夫よ。
もっとも、貴女の方も他に収穫がありそうだけど」
ティア様は意味深な笑みを浮かべた。
「え?」
疑問を抱えつつも、ランチの時間になって、皆が貝を開けて焼いて食べる場面になった。
「あった!」
「こっちもあった」
なんと、カーティス卿とラインハート卿が、私に見つけたレインボーパールを下さった!
「お二人とも、あ、ありがとうございます!!」
身に余る光栄!
「「どういたしまして」」
カーティス卿の真珠が水色で、ラインハート卿のがピンク色だった。
ギル様はパープルの真珠を見つけてティア様に贈った。
ティア様はそのお返しに、ほっぺにちゅーをしてあげていた!
わあ! 仲良し!
ん?
エイデン卿がピンクのパールを見つけたっぽい。
しかもそれをラインハート卿に投げた!
え!? どんな関係!?
しかし、ラインハート卿はエイデン卿から貰ったピンクのパールを、また私に下さった。
「え!? エイデン卿がラインハート卿に下さったのを、私にくれて良かったのですか?」
「私がピンクのパールを持っていてもしょうがないでしょう。
貴女に渡せという意味で投げてくれたんですよ。
ちょうど先程の物と色が合いますので、イヤリングなどが作れますよ」
ええ!?
私がエイデン卿を見ると、ウインクで親指をぐっと立てた。
私が貰って……いいらしい。
「あ、ありがとうございます!! ラインハート卿、エイデン卿!」
てか、カーティス卿はティア様の騎士なのにティア様に真珠を献上しなくていいのかな?
いや、ギル様を差し置いて渡せないとか、そういう気遣いかな?
それで私に下さったのかも。
多分……きっとそうだ。
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