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10 「留守番」

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 「……やっぱりデートでは」

 朝餐のお供にクリスタルの録画映像を最後まで見たティア様のお言葉。

「違いますよ! 親切な騎士様が竜に乗せてくれて、一緒に初日の出を見て、チョコ食べただけですよ!」
 

「一緒の竜に乗ったじゃないですか」
「私が一人で乗れる訳ないですから、それは仕方ないですよね!」
「そうかな……」
「そうですよ!」

 ラインハート卿の名誉の為にも、ここは否定しておかないと。

「ともかく、良い物を見させて貰ったわ、ありがとう」

「初日の出は縁起物ですので。
ラインハート卿もティアお嬢様のために映像を撮りに連れて行ってくれたんだと思います」

「ティア、あまり深く突っ込んでやるなよ」
「そうですよ、ティア」

 辺境伯とシルヴィア夫人が私を庇うような事を言ってくださった。

「はい、はい、分かりました」

 ティア様も流石に引き下がってくれた。

 静かに映像を見ているギル様はローストビーフをつまみつつ、シードルを飲んでいる。

「失礼致します」

 ノックの後に一人の執事が食堂へ入って来た。

「さて、カーター、裏庭の立て看板の用意は出来ているかしら?」
「はい、お嬢様」

 先程部屋に入って来た、カーターと呼ばれた執事さんが返事をした。


 ティア様は手彫りスタンプを使ってクジを作った。

 スタンプを押した紙を封筒に入れて中身が見えない状態で使用人に売ってもらったのだ。
 クジは完売した。

「御宝クジの当選図柄をこの紙に載せたから、立て看板に貼り出して来てくれる?」

「はい」

 ティア様はインベントリから出した紙を手渡し、私が執事のカーターさんに指示すると、「ボクも行く!」と、ウィル坊っちゃまがせがんだので、執事さんはそのまま連れて行った。

「一等は何の絵柄でいくらなんだ?」

 辺境伯がティア様に問いかけた。

「竜と槍と花の絵柄が順に並んでる人のクジが一等です。
金貨10枚と銀貨10枚と、銅貨30枚と大粒のエメラルド1個とハイポーション。
他、砂糖、胡椒、塩、洋服仕立て券2枚と豚一頭分の肉とコスメ一式です。
クジ一枚が銅貨3枚ですし、結構良いと思います。
まずエメラルドはギルバート様が良い物を出して下さってますから」

「まあ、ありがとうございます、ギルバート様」
「娘の思い付きに付き合っていただいて、ありがとうございます」
「いやいや、城内の者も喜ぶだろうしな」
「本当にありがとうございます、皆喜ぶと思います」

 仲の良い家族だわ。
 私は今、給仕としてお側に控えて見守っている。
 皆様の飲み物などが減っていたらつぎ足す係。

 美形一家に給仕するの眼福だし、正直楽しい。
 メイド服も着たそうに眺めていたら、ティア様が用意して下さったから着た!
 黒地のワンピースに白いエプロンの王道風メイド服は可愛い。


「二位が同じ絵柄で並びが違う物で……銀貨5枚と、ワイン、お米、小麦粉、砂糖、チョコ、塊肉とコスメ、衛生用品。
三位が竜の絵柄がとにかく入っていたら、ワインと砂糖とお米とシャンプーリンス。
槍の絵柄が入っていたら高級牛肉とワイン。剣の絵柄が入っていたら羊肉とワイン」

「へえ、わりと種類があるな」

「それと、とにかく花が入っていればシャンプーとリンスのセットと石鹸と布地のセットどちらかが貰えます」

「ハズレは有るのか?」

 ギル様はハズレ有りなのかが気になるっぽい。

「一応ハズレに当たるのが、パンの絵柄でパン3個と薬草です」
「ライリーのパンは美味しいからハズレでも別に悪くはないな」
「大損はさせたくないので」
「商品の受け取りはどこでするんだ?」

「城内の売店で受け付けています」
「そうか、後で看板の近くか売店を見てみるか」


 *

 しばらくして朝餐の場から移動して、クジの当選図柄発表の立て看板の側の様子を裏庭までティア様はギル様と共に見に行くそうで、私も後方からついていって見守る。

 看板の側は人だかりができていて、わいわいと賑わっていた。

「槍だー! 牛肉とワイン!」
「私は羊肉とワインが当たったわ!」
「流石俺の嫁! でかした!」

「お花だから、シャンプーとリンスか石鹸と布地セットのどちらか……えーと、どうしよう、悩む」
「布地の種類や大きさを見て決めたら? 新しい服が作れるならそっちの方が良くない?」
「そうね! 娘に新しい服を作ってあげたいし」

「布地は一巻き分有るのでお洋服は作れるわよ」
「お嬢様!」
「布地の柄や色も色々あるけど、先着順で選べるから好きなのを早めに売店に行って選ぶと良いわ」
「ありがとうございます!」

 母親らしき者はティア様にお礼を言って走って行った。

「あれ!? これ、図柄の順番違い、俺のこれ、二位じゃないか!?」
「わあ、凄い!! おめでとう! チョコかお米かお肉、ちょっと分けてくれない?」
「ええ!?」
「良いじゃない、幸運は分け合うものよ、デートしてあげるから」
「ま、まあしょうがないなぁ~」

 二位の執事の男性がメイドさんの色仕掛けに落ちた!
 これが縁で、仲が深まったりするのかしら?


「……まだ一位は出ていないのか?」
「明け方まで飲んで寝てるなら、午後に見に来る人もいるのでは?」
「なるほどな」

 城内の皆様が楽しそうにしている姿を見て、良い新年の始まりに、私もほっこりした。

「さて、ギルバート様、先程朝餐の場では言い忘れていましたが、実は宝の地図を神様から頂いたので、ぜひダンジョンに連れて行って欲しいのですが」

「は!?」

 ギル様はびっくりした状態でフリーズした。
 
 ダ、ダンジョンなど、危険そうな場所へ行くなんて、結婚前に大丈夫でしょうか?

 でも神様がこのタイミングで教えてくれた場所がそんな危険なはずはないと、ティア様の力説にギル様も折れたようだ。

 私は戦闘員じゃないので、お城でお留守番になってしまった。
 ティア様達はエテルニテへ出発した。

 残された私はしゅんとして城内を歩いていると、何と美しい男性エルフと遭遇した!

「美しいお嬢さん、浮かない顔だね、これをあげよう」

 亜空間収納のインベントリから、イケメンエルフがカゴいっぱいに入った苺を下さった。

「い、苺がこんなに沢山!? いいのですか?」
「いいよ、入れたまま忘れてたものだ。インベントリ内だから、傷んでもないから、安心して食べてくれ」
「あ、ありがとうございます!」

 イケメンエルフは爽やかな笑顔を見せて去って行った。


「え? 城内で美形の男性エルフを見たんですか?
それはSランク冒険者にして辺境伯の親友のエルフのアシェル様ですね」

 いちごを厨房に運ぶ途中で出会ったメイド仲間のエリーさんにエルフさんの情報をいただいた。
 アシェルさんとおっしゃるのね。

 エリーさんにお礼を言って、私はいただいた苺でいちごミルクの素を作る事にした。

 やや緩い苺ジャムのような物だけど、ギル様は苺がお好きらしいと厨房で料理人に聞いたので、ティア様と一緒に飲めるように作った。

 そして煮沸消毒した瓶に入れた。

 自分の分も味見がてら、厨房でミルクをもらって作ってみた。
 うん、美味しい。
 ティア様がダンジョンをから戻るまで、自室の魔道具の冷蔵庫に入れておこう。

 私用に用意して下さったお部屋には、何と冷蔵庫まで完備していたのだ。
 メイドの分際で高待遇である。

 リリアーナに元隣国の王女の肩書きが有るからか、特別扱いでも他の使用人達も嫌な顔はしてなくてほっとした。
 ここは優しい人が多くて助かる。

 ティア様達がエテルニテから転移陣から戻られた。
 続々とワイバーンと騎士達が戻って来た。
 あれ? 竜の数が多い。

 何とエテルニテでまだ竜を得てなかったギル様の側近達が、ワイバーンをゲットして来たらしい。

 さらにアシェルさんまで竜騎士じゃないのに、騎竜を得たそうな。
 凄い、謎の奇跡が起こってる。
 でも皆様怪我もなく、無事で良かった!

 ティア様のお着替えの後にでも、いちごミルクの素を渡そう!
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