8 / 58
08 「聖夜のダンス」
しおりを挟む
冷たい風の吹き荒れる冬になった。
吐く息も白く、身を震わせるほど寒い。
ティア様は今頃、暖炉で温められたサロンにて、ご家族とお昼におやつの時間を楽しんでいる事だろう。
赤スグリのお酒やジャムをのせたパンケーキなどを召し上がる。
さっき私が焼いたパンケーキを他のメイドが運んで行った。
ティア様と弟君は、美味しく食べて頂いてるかな?
まだお昼だけど、赤すぐりはサイダーで割ると甘酸っぱくて美味しいサワーになっているだろう。
あの赤すぐりはお坊ちゃまのウィルバート様が採って来た物だ。
ギル様はロルフ殿下の結婚式が近いそうで、王都でバタバタしてるらしい。
「ついにロルフ殿下がご結婚されるのね、お相手は、どなただったかしら」
「アドキンス伯爵令嬢ですよ」
私の脳内検索情報をメイドのエリーさんに差し上げた。
「まあ、ありがとうございます。でも複雑ではありませんか?
ロルフ殿下は確かリリアーナ様に……」
「ロルフ殿下には祖国の為に尽力していただきました。ぜひとも幸せになって欲しいと思っています。冬の聖者の星祭りの日に結婚なんて、ロマンチックですね」
この世界では、クリスマスに当たる時期に、聖者の星祭りというものが有る。
ロルフ殿下と伯爵令嬢の結婚式はそれと一緒にして、華やかに結婚式を彩る計画だそう。
* *
数日後、ギル様がライリーに戻って来た。
ティア様の弟君への贈り物は靴だそうだ。
良い靴は履き主を良い場所に連れて行ってくれるというのは、イタリアの諺だっただろうか。
ウィル坊ちゃまが良い所で良い人と出会えますように……。
──そして、ギル様はティア様への贈り物で、布に星を撒くらしい。
正確には、群青の布地に、白い布用インクを撒き散らし、星空の生地を作るそうで。
その方法で、星のドレスというものを、以前にも作ったらしいの。
つまりは、好きな人に星を撒いて貰って作ったドレス!
エモーい!!
それが二度目らしくって、
今のティア様はますますスタイルもよく、お綺麗になられて、デザインも変え、星祭りにはきっと誰よりも輝けるお嬢様におなりでしょう。
──あら?
当日、花嫁の伯爵令嬢より目立ってしまうのでは?
でも、仕方ないわね、ティア様は女神の使徒であり、天使のように美しいから。
* * * *
──そして、時が流れた。
星の降る夜に、聖者の星祭り、そしてロルフ殿下とパトリシア嬢の結婚式当日が来た。
私はティア様に新しいドレスを贈られた。
おめでたい王族の結婚式なのだし、綺麗な色をと、真っ白い雪が青空の輝きを映したかのような淡いブルーのドレスだった。
パールのような光沢の有るシルク生地は、とても肌触りが良かった。
「月光の妖精のように可憐で美しいですね」
インテリ風眼鏡のよく似合う、黒髪イケメン騎士のカーティス様に、そんな褒め言葉までいただいてしまった。
照れます!
ロルフ殿下の結婚式は、大神殿にて行われた。
神殿に響くは美しい楽師の奏でる音色。そして、神官と巫女の厳かな聖歌。
華やかな装いの、貴族の参列者達も彩りを添える。
「では、この聖なる蝋燭に二人で新しい火を灯してください」
聖下の導きで、ロルフ殿下、いえ、ロルフ大公とパトリシア大公妃のお二人は手を重ね、蝋燭に火の魔石を使い、火を灯した。
「聖火に火が灯りました」
周囲から歓声が上がり、ちょっと鳥肌が立った。沸き立つ感動で。
グランジェルドの国王夫妻も感慨深げにお二人を見つめておられるわ。
新郎新婦が二人でキャンドルに新しい火を灯す行為はきっと、これからの結婚生活が、温かな灯りの有るようにと、希望の象徴的な物なんだろう。
その後は宣誓と誓いのキス。
新郎新婦のお二人とも、お幸せに……。
神殿から外に出ると、寒い。
けれど、夜空を見上げたら、そこには────
「あっ、空凄い! 流星がいっぱい! あ! 願い事!」
世界平和!! お願いします!
それにしても流星群が見れるとは! 感激!!
「……願い事、言えた?」
ティア様の優しい声が私の耳元で囁かれた。
「せ、世界平和を、心の中で」
「ふふ、優しい子ね」
「ティア様は何を願ったのですか?」
「家内安全?」
「私と似たようなものではないですか」
「そうかもね」
「セレスティアナ」
空を眺めていたら、正装をしたギル様がティア様を迎えに来た。
ダンスパーティーの会場に移動するためにギル様と馬車で移動するらしい。
「行って来るわね。皆、ユリナをよろしく」
護衛騎士には、もう私の秘密は話してあるから、気を使っていただいてる。
「はい、我々は後方から別の馬車と馬で追います」
「こちらは気にせず、ごゆっくりどうぞ~」
私はぬいぐるみに入っているリナルド氏を抱っこしながら、ティア様達を見送った。
ちなみにリナルド氏は森の妖精らしい。
ファンタジーな世界にいるファンタジーな存在だった。
グランジェルドの王都の街道には多くの人がいて、祝祭モードで賑やか。
赤ら顔で歌ってるおじさんもいる。
祝い酒がそこかしこで振る舞われていた。
お外が寒くてもお祝いでお酒や料理が振る舞われるなら、皆喜んで出て来るのだなぁ。
パーティー会場前に到着した。
星祭りの本番は夜なので通路と星見用の外会場の至る所には篝火が炊いてあるし、ランタンも有る。
ロルフ大公とパトリシア大公妃の結婚記念品がオシャレな見た目のランタンだった。
可愛いじゃないの。
ボールルームの中は流石に暖かく、見た目も豪華絢爛だった。
最初にパーティーの主役、ロルフ大公とパトリシア大公妃が踊る。
お色直しして来たので、衣装が違う。
パトリシア嬢は星の輝きのような明るく淡いイエローのドレスを着ていて、ロルフ大公は黒に銀糸の装飾の正装から群青に金糸の刺繍が入った正装。
とても、エレガントでラグジュアリー。
ティア様が新しい星のドレスでギル様と踊った。
はああぁ~。美しい~~!! 世界一綺麗!!
周囲からも感嘆の声が漏れるし、私も共感の嵐。
ギル様の星のように輝く真っ直ぐな瞳は、ティア様を見ていた。
ちょっと……羨ましい気もして来た。
相思相愛か……。
「リリアーナ様、踊っていただけますか?」
え!? カーティス様!?
パーティー用の黒い礼服姿がひたすらカッコいい!
って、見惚れてる場合じゃない!
「わ、私とですか!? 中身が庶民なので、足を踏んでしまうかもしれません」
「踏んでも良いですよ? 私が練習台になります」
「ええ!? でも、人前でカーティス卿に恥をかかせる訳には……」
「では、ちょっとだけテラスに出て踊りませんか?
私の風魔法で寒さからは守りますので」
えっと……、
「……テラス、なら、多少失敗しても、目立ちませんよね」
「はい」
私は差し出された手に自分の手をそっと重ねた。
風の守りで、寒さを本当に感じなかったし、リリアーナの体にダンスの記憶が残っているせいか、自然に体が動いてしまった。
き、奇跡!!
──ふわふわと、夢見ごごちの聖夜だった。
* *
祭りは夜通しで行われているけれど、賑やかなパーティー会場から帰る時間になった。
転移陣でライリーの皆様とライリー城に戻る。
冬の夜だ。
転移陣から城内への石畳の道は寒い。
ティア様も足早になっていた。
ギル様がティア様の手を引いて、自分のマントの中に入れた!!
マントの、中に! イケメン王子が美しい令嬢をマントの中に!!
何アレ、エモーい!!
あまりにロマンチックな光景に、私は寒さとは違う震えが出た。
吐く息も白く、身を震わせるほど寒い。
ティア様は今頃、暖炉で温められたサロンにて、ご家族とお昼におやつの時間を楽しんでいる事だろう。
赤スグリのお酒やジャムをのせたパンケーキなどを召し上がる。
さっき私が焼いたパンケーキを他のメイドが運んで行った。
ティア様と弟君は、美味しく食べて頂いてるかな?
まだお昼だけど、赤すぐりはサイダーで割ると甘酸っぱくて美味しいサワーになっているだろう。
あの赤すぐりはお坊ちゃまのウィルバート様が採って来た物だ。
ギル様はロルフ殿下の結婚式が近いそうで、王都でバタバタしてるらしい。
「ついにロルフ殿下がご結婚されるのね、お相手は、どなただったかしら」
「アドキンス伯爵令嬢ですよ」
私の脳内検索情報をメイドのエリーさんに差し上げた。
「まあ、ありがとうございます。でも複雑ではありませんか?
ロルフ殿下は確かリリアーナ様に……」
「ロルフ殿下には祖国の為に尽力していただきました。ぜひとも幸せになって欲しいと思っています。冬の聖者の星祭りの日に結婚なんて、ロマンチックですね」
この世界では、クリスマスに当たる時期に、聖者の星祭りというものが有る。
ロルフ殿下と伯爵令嬢の結婚式はそれと一緒にして、華やかに結婚式を彩る計画だそう。
* *
数日後、ギル様がライリーに戻って来た。
ティア様の弟君への贈り物は靴だそうだ。
良い靴は履き主を良い場所に連れて行ってくれるというのは、イタリアの諺だっただろうか。
ウィル坊ちゃまが良い所で良い人と出会えますように……。
──そして、ギル様はティア様への贈り物で、布に星を撒くらしい。
正確には、群青の布地に、白い布用インクを撒き散らし、星空の生地を作るそうで。
その方法で、星のドレスというものを、以前にも作ったらしいの。
つまりは、好きな人に星を撒いて貰って作ったドレス!
エモーい!!
それが二度目らしくって、
今のティア様はますますスタイルもよく、お綺麗になられて、デザインも変え、星祭りにはきっと誰よりも輝けるお嬢様におなりでしょう。
──あら?
当日、花嫁の伯爵令嬢より目立ってしまうのでは?
でも、仕方ないわね、ティア様は女神の使徒であり、天使のように美しいから。
* * * *
──そして、時が流れた。
星の降る夜に、聖者の星祭り、そしてロルフ殿下とパトリシア嬢の結婚式当日が来た。
私はティア様に新しいドレスを贈られた。
おめでたい王族の結婚式なのだし、綺麗な色をと、真っ白い雪が青空の輝きを映したかのような淡いブルーのドレスだった。
パールのような光沢の有るシルク生地は、とても肌触りが良かった。
「月光の妖精のように可憐で美しいですね」
インテリ風眼鏡のよく似合う、黒髪イケメン騎士のカーティス様に、そんな褒め言葉までいただいてしまった。
照れます!
ロルフ殿下の結婚式は、大神殿にて行われた。
神殿に響くは美しい楽師の奏でる音色。そして、神官と巫女の厳かな聖歌。
華やかな装いの、貴族の参列者達も彩りを添える。
「では、この聖なる蝋燭に二人で新しい火を灯してください」
聖下の導きで、ロルフ殿下、いえ、ロルフ大公とパトリシア大公妃のお二人は手を重ね、蝋燭に火の魔石を使い、火を灯した。
「聖火に火が灯りました」
周囲から歓声が上がり、ちょっと鳥肌が立った。沸き立つ感動で。
グランジェルドの国王夫妻も感慨深げにお二人を見つめておられるわ。
新郎新婦が二人でキャンドルに新しい火を灯す行為はきっと、これからの結婚生活が、温かな灯りの有るようにと、希望の象徴的な物なんだろう。
その後は宣誓と誓いのキス。
新郎新婦のお二人とも、お幸せに……。
神殿から外に出ると、寒い。
けれど、夜空を見上げたら、そこには────
「あっ、空凄い! 流星がいっぱい! あ! 願い事!」
世界平和!! お願いします!
それにしても流星群が見れるとは! 感激!!
「……願い事、言えた?」
ティア様の優しい声が私の耳元で囁かれた。
「せ、世界平和を、心の中で」
「ふふ、優しい子ね」
「ティア様は何を願ったのですか?」
「家内安全?」
「私と似たようなものではないですか」
「そうかもね」
「セレスティアナ」
空を眺めていたら、正装をしたギル様がティア様を迎えに来た。
ダンスパーティーの会場に移動するためにギル様と馬車で移動するらしい。
「行って来るわね。皆、ユリナをよろしく」
護衛騎士には、もう私の秘密は話してあるから、気を使っていただいてる。
「はい、我々は後方から別の馬車と馬で追います」
「こちらは気にせず、ごゆっくりどうぞ~」
私はぬいぐるみに入っているリナルド氏を抱っこしながら、ティア様達を見送った。
ちなみにリナルド氏は森の妖精らしい。
ファンタジーな世界にいるファンタジーな存在だった。
グランジェルドの王都の街道には多くの人がいて、祝祭モードで賑やか。
赤ら顔で歌ってるおじさんもいる。
祝い酒がそこかしこで振る舞われていた。
お外が寒くてもお祝いでお酒や料理が振る舞われるなら、皆喜んで出て来るのだなぁ。
パーティー会場前に到着した。
星祭りの本番は夜なので通路と星見用の外会場の至る所には篝火が炊いてあるし、ランタンも有る。
ロルフ大公とパトリシア大公妃の結婚記念品がオシャレな見た目のランタンだった。
可愛いじゃないの。
ボールルームの中は流石に暖かく、見た目も豪華絢爛だった。
最初にパーティーの主役、ロルフ大公とパトリシア大公妃が踊る。
お色直しして来たので、衣装が違う。
パトリシア嬢は星の輝きのような明るく淡いイエローのドレスを着ていて、ロルフ大公は黒に銀糸の装飾の正装から群青に金糸の刺繍が入った正装。
とても、エレガントでラグジュアリー。
ティア様が新しい星のドレスでギル様と踊った。
はああぁ~。美しい~~!! 世界一綺麗!!
周囲からも感嘆の声が漏れるし、私も共感の嵐。
ギル様の星のように輝く真っ直ぐな瞳は、ティア様を見ていた。
ちょっと……羨ましい気もして来た。
相思相愛か……。
「リリアーナ様、踊っていただけますか?」
え!? カーティス様!?
パーティー用の黒い礼服姿がひたすらカッコいい!
って、見惚れてる場合じゃない!
「わ、私とですか!? 中身が庶民なので、足を踏んでしまうかもしれません」
「踏んでも良いですよ? 私が練習台になります」
「ええ!? でも、人前でカーティス卿に恥をかかせる訳には……」
「では、ちょっとだけテラスに出て踊りませんか?
私の風魔法で寒さからは守りますので」
えっと……、
「……テラス、なら、多少失敗しても、目立ちませんよね」
「はい」
私は差し出された手に自分の手をそっと重ねた。
風の守りで、寒さを本当に感じなかったし、リリアーナの体にダンスの記憶が残っているせいか、自然に体が動いてしまった。
き、奇跡!!
──ふわふわと、夢見ごごちの聖夜だった。
* *
祭りは夜通しで行われているけれど、賑やかなパーティー会場から帰る時間になった。
転移陣でライリーの皆様とライリー城に戻る。
冬の夜だ。
転移陣から城内への石畳の道は寒い。
ティア様も足早になっていた。
ギル様がティア様の手を引いて、自分のマントの中に入れた!!
マントの、中に! イケメン王子が美しい令嬢をマントの中に!!
何アレ、エモーい!!
あまりにロマンチックな光景に、私は寒さとは違う震えが出た。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
187
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる