【完結】風渡る丘のリナ 〜推しに仕えて異世界暮らし〜

長船凪

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03 「グランジェルド国王夫妻に謁見しろって事らしい」

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「とにかく国規模の事だ、王に謁見許可を求め、要望を直接話して貰うしかない」

 えーと、ギル様の言葉は、つまり、この庶民たる私に王様に会えって事よね。
怖すぎる……!

「は、はい……。我がままで申し訳ないのですが、怖いので、一緒に行って下さいませんか?」

 セレスティアナ様を縋るような目で見てお願いしてみる。

「ええ、でもとりあえず、貴方の本来のお名前をうかがってもいいかしら?」

「あ、すみません、美園ユリナです」

「なるほど、中の人の実名はユリナさんなのね。
確かに知らない所に来て不安でしょうから、王城まで私も同行致しましょう」

「はい! ありがとうございます!」

 助かった! やはりティア様はお優しい!! 好き!


「ところでセレスティアナ、話は変わるのだが、エテルニテの方は次に何をするか決めているか?」

 エテルニテ? 何のお話だろう?

「エテルニテの方は今度宿根野菜を植えてみたいと思っています。
根っこが生きていればまた勝手に毎年生えるみたいなのだと、あまり手がかからずいいかと」

「例えば?」

「ワイルドストロベリーですね。他はニラ、バジル、トマトなど」

「ほう、苺は良いな」

「ええ、ニラが恐らくは抗生物質の、お薬のような役割を果たしてくれます。
やや生命力が強すぎる所もありますが」

 よく分からないが、どっかの土地の農業のお話をしているのね?

「ティア様は色々ご存知で賢いのですね」

「い、いきなり愛称で……」

 あ、お名前が長いから勝手に略してしまった。
 言葉を噛みそうだったから。

 私の言葉にギル様が唖然とした顔をしてる。
 ごめんなさい!

「あう、すみません、お名前を全部呼ぶと噛みそうだったので」
「私は愛称でもかまいませんよ。ギルバートも、リリアーナ殿下も」

「ありがとうございます! 私の事はリリとでもユリナとでも呼んで下さい」
「べ、別に、私は」

 ギル様は謎の意地をはっている……。

 ──結局、この時私は、リリでもユリナでもいいなどと言っていたが、リナと呼ばれる事になる。


 それはそれとして、ライリーにて一晩泊めて貰ったら、また精霊と会う夢を見た。

 あの惨劇の時、後で知った事だけど、リリアーナの国のみならず、実際は世界中で終末が来たみたいな状況だったらしい。

 にも、かかわらず、ゲースリは何故モンスターウェーブの影響が少なく、他国を侵攻する余力が有るのかなどの理由を聞いたりした。


 * *

 王城にて国王夫妻とサロンにて謁見するハメになった。
 内密の話をするので騎士の立ち並ぶ謁見の間ではない。
 騎士の立ち並ぶ謁見の間だったら、恐怖で軽くおしっこちびる可能性あったから、まだしもだった。

 ただ、国王夫妻との距離がやや、近くなる。
 ふおおおおっ! 怖!

 私はティア様が転生者だと言う情報だけ伏せ、自分がリリアーナとは中身が別人だと言う説明を国王夫妻にお話しした。

「我が国の庇護下に入りたいからヴィジナードの支配権を渡すとな、しかし、そちらの貴族達の反発は強いだろうな」

「王都の戦える有力貴族男性のほとんどは、有事ですから前線に出て、魔族や魔物との戦闘で亡くなったようです……戦争にはお金もかかりますよね? 戦力も復興の為の資金も今、ヴィジナードには不足しています」

「ぬ……」

 王様は立派なヒゲを撫で、眉間に皺を刻んだ。
 私はメイドに聞いた現状を詳らかにする事にした。

「正直、既にろくに機能しないだろう王室は解体、王政を廃止して、身分差の無い共和国でも作って欲しい所ですが、攻めて来る計画を立てているゲースリ国の脅威と魔族襲撃後で混乱してる時は強力な指導者などがいた方が心強いだろうし、大国に縋る以外、私には思いつきません。

地方の貴族や戦場に出る年齢ではない、お子や女性などは残っているでしょうが、その者達に戦う体力の無い今、ゲースリと戦って国を守れと私が言っても無駄死にが増える気がします」

「ゲースリに今、戦う余力があるのは何故か」
「風の精霊によれば、魔王信者が生贄を多く捧げているせいで魔族、魔物の被害が比較的少なかったのだろうと」


「そうか、王都の有力貴族の成人男がほぼ逝ったか……。
しかし、我が国に支配権を渡すという事、王都以外の貴族を宥めるのは大変そうだ」

 城内でも外でも多くの騎士の遺体を見た。
 皆、精一杯戦ってくれたんだ。

「リリアーナ王女、いえ、中身はユリナでしたか、一つ、どうしても気になる事があります。
私のロルフに酷いことをした貴族の子息とやらはどうなったか知っていますか?」

 王妃が怖い顔でユリナの皮を被る私に問うた。


 ──情報を出されると、タブレットでインターネットの検索事項が不意に表示されるように、記憶が蘇る。

 リリアーナの体に残る情報によれば……。
 グランジェルドの王妃の愛する息子、第二王子ロルフ殿下が、リリアーナに惚れてて、ヴィジナードに留学までして、そばにいようとした。

 魔物討伐までして、ヴィジナード国の治安維持に貢献してアピールなどしてくれていたが、肝心のリリアーナは男性恐怖症で、その健気な想いに応える事はできなかった。

 挙句の果てに、リリアーナに執着する恋敵によって、毒と呪いの二重攻撃を受けた!……んだった!!

 うわ! こんなの、国賓を守れていないヴィジナード国に対して、激怒案件じゃん!!
 怖いよ──っ!!

 でも王妃様が未だ怒りが込み上げるのも仕方ない!!

 また脳内の検索事項から、表示された詳しい内容を提示する事になるけど、
 あ──、次々に恐怖の事実が出てくる!!


「あの(毒を使った)男は魔族襲撃の際、姑息にもどさくさに紛れてリリアーナ姫を手に入れようとしたようですが、乳母の手により、こ……その、処されました。
騎士ではなく、乳母は女性だったから、油断したんでしょう」

「死んだと?」
「はい」

 王妃様はふう──っと、深く息を吐いた。

「この手で例の男を処せなかったのは残念ですが、そうですか、死にましたか……嘘ではないでしょうね?」
「は、はい」

 脳内記憶検索情報では、偽りなく、そのようになっております!!

「王妃様、口を挟んで申し訳ありません。占い師の方にその例の男が存命か調べていただく事は出来ませんか?」


 王妃に疑われている私を哀れんで下さったのか、ティア様が助け船を!


「ああ、なるほど、すぐに占い師のラーラを呼んでちょうだい!」
「はい」

 返事をした執事っぽい人がすぐにサロンから出た。

 しばらくして占い師とやらが登場した。

 占い師が水晶を使っての占いの結果が出るのを待機。

「確かに乳母の手で刺殺されております」

 刺殺だと死因まで特定するとは、この人、凄い!!

「そうですか……確かに死んでいるようですね」

 王妃様はパチンと手に持っていた扇子を広げて口元を隠し、目を伏せた。

「して、その乳母は?」


 今度は国王が乳母のその後を気にして私に問うた。


「この身に残る記憶によれば……とても忠誠心の高い乳母だったようで、緊急事態用の抜け道に姫と王子と騎士数人とメイドを逃し、乳母が自分で抜け道を塞いだので、恐らくは魔物襲撃の際の囮になって亡くなっています」

「確かにその通りのようです」

 天才占い師も肯定してくれた!

「そうか、立派な乳母だったようだな」

 王様の言葉に私の目頭も熱くなってくる。
 やば、泣きそう。

「そうですわね」
「それと、一つだけ、国を併合される件で隣国の貴族を宥めるのでしたら、聖女並みのカリスマを利用するのが無難です」
「カリスマ……やはりそれしかないか」

 占い師はそう進言してサロンより退出して行った。
 あれ? 隣国併合の話まで見抜いて行った!?
 その話してる時、あの人はいなかったのに……。
 
「さて、隣国まで行って政治を行う者が必要だな。
……息子にやらせるか。
ロルフはあの国で魔物退治などして尽くしていたのだし、ちょうど良かろう」

「陛下、ロルフ兄上が隣国の支配者になるのなら、ルーエ侯爵領の方はどうなりますか?」

 ギル様が王の言葉に口を挟んだ。
 ルーエ? ロルフ様は既に領地持ちだったの?

「そもそも最初はギルバート、其方に渡した土地だ。
其方とセレスティアナ嬢との間に子が産まれたら譲るなりして、しばらくは代理領主を立てるといいだろう」

 あ──! 子供! あんな超絶美少女とえっち出来るとか、ギル様はなんて幸運な方!

「は、はい……」

 んで、急に子供とか言われてギルバート様もドキッとしたみたい。
 お顔が赤くなった。


「して、リリアーナ王女は今後どうしたいのだ、身の振り方は」

 国王様の問いは再び私に戻った。
 王なのに勝手に処遇を決めずに、まず聞いてくれるあたり、この国王様はだいぶお優しい!

 ロルフ様の支配に、正当性を持たせるなら、国の王女リリアーナたる私との婚姻がベターだと思うのに。
私の意見を聞いてくれる!

 じゃあ、遠慮なく! 
 私はティア様付きのメイドになってお仕えしたい!
 無理なら料理人!

「私は、中身が政治など無理なただの庶民ですから、セレスティアナ様のメイドになりたいです!
もしくはライリーの厨房で料理人など。
とにかくセレスティアナ様のお側にいたいのです!」

 ぶっちゃけた!!

 でも急に訳の分からない世界に来て、同郷の人がいたら側にいたい気持ち、分かっていただきたい!

「………ぬう、まさかのメイド希望とな? セレスティアナ嬢はどうなのだ?」

「私は……かまいませんが、それ、通るのですか?」

「力ずくでも通すしかあるまいな。
その為にもロルフがあちらの民に受け入れてもらいやすくするのに、セレスティアナ嬢には助力を頼みたい」

「私に……助力……でございますか?」

「リリアーナ王女は貴重な浄化能力者のいる我が国に、保護と大地の浄化を求める為に、自ら女神の使徒の従者になると嘆願したと言う事にすれば、生き残りの貴族や夫人達からの風当たりも弱まるかもしれん」

 ティア様の従者! そういうことにするのか~。

「私は隣国で浄化を行えばいいのですね。承知致しました」

「女神の使徒のセレスティアナの従者と言う事なら、神職に近い気もするから、そう悪くもないのかもしれないな」

 ギル様は天井を見ながらそう言った。

「もちろんゲースリの動きには最大限警戒しつつ、ギルバート、ガーディアンとしての責務、分かっておるな?」
「はい。お任せください」

「ありがとうございます、皆様」

 ほっとした──っ!! 
 ありがとうございます! ありがとうございます!!

「リリアーナ姫には巫女服を着て私に付き添っていただきましょう。
歌を拡散する為に必要な風スキルもあるようですし」

 ん!? 急に仕事をふられた!
 それ私はやった事ないけど、な、何とかなるよね!?
 頼むよ、精霊さん!!

「かしこまりました。ティア様の側にいられるなら何でもいいです」

 多分、大丈夫でしょ、頑張ろう……!
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