33 / 52
33 市井の川辺
しおりを挟む入浴後、私は公爵夫人として恥ずかしくないレベルの優雅なドレスを纏いました。
そして同じく着飾った旦那様はこの辺一帯の顔面偏差値を爆上げされています。
その輝くような旦那様と共に、宮の中にある謁見の間に通されました。
畳と座布団を重ねて高い位置に座するミカドとの謁見。
この国の方は基本的にあまり背丈は高くないようです。旦那様が高すぎるだけかもしれませんが。
つまりその、頭が……我々より下の位置に来ることは許されない的な矜持を持つ姿に、何かどこかで見たようなデジャブを感じます、
しかし私はミカドに頭を下げることに抵抗はありません。
米と醤油と味噌の為ならばなんてことはありません。ぶっちゃけ些事!
そしてヴィルシュテッター帝国の代表たる皇太子殿下の華麗なスピーチと挨拶の後に、我々も挨拶をし、会食の席で特別な願いをするチャンスを得ました。
「ミカド、私は貴国の誇る食であろう米と醤油、味噌を求めて参りました。お土産にお譲りいただくことは可能でしょうか?」
私はこちらからの貢物たる美しい宝石や珍しい植物の種を差し出し、恐縮しながら尋ねました。
トレードをお願いします!!
ミカドはこちらが用意した美しい宝石などの贈り物を見て、機嫌をよくされたようです。
そして微笑みながら答えてくださいました。
「公爵夫人、貴女の願いは興味深い。我が国においては主食の米、そして醤油と味噌は工夫を重ねて生み出した大切なもの。しかしながら、お互いの友好を示すため、それを贈呈することにしよう」
「ありがとう存じます!」
私は心から喜びました。
ミカドは米と醤油、味噌をお土産に手配してくれくれると約束してくださいました。
我々は鯛などの魚介をメインとした見た目も美しく美味しい食事を堪能し、踊り子の舞なども見せていただき、歓迎を受けました。
ところでここまで公の場で后の姿がなかったのは懐妊中で大事をとっているそうです。
おめでた!
夜は畳のよい香りのする部屋に案内され、本で見た蚊帳の中で寝ることになりました。
ヒイズル国の夏!!
更に宮の庭の中にある池では蛍が舞っています!
風流!!
翌日、私は市井の見物も許されました。
皇太子殿下は引き続きヒイズル国側の歓待を受けてもらう為に別行動です。
皇太子殿下が異国の美術品やら工芸品等を見せてもらったりするのだと思います。
その役割をサラリと旦那様が皇太子殿下に押し付けました。
新婚旅行についてくる皇太子殿下に怒っているのでしょう。
やっと別行動だと喜んでおられます。
我々は別行動をし、市井の街や村を巡り、温泉を目指します。
牛ではなく馬を借りることが出来ました。
そこかしこに竹林があります。
とある村の散策中、川の側の道端で倒れる幼い少年を見かけました。
年齢は10歳くらいでしょうか?
すわ熱中症か何かかと思い、馬から降りて声をかけました。
「君、大丈夫!?」
「腹……減った」
あ、空腹の行倒れです! 服も簡素なものを着ていますし、おそらくはこの国も貧富の差が激しく、この少年の家は貧しいのだろうと推測されます!
本日は紅白のおまんじゅうをいただいていますし、これをあげてみます!
「おまんじゅうがあるけど、食べるかしら?」
「食う……」
少年は一生懸命おまんじゅうにかぶりつきました。
「ヒック!」
しゃっくり!!
少年が慌てて食べるから横隔膜が驚いてる!?
「ゆっくり食べて! 誰も取らないから!
ほら、しゃっくりが出てるわ!」
「あ、ありがとう、お姉さん」
「川があるが、魚でも捕ればよくないか?」
旦那様が竹で作られた水筒を少年に渡しながら言いました。
この水筒はヒイズル国の世話係の人がくださいました。
「日暮れまで釣り竿垂らしてもなんにも釣れないことの方が多いよ」
「でも魚がいないわけではないわよね?」
川の中の魚影が、目視できます。
「いるにはいるけどほとんど小さなハヤじゃないかなぁ」
「小魚でも罠を仕掛けてたくさん捕ればそこそこお腹の足しになるのではない?
ほら、その辺に自生している竹や魚を捕ることを禁じられていないなら……」
「竹なんかどこにでも生えてるし川魚も取ってはいけないなんて言われたことはないけど」
我々の案内兼通訳のお付きの人も大丈夫だと頷いてくださいましたし、なので私は竹で作る魚用の罠を作る事にしました。以前夢の図書館で見た映像記録を頼りに。
私は竹の前に立ち、ヒイズル国がつけてくれた刀を持つ護衛に声をかけました。
「この竹がほしいのですが、どこかにナタやノコギリはないでしょうか?」
「そのような物が無くともこれで」
護衛が腰の刀を抜くと、期待通りに竹を見事に斬ってくださいました。
「お見事です!」
「なんのこれしき」
「さらに数本欲しいです。それと編めるくらいに割いていただくことは可能でしょうか?」
「お安い御用です」
「ありがとうございます! 手を怪我しないように、気を付けてください」
「承知」
名前は確かビクとか言ったでしょうか?
入口が漏斗状になっており 一旦中に入った魚は 出られないという仕組みの竹製の漁具を私が編んで作ります!
がんばって精一杯急ぎました。
「すげぇ! お姉さん、器用だね!」
買ったほうが早いとはいえ、一度目の前で作って見せれば、買うお金が無くとも少年がいずれ自分でも作れるようになるかもしれません。
そしてしばして、漁具が出来上がりました!
「さあ、あの川に流されないように設置しましょう」
「おまかせください」
護衛騎士が代わりに川に入って罠を設置してくれました。
「でも、この罠を仕掛けて、あとどれくらいで魚取れる?」
少年が遠い目をして尋ねてきました。
「翌日が望ましいけど、さすがに2、3時間は待たないと……」
「お腹空くー」
少年はお腹ををさすっています。
「さっきおまんじゅう食べただろう?」
旦那様がそう言われるけれど、おまんじゅうでは育ち盛りの腹は満たされないと思います。
「旦那様、この隙に食べ物でも買いに行きましょう」
63
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~
猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。
現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。
現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、
嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、
足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。
愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。
できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、
ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。
この公爵の溺愛は止まりません。
最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる