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27 光の道

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 子供が退屈して甲板で騒ぎ始めました。
 女の子が癇癪をおこしてギャンギャン泣いています。
 ただ船に乗って海上を移動してるだけに飽きたようです。
 せめてイルカでも現れてくれたらいいのですが……。


「おもちゃはないのか!? 早く静かにさせろ!」
「あなたったら、船旅にそんな余計な物を持って行けるわけがないでしょう!? 荷物になるのに!」

 子の親たる夫婦が揉め始めました。
 いけません、険悪な雰囲気です。
 なんとかできるか、とりあえず私もチャレンジしてみます!


「ほうら、お嬢ちゃん。退屈なのねー、私が面白い本のお話しをしてあげましょうか?」

 例の図書館の本はここにないから暗記してる物語の朗読になるけど!

「物語?」

「ええ、妖精の話と人魚の話とお姫様と騎士様の話と聖女と王子様の話なら、どれが聞きたい?」
「王子様!」

 やはり女の子は王子様に憧れるようです。


「王子様、つまり聖女と王子様のお話ね」
「うん!」

「ほう、私も聞かせてもらおうか」

 話は聞かせて貰った!
 と、ばかりに旦那様も子供と同じように甲板に座り込んでいしまいました。

 仕方ないので、即席の朗読劇をすることになりました。
 メイドや騎士達も、こぞって私を囲みますし、船上で退屈した人まで集まり、ややプレッシャーですが、ようは子供を泣き止ませるだけでいいはずなので。

 脳内で記憶してるお話をしました。

 細かいセリフまではよく覚えてませんが、話の流れを覚えているのでそこはアドリブでなんとかしました。

 どうせこの世の物語ではないので、間違いを指摘してくる人はいないはずです。

 お話をしている間は子供も静かにしてるので、良かった。
 子の親もほっとしているようです。

 朗読が終わった時に、拍手をいただきました。
 照れます。

「ありがとう、おねーちゃん! 面白かった!」

 子供が喜んでくれて本当に良かったです。

「若奥様、飲み物をどうぞ」


 うちのメイドが私が詰めてきた荷物の中からレモネードを淹れて出してくれました。

 真っ青な夏空の下にレモネードは気が利いてます!


「はちみつも入れてこれで喉が潤いますね」

 ずっと喋っていたので喉に潤い、助かります。
 更にレモンと紅茶のシフォンケーキも高価な保存魔法の箱に入れて持参していたので、それも食べました。
 本のレシピで料理人に頼んで作って貰ったものですが、とても美味しい!


「美味いな、このふわふわのケーキ、紅茶とレモンの風味がある」

「はい、レモン果汁とレモンの皮でレモン風味の生地に、紅茶の茶葉を練り込んで風味を足したふわふわのレモン紅茶シフォンケーキです」

 ほほーと
 感心する旦那様。

「夏の海とレモンって合いますよね、さわやかで!」

 騎士達にも高評価でした。

 その後も女の子は退屈する度に私に物語をせがみに来ました。
 子育て中のお母様達はとても大変みたいですし、私も誰かの役に立てるならと、何度も朗読劇をやりました。

 人魚のお話をした夜に、船室で寝ていたら人が騒いでいる声が響いて来ました。

 まさか氷山ではないはずですけど……と、思いつつ、一応旦那様と一緒に甲板に出てみると海に光の道ができていました。

 夜の海なんて真っ黒なはずですが、月明かりの下、海に光の道がありました……。


「あ、これは……」
「昼間にエリアナの朗読劇で聴いた、人魚の嫁入りのバージンロードのようじゃないか? それを見つけて真珠を投げ込むと幸せな結婚ができるとか」

「そうです、若奥様のあの物語ではご祝儀に真珠を光りの道に投げるといいと言っておられたじゃないですか!?」


 騎士が旦那様の言葉にやや興奮した趣で輝く水面を眺めながら会話に混ざって来ました。


「おお、真珠ならいくつかネックレスを持ってきている! 今が使い時だな。あ、ミカドの妻に渡す分はちゃんととってあるから安心してくれ」

 ピンクパールのネックレスは除外し、旦那様が真っ白に輝く真珠のネックレスの一つにハサミを入れてばらしました。 

 そして、ほら、と言ってまっ先に私に真珠を数粒くれました。
 この旅に同行している騎士やメイドにも分け与えています。
 お優しい!

 とある世界じゃ人魚にまつわる話は悲恋のものが一番有名なようですが、中には幸せな物語もありました。
 悲恋もロマンチックで好きでしたけど、この世界では、せめて幸せな物語が広がるといいですね。


「それっ」
「はい! これが私と旦那様の分で、こっちがお義父様とお義母様の分!」

 と、言ってご祝儀の真珠を海へ!

「ここにいない父上と母上の分まで? エリアナは優しいな」
「す、すでにお二人は夫婦で幸せでしょうが、ずっと続きますようにと……」


 光る人魚のバージンロードと言われる不思議現象の道に私達は真珠を投げ入れ、その輝きを見守りました。


「き、貴族の遊び……」
「真珠を投げている……!」


 と、平民の方が驚いています。
 確かにこれはかなり贅沢な遊びですね……。


「まだ真珠はあるからあの者達にも分けてもいいぞ」

 そう言って袋に入った残りの真珠を旦那様が私に手渡してくださいました。

「光の道が消える前にどうぞ」

 と、一粒ずつ平民の方にプレゼントしたのですが、

「これを海に投げるなんてとんでもない!」
「もったいないので旅の記念に持ち帰らせてください!」


 ロマンチックな物語の言い伝えに従うより、記念品として持ち帰りたいと言われました。

 本人達がそれで幸せになるならそれでいいです。


「分りました、お好きにどうぞ」
「ありがとうございます!」

「ねえ、あなた! 帰ったらこれ、指輪にしたいわ!」
「ああ、粒が大きいからいいかもな!」


 船上で、めったに見られない不思議で幻想的な現象と遭遇し、笑顔が広がっています。
 嬉しそうで何よりです。

 その美しい光の道は、何かの祝福のようにしばらく眩く輝いていました。






















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