上 下
16 / 52

16 冷たいものと、熱くなるもの

しおりを挟む
 ~ ゴードヘルフ視点 ~

 霧の日に、野営地の側の水辺にて黄色い花が群生していた。
 一面に広がる黄色いアイリス。
 偶然であった美しい景色を、エリアナにも見せてやりたいと思った。

 朝から景色に見入っていると、部下の声が響いた。


「ゴードヘルフ様! お手紙とデザートが届きましたよ!」
「誰から?」
「もちろん若奥様のエリアナ様からです」
「なんと、わざわざデザートつきとは」
「さらに凍りの魔石付きですよ」

 私はひんやり冷たい箱を受取り、手紙を開いた。

『ご無事でいらっしゃいますか? 私の方は元気です。勉強もダンスレッスンも頑張っています。
 旦那様の不在の間は小鳥の食事は私が代理で果物をあげております。
 食べに来ている愛らしい姿が見れましたよ!

 そして先日は美味しいデザートを作り、クリストロ家のご家族の皆様にも、好評をいただいたデザートのアイスクリームを一緒に送りました。ぜひ、溶けないうちにお召し上がりください。 

PS. アイスクリームはカラダを冷やすので、万が一お腹などを壊していたらご自分で食べるのは諦めて他の元気な方に上げてください。エリアナ』

「そうか……がんばっているようだな」

 手紙にはオレンジを啄む可愛いらしい小鳥の姿が描かれていた。

 私は最後に書かれたエリアナの署名のところにそっとキスを落とした。

「えっ!?」

 部下が驚く声を上げた。
 ━━しまった! 見られた!
 手紙に夢中になって存在を忘れていた!


「ゴホン。なんだ、まだいたのか、持ち場に戻れ」
「はっ、も、申し訳ありません!」

 私は照れ隠しに、部下をさっさと追い払い、箱を開けてデザートを取り出した。

 朝からだけど、まあ、いいよな。
 俺は強いから朝から冷たいものを食べても腹など壊さない。
 溶けないうちにと書いてあるしな。

 黄色いアイリスを眺めながら、エリアナがわざわざ贈ってくれた冷たく白いものを口に入れた。

 甘い! そしてなんと、口の中であっという間に溶けて消えた!

 とても美味しいスイーツだった。
 思わずすごい速さで完食するほどに。
 
 甘さの余韻に浸っていたら、図書室での初めてのキスを思い出してしまった。 

 部下を下がらせておいてよかった。
 たった今、冷たいものを食べたけど、顔が熱くなっている気がした。

 ◆ ◆ ◆

 ~ エリアナ視点 ~

 無能と思われると公爵家の恥となる。
 優秀すぎても人材マニアらしき皇太子に目をつけられる可能性がある。
 何事もほどほどに。

 前回もダンスが無理で怪我したフリをして旦那様に抱えられて退場するというザマでしたし、
 多少の名誉挽回はしたいとは思いますが、目立ち過ぎも良くないから、塩梅が難しいです。


 なにはともあれ、皇室主催のピクニック当日が来ました。
 ハンカチの刺繍もあと少しで完成するので持っていきます。

 刺繍の柄は旦那様が夏生まれなので夏に咲く花の百合と、誇り高き竜族の末裔らしいので竜の刺繍をしています。


 陽ざしが……眩しい。

 お母様から贈られた白いレースの日傘で参戦です。
 日焼け防止のレースの手袋も出番がきました。

 そう、本日は晴天です。


 いっそ雨ならピクニックは中止でしょうが、皇太子様は晴れ男かもしれません。

 このような皇室主催の催しだと遠い領地の重要な招待客には転移スクロールが送られる事が多いそうで、当然こちらのクリストロ公爵家にも来てました。


 広い離宮の庭園がピクニック場所のようで、神殿のようなものも建っていますし、そこかしこに優雅な日傘を挿すご婦人たちがいます。
 眩いほど美しい緑の芝生に布を敷いて、既にくつろぐ方達も。

 この場所には池もあり、アーチ橋の上から手を振り、ボートに乗る知り合いに挨拶をされる人達。

 ピクニックバスケットを持って、笑い合う声が響き、今のところ和やかそのものです。

 あ、でもそこかしこに令嬢達から少し離れた場所から護衛騎士達が護衛対象を守る為に目を光らせていますので、そこは少し厳めしいとも言えるでしょうか。

 そして聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、そこかしこで頭を下げる人達。
 その中にてひときわ目立つ方に向かって、私も挨拶をします。


「皇太子様にご挨拶申しあげます」










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

処理中です...